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カビの同定 ~これまでの検査結果を振り返って~
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微生物検査室

2016年6月号メールマガジンの豆知識「細菌の同定~これまでの検査結果を振り返って~」にて、当財団がこれまでにご依頼をいただいた細菌の同定検査の結果の中で、同定した頻度が高かった細菌の特徴について解説した。今月号では、カビの同定検査の結果の中で、同定した頻度が高かったカビの特徴について解説する。
 なお、カビの同定検査の方法については、2013年11月号メールマガジンの豆知識「微生物の同定について(遺伝子解析手法を用いて)」を確認いただきたい。

2016年6月号メールマガジン
 
2013年11月号メールマガジン

1.検査目的

ご依頼いただく検査目的は、「製品にカビが目視で確認されたためカビの種類を特定したい」が最も多かった。製品に目視でカビが確認されるということは、異物混入であり品質に関わるクレームとなる。

2.同定したカビの種類とその割合

当財団で同定したカビの種類を生物分類学上の属(genus)でまとめ、割合を表1に示した。最も同定した頻度が高かったカビは、Cladosporium属で18%であった。次に多かったのは、Aspergillus属とEurotium属で14%であった。同定した頻度が低い属は30種類あり、表1にはその他として1つにまとめた。

表1 同定したカビの種類とその割合

3.菌属の特徴

同定した頻度が高かった3菌属の簡単な特徴を以下にまとめた。

Cladosporium

クロカビと呼ばれ、空気中に飛散しているカビの胞子の中で割合が最も多く、空中浮遊菌として30~40%を占める。このため、食品での汚染事例は多い。食品で生育した場合、品質の低下の原因になる。暗緑色、黒色、暗褐色の集落を形成する。世界中に分布し、土壌、穀類、穀類加工品、香辛料、果実、野菜、乳製品、冷蔵肉、冷蔵・冷凍加工品、各種飲料などから検出される。カビ毒の産生はない。

Aspergillus

コウジカビと呼ばれ、自然環境中に多くみられるカビである。生育した集落(コロニー)は緑色、白色、黒色、黄色など種(species)によって色調が異なる。集落の色調や形態的特徴から150種類以上の種に分類されている。世界中に広く分布し、食品、土壌、空気中など、あらゆるものから検出される。食品で生育した場合、品質の低下、変質、変敗の原因になる。また、A.flavusはアフラトキシン、A.versicolorはステリグマトシスチンなどカビ毒を産生する種も多い。一方で、A.oryzaeA.brasiliensisなど発酵食品や有機酸製造で利用される種も含まれる。生育には酸素濃度が1.0%程度まではほとんど影響を受けないが、0.1%以下になると生育が停止する。

Eurotium

カワキコウジカビ、カツオブシコウジカビと呼ばれ、全ての種が乾燥した環境を好む(好乾性)。黄橙色、黄色、橙色、緑色の集落を形成する。世界中に分布し、土壌、穀類、貯蔵食品、低水分加工食品、茶葉、紙、工業製品などから検出される。食品で生育した場合、品質の低下、変質、変敗の原因になる。カビ毒の産生はない。鰹節の製造にも利用される。

4.おわりに

今月号では、これまでに同定したカビの種類とその頻度をまとめ、同定した頻度の高かったカビの特徴を解説した。6月は気温の上昇、高湿と一般的にカビが生育しやすい環境となる。今回解説したカビは特に世界中に分布しており食品に混入する機会が多いカビである。製造現場では、原料のカビ数の管理、衛生的な環境で作業を行うことが重要である。また、これらのカビは脱酸素、熱処理、フィルター除去が有効である。今後の品質管理に活かしていただけると幸いである。
 なお、今回の結果は、当財団が同定した結果であり、参考としてとらえていただきたい

参考文献

食品衛生検査指針 微生物編 2015(公益社団法人 日本食品衛生協会)
食品・施設 カビ対策ガイドブック(公益社団法人 日本食品衛生協会)
食品微生物学辞典(日本食品微生物学会 監修)
食品のカビ汚染と危害(宇田川 俊一 編)
当財団メールマガジン2016年6月号 細菌の同定~これまでの検査結果を振り返って~ http://www.mac.or.jp/mail/160601/03.shtml
当財団メールマガジン2013年11月号 微生物の同定について(遺伝子解析手法を用いて) http://www.mac.or.jp/mail/131101/05.shtml

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