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上記佐藤忠勇さんがかきの浄化システムを開発し、大腸菌のいない無菌かきを作ることに心血を注いだのはそのためである。大腸菌は動物の腸内を住処とする陸水由来の菌である。かきに大腸菌がいないということは、赤痢やチフスなど他の消化器系伝染病の原因細菌がいないことを意味している。海水を紫外線で殺菌し、溶存酸素が多くなるシャワー方式で浄化水槽全面に均等に海水を供給する。水槽では、かきを入れたかごを1段だけ漬け、一定流速の垂直流によってかきが出した糞などを水槽下に流し、水槽底からサイフォン方式で汚泥を外に排出する。かきが内容物を全部入れ替えるために18〜20時間が必要であることを実験によって佐藤忠勇さんは見出した。この浄化方式が1955年特許登録につながったのである。
だが、よく考えてみると浄化はかきの胃や腸の中をきれいにすることだけではない。いったん中腸腺の細胞内に取り込んでしまった細菌やウイルスを、かき自身がこれらの病原微生物を消化して人への感染力をなくしてしまうか、又は未消化物として細胞外・体外に排泄してしまうことを意味している。従って、確実に浄化する、すなわち浄化時間を厳守することがかきの安全には欠かせない。これまで細菌を指標とした浄化試験は三重県でも実施し、18時間以上で細菌が検出されなくなることを確認してきた。現在ではHACCP方式の導入で浄化は確実に実施されている。しかし過去には、浄化したかきが、消費地市場の検査で大腸菌や一般細菌数が規格基準に違反することがよくあった。その原因は、紫外線殺菌ランプの不備、浄化水槽にかきの入れ過ぎ(水量不足)、浄化時間の不足など様々な原因があった。佐藤忠勇さんが開発したかきの浄化技術は、後発のかき養殖業者にはなかなか正確には伝わっていかなかったのである。
1988年4月、小生は2度目の本庁乳肉衛生担当となった。先輩の努力によってその年からかきの衛生対策3ヶ年計画が予算化されていた。小生が本格的にかきの衛生対策に係るのはこの時からである。伊勢保健所食品衛生機動班と志摩保健所によって、全てのかき浄化業者の施設を個別に細かく調査し、浄化の問題点をすべて洗い出す。そして様々な浄化施設に対応した基本的な浄化技術を見出すための浄化試験が3年間続いたのである。佐藤忠勇さんが開発した浄化技術や浄化時間の真の意味が他のかき業者に伝わるには、保健所の長い年月にわたる厳しい行政指導を必要としたのである。“三重県のかき養殖が発展した今日の姿は保健所の功績である。”とは、小生の知人の水産行政職員の言葉である |
図4 かき浄化 |
みえカキ安心情報システム第4回カキフォーラム講演者資料 |
※コーヒーブレイク
かきの胃や中腸腺の組織切片を顕微鏡で観察すると、未浄化のかきではプランクトンなどの餌が多く見られるし、もちろん腸管には糞が見られる。しかし、浄化済みのかきではこれらはほとんど見られない。浄化した生かきにレモンを絞って食べた時のあのすっきりした美味しさは、このせいであろう。しかし、フライにするとかきの風味が弱くて物足りない感じがするので、かきフライは未浄化のかきに限る。小生はこのように納得してかき料理を楽しんでいる。
ただし、浄化するとかきは間違いなく少し痩せてしまう。浄化しても美味しいかきを佐藤忠勇さんはどのように生産したのか、この話は別の機会に譲ろう。
佐藤忠勇さんは、1981年、「半生を研究と事業化に捧げた、的矢湾での無菌カキ養殖」の功績でサントリー文化財団から地域文化賞を受賞されている。 |
サントリー文化財団のホームページリンク |
浄化したかきを更に美味しく食べるには、レモンより酢橘(すだち)、ワインより純米吟醸酒と一緒に楽しむのが最高に相性がいいと思っている。かきにはレモンがつきものだ。それなら米国産より国産と小生はレモンの木を植えた。5年目でようやくレモンを収穫することができた。しかし、レモンの香りが強すぎてかきの風味に勝ってしまい失敗。いつも牛タンを食べるために重宝している酢橘で試してみたら、酸味は程よく香りは控え目でぴったりであった。純米吟醸はコミック誌で知って試してみた。かきの海水で喉ががらがらした時には、純米酒は優しく滑るように喉を洗ってくれる。お試しあれ。 |