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日本食品標準成分表2015年版(七訂)の概要と課題
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
アドバイザー 安井 明美

はじめに

昨年(平成27年)12月に、5年ぶりとなる新しい日本食品標準成分表が公表された。
 新しい成分表の名前は、改訂の回数と時点を明確にするために、前回の「日本食品標準成分表2010」を六訂とみなして、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」1)とした。今回の改訂は、15年ぶりに食品数が313増えて2191となり、成分項目も利用可能炭水化物(単糖当量)が増え、別冊も「アミノ酸成分表2010」と「五訂増補日本食品成分表脂肪酸成分表編」が改訂されて、新しい「アミノ酸成分表編」2)では337食品から1558食品に、「脂肪酸成分表編」3)では1262食品から1782食品に、収載食品数が増加し、新規の「炭水化物成分表編」4)が加わって3冊になる大規模なものとなった。

1.改訂の経緯

「日本食品標準成分表2010」の作製に先立ち、文部科学省科学技術・学術政策局長の私的懇談会である「食品成分に関するデータ整備のあり方等に関する検討会」は、「日本食品標準成分表改訂の進め方について」の報告(平成18年3月14日)を行った。
 報告書では、
 (1)日本食品標準成分表の今後の課題として、

   ①厚生労働省における栄養指導行政等がより効果的に実施できるようにすること。例えば、「日本人の食事摂取基準」に定められていて成分表に未収載の成分の成分値を策定すること。

   ②国民の健康志向がますます高まる中で、収載すべき食品や成分についてもニーズを踏まえてより一層の充実を図るべきであること、また、食品の生産・流通・消費の実態に即して、見直しを行うべきであること。

   ③成分データの国際的整合性に配慮する必要があること。例えば、たんぱく質、脂肪(脂質)及び炭水化物の成分量を算出する方法について、関連する国際機関が推奨する算出方法5)を適用すること。

を挙げ、

(2)五訂増補日本食品標準成分表の枠組みの中で早急に改訂すべき事項として、

   ①アミノ酸成分表の改訂(「五訂増補日本食品標準成分表アミノ酸成分表編」(仮称)の策定)、

   ②ビオチン、ヨウ素、セレン、クロム及びモリブデン成分表の策定、

を挙げ、

(3)六訂日本食品標準成分表の策定に向けての検討事項として、

   ①収載食品の見直し、

   ②収載成分の見直し、

   ③データの収集方法、

   ④たんぱく質、脂肪(脂質)及び炭水化物の成分量の算出方法の見直し、

   ⑤エネルギー値の算出方法の見直し、

   ⑥その他

を挙げている。

(4)その他では、

   成分表を所管する常設の専門組織の設置

を挙げている。

この報告に沿って、食品成分表2010は作製されたが、さらに
(1)新規の流通食品や品種改良の影響、加熱調理による成分変化などが十分に反映されていないこと。
(2)炭水化物について組成レベルの成分値が把握されていないこと。
(3)たんぱく質及び脂質について、一部食品の組成レベルの成分値が把握されていないこと。
等の課題が残った。
 これらの課題に対して検討作業を重ね、今回の大幅な改訂を行った。

2.各成分表の改訂及び新規作製のポイント

2.1 日本食品標準成分表2015年版(七訂)[本編]

2.1.1 フォーマットの変更

本編のフォーマットの一般成分部分を図1に示す。

(1)英文の分離
 印刷版の本表から英文を外し、英語版は、文部科学省のホームページ6)に電子版で公表した。
(2)成分項目の掲載順の変更
 脂肪酸及びコレステロールを脂質のトリアシルグリセロール当量の右隣に移動して、これらが脂質に含まれること、食物繊維を炭水化物の新設の利用可能炭水化物(単糖当量)の右隣に移動して、食物繊維が(差引き)炭水化物に含まれることを明確にしている。無機質及びビタミンの掲載順に変更はないが、レチノール当量の用語を、レチノール活性当量に変更している。
(3)備考欄の本表化
 表1にいくつかの例を示した。ほうれんそうは、成分表2010では、葉、生の夏採り、冬採りのビタミンCの成分値を備考欄に記載していたが、本表に通年平均、夏採り及び冬採りが並ぶようにしている。
(4)索引番号の採用
 食品の名称や収載の順番が変わっても、同じ食品であれば、成分表2010の食品番号を引き継いでいる。さらに新しい食品が加わったことで食品番号も増え、この番号順には食品が並ばなくなってしまったので、食品の検索を容易にするため、本編の収載順の通し番号である「索引番号」を採用、追加した。なお、3冊の別冊でも、同一食品の食品番号と索引番号は同じである。

