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2020年東京五輪とSDGs(持続可能な開発目標)
 -持続可能性に配慮した食材の調達基準と食品ロスへの対応について-
国立医薬品食品衛生研究所
名誉所員 米谷 民雄

Ⅰ.はじめに

年が明けて、2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下、2020年東京五輪)の開催も再来年となった。2013年に東京開催が決まった際には日本中が歓喜に包まれたが、それから都知事も二代交代し、コンパクトでお金をかけない五輪のはずが、新国立競技場などの予算拡張が明らかになった。また、築地(場内)市場の豊洲移転が延びた結果、五輪選手村に通じる環状2号線の未開通区間が計画通りには開通できず、仮設道路の整備が必要になり、また、跡地に計画されている輸送拠点の構築が間に合うか懸念されるなど、インフラ整備の進捗も順調とは言い難い状況である。
 このような状況下で、2020年東京五輪と食品の関係で課題となるのが、大会中に提供される食品素材の調達基準である。世界的イベントの2020年東京五輪では、一昨年1月の本メルマガ(2016年1月発行(vol.118))と昨年1月の本メルマガ(2017年1月発行(vol.130))で取り上げた国連のSDGs(持続可能な開発目標)を尊重し、持続可能性に配慮した食材を調達する必要がある。中でも、SDGsの目標14(SDG14)が直接関わってくる水産物の調達基準が課題である。そこで本年は、2020年東京五輪での食材調達基準と、SDGsとの関連で当然課題となる食品ロスへの対応について考える。

Ⅱ.持続可能性に配慮した調達コードと調達基準

2020年東京五輪では、様々な物品やサービスが調達される。2012年ロンドン大会では食材の調達基準を設定し、国産農産物については英国のGAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)制度であるレッドトラクター認証を義務づけたが、同認証品は同国産品の約80%を占めるとされている。さらに「有機」製品も推奨した。2016年リオ大会でも調達基準が設定された。
 そこで、(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)は2016年1月に、様々な物品等を調達する際の「持続可能性に配慮した調達コード 基本原則」1)を示し、2017年3月に「持続可能性に配慮した調達コード(第1版)」を公表した2)。その内容はSDGs、特にSDG12「持続可能な生産消費形態を確保する」に沿ったものとなっており、SDGsが掲げる「持続可能な消費および生産の形態が確保された社会」の実現に向けた動きを、2020年東京五輪のレガシーとして残すことを目標としている。その調達コードには別添で「農産物3)、畜産物4)、水産物5)の調達基準6)」が添えられている。

Ⅲ.農産物の調達基準

農産物の調達基準の詳細は文献3)を見ていただくとして、概略を述べる。調達する農産物に要求される要件としては、食材の安全性、環境保全・資源管理、労働安全の3つの観点からの要件が示され、それらを満たすものとして以下のGAP認証品を挙げている。
 最初に、①JGAP Advance((一財)日本GAP協会は2017年8月にこれを改定しASIAGAPと改名)やGLOBALG.A.P.の認証を受けて生産された農産物、および組織委員会が認める認証スキームによる認証を受けて生産された農産物である。JGAP Advance は元のJGAP Basicを国際的なGFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアチブ)の認証基準にも対応できるように改訂したものである。
 次いで、②「GAPの共通基盤に関するガイドライン」に準拠したGAPに基づき生産され、公的機関による第三者の確認を受けた農産物である。JGAP AdvanceやGLOBALG.A.P.の認証品だけでは、国産品が間に合わないのであろう。いずれにしても2012年ロンドン大会と同様に、2020年東京大会でも農産物にはGAPが義務づけられている。また、要件を満たした上で、「有機」品や、障がい者が主体的に携わり生産した農産物なども推奨されている。
 我が国ではこれまで国内で販売する分には特に認証の必要性がなかった。国産の農産物は安全であるという信仰は国内的には通用しても、国際的なイベントである五輪ではやはり認証が必要であり、国際的に認められる認証を取得した農産物を提供する必要がある。日本政府は国産農産物の輸出にも力を注いでいるが、東南アジアの輸入業者でも国際認証を要求しはじめている。

