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細菌の同定 ~これまでの検査結果を振り返って~
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微生物検査室

弊財団では、細菌の同定検査の受託を開始して7年が経とうとしている。この間に、幅広いお客様から数多くのご依頼をいただき、多数の細菌を同定してきた。今月号では、これまでに弊財団が同定した細菌の種類をまとめ、その中で同定した頻度が高かった細菌の特徴について解説する。
 なお、細菌の同定検査の方法については、弊財団の2013年11月号メールマガジン「微生物の同定について(遺伝子解析手法を用いて)」を確認いただきたい。

2013年11月号メールマガジン

1 検査目的

ご依頼いただく検査目的は、「生菌数検査を実施したところ、想定以上の菌数が検出されたため、細菌の種類が知りたい」、「自社で培養法により食中毒菌の検査を実施したが、判定に悩む集落が検出されたため、同定検査を実施したい」、「特定の細菌を食品に接種したが、製品から接種した通りの細菌が検出されるか確認したい」など多岐にわたるが、「品質に関わるクレームが発生した際の原因究明」が最も多かった。そこで、同定した細菌の種類をまとめ、同定した頻度の高かった細菌の特徴を解説する。今後の品質管理等の一助となれば幸いである。

2 同定した細菌の種類とその割合

受託開始以降、同定した細菌の種類を生物分類学上の属(genus)でまとめ、割合を表1に示した。最も同定した頻度が高かったのは、Bacillus属で39%であり、次にEnterobacter属で9%、Escherichia属で6%であった。同定した頻度が1回、もしくは2回であった属は32種類あり、表1ではその他として1つにまとめた。

表1 同定した細菌の種類とその割合

3 菌属の特徴

同定した頻度が高かった3菌属の簡単な特徴を以下にまとめた。

Bacillus

グラム陽性有芽胞桿菌で、好気性での発育が良好である。この属は、多くの種(species)の細菌が報告されている。食中毒菌では、Bacillus cereus(セレウス菌)もこの属に含まれる。自然界、特に土壌中に広く分布しており、芽胞を有するという特徴もあるため、食品への汚染機会は極めて多い。30℃以上で増殖が速く、多くの種でタンパク質、デンプンなどの高分子化合物を活発に分解する。また、食品中に増殖して粘質物(ネト)、色素をつくる種もある。一方で、低温で増殖する種は少ないため、5℃以下の環境に保存することは、この属の細菌による腐敗を防ぐ有効な手段である。

Enterobacter

この属は、腸内細菌科(グラム陰性無芽胞桿菌で、グルコースを分解して酸とガスを産生する細菌)である。また、大部分の種は、大腸菌群(グラム陰性無芽胞桿菌で、乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性または通性嫌気性の細菌の一群)に含まれる。この大腸菌群に含まれる細菌は、糞便はもちろんのこと自然界に広く分布しており、環境衛生管理上の汚染指標菌として考えられている。多くの種で加熱に対して強い耐性を持たないため、加熱済み食品からの検出は加熱不足や加熱後の二次汚染などの取り扱いの悪さを示す。また、未加熱食品からの大腸菌群の検出は、少量の検出の場合、衛生面からあまり意味がないが、多量に検出された場合、糞便などの不潔物による汚染が疑われ、清潔で安全な食品でないことを示す。

Escherichia

この属は、腸内細菌科である。この属にはEscherichia coli(大腸菌)が含まれており、大腸菌はこの属の中で最も重要な種である。以下、大腸菌の特徴を解説する。大腸菌は、44.5℃で発育し、インドール反応(I)、メチルレッド反応(M)、Voges-Proskauer反応(Vi)およびシモンズのクエン酸塩利用能(C)の4種類の性状によるIMViC試験が「++--」のパターンを示すものと定義されている。大腸菌群と同様、汚染指標菌としても重要な細菌である。ヒトや動物の腸管内常在菌であり、大腸菌群に比較して糞便に存在する確率が高く、死滅しやすいなどの理由から、大腸菌が食品中に存在した場合、比較的新しい糞便汚染があったと考えられる。大腸菌は病原性因子産生能を有すると下痢原性大腸菌(病原性大腸菌)となる。下痢原性大腸菌はさらに病原性因子の違いから、①腸管侵入性大腸菌、②腸管毒素原性大腸菌、③腸管病原性大腸菌、④腸管出血性大腸菌、⑤腸管凝集接着性大腸菌、の5つに分類される。よく知られている腸管出血性大腸菌O157は、④の中の血清型の1つである。

4 おわりに

今回の結果は、弊財団が同定した結果であり、参考としてとらえていただきたい。

参考資料

食品衛生検査指針 微生物編 2015(公益社団法人 日本食品衛生協会)
食品衛生小六法 平成28年度(食品衛生研究会 編集)
食品安全ハンドブック(食品安全ハンドブック編集委員会 編)
食品微生物の科学(清水 潮 著)
食品の保全と微生物(藤井 建夫 編)
微生物の同定について(遺伝子解析手法を用いて)
2013年11月号メールマガジン(http://www.mac.or.jp/mail/131101/05.shtml

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