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カビによる食品の変敗と防止技術
愛知学泉短期大学食物栄養学科 内藤茂三
はじめに
 カビや酵母の真菌類は一般に熱感受性が高く、湿熱条件下では70℃、10分間の加熱処理により死滅する。このため加熱工程のある調理食品では原材料に由来する一次汚染性のカビは容易に殺菌されるので、加熱後は施設内の製造環境からの二次汚染を防止すればカビの汚染は起こらないと考えられてきた。しかし多くの食品加工工場においては二次汚染のみならず一次汚染によるカビの変敗事故が多発している。カステラ、バウムク−ヘン、蒸しケ−キ、マロンケ−キ、タマゴケ−キ等の洋菓子類、どら焼き、大福餅、蒸し饅頭類は、25〜40%の水分を含む中間水分食品に属し、加熱工程があるにもかかわらずカビの生育による品質低下を招きやすい。このため、包装したのち蒸気やマイクロ波殺菌、脱酸素剤使用包装、炭酸ガス置換包装、炭酸ガス窒素ガス混合置換包装、エチルアルコ−ル製剤添加包装等種々の技術が採用され、保存性を高めている。最近、これらの技術が採用されているにもかかわらず、カビによる変敗が多発してきた。例えば、蒸気やマイクロ波処理を行っているにもかかわらず蒸し饅頭やカステラに生育するカビ、脱酸素剤を使用しているにもかかわらずカステラやバウムク−ヘンに生育するカビ、炭酸ガスや炭酸ガスと窒素ガス混合置換包装をしているにもかかわらず饅頭やカステラに生育するカビ、エチルアルコールを噴霧又はエチルアルコ−ル製剤使用包装をしているにもかかわらず蒸しケ−キやマロンケ−キに生育するカビが多発してきた。市販品の菓子類や農産加工食品に生育するカビの種類は食品工場の三大カビと言われるAspergillus,Penicillium及びCladosporiumが圧倒的に多い。菓子類や農産加工食品に生育するカビの種類は、製品の種類、製品の水分活性、工場の浮遊菌や落下菌の種類、包装条件により著しく異なる。
1.カビの性質と特徴
(1)カビの性質
 カビは菌体が糸状を呈しているので糸状菌とも言う。カビは菌糸体と子実体に分化され、前者は栄養、発育を、後者は繁殖をつかさどる。菌糸には隔壁のあるもの(高等菌類)と無いもの(藻状菌類)とがあり、分類状の目印となっている。菌糸には気中に伸びている気菌糸、培地表面に広がっているほふく菌糸、根のように培地中にくい込む菌糸がある。網の目のように絡み合った菌糸体と子実体の集合体を菌叢と呼ぶ。菌叢は菌の種類やその老若によりその色が異なるが、これは子実体の胞子の色素によるもので菌糸によるものでない。菌糸は若いときに原形質が内部に均一に充満していて、ほとんど透明であるが、老化してくると原形質が先端に移動し液胞となる。一方、細胞膜は次第に肥厚して淡黄色を呈するようになる。胞子には無性胞子と有性胞子があり、いずれも外膜と内膜で包まれている。胞子の形状は菌種によって異なり、内膜は原形質を包みその外膜をさらに外膜が包む。外膜の表面は滑らかなもの、突起のあるもの、粗粒状、凹状のものがある。糸状菌栄養形の主要な生活単位をなす菌糸は、直径2〜10μmの分岐性管状構造体である。菌糸は、胞子や分生子が発芽して生じる発芽管にはじまり、それがさらに伸長したものである。菌糸の伸長発育は、先端部のみで起こるとされているが、実際には菌糸先端のすぐ後方の領域で菌糸の容積が拡張することによって発育する(図1)。また分岐は、菌糸に沿ったさらに後方の点から側方に生じ、いったん生じた後は発育 を続け、先端部を伸長させる。栄養細胞は常に外方へ向かって伸長するので集落の中心から遠い周辺部になるほど細胞は若く、一方、中心部の老化した細胞は栄養や酸素の欠乏のために次第に壊死に陥る。
図1 菌糸先端の伸展と発育
(2)カビの種類とその特徴
 カビは酵母やキノコと同類であるため、特に酵母との区別が困難である場合がある。酵母は主として出芽によって増殖し、その生活の大部分を単細胞ですごし、その大きさが2〜5μm程度であるが、カビは主として菌糸を伸長して栄養源や水分を摂取し、各種の胞子を介して繁殖する。また単細胞で分裂増殖をする細菌に比べ、カビが栄養、発育をつかさどる菌糸体と繁殖期間である史実体とに分化している点などから、微生物のなかでは最も進化している部類である。
