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ノロウイルスの検査方法
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稲垣暢哉

はじめに

今月号では、弊財団理事長が「かきを美味しく安全に食べるために(カキとノロウイルス食中毒−現状と課題)」にて、過去5年間のカキを原因とする食中毒事件をまとめることで見えてきた現状と課題について解説してきた。ここでは、検査機関が得意とする「検査」から見えてきた、弊財団がこれまで行ってきた、養殖海域のカキ由来ノロウイルスとノロウイルス食中毒の内容に絞って現状と課題について解説する。
 ここで述べる内容についても、本年9月10日に三重県鳥羽市で開催する食品衛生セミナーにて最新の情報を報告予定である。

ノロウイルス検査の目的

ノロウイルス検査は、食中毒が発生した際の原因究明と再発防止、食中毒を発生させないための回避(予防)の大きく2つの目的に分かれる。前者は事後に行う検査であり、状況に応じた検査を実施する。後者は事前に行う検査であり、ヒトを介しての感染であれば、食品調理施設従事者の定期的な糞便検査、二枚貝(カキ)を介しての食中毒であれば、養殖海域のカキのモニタリング検査となる。この養殖海域のカキのモニタリング検査の例として、三重県の養殖海域では、平成15年度より三重県伊勢保健所が「みえのカキ安心情報」として養殖海域のカキのモニタリング検査を含む海域情報をHPに掲載している。弊財団では平成17年度より、このカキのモニタリング検査を受託している。
 ここからは、これまで行ってきた受託検査の経験から、養殖海域のカキによる食中毒に絞り、説明していく。

みえのカキ安心情報
http://www.pref.mie.lg.jp/NHOKEN/HP/kaki/1-index/index.htm

弊財団では、検査と併せて5年前より海域のモニタリング検査結果と実際に発生した食中毒事件との相関を考察している。この目的の原点には、「養殖海域から出荷されるカキの食中毒リスクが高い時期をより正確に、かつピンポイントで予測したい」という思いがある。カキを介しての食中毒の場合、防ぐには加熱または回避しかなく、この回避を行うには、より適した検査を実施し、養殖海域のカキの食中毒リスクが高まっている時期をピンポイントに絞ることが必須である。現状、生カキを美味しく安全に食べるには、この回避時期の正確な特定が重要になってくると考えている。

ノロウイルス検査の現状

ノロウイルスの検査方法には、大きく分けて電子顕微鏡検査、抗原検査、遺伝子検査があり、後者になる程、検出感度が高くなる。抗原検査では、検査法としてELISA法、イムノクロマト法がある。遺伝子検査では、RT-PCR法、RT-リアルタイムPCR法、RT-nested PCR法がある。なお、厚生労働省の通知法(平成19年5月14日食安監発第0514004号)にはRT-PCR法及びRT-nested PCR法、RT-リアルタイムPCR法の遺伝子検査が収載されている。検査方法を理解し、目的に応じて検査方法を使い分ける必要がある。
 遺伝子検査で使用する機器を紹介する。写真1はRT-PCR法、RT-nested PCR法で使用するThermal cyclerである。この機器は検査で必要となる目的の遺伝子領域を増幅するために使用する。目的の遺伝子領域の増幅の有無を確認するために、アガロースゲル等により電気泳動にて分離を行う。写真2はアガロースゲル電気泳動後の結果である。レーン2はノロウイルスが保有する遺伝子領域の増幅が見られないため陰性、レーン3はノロウイルスが保有する遺伝子領域の増幅が見られるため陽性となる。RT-PCR法、RT-nested PCR法は定性検査である。写真3はRT-リアルタイムPCR法で使用するReal-time PCRである。RT-リアルタイムPCR法はウイルス量の定量を目的とした検査である。
 各検査方法による検出感度を表1にまとめた。最も感度がよいとされるRT- nested PCR法、RT-リアルタイムPCR法でも>100個である。他方、ノロウイルスは10〜100個程度で感染する。したがって、現在の検査方法では、ウイルス量が少ない場合、ノロウイルスで汚染された全ての検体が検出できる感度があるわけではないことになる。

写真 写真
写真1 Thermal cycler 写真2 アガロースゲル 泳動写真
( 2:陰性検体 3:陽性検体 4:陽性対照
5:陰性対照 1、6:分子量マーカー)

写真3 Real-time PCR
表1 各検査方法による検出感度
検査方法 検出感度 (/1ml当たり)
RT-nested PCR法 >100〜1000
RT-リアルタイムPCR法 >100〜1万
ELISA法 >100万
電子顕微鏡 >100万

※それぞれの検査法で陽性となるために必要な、検体1ml中に含まれるウイルス量を示す。また、表に示す検出感度は一般的な検出感度であり、市販検査キットの種類や検体によって異なる。
出典:野田 衛 著 ノロウイルス食中毒・感染症からまもる!! −その知識と対策− 一部抜粋