図1. 日本食品標準成分表2015 年版(七訂)のフォーマットの一般成分部分
 
表1. 備考欄の本表化

2.1.2 収載食品の充実

新規食品としては、日本人の伝統的な食文化を代表する食品である刺身(まあじ、さんま、まだい、はまち、ひらめ、するめいか)と天ぷら(さつまいも、なす、きす、バナメイエビ、するめいか)、健康志向を反映した食品(五穀(あわ、きび、ひえ、大麦等を含むもの)、あまに油、えごま油など)、食物アレルギーに対応した食品(米粉パン、米粉めん など)、食べる機会が増えた食品(ベーグル、アンチョビ(缶詰)、モッツァレラ(チーズ)、ゆずこしょうなど)、魚介類のフライとから揚げ、肉類のとんかつとから揚げ、スイートコーンの電子レンジ調理、にんじんのグラッセなどの調理食品などがある。
 食品の調理に際しては、水さらしや加熱による食品中の成分の溶出や変化、調理に用いる水や油の吸着により食品の重量が増減する。本成分表における各食品の調理による重量変化率を収載している。また、「調理後の食品と同一試料の「生」等の成分値」は別表に参考値として掲載したので、直接比較が可能である。

2.1.3 そう菜の掲載

2020年4月には加工食品の栄養表示が完全に義務化されることから、調理した食品の栄養計算をより正確に行うことが、一層重要になっている。
 これまで、第18群には調理加工食品類が収載されているが、食品数は極めて限られていた。レシピによって成分値が大幅に変わり、標準値の設定が難しいためであったが、成分表2015年版では、新しい試みとして、家庭や給食でよく食べられるそう菜(41食品)のレシピ(食材名、食材の重量、調理方法)を複数の製造者から収集し、成分表の収載値を活用して栄養計算する手法を、実例とともに解説している。図2に八宝菜を例に示す。計算に用意するものは、①「八宝菜」のレシピ、②食品成分表2015年版(七訂)、③本レシピで作った「八宝菜」の水分、または、本レシピで作った「八宝菜」の調理後重量であり、次のステップで計算する。

ステップ1: 調理に用いた食材名とその重量、調理方法を確認する。
ステップ2: 「食材名と重量」を調理方法に合わせて「計算に用いる食品」を当てはめ、 重量変化率と廃棄率を乗じて、換算後重量を求める。
ステップ3: 本成分表に加熱調理後の成分値が収載されていない食品は、類似した食品 を利用して、加熱調理後の食材の成分値を推計する。
ステップ4: 換算後重量から「八宝菜」全体の成分値を計算する。
ステップ5: 実測した水分又は調理後の全体の重量から、100 g当たりの成分値を計算するが、 現場での水分の実測は、難しい場合が多いので、調理後の全体重量を測定する。
 そう菜のレシピは製品によって異なり、栄養計算の結果も違うので、食材の配合割合や成分値の計算結果は、平均値と最大値・最小値を収載した。これにより、一般の消費者の方にとっては、普段購入される食品の成分についての目安が得られることになる。

図2. そう菜の栄養計算法(八宝菜)

