SDGs(持続可能な開発目標)に関連した食品を
提供する側と購入する側の行動 国立医薬品食品衛生研究所
名誉所員 米谷 民雄 1.はじめにちょうど1年前の「本メルマガ」(2016年1月発行(vol.118) )では、今後の食品施策に影響してくる重要なテーマとして、SDGs(Sustainable Development Goals)とTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を取り上げた。今回はSDGsに的をしぼり、新年早々であるので2016年における日本政府の対応を振り返ると共に、SDGsに関連した国内の食品生産・消費についての動向と、今後の課題について考えてみる。 2.SDGsとは昨年の繰り返しになるが、最初にSDGsについて簡単に記す。 表1.SDG12とそのターゲット 12.1 開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の下、すべての国々が対策を講じる。 12.2 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.3 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。 12.4 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。 12.5 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 12.6 特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。 12.7 国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する。 12.8 2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする。 12.a 開発途上国に対し、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する。 12.b 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。 12.c 開発途上国の特別なニーズや状況を十分考慮し、貧困層やコミュニティを保護する形で開発に関する悪影響を最小限に留めつつ、税制改正や、有害な補助金が存在する場合はその環境への影響を考慮してその段階的廃止などを通じ、各国の状況に応じて、市場のひずみを除去することで、浪費的な消費を奨励する、化石燃料に対する非効率な補助金を合理化する。 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(国連文書A/70/L.1を基に外務省で作成した仮訳)より引用 3.昨年の日本政府の動きとSDGs実施指針政府は昨年SDGs推進本部を内閣に設置し、5月に第1回会合を開催した。国連サミットで公約したように、アジェンダを実施するために、2016年内にSDGs実施指針を策定し、実施を推進していく予定である。 4.サミット等での首脳宣言やコミュニケでもSDGsに言及昨年は日本がG7サミットの議長国であったため、5月26・27日に伊勢志摩サミットを開催した。2030アジェンダ採択後はじめてのサミットであったことから、その首脳宣言の中では、2030アジェンダの実施にコミットすることや、SDGs実現のために中心となることが確認されている6)。 5.食品関連企業の動きSDGsの達成には企業の貢献が不可欠であり、企業サイドのSDGs認知度は大変高い。特に大企業にとってはターゲット12.6で行動が奨励されていることもあり、対応が必須になっている。実際、企業のCSR(Corporate Social Responsibility)においては、SDGsへの対応を掲げるのが当然のようになっている。ただし、国際的に事業を展開しているような企業においては、SDGsにより急に新しい対応目標が出てきたわけではなく、従来からのCSRをSDGsにそって表現し直しているように思われる。企業においてはSDGsにより対応を迫られる場合もあるが、逆に自社の能力を生かし企業活動を展開できるビジネスチャンスでもある。ある企業がSDGs達成に真剣に取り組んでいるのを認識すれば、消費者はその企業や製品に信頼感を持つであろう。 6.消費者サイドの動き残念ながら消費者サイドでは、SDGsの認知度はまだ低いようである。しかし、SDGsについて知らなくとも、家庭ゴミ削減を通じた食品ロス削減の動きは広まっている。自治体の中には残さず食べるように促す30・10(さんまる いちまる)運動などを実施しているところもあり、自治体による後押しも強いのであろう。 7.国内外における食品ロス削減への動きターゲット12.3では、2030年までに小売・消費段階での世界全体での1人当たりの食品廃棄量を半減することが掲げられている。FAO(国連食糧農業機関)の2011年の報道によると、世界の食料廃棄量は年間13億トンで、生産量の約1/3に達している。地域別の1人当たりの年間廃棄量はサハラ以南アフリカおよび南・東南アジアで6-11 kgであるのに対し、欧・北米では95-115 kgと1桁多い9,10)。このため、先進国では食品ロス減少に向けた取組みを実施中である。 8.エシカル消費(倫理的消費)の普及SDG12が設定されたことにより、エシカル消費の重要性が増している。エシカル消費とは、有機農産物の購入やグリーン購入など環境保護を見据えた製品を購入したり、途上国での不当労働がないフェアトレード認証品の購入などを通じて、社会貢献することである。途上国生産者の持続可能な自立を目指すフェアトレードは、このSDGsを達成するための有効な手段として国内外で広がっている(フェアトレード認証ラベルを見たい方は文献12)を参照して下さい)。 9.海産食品の持続可能な調達3.で述べたように、日本は海洋資源に関するSDG14の達成度は、現在のところ低いと見なされている。今後の日本に対しては、海産食品の持続可能な調達に努力しているかについても、世界から目が向けられる。日本は国土は狭いが、排他的経済水域と領海を合わせた面積は世界第6位であり、漁獲においてはこれまでこの面積の広さを享受してきた。 10.海のエコラベルフェアトレード認証は途上国での不当労働防止が目的であるが、海産物の乱獲による枯渇の防止を目的とした認証に、MSC(Marine Stewardship Council)認証(通称、海のエコラベル)がある。海の環境保全を考慮した水産物であることを認証するもので、消費者は認証ラベルのついた魚介類を選択することで、間接的に海洋環境保全に寄与できるシステムである。この認証は、適切な漁業であることの認証と、流通加工過程で非認証製品と分別管理がされていることの認証からなっている(MSC認証ラベルを見たい方は文献14)を参照して下さい)。 11.国内における今後の課題日本では消費者の認証制度に対する認識度はまだそれほど高くない。認証を受けた製品は若干価格が高くなるが、わが国の現在の経済情勢では消費者は割高な認証品を買い支える気持ちが薄れ、どうしても安い製品に流れてしまう。一方、商品を提供する側においても、有機農産物の違反事例は多いし、最近では特定保健用食品の成分の含量不足が問題になったりしており、認証への信頼をそこねている場合が見受けられる。正しく認証を受けた製品が正当に報いられるような生産消費形態を確保できることが切望される。 引用文献・参考文献1) 外務省:「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミット 2) 外務省:我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳) 3) 官邸:SDGs実施指針(SDGs Implementation Guiding Principles)(検討のたたき台) 4) 官邸:SDGs実施指針骨子 5) 官邸:実施指針付表骨子(具体的施策) 6) 外務省:G7 伊勢志摩首脳宣言 7) 環境省:G7富山環境大臣会合コミュニケ(仮訳) 8) 厚生労働省:神戸コミュニケ(仮訳)G7神戸保健大臣会合 9) FAO: Cutting food waste to feed the world 10) FAO: SAVE FOOD: Global Initiative on Food Loss and Waste Reduction 11) World Resources Institute:Food Loss and Waste Accounting and Reporting
Standard. Version 1.0 12) フェアトレード・ラベル・ジャパン:国際フェアトレード認証とは 13) 「倫理的消費」調査研究会:「倫理的消費」調査研究会中間取りまとめ~あなたの消費が世界の未来を変える~ 14) WWFジャパン:MSCについて 15) 官邸:持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第2回) 略歴京都大学で学部からオーバードクターまで10年間学ぶ。環境庁国立公害研究所と米国カンザス大学メディカルセンターでの研究を経て、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長・同部長および食品部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究者サイドの中心として対応。2008年4月同研究所名誉所員。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授。 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
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