 自然界に分布するカビ、酵母等の真菌類はおよそ45,000種と言われている。Ainsworthによって提案された分類では次の5つに分類されている。鞭毛菌類1,100種、190属(カビ)、接合菌類610種、150属(カビ)、子嚢菌類15,000種、1,950属(カビ、酵母)、担子菌類12,000種、90属(キノコ、酵母)、不完全菌類15,000種、1,850属(カビ、酵母)である。カビは糸状菌ともいわれるように正式には真菌類のなかで酵母とキノコを除いた菌体糸状を呈するものを総称する俗語である。酵母の中で胞子を形成するものは大部分が子嚢菌類に、ごく一部が担子菌類に、胞子を形成しない酵母は全て不完全菌類に含まれる。キノコは真菌類の中で、胞子着生する史実体が肉眼ではっきり認められるほど大きく発達したものを総称しており、大部分、担子菌類に含まれている。不完全菌類は、子嚢菌類又は担子菌類と類縁関係を持つ種々雑多な菌類が含まれる便宜的な分類にすぎない。したがって、不完全菌類の中のある菌種に有性世代が発見された場合には、その有性世代に類似した子嚢菌類又は担子菌類を関連する新しい菌名が与えられる。例えば不完全菌類―不完全酵母の中でCandidaに属するCandida guilliermondiiは、子嚢胞子をつくる有性生殖が発見された結果、子嚢菌類―半子嚢菌類の中のPichiaに帰属させるべきことが判明し、Pichia guilliermondiiと命名された。このような場合、不完全世代をアナモルフ、完全世代をテレオモルフと呼ぶ。テレオモルフは、アナモルフを含めてその菌の生活を代表する菌名として優先的に扱われる。したがってアナモルフが先に記載され、テレオモルフが遅れて発見された場合は、同一菌種でありながら2つの菌名を持つことがある。鞭毛菌類は菌糸に隔壁がないカビで、これまで藻菌類として知られていた鞭毛を持った遊走子を形成する菌群を独立させたものである。接合菌類は菌糸に隔壁のないカビで運動性を有せず、有性生殖により接合胞子を形成する菌属である。子嚢菌類は菌糸に隔壁のあるカビで、有性生殖により子嚢という袋状の器官を形成し、その中に通常8個の子嚢胞子を内生する菌属である。担子菌類は菌糸に隔壁があり、有性生殖後、菌糸の先端がやや膨れて担子胞子を外生する菌属である。
 不完全菌類は菌糸に隔壁のあるカビで、有性生殖の全く認められていない菌群及び有性生殖の知られていない菌群の不完全世代を総称しているが、大部分は子嚢菌類の不完全世代と考えられる。
(3)カビの構造
 全てのカビは細胞膜の外側に細胞壁と呼ばれる硬い構造体を持ち、細胞壁の化学組成は、菌群又は菌種によって特異的であるが、同一菌種でも培養条件等によって有る程度変動する。一般的には、乾物含量の80〜90%が多糖で占められ、ほかにたんぱく質(大部分は多糖体と複合体を形成)、脂質が含まれている。細胞壁を構成している主要多糖体の種類と構成は、カビ分類群に対応して特異的である。カビにおける最も重要な多糖体は、キチンとβ―グルカンであり、酵母ではさらにマンナンが加わる。キチンはβ(1-4)グリコシド結合によって連結されたN−アセチルグルコサミンのホモ重合体である。β―グルカンはβ(1-3)結合及びβ(1-6)結合でつながったD−グルコースのホモ重合体である。いずれも繊維状の分子構造を持ち、束状に集合したものがお互いに織りあって網目状に配列し、細胞壁に機械的強度を与えている。マンナンは可溶性多糖体で、キチンとβ―グルカンからなる繊維骨格の間を充填する不特定構造のマトリックスの役割を果たしている。またマンナン側差の結合タイプと配列は、菌種に固有であり、特異的免疫原生を発揮する。一般にマンナンその他の可溶性多糖体は、細胞分裂過程や栄養基質分解に必要なたんぱく酵素と複合体を作って壁内に存在する。更に特定マンナン・たんぱく質複合体は宿主細胞との接着に重要な役割を果たす。細胞質の主成分は脂質とたんぱく質であり、脂質の中で約6%を占めるステロールの大部分がエルゴステロールである点が特徴とされる。したがってこのステロール分子に特異的親和性を持つ抗真菌剤(例えばAmphotericinB等)を作用させると、細胞膜の構造が変化し、細胞膜の構造が変化し、機能が傷害される。細胞膜の主要な機能は、細胞内部の浸透圧の調節及び物質の輸送・拡散にある。いずれもカビの発育に際して重要となる。塩類の蓄積が起こって内部浸透圧が高まるからであり、β―グルカナーゼ等の酵素作用によって細胞壁が軟化されると細胞は膨張する。また細胞膜に細胞壁多糖体の合成酵素が局在し、細胞壁新生に寄与している。
