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微生物の同定について (遺伝子解析手法を用いて)

一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
微生物検査室 稲垣暢哉

前シリーズと本シリーズを通して、食中毒菌、衛生指標菌について説明してきました。今月号は、これまで紹介してきた微生物のさらに詳細を知るためのツールとして役立つ微生物の同定検査について紹介します。

1 微生物(細菌、カビ、酵母)の同定とは?

微生物は、35億年ほど前に現れた地球上で最も古い生物です。それらの生物が進化してきた道筋を「系統」といいます。さらに、これらの生物を様々な系統で類縁関係の遠い、近いで表現したものが「分類」です。つまり、「分類」とは「系統」をもとに特定のグループごとに生物を整理したものです。
 微生物の同定とは、対象となる微生物が分類された生物の中のどのグループに含まれるかを決定することです。  同定といってもその手法には、形態観察、生化学特性、遺伝子解析と様々な手法があります。今回はその中でも、遺伝子解析手法について説明します。

2 検査目的

微生物の同定を行うことで、菌種を特定することが出来ます。微生物を原因として発生した食品の品質劣化については、菌種を特定することで原因究明に繋げることが可能です。また、その特定された菌種の性質、特徴を調べることで、汚染経路の特定、殺菌条件の検討など、再発防止に役立てることが出来ます。

3 遺伝子解析手法の特徴

遺伝子解析手法による同定は、他の手法に比べ迅速かつ簡便であり、技術や経験に頼るところが少ないという長所があります。一方で、データベースに収録されていない菌種は同定できないことや、適切なプライマー(マーカー遺伝子)の使用、相同性解析の結果を判断するための知識が必要となること、検査にかかる試薬や設備が高価であるという短所もあります。 従って、遺伝子解析手法だけで同定を行うのではなく、必要に応じて複数の同定手法を用いて解析し、総合的な判断を行うことが必要です。

4 検査方法

はじめに、菌種の特定を行いたい微生物の単離、純培養を行います。複数の菌種が混ざっていると正しい検査結果を得ることが出来ません。単離、純培養後、市販のDNA抽出キット等を用いてDNAを抽出します。抽出したDNAを鋳型として、サーマルサイクラーを用いて特定の部位を増幅します。続いて、DNAの増幅産物に再度シーケンス反応を行います。この反応で1塩基ずつ長さの異なるフラグメント(DNA鎖)を合成し、標識をつけます。反応後精製操作を行い、ジェネティックアナライザーを用いて分離、検出を行い遺伝子配列を決定します(シークエンス)。用いるシークエンスの方法によって多少異なりますが、最終的には目的の領域のDNAを増幅し電気泳動によって分離測定を行う点は共通しています。決定した配列を既知の配列(ライブラリー)と照合して菌種の同定を行います。
写真1.自動DNAシーケンサ

5 応用例

ここでは、品質劣化によるクレームが起こった場合の微生物の同定を用いた解決への例を示します。

〜黒い斑点があるパン〜

黒い斑点ができたパンが多数あり、至急原因を追及する必要があるとします。まずは、顕微鏡でこの黒色斑点が何かを調べます。その結果、カビに特徴的に見られる菌糸が確認されました。次に、このカビが何であるか調べるために黒色斑点部分のカビを培養します。この時、食品、カビの形状を考慮し使用する培地を選択し、最適と考えられる条件で培養する必要があります(培地の種類によって発育のし易さが異なるので、注意が必要です。例えば、水分活性の少ない食品で発育しているカビであれば、水分活性の低い培地を使用する必要があります)。培養後、単離されたカビの発育が認められれば、カビの同定を行います。
 パンに確認されたカビについて、遺伝子解析手法を用いて同定を行った結果、Cladosporium cladosporioidesであることがわかりました。文献で調べると、Cladosporium属菌は空中浮遊菌として30〜40%を占めていることがわかりました(カビを発育するポテトデキストロース寒天培地を用いた結果より)。また、このカビには、耐熱性はなく、好湿性のカビであることがわかったことから、このカビに対しては、高温、乾燥、脱酸素といった対処方法が考えられます。したがって、これらの情報から製造工程の見直し、7Sの徹底、これらのマニュアルの作成を行い、再発の防止を行います。

まとめ

微生物の同定は、微生物のより詳しい情報を知る一つのツールです。この情報を利用して、クレーム分析の原因追究など調べることが出来ます。クレーム分析の原因追究としては、弊センターでは他にも顕微鏡、FT-IR、EDXを用いた異物検査、GC/MSを用いた臭気検査など各種分析を取り揃えておりますので、またご相談ください。

参考文献

食品のカビ汚染と危害  幸書房  宇田川 俊一 編
 カビ検査マニュアルカラー図譜  株式会社テクノシステム 高鳥 浩介 監修

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