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-カビが産生する毒(マイコトキシン)-その3
はじめに
 マイコトキシン(mycotoxin、カビ毒、真菌毒)とは、カビが産生する第二次代謝産物で、ヒトおよび動物に対して有毒な作用を有する化学物質の総称です。SUNTEC e-Magazine Vol.016、027では、世界的に問題となっているマイコトキシンと日本におけるマイコトキシン対策の動向およびオクラトキシンAについて解説してきました。その後、新アフラトキシン(AF)B1試験法追加、カビ毒試験法評価委員会の設立、総AF基準値設定予定等、我が国におけるマイコトキシン対策の動向が大きく変化してきました。そこで、今回は昨年から本年6月までに行われた我が国におけるマイコトキシン対策についてご紹介致します。
AF試験法−イムノアフィニティーカラム法−
 AFはAspergillusflavus(アスペルギルス・フラバス)、A.parasiticus(アスペルギルス・パラジティカス)、A.nomius(アスペルギルス・ノミウス)等が産生するカビ毒で、一般にA.flavusはAFB1およびAFB2を、A.parasiticusA.nomiusはAFB1、AFB2、AFG1およびAFG2を産生することが知られています。このB1〜G2の名前は、AFを薄相クロマトグラフィー(TLC)で分離し、紫外線を照射すると、TLCの上部から青色蛍光のスポットが2つ(Blueの1番目と2番目)、緑色蛍光のスポット(Greenの1番目と2番目)が観察されることから名付けられました。AFB1は、種々の動物実験による肝発ガン性や、ヒトにおける肝発ガン性とAFB1暴露量との相関が認められていまして、国際ガン研究機関(IARC)においてグループ1(ヒトに対して発ガン性がある)に分類されています。 日本では1970年にピーナッツバターから初めてAFB1が検出され、翌1971年には食品中からアフラトキシンが検出されてはならないとされました(昭和46年3月16日付け環食128号:AFB1が検出された食品は、食品衛生法第4条第2号(現第6条第2号、有害・有毒物質を含む食品の販売等の禁止)に違反する。当時の試験法の検出限界が10μg/kgであったため、これが基準値として運用された)。その後31年間のブランクを経た2002年に分析法の精度および使用溶媒の観点から、多機能カラム(MFC)クリーンアップ-高速液体クロマトグラフ(HPLC)蛍光検出法(平成14年3月26日付け食監発第0326001号)に変更されました。しかし、このMFC法では食品の種類によっては測定が困難なものがあったことから、昨年7月には、AFに特異的な抗体を利用し精製効果が非常に高いイムノアフィニティーカラム(IAC)を用いた試験法が追加されました(平成20年7月28日付け食安監発第0728003号)。本法はMFC法と同様に,穀類,豆類および種実類(穀類等と略す)についてはHPLC用AFB1標準液2.5ng/mL,香辛料類についてはHPLC用AFB1標準溶液1.25ng/mlと比べ,それぞれの試験溶液(穀類等の試験溶液は0.25g試料相当/mL,香辛料類の試験溶液は0.125g試料相当/mLの濃度となり,もしこれらの試料が10μg/kgのAFB1に汚染されていた場合,それぞれの試験溶液のAFB1濃度はそれぞれ2.5ng/mL,1.25ng/mLとなる)のAFB1のピーク高さまたは面積が上回る場合を陽性とするあくまで限度試験です。陽性と判断された食品は従来通り食品衛生法第6条第2項違反となります。試験法の詳細や注意点については、食品衛生研究(59巻2号、2009)をご参照下さい。
カビ毒試験法評価委員会
 2007年に厚生労働科学研究事業の一環としてカビ毒試験法評価委員会が設立されました。本委員会は、食品のマイコトキシン分析および統計解析の専門家を集め、将来我が国で基準値が設定された場合に通知法となりえる方法または実態調査に用いられるマイコトキシン試験法の妥当性を科学的に評価する目的で設立されました。評価までの流れを表1に示しました。本評価委員会の詳細については国立医薬品食品衛生研究所のホームページでご参照下さい。
国立医薬品食品衛生研究所のホームページ
表1 評価までの流れ
 平成20年度には2つの試験法について評価を行いました。まず始めに、デオキシニバレノール(DON)およびニバレノール(NIV)の同時試験法のコラボラティブスタディ(複数機関共同試験)について簡単にご説明します。DONとNIVは、ムギやトウモロコシ等の病原菌であるFusarium(フザリウム、赤カビ)属のカビが産生する消化器系および免疫系傷害の毒性を示すマイコトキシンです。我が国においては、平成15年に小麦玄麦におけるDONに対して暫定基準値(1.1mg/kg)およびその試験法について定められました。しかし、国産の小麦および大麦においては、これまでにDONとNIVの複合汚染が報告され、また、毒性としてはNIVの方が高いことが報告されていることから、今後、DONとNIVの合計値での基準値設定がなされることが予想されました。そこで、DON通知試験法をもとにした小麦玄麦におけるDONおよびNIV同時試験法(MFCクリーンアップ−HPLC-UV検出法およびLC/MSあるいはLC/MS/MS分析法)のコラボラティブスタディを行い、その妥当性評価を行いました。得られた有効なデータから、回収率、室内併行性(RSDr)、室間併行性(RSDR)およびHorRat等を求めたところ、全ての数値において国際機関が示す基準内であったことが示されました。その結果、本試験法が通知あるいは告示法として示される試験法として問題ないことが判断されました(第96回日本食品衛生学会学術講演会にて発表、厚生労働省科学研究費補助金、食の安心・安全確保推進研究事業「カビ毒を含む食品の安全性に関する研究」平成20年度総括・分担研究報告書参照)。しかし、本年5月に開催された第97回日本食品衛生学会学術講演会では、東京都健康安全研究センターの田端節子博士より、輸入小麦加工品から1.1mg/kgのDONが検出されたことが報告され、今後小麦玄麦だけでなく、他穀類や加工品にも対応出来る試験法の評価が必要と思われます。