 食品の異物混入(菌体等)で問題となるRizopusは接合菌類に属する。Rhizopusの菌糸の主要構成成分はキチンとキトサンである。キトサンはグルコサミンがβ-1,4結合によって直鎖状に連鎖したものでキチンデアセチラーゼによってキチンから作られることから接合菌類に属するカビの菌糸成長や胞子嚢胞子形成はキチンが大きく関係している。また子嚢菌類や担子菌類の細胞壁構成成分はキチンとグルカンであり、これらが食品に混入して異物として検出されるケースが多くなってきた。さらにこれらのカビはカビがキチン分解酵素(キチナーゼ)を生産するためにキチン分解物がカビの死滅後に異物として検出される場合がある。キチナーゼは菌糸の成長期にはほとんど生産されず、培養後期の自己溶菌が起こり始める時期に生産されるか、炭素源が少なくなってときに生産される。このため食品中でキチン分解物が異物として検出される割合は少ない。カビの場合、菌糸の構成成分及びその分解物と共に生産物、その生産物の分解物が異物としてカビの死滅後に検出されるので気をつける必要がある。
(4)エネルギー生成機構
 全てカビは従属栄養菌であり、澱粉等の多糖体からグルコース等の単糖体に至るまでさまざまな炭水化物を炭素源として利用する。また硝酸塩やアンモニウム塩等の無機窒素化合物並びにアミノ酸、ペプチド等の有機窒素化合物を窒素源として利用することができる。カビにおけるエネルギー産生に関与するグルコースの異化経路として細菌のEMP経路(Embden-Meyerhof-Parnas pathway)とED経路(Entner-Doudoroff pathway)に加えてHMP経路(Hexose monophosphate pathway)が働く点に特徴がある。このHMP経路は、EMP経路上のブドウ糖―6−リン酸から6−ホスホグルコン酸、ついで5単糖リン酸を経て、再びEMP経路上の三単糖りん酸に合流する一種の副経路である。この経路は、普通の状態ではさほど働かないが、細胞分化等に際して活発化する生合成反応にNADPHを供給するのに、また核酸の前駆体となるリボースの生成に重要な役割を果たす。一方、カビのED経路は、細菌と異なりあまり働かない。大多数のカビはミトコンドリア内に発達した電子伝達系及び共役する酸化的リン酸化系をもち、好気的呼吸によってのみ必要なエネルギーを産生するので、好気的条件下でのみ良好に発育する。これに対して、一部のカビと多数の酵母は、好気的呼吸のほかにビルビン酸を基質とする発酵によってもエネルギーを獲得するので、ある程度嫌気的な条件下でも発育することができる。カビにおいては乳酸発酵よりもエタノール発酵が一般的である。
2.カビの最適生育温度及び胞子の発芽時間
 カビの生育を制御する要素は食品中の水分含量よりも環境中の湿度の影響が大きいことが経験的に知られている。関係湿度が70〜100%ではカビの繁殖は速く、70%以下では繁殖は抑えられて食品のカビによる変敗は少ない。カビの生育を可能とする最低温度は食品の平衡水分に大きく関係する。カビの胞子の発芽可能な湿度範囲はそのカビの最適温度のとき最も広い範囲を示す。また発芽時間は湿度が低くなると発芽に長時間を要するので食品の変敗に関与するケースは少ない。現実には低湿度環境で生育したカビは比較的高湿度でのみ発芽し、高湿度環境で生育したカビは低湿度で発芽するのでカビの分離起源により大きく異なる場合がある。例外もあるが一般的に最も低湿度で発芽可能なカビはAspergillusであり関係湿度70%程度で発芽する。次いでPenicillium, Cladosporium, Trichoderma, Rhizopus,Muorとなることが経験的に知られている。
 菓子類から分離したカビの最適生育温度を表1に示した15℃で最適生育を示すものにはPenicillium cyclopium,Aspergillus ruberがあり、20℃ではPenicillium expansum,Penicillium sppがあり、一般に、最適生育温度25℃のカビ種が多く、Cladosporium herbarum,Cladosporium cladosporoides,Wallemia sebi,Moniliella suaveolens,Aspergillus restrictusが代表的な菌種である。
