食品の検査

FOOD INSPECTION

食品の検査

微生物検査

微生物検査とは

1.微生物とは

光学顕微鏡等で観察することが出来る微小な生物の総称で、大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ、腸炎ビブリオなどの細菌、クロコウジカビ( Aspergillus brasiliensis )、クロカビ( Cladosporium cladosporioides )、アカカビ( Fusarium graminearum )などのカビ、赤色酵母( Rhodotorula rubra )、パン酵母( Saccharomyces cerevisiae )などの酵母、ノロウイルス、サポウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルス、原生動物(原虫)、藻類などが含まれます。

2.微生物検査とは

微生物が増殖するためには、増殖に適した様々な環境条件を整えることが必要です。環境条件として、温度、酸素、pH、食塩濃度、圧力などが挙げられます。したがって、微生物検査を実施する上では、検査の対象となる微生物の特性を理解した上で適切な培養条件を設定することが重要です。
例えば、ウェルシュ菌( Clostridium perfringens )などの嫌気性菌は、酸素があると増殖、生存することができない微生物であるため、嫌気条件下での培養が必須ということになります。
食品衛生法、各種通知・法令、食品衛生検査指針などには、食品の種類や検査対象微生物の特性を考慮した最適な検査方法が記載されており、一般的にはこれらの方法に基づいて検査を実施します。

3.微生物検査項目

微生物検査は、汚染指標菌(一般細菌数、大腸菌群、糞便系大腸菌群、大腸菌( E.coli )、腸球菌、緑膿菌、芽胞形成菌など)を対象とした検査項目と、食中毒菌(黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、セレウス菌など)を対象とした検査項目に大別されます。
検査項目は、食品衛生法、各種通知・法令等によって設定されており、法的に規定された食品については規格項目が設定されています。法的に規定されていない食品については、種類や特性、検査目的(原材料の受入れ検査、製品における出荷判定基準、クレーム対応)等を考慮し、汚染指標菌と食中毒菌を組み合わせて検査を実施します。

4.一般細菌数

ある一定条件下で発育する中温性好気性菌数のことで、一般的に好気的条件下で標準寒天培地を用いて35±1℃、48±3時間培養後に発育した集落数から算出されます。
したがって、一定条件(標準寒天培地を用いた混釈平板培養法:35±1℃、48±3時間好気培養)で発育する細菌が検査対象となることから、「2 微生物検査とは」にも記載したようにこの条件に適さないような嫌気性菌、微好気性菌、低温細菌、高温性菌(高い温度でのみ増殖可能な細菌)、栄養要求性が高い細菌などは、この方法で測定することが出来ません。

5.大腸菌群

法律で定められている菌群のことで、グラム陰性の無芽胞桿菌48時間以内に乳糖を分解して酸とガスを生ずるすべての好気性または通性嫌気性の細菌を言います。ふん便汚染または腸管系病原菌の汚染指標菌として最も一般的に用いられている菌群のことで、大腸菌群の名称は食品衛生学的領域で用いられる用語です。
大腸菌群の大部分は腸内細菌科(腸管常在菌)です。腸管内以外にも、畑の土壌、沿岸海水など自然界に広く分布しており、製造工程中の加熱不足等や環境衛生上の汚染指標菌となります。大腸菌群には、例えばEscherichia、Citrobacter、Klebsiella、Enterobacter、Aeromonas等が含まれます。
検査方法は、デソキシコーレイト寒天培地などの寒天培地を用いた定量検査とBGLB培地などのブイヨン培地を用いた定性試験に大別され、前者は一般的に菌数が多いと想定される検体に後者は菌数が少ないと想定される検体に適用されます。

6.大腸菌( E.coli )

大腸菌群の中で、44.5℃で発育することができ、乳糖を分解して酸とガスを発生させる菌群を糞便系大腸菌群、糞便系大腸菌群の中でさらにIMViC試験の結果「+、+、-、-」の性状を有する細菌を大腸菌といいます。
なお、ここでいう大腸菌は、細菌分類学上の大腸菌( Escherichia coli )とは必ずしも一致しません。
また、包装後加熱製品以外の食肉製品、加熱後摂取冷凍食品のうち凍結直前未加熱のもの、生食用カキなどの規格試験で適用される「 E.coli 」は、糞便系大腸菌群に相当する検査です。比較的熱や乾燥に弱い細菌ですが、10℃以下の低温でも発育することが可能です。人や動物の大腸に生息する常在菌で、食品や河川水などの自然環境に広く分布しており、糞便汚染の指標菌です。大部分は病原性を示しませんが、一部の菌は腸管に感染し、下痢を主症状とする 急性腸炎を起こすことがあり、これらの菌を「病原大腸菌」といいます。

7.主な食中毒菌の特徴

食中毒菌 菌の特徴・分布 原因食品
腸炎ビブリオ 海水中に生息、塩分2~5%でよく発育、真水で増殖不可、増殖速度が極めて速い、6~10月に多発 魚介類、刺身及び加工品、魚介類に汚染された調理器具
サルモネラ ヒト、家畜の糞便、そ族昆虫に広く分布、乾燥に強い 鶏卵、鶏肉、その他肉類及び加工品
腸管出血性大腸菌
O157
ヒト、動物の糞便に由来、熱に弱い(75℃、1分間で死滅)、ベロ毒素を産生、少量の菌数で発症 牛生肉、レバー刺、牛肉料理、飲料水、野菜
エルシニア
エンテロコリチカ
ヒト、動物の糞便に由来、特にブタが保菌し、ブタ肉の汚染が高い、4℃以下でも発育可能、増殖速度が遅い ヒト、家畜、ネズミの糞便、未消毒の井戸水、ペット
カンピロバクター
(C.jejuni/coli)
微好気条件のみ発育可能、30℃以下では発育不可、少量の菌数で発症 鶏肉、その他肉類、未消毒の井戸水、学校給食などの大量調理施設
での発症例が多い
ウェルシュ菌 ヒト、動物の糞便、土壌に分布、酸素があると発育不可(嫌気性菌) 、芽胞を形成するため条件によっては通常の加熱調理で死滅しない可能性がある 食肉、魚介類、野菜を使用した加熱調理品、仕出し、給食関連、カレーなど
黄色ブドウ球菌 ヒトや動物の化膿創、手指・鼻咽喉に分布、エンテロトキシン(毒素)を産生 穀物類の加工品、弁当、おにぎり、調理パン、菓子類
セレウス菌 土壌などに広く分布、毒素を産生、嘔吐型と生体内で毒素を産生する下痢型の2パターンある 米飯、穀物加工品
ボツリヌス菌 土壌などに広く分布、毒素型食中毒、致死率が高い、酸素があると発育不可(嫌気性菌)、芽胞を形成するため条件によっては通常の加熱調理で死滅しない可能性がある 醗酵食品、瓶詰め、缶詰、レトルト食品
ノロウイルス 秋~冬に集団発生、ヒトのみ感染、ウイルス型食中毒 カキ、ハマグリなどの二枚貝