ノロウイルス検査の課題

ノロウイルスは培養法が確立されておらず、活性ウイルスを検査することが出来ないため、遺伝子検査が用いられることが多い。しかし、現状表1および前項で述べた問題があるため、検査方法を工夫して検出感度を高める必要がある。ヒトの検便であれば体内でクローン化されており、ウイルス量も多い。他方、カキの場合、表1に示したようにウイルス量が少ないため遺伝子検査を行うこととなる。遺伝子を検査するため感染性の有無(活性の有無)にかかわらず検査することとなるが、表1に示したように遺伝子を増幅した上でも検出感度では感染性を有する量を検出出来ない場合が考えられる。したがって、正確な検査を行うためには検出感度を高めることが必須である。
 ただ検出感度を高めるだけではなく、「感染性がある」ノロウイルスを検出できるようにしていくことも重要である。
 また、これまでの検査結果から現状の方法でも流行した年とそうでない年の検出パターンが異なることがわかっている。この知見を積み重ねることで、感染性ウイルスのパターンを類推することが出来るのではないかと考えている。

新しい検査方法へのSUNATECの取組み

昨年度より、検出感度を高める取組みとして、ノロウイルス抽出工程中のカキから取り出した中腸腺にPBS(-)を加えた試液に対してα-アミラーゼを添加し、RT-nested PCR法により検出する方法を検討している。ノロウイルスは二枚貝の中腸腺に蓄積されるが、中腸腺の周りは白い脂肪及びグリコーゲンで覆われている。このグリコーゲンはPCRを阻害するため、出来るだけ取り除き中腸腺のみにして、検査を行う必要がある。これまでも、メス等で中腸腺を出来るだけ取り除き検査を実施してきたが、α-アミラーゼを加えることでさらに検出感度を高めることが狙いである。昨年度の結果から、一定の効果が得られていると考えている。実際に昨年度の結果では、α-アミラーゼ未添加区に比べて添加区の方が18%陽性が増える結果が得られた。

写真
写真5 殻付きかき 写真6 かき断面図

また、ピンポイントで予測するという点では、昨年度より、三重県保健環境研究所、三重大学地域イノベーション学研究科と共同研究を実施し、養殖海域のカキ由来ノロウイルス遺伝子と食中毒患者のノロウイルス遺伝子との相関を調査している。ノロウイルスはGTからGXの遺伝子群に分類されている。その中でヒトに感染性を有し、食中毒や感染症の原因となる遺伝子群はGT、GUであり、それぞれGTが14種類、GUが21種類の遺伝子型に分類されている。この遺伝子型を比較することで、より関連性をみることができる。遺伝子型を調べるためには、写真7のDNAシーケンサを使用する。DNAシーケンサを使用することで、ATGCからなる塩基配列を調べることができる。この塩基配列がどの遺伝子型と同じか比較することで、遺伝子型を決定する。


写真7 DNAシーケンサ

この他にも、昨年度は食中毒事件発生時の養殖海域のカキのウイルス量についても調査を行った。食中毒発生時の海域のカキのウイルス量は高くなるのではないかと予想していたが、この予測を裏付けるような結果は得られなかった。他方、海域から取れるカキ3個を検体として、RT-リアルタイムPCR法にて検出されたウイルス量は、通常0〜100個と少ない傾向にあることがわかった。表1より、これは検出感度より少ない量であり、陰性もしくは陽性であっても少ない量となる。このウイルス量の調査は今年度以降も検査して相関を確認していく予定である。

最後に

今後も、弊財団の基本理念である「信頼される分析技術とその関連サービスを通じて社会に貢献する」をもとに、ノロウイルス分析を通じて安心して美味しいかきを食せるように貢献していきたい。
 ノロウイルス食中毒をなくしていくためには、携わる全ての人が正しい知識を持って取り扱うことが大切である。セミナーや講習会も知識を得るよい場となるので、今秋開催する食品衛生セミナーも有効にご利用頂ければと思う。

参考文献

かきウイルス物語(かきを美味しく安全にたべるために)シリーズ1〜5
http://www.mac.or.jp/mail/091001/01.shtml
http://www.mac.or.jp/mail/091101/03.shtml
http://www.mac.or.jp/mail/091201/03.shtml
http://www.mac.or.jp/mail/100201/03.shtml
http://www.mac.or.jp/mail/100301/06.shtml

ノロウイルス食中毒・感染症からまもる!! −その知識と対策−
野田 衛 著  公益社団法人日本食品衛生協会
食品のウイルス標準試験法検討委員会
http://www.nihs.go.jp/fhm/csvdf/index.htm

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