 また28℃で最適生育を示すのはAspergillus niger, Aspergillus oryzae,Aspergillusがある。
表1 菓子類より分離したカビの最適生育湿度
 表2に各カビ胞子の発芽時間を示した。PDA寒天平板培地では、発芽時間の早い菌種はPeniccillium cyclopium,Penicillium expansum,Penicilliumの10〜12時間であり、遅いものでAspergillus ruber,Aspergillus restrictus,Wallemia sebiの17〜20時間である。
 またCladosporium herbarum,Cladosporium cladosporioidesの発芽時間は15〜20時間であり、比較的遅いことを認めた。しかし、おおむね24時間以内にはほとんどの菌で発芽が見られた。
表2 菓子類より分離したカビの発芽時間
3.カビによる食品の変敗の様相
(1)低酸素状態で生育するカビによる食品の変敗
 一般的に好気的であるカビは、菌の種類によりその酸素要求度がかなり異なり、食品工場の三大カビであるAspergillus,Penicilium Cladosporiumは、酸素濃度が1%程度でもかなりの生育を示し、0.1%でもなお生育可能である。従って酸素を除去してカビの生育を阻止するためには、残存酸素を0.1%以下の低い濃度にする必要がある。脱酸素剤使用包装菓子類で生育し、変敗原因となるカビは圧倒的にCladosporiumが多く、続いてAspergillusが多い。カビは酸素濃度が減少すると生育も減少するがその減少率は一定ではなく、初期の段階で低酸素による生育抑制が現れることが経験的に知られている。このことはカビは菌糸が発生してから低酸素にしても生育抑制効果は低いと考えられる カビが強い硝酸同化能を持つことは古くから経験的に知られ、硝酸塩を多く含む食品からは低酸素下であってもカビが生育して変敗の原因となっている。嫌気下で硝酸塩を添加して細菌の増殖を抑制してもかえってカビは増殖する。このように非常に低濃度酸素でも多くのカビは繁殖して食品を変敗させることが古くから経験的に知られている。
(2)低水分状態で生育するカビによる食品の変敗
 市販クッキーに黒小斑点のあるものが見いだされたので、その組成を検討したところカビであった。これまで、蜂蜜、ジャム、ゼリー、シロップ、干した果物、チョコレート、クッキー、濃縮果汁その他、高糖分(40〜70%)を含む食品においてカビによる変敗が多発している。このような条件で生育できるカビは限られており、好凋性のカビが中心である。しかし食品の化学組成、水分活性、包装形態、包装内の酸素濃度、温度、湿度その他の保存条件によって発生するカビは一般に外部からの吸湿によりその生育が起こる場合もある。クッキーのカビの発生は完全に密封されており乾燥状態であり、製造時の状態でカビの発生原因を確認することができなかった。本製品は水分7.5%、糖質64.1%(しょ糖22.1%)であり、カビの極めて増殖しにくい条件下であったが、それにも関わらずクレームとなった。この原因として考えられるのがクッキー表層の吸湿である。クッキー全体の水分は7.5%であっても、表層は製造時期、製造後の充填包装や保存状態により吸湿し、その結果表層にカビが増殖したことが予想された。本製品は製造後3ケ月後のものであり、クレーム品である斑点生成品と製造直後の成分分析を行った結果、クレーム品はショ糖が3%減少して直糖が0.8%増加した。斑点部分の微生物を分析した結果、酵母2菌株とカビ1菌株を分離した。同定した結果、酵母2菌株はPichia anomala,カビ1菌株はSaccharomycopsis capsulariaであった。クッキーの黒色斑点の主原因菌はSaccharomycopsis capsulariaであり、工場の冷却工程より分離された。本菌は糖濃度により生育状態が大きく異なり、糖濃度60%まで生育した。
(3)エチルアルコール資化性カビによる食品の変敗