 次に総AF(AF B1、B2、G1およびG2)試験法のコラボラティブスタディについて説明致します。コーデックス委員会やEUでは表23に示しましたように、落花生や木の実(アーモンド、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ)や種々の食品に対して総AFの規制を行っています。我々が平成16年度〜18年度に行った国内流通食品のAFの汚染実態調査結果では、落花生においてAFB1の4倍程高濃度のAFG1が検出されることが判明し、また、検疫所等の調査においても、同様な傾向の汚染結果が増加してきました。AFB1以外のAFについては、AFG1で遺伝毒性および発ガン性が認められていますが、AFB2やAFG2に関するデータは現在のところ限られています。しかし、IARCでは、自然界で生じるAF混合物は、AFB1と同様にヒトに対して発ガン性がある物質としています。このような状況から、日本においても総AFの基準値設定が予想されたため、落花生および木の実に対する総AF試験法についてコラボラティブスタディを行い、その評価を行いました。クリーンアップ法としては現通知法で採用しているMFC法とIAC法にほぼ準ずる方法(試料50gに対して、抽出溶媒量を200mlに変更)で、分離−検出系はHPLC蛍光検出およびLC/MS/MS分析法を採用しました。コラボラティブスタディより得られた有効なデータから求めたRSDrやRSDR等の数値は国際機関が示す基準値以内であったため、評価委員会においては、今後通知法あるいは告示法として採用される総AF試験法として問題ないと判断されました。
表2 コーデックス委員会のアフラトキシン基準
表3 EUのアフラトキシン基準
総AF基準値設定の動向
 平成21年6月2日に、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会が開催され、「食品中のAFに係わる成分規格の設定」について審議されました。我が国におけるAFの基準がAFB1だけであるのに対して、国際的には上記のように総AFの基準値設定がなされています。そこで、昨年厚生労働省は食品安全委員会に対し、食品中の総AFに係わる食品健康影響評価を依頼しました。その結果、食品安全委員会から次のような評価がまとめられました。「2004年〜2006年に実施された汚染実態調査結果から、確率論的手法を用いてAF暴露量を推定したところ、AFB1で4または10μg/kg及び総AFで8、15、20μg/kgの基準値設定の違いによるAFB1一日推定暴露量はほとんど変わらなかった。よって、落花生及び木の実について、総AFの規格基準値を設定することによる食品からの暴露量に大きな影響はなく、現状の発ガンリスクに及ぼす影響もほとんどないものと推察された。しかしながら、AFは遺伝毒性が関与すると判断される発ガン物質であり、食品からの総AFの摂取は合理的に達成可能な範囲で出来る限り低いレベルにするべきである。汚染実態調査の結果、BGグループの汚染率が近年高くなる傾向が見られていることを考慮すると、落花生及び木の実について、発ガンリスク及び実行可能性を踏まえ適切に総AFの基準値を設定する必要がある。なお、AFは自然汚染であり、BG比率が一定しないと予想されることから、総AFとAFB1の両者について規制を行うことが望ましい」。食品規格部会では、以上の評価を踏まえ、「落花生及び木の実(アーモンド、ヘーゼルナッツ及びピスタチオ)について、コーデックス規格と同様に総AFの規格基準を設定することは、AFB1以外のAF類による発ガン性も含めた健康被害を未然に防止する上で妥当であると考えられる。以上を踏まえ、落花生、アーモンド、ヘーゼルナッツ及びピスタチオについて、以下のとおり食品衛生法第11条第2項に基づく総AFの成分規格を設定する(表4)」と結論づけました。尚、現在AFB1については全ての食品から検出してはならない(10μg/kgとして運用)とされていますが、新たに「管理水準」として10μg/kgの数値を明記し、通知試験法において定量を行うことにするようです。従いまして、落花生及び木の実については、AFB1単独と総AFの両規制になるでしょう。この食品規格部会での決定事項は、今後薬事・食品衛生審議会食品衛生部会において審議が行われ、恐らく今年中には総AFの規格基準値と分析法が示されることと思われます。
表4 落花生及び木の実の総アフラトキシンに係わる成分規格(案)
おわりに
 以上、我が国におけるマイコトキシン対策の最近の動向について簡単に紹介致しました。現在、国際基準のあるマイコトキシンについては、日本においてもそれらの基準値を急速に設定する方向にあり、乳及び乳製品中のアフラトキシンM1、小麦等のDONおよびNIV、オクラトキシンA、フモニシン等について今後近い将来には基準値が設定されることと思います。

尚、本年8月26日(金)、千葉大学けやき会館にて、日本マイコトキシン学会第66回学術講演会が開催されます。皆様方のご参加をお待ちしております。詳細は別紙をご参照下さい。
日本マイコトキシン学会第66回学術講演会(PDF:102KB)
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