Ⅳ.畜産物の調達基準

畜産物の調達基準4)の要件には農産物での要件に加えて、アニマルウェルフェアが追加されている。アニマルウェルフェアに対応した飼養管理指針も策定されているが、現場でどの程度普及しているのか懸念されるところである。
 要件を満たすものとしては農産物の場合と同様に、まず①JGAP(畜産版)、GLOBALG.A.P.、組織委員会が認める認証スキームによる認証を受け生産された畜産物が挙げられている。次いで、②「GAP取得チャレンジシステム」に則って生産され、第三者による確認を受けた畜産物である。ただし、JGAP(畜産版)とGAP取得チャレンジシステムは2017年にスタートしたものであり、要件を満たす国産品を2020年までに急いで増やすための方策であろう。
 また、畜産物においても、環境面の配慮が優れた有機畜産物等が推奨され、国産品を優先的に選択することも示されている。まずは、何としても多くの国産品に要件をクリアーしてもらう必要がある。

Ⅴ.水産物の調達基準

水産物にはSDG14が直接関わってくるため、対応が一番大変である。SDG14では「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する(外務省仮訳7))」と目標が定められており、これがもろに水産物の調達に関係してくる。そしてターゲット14.2と14.4には、水産業に関連して2020年までに実施すべき具体的な行動が明記されている。すなわち、
14.2「2020年までに、海洋および沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋および沿岸の生態系の回復のための取組を行う。」7)
14.4「水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業および破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。」7)、とされている。
 これらは2020年までに実施すべきターゲットであるため、2020年東京五輪では持続可能性を指向していない水産物を調達することは憚られる。そこで、水産物の調達基準5)では要件の第一として、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations:国際連合食糧農業機関)の「責任ある漁業のための行動規範」(Code of Conducts for Responsible Fisheries)を満たすことが明記されている。このFAOガイドラインは1995年にFAOが採択したもので、国際イベントの五輪で調達する水産物の必要要件のトップに示すのは当然であり、ロンドン大会でも同様であった。他の要件としては、天然水産物では水産資源の管理や生態系保存の配慮、養殖水産物では計画的な漁場環境の維持改善、加えて水産物全体で作業者の労働安全確保が挙げられている。
 これらの要件を満たすものとしては、まず①MEL-J(マリン・エコラベル・ジャパン協議会)、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)、AEL(養殖エコラベル)、ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)による認証を受けた水産物や、GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative:世界水産物持続可能性イニシアチブ)による承認も参考にして、組織委員会がFAOのガイドランに準拠したものとして認める水産エコラベル認証水産物が挙げられている。ただし、MSC(天然魚対象)とASC(養殖魚対象)の認証は2012年ロンドン大会でも調達基準に入れられた国際的な認証であるが、MELとAELは日本の業界による認証制度である。上述のGSSIはFAOガイドライン準拠を認定するためのベンチマーキングツールを2015年に構築しており、日本のMELは2017年中にGSSIから承認を受けるために手続中とのことである。国際的な第三者機関で承認される前に、MELなどをMSCやASCと同列に併記するのは問題であろう。
 もっと悩ましいのは上記①以外にも、以下の3つの範疇が認められていることである。すなわち、
②資源管理に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものに基づいて行われている漁業により漁獲され、かつ労働安全の要件も確認されている水産物。この資源管理計画とは、国や都道府県が策定した資源管理指針に沿って、関係漁業者が魚種または漁業種類ごとに自主的に行う措置をまとめたものであり、優良事例などは水産庁のホームページで紹介されている。
 さらに、③漁場環境の維持・改善に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものにより管理されている養殖漁場において生産され、かつ労働安全の要件も確認されている水産物。この漁場改善計画とは、持続的な養殖を行うために、養殖魚場環境の維持・改善のために漁業者自らが水域と養殖の種類を定めて作成する計画のことであるが、個々の内容は公表されていない。②③とも「行政機関による確認を受けたもの」の語が入っているが、漁業者による資源管理計画や漁場改善計画があれば持続可能な漁業により漁獲された水産物であるとして、2020年東京五輪で提供するのは、海外からどのように見られるか若干心配である。しかし、これらの措置により、国産水産物のかなりの部分が認められるようになるのであろう。
 加えて④として、上記①に示す認証取得を目指した改善計画に基づく漁業・養殖業による場合を含め、4要件を満たすことが確認されているものが掲げられている。この改善計画とは漁業改善計画(Fishery Improvement Project、FIP)や養殖業改善計画(Aquaculture Improvement Projects、AIP)と呼ばれるものである。MSCやASCの認証取得を目指すFIP/AIPの動きは、大いに推進・支援すべきものである。
 以上の①~④の水産物を調達することにより、2020年東京五輪ではSDG14のターゲットをクリアーしたものを調達したとするのであろう。2020年東京五輪を契機に国産水産物が国際認証を取得するよう指導すべきであるが、取得が間に合わず、まずは国産品が五輪で提供できるような調達基準になったと思われる。国際的イベントである五輪で国際認証された食材による食品を提供し、日本が水産資源の持続性に配慮した国であることを世界に示すことが重要である。2024年パリ大会や2028年ロサンゼルス大会で調達コードや調達基準を策定する際には、2020年東京大会でのコードや基準が参照されるであろうが、2020年東京五輪での調達基準がどのように評価されるか若干気がかりである。今後、国産水産物の国際認証取得が格段に進み、また、国民の水産エコラベル(MEL)や海のエコラベル(MSC)への認知が大いに広がることを切に願っている。