 近年、エタノールを用いても殺菌効果の全くないカビが出現し、大きな問題となっている。このカビは赤褐色からオレンジ色の菌糸を食品の表面に密生させるものであり、生育速度が速く、エタノールを急激に資化する性質を持つものである。代表的な変敗事例が食パンのオレンジ色斑点の生成である。多くの食パン工場で返品が続出した。このカビは食パン工場の空中浮遊菌から検出されたMoniliella suaverolensでエタノール濃度10%まで生育した(表3)。
表3 食パンより分離したオレンジ色カビの生育に及ぼすエタノールの影響
 本カビは1〜2%エタノール中ではエタノール無添加よりも生育が良好である。焼成終了後の食パンからはカビは全く検出されず、冷却後のスライス、包装製品より検出された。焼成によりエタノールや水分が生地表面から盛んに蒸発していくが、食パン内部に残存するエタノールは0.3〜0.5%、水分38〜45%である。このためスライス、包装工程で二次汚染された本カビの生育が促進されたと考えられる。食パン工場ではエタノール系殺菌剤が多用されてきたためエタノールに極めて耐性が強い本カビが優先的に増殖してきたものと考えられる。このためエタノールと殺菌機構が全く異なるオゾン水を用いて殺菌することは極めて有効であった。また本菌は1.7%のエタノールを含有するブランデイ−ケーキの変敗原因菌ともなっている。最近、エチルアルコールを殺菌剤や防腐剤として多用されるようになってきてから、従来あまり問題とならなかった食品に新たな変敗現象が認められるようになってきた。アルコ−ル使用包装菓子類で生育し、変敗原因となるカビはMoniliella,Cladosporium,Aspergillusが多い。これらのカビは種類が多く、製造工場の環境に適応して生育し、菓子類に汚染して生育する。カビが低温域によく生育し、食品を変敗させることは経験的によく知られている。エチルアルコールを工場殺菌剤として多用する2つの蒸し菓子工場でほぼ同時に生産された蒸しケーキに赤褐色斑点が生成し多量の返品が生じた。蒸しケーキに生成した赤褐色斑点原因微生物を検討するために、まず原材料及び半製品、製品の微生物を測定した結果、小麦粉、脱脂粉乳、液卵に等に/gの細菌が検出された。また、蒸し上げ直後ではほとんど微生物は検出されず、冷却工程以降においては細菌、酵母、カビが検出され、特に赤褐色斑点を生成するカビが検出された。蒸しケーキ工場の落下微生物を測定した結果、赤褐色斑点生成に関与するカビとして橙色のMoniliellaが絞り機及び蒸し器周辺、冷却工程、包装工程において検出された。赤褐色斑点生成に関与するカビは蒸し菓子工場の空中落下菌であるMoniliella suaverolensと同定した。本菌はエチルアルコールを資化するため極めてエチルアルコール耐性が強いことが認められた。Moniliellaの基準種はMoniliella acetoabutens(1種)であり、出芽型分生子、分節型分生子そして厚膜胞子を同時に形成する形態的な特徴がある。またアルコ−ル製剤を使用してカビによる変敗が認められた食品として蒸しケ−キ、チ−ズ蒸しパン、ロ−ルカステラ、チョコレ−トケ−キ等がある。
(4)低温性カビによる食品の変敗
 カビは低温域によく生育し、食品を変敗させることは経験的に良く知られている。冷蔵庫等の低温環境や食品工場の浮遊菌として普通によく見られ、建物の天井、床、壁面に発生し、白色から黒褐色を呈する。食品において数多く発見され、変敗原因菌となっている場合があるが、その大部分は製造工場及び保存中における二次汚染菌である場合が多い。主変敗原因菌はPenicillium,Mucor,Rhizopus, Cladosporium,Phomaが圧倒的に多い。これらの菌は食品工場の空中浮遊菌として普通に見られる。カマボコやサラミソーセージの水畜産加工食品は比較的高いバリヤー性の高いフィルムを用いているが、保存期間が長くなるとPenicillium chrysogenumPenicillim cyclopiumによって変敗する場合もある。切り餅、菓子パン、春巻、ピザパイ等のでん粉系食品においてもPenicillium expansumPenicillim islandicumによって変敗する。また冷蔵庫に保存した生めんはPhoma glomerata、チルドビーフはCladosporium cladosporioides,ヨーグルト及び牛乳はMucor racemosusによって変敗する場合もある。
(5)好塩性カビによる食品の変敗
 好塩性カビとは胞子が水分活性0.80以下で発芽でき、0.95で最適の生育が見られるものをいう。好塩性カビによる食品の変敗は多く、その原因菌もWallemia,Aspergillus,Eurotium,Monascus,Scopulariopsis等多種にわたっている。包装形態は一部脱酸素剤使用包装もあるが、圧倒的に含気包装が多い。これは製品の水分活性が比較的低いことにあると考えられる。クッキー、カステラ、ギュウヒ、もなか、餃子の皮、サラミソーセージ、蜂蜜、かまぼこ、生中華麺、ジャムに生成する白色、黄色、緑色、暗緑色、黄褐色、褐色、黒色の斑点はAspergillusが圧倒的に多い。比較的水分含量が少なくなる高温下での貯蔵及び亜熱帯や熱帯地域ではAspergillusPenicilliumよりもより一般的である。マーマレードが製造後、約1〜3カ月で緑色から暗緑色の斑点生成が確認された。本菌の集落は20%シュクロース加麦芽エキス寒天培地で20℃、14日培養後、直径5〜7cmに達し、平坦若しくはしわ状となり不捻菌糸に混じった子のう果及び分生子のため黄色から鈍黄褐色となった。 チョコレートが市場で流通時に白色から茶褐色斑点の生成した製品が出て、返品となった。この斑点は保存期間の延長に伴い大きくなることが認められたので好塩性カビに起因すると考えられ、Monascus bisporusであった。Monascus bisporusの集落は20%シュクロース加麦芽エキス寒天培地で20℃、14日培養後、直径5〜6cmに達し、褐色、綿毛状の菌糸体が発達した。また本菌はしばしば乾燥食品原材料に生じ、高濃度のシュクロースを含む培地のみに生育した。 わかめが製造後、夏期において3〜4週間後で全体に白色斑点が生成する現象が生じた。この原因菌はScopulariopsis halophilicaであった。本菌の集落は白色、あるいは黒色であり、しばしば成熟と共に暗色となるが決してPenicilliumのように緑色にならず、粒状、ビロード状となった。なお集落の裏面は鈍黄色から褐色、あるいは全く無色、分生子形成細胞は円形状若しくはやや膨らんだ基部があり、アンネロ型(分生子形成後の環紋が生じる)、単体もしくは分岐が幾分ペニシリ型(ほうき状体)となる。
(6)好湿性カビによる食品の変敗
 好湿性カビとは胞子が水分活性0.90以上でのみ発芽し、1.00近くで最適の生育が見られるものをいう。  Aureobacidium,Geotriocum,Alternaria,Trichoderma等が中心であるが、水を吸う食品製造工程及び高湿下での食品製造工程で製造された食品を保存する場合には微生物管理に十分注意する必要がある。包装形態は一部脱酸素剤使用包装もあるがほとんどが含気包装である。これは対象食品が高水分系のものが多いためである。そのため包装フィルムは酸素バリヤー性よりも強度の強いものが使用されている場合である。液体ゼリー及びミニゼリー、ポッションパックゼリーが製造後、夏期において約1週間で全て黒色化した現象が生じた。この原因菌は液体ゼリー製造工程の壁面及び機械に黒色の斑点が点々と生じ、原因菌はAureobacidium pullulansであった。水ようかん(抹茶)、ピーナッツ及びさつまいも入り饅頭が製造後、夏期において約4週間で緑色菌糸生成現象が生じた。この原因菌はTricodermaであり、本菌は土壌中、穀類及び腐朽木材から多く検出される。
 シュウマイが製造後、夏期において約1週間で灰色から黒色斑点が生成するという現象が生じた。この原因菌はAlternaria alternataであり、Alternariaは一般的に植物、食品原材料、土壌より検出される。
 クリームを使用するクリームホーン、クリームロール及びワッフルの白色斑点生成原因はGeotricum candidusに由来する場合が多い。
4.カビ発生の防止技術
(1)水分