Ⅵ.2020年東京五輪での食品ロスへの対応

2020年東京大会で調達する物品・サービスの基準等については、調達コード・調達基準で示されている。一方、大会で提供する飲食サービスのあり方を示すものとして、「飲食提供基本戦略」8)がある。組織委員会は、2012年ロンドン大会以降の大会で策定されてきた「飲食提供に係る基本戦略」を2020年東京大会においても策定すべく、飲食戦略検討会議を2017年3月に立ち上げた。同年9月13日の第6回検討会議で一応会議は終了し、策定された案の内容を国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)と調整し、2018年3月頃を目処に「東京2020大会における飲食提供に係る基本戦略」として公表する予定である。
 基本戦略素案9)では、飲食に関する食品安全管理、栄養管理、多様性への配慮などのほかに、環境・持続性への配慮として、食品廃棄物抑制も重要課題になっている。ロンドン大会では全体で約1,500万食以上、選手村では約200万食の飲食が提供された。2020年東京五輪でも2012年ロンドン大会同様のフードロスが発生すると、1,500トンの食品廃棄物が出るという10)。カフェテリア方式で提供する場合であれば食中毒のリスクを避けるため、調理から2時間が提供できる期限とされており、特に選手村では食品廃棄物が多くなると思われる。当然ながら、肥料・飼料等としての再資源化や、日持ちする食品ではフードバンクでの提供もはかられるであろう。加えて、リユース食器の使用も考えられているが、洗浄の方法や施設をはじめ、選手の協力がどこまで得られるか等、課題も多い。
 2020年東京五輪では、SDGs達成への社会の変革を目標に掲げている。昨年も記したように、SDG12の中のターゲット12.3には「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」7)と掲げている。2020年東京五輪でも食品ロス削減は避けて通れない課題である。イベントへの一時的な対応だけでは社会的な変革は起こらない。フランスで2016年2月に制定された、大型スーパーが賞味期限切れ等の理由で食品を廃棄するのを禁じる「食品廃棄禁止法」のような思い切った法整備も必要かもしれない。食品ロスへの対応が2020年東京五輪のレガシーとして残ることを期待したい。

引用文献・参考文献

1) 組織委員会:東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード 基本原則
https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/data/sus-principles-JP.pdf

2) 組織委員会:持続可能性に配慮した調達コード(第1版)
https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-code.pdf

3) 組織委員会: 持続可能性に配慮した農産物の調達基準
https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-agriculturalproducts-code.pdf

4) 組織委員会:持続可能性に配慮した畜産物の調達基準
https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-livestockproducts-code.pdf

5) 組織委員会:持続可能性に配慮した水産物の調達基準
https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/sus-code/wcode-timber/data/sus-procurement-marineproducts-code.pdf

6) 組織委員会:持続可能性に配慮した調達コードについて
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/shokubunka/setumeikai/code.pdf

7) 外務省:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

8) 組織委員会:飲食提供に係る基本戦略とは
https://tokyo2020.jp/jp/games/food/strategy/data/20170313-appendix.pdf

9) 組織委員会: 飲食提供に係る基本戦略(素案)の概要
https://tokyo2020.jp/jp/assets/news/data/20170913-draft.pdf

10) 組織委員会:第5回資源管理WG 資料3
 https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/resource-management-wg/data/20170522-appendix.pdf

略歴

京都大学大学院薬学研究科博士課程修了。環境庁国立公害研究所と米国カンザス大学メディカルセンターでの研究を経て、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長・部長および食品部部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究者サイドの中心として対応。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授として、茶中農薬の研究を実施。2009-2010年度(公社)日本食品衛生学会会長。

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