 カビは細菌等に比べて水分要求性がさらに高く、一般に湿度の高い環境内で良好に発育する。カビは栄養素及び細胞外酵素(高分子基質を分解するため)を拡散させるのに水の皮膜を必要とし、細胞壁は常に水を透過できる状態に保たれていなければならず、水分を失い易いためである。更に気菌糸は、空中に突出しているためで乾燥しやすい。湿度はカビの生育上最も重要な環境因子であるが、湿度に対応するカビの挙動から好塩性菌、中湿性菌、好湿性菌に分類される。好塩性菌は胞子が水分活性0.80以下で発芽でき、0.95で最適の生育が見られるものをいい、中湿性菌は胞子が水分活性0.80〜0.90の範囲で発芽でき、0.95〜1.00の範囲で最適の生育が見られるものをいう。好湿性菌は胞子が水分活性0.90以上でのみ発芽し、1.00近くで最適の生育が見られるものをいう。食品工場は天井等に結露が生じ易いので結露防止剤を塗布する場合があるが、一般の結露防止剤は約500〜600g/の水を吸収すると飽和状態になり効力がなくなる。
(2)湿度
 水分活性と共に、カビの生育を抑制する大きな因子は温度である。食品等から分離されるカビの生育最適温度は20〜25℃である。最低生育温度は10℃以下まで生育し、なかには氷点下でも生育できるものもある。また最高生育温度は55〜60℃であり、堆肥やバラ積みにされた貯蔵穀類に発生しやすく、農産物を腐敗して発熱させることもある。水分活性と温度とは相互にカビの生育に影響を及ぼし、15℃以下の低温環境では好塩性菌の生育は著しく抑制される。耐冷菌又は好冷菌といわれるカビの多くは、好湿性菌若しくは中湿性菌で最低水分活性が比較的高い。
(3)酸素とpH
 カビは好気性微生物で、その生育上酸素を要求する。したがって食品上に生育するカビの多くは好気的であるが、一般的に酸素含量2.0〜5.0%まで低下しても増殖する。カビの生育できるpHは広範囲にわたっている。その生育はpH3〜8の範囲で、あまり影響を受けないが、大部分は弱酸性のpH5.0付近を好む。このため酸度の強い食品では、細菌に比較してカビによる被害が多い傾向が認められる。
(4)オゾン殺菌
 オゾンのカビに対する殺菌機構は細胞構成成分へのオゾンの酸化が中心となる。つまり、カビの細胞を構成している種々の生体成分が直接オゾンによって酸化分解され、変性や傷害を受けて増速や生存を不能にさせることによる。カビの一般構造は菌糸であり、菌糸は原形質を含み、硬い細胞壁で覆われた管である。菌糸の長さは不定であるが、普通、直径は一定しておりほぼ2〜30μmの範囲に入る場合が多い。菌糸の先端の細胞には、数個の核と、ある種の細胞小器官がともにみられるが、最先端部では、これらの小器官の代わりに膜に包まれた小胞が蓄積していて、これが生育に不可欠な役割を果たしていると考えられる。菌糸の細胞壁は先端部まで伸びているが、そこではかなり薄くなっているため、先端部の全般的な細胞壁の厚さは菌糸の成熟部分の100〜150nmに比べて薄く、おそらく50nmと思われるのでオゾンはこの部分を集中的に攻撃するものと考えられる。このように菌糸の先端が成長するためにはある程度の柔らかさが必要であるため、酵母と同様に生長段階にあるカビはオゾンに対する抵抗力は弱い。通常の殺菌剤はカビの生長段階での散布は効果が弱いことを考慮すれば、オゾンとの併用は有効である。
(5)工場の衛生管理
 工場内浮遊微生物と機械器具等の付着微生物が問題となるが、浮遊微生物は製造工場の構造、周囲の環境との関係、工場内清掃状態等によっても異なる。また機械器具については、作業終了ごとに清掃を行うほか、加熱殺菌可能な器具類については殺菌を実施することが必要である。浮遊微生物と機械器具の汚染は常に相関しているが、それを排除する方法としては、拭き取り、薬剤散布、紫外線照射、オゾン殺菌等が考えられる。
 拭き取りは、付着微生物については効果を示すが、浮遊微生物の排除は不可能であり、薬剤散布はいずれに対しても効果を示すが、室内や機械器具に付着残留することにより、使用する薬剤に制約があるため、十分な効果が期待できない。紫外線照射は、照射部分には効果があるが、影の部分には透過力がないため効果を示さない欠点がある。オゾンガス殺菌では、オゾンは人体に影響があるため、作業時間外に処理し、作業時までにオゾンガスを排除することが必要となる。また洋菓子工場の殺菌にオゾンガスを用い、空中浮遊菌の変化について検討した結果、大腸菌群と酵母は顕著に減少するが、糸状菌の変化は少ないことを報告した。
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