2.2 炭水化物成分表の新規作製

今回の改訂のトピックの一つは、別冊の「炭水化物成分表編」の新規作製である。その炭水化物成分表のフォーマットを図3に示す。
 「食品成分表2010」までは、炭水化物(可食部100 g当たり)は、100 gから水分、たんぱく質、脂質、灰分等の含量を差し引いた「差引き法」で計算していた。この方法は他の一般成分の測定の不確かさがすべて炭水化物計算の不確かさになる上、差引き炭水化物には、有機酸も含まれるという問題がある。
 このため、食品成分委員会では、主要な食品の分析に加え、類似食品の成分値や諸外国の成分表データを活用した推計や原材料配合割合に基づく計算を行い、利用可能炭水化物、糖アルコール及び有機酸の成分値を「炭水化物成分表編」としてまとめた。利用可能炭水化物(available carbohydrate)とは、炭水化物のうちヒトの酵素で消化可能で、吸収・代謝される成分であり、「炭水化物成分表編」では、でん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、麦芽糖、乳糖及びトレハロースを本表に収載し、イソマルトース及び80 %エタノール可溶性のマルトデキストリン等の三糖類以上の利用可能炭水化物は備考欄に示した。また、これらの成分を単糖類に換算して合計した「単糖当量」を、本編の成分表2015年版に加えた。単純合計ではないのは、重量あたりで異なるエネルギーをもつでん粉と単糖類、二糖類等から矛盾なくエネルギー計算ができるようにするためである。本表には、糖アルコールとして、ソルビトールとマンニトールも収載し、有機酸は別表で収載している。そのフォーマットを図4に示す。収載した有機酸の合計は本編の成分表2015年版の備考欄にも掲載した。なお、食物繊維は、本編に収載されているので、炭水化物成分表編には収載していない。

図3. 炭水化物成分表のフォーマット
 
図4. 有機酸成分表のフォーマット

2.3 電子版の充実・公開

食品成分表は世界各国で作られ、オンラインで互いのデータを参照する取組みが活発に行われている。日本の成分表も、今回の改訂から従来のPDFファイルに加えて、日本語版と英語版のデータファイルを作成し、文部科学省のホームページで公開した。

3.今後の課題

新規食品や調理後食品の追加と成分分析、炭水化物の組成(有機酸を含む)、アミノ酸組成及び脂肪酸組成の収載値の増大、既収載食品の再分析・未収載成分の追加分析を行うとともに、食物繊維に分類されるスタキオース等の三糖類以上のオリゴ糖、レジスタントスターチ等の分析法(AOAC2011.25)の改良法の妥当性検証と食物繊維の再分析、性能確認された脂質のヘキサン-イソプロパノール抽出法、ヨウ素のアルカリ灰化-ICP-MS法等による既収載食品の再分析などがある。
 また、毎年度データについては、ホームページで公表の予定であり、「外部からの分析値提供に関する取り決め」の周知については、ホームページに「収載依頼食品の受入れについて」を掲載済みである。

4.成分表利用上の留意点

 ・ 標準成分値とは、国内において年間を通じて普通に摂取する場合の全国的な平均値を表すという概念に基づき求めたもので、個々の測定値との多寡を論ずるのは、適当ではない。目安値と考えて頂きたい。

 ・ 水分量で含量は変化するので、水分値に注意する。

 ・ 同一食品名でも、分析法の変更や品種の変遷等のために、過去の成分表の数値との比較は、適当ではないことがある。

 ・ 廃棄率は、実際に基づき購入量を決定する。

 ・ 正誤表及び追加情報が文部科学省のホームページに公表されるので、最新情報はこれを利用されたい。また、ホームページの成分表は、正誤が反映されているので、便利である。

参照文献

1)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編:日本食品標準成分表2015年版(七訂)、(2015)全国官報販売協同組合、東京

2)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編:日本食品標準成分表2015年版(七訂) アミノ酸成分表編、(2015)全国官報販売協同組合、東京

3)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編:日本食品標準成分表2015年版(七訂) 脂肪酸成分表編、(2015)全国官報販売協同組合、東京

4)文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編:日本食品標準成分表2015年版(七訂) 炭水化物成分表編 ―利用可能炭水化物、糖アルコール及び有機酸―、(2015)全国官報販売協同組合、東京

5)Food energy – methods of analysis and conversion factors, FAO food and nutrition paper 77, report of technical workshop Rome, 3-6 December 2002

6)科学技術・学術政策局政策課資源室、日本食品標準成分表・資源に関する取組
http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/index.htm (2016年5月6日)

プロフィール

安井明美(やすい あけみ)
1973年 東京教育大学大学院農学研究科修士課程修了
1973年 農林省食品総合研究所入所
1987年 農林水産省食品総合研究所 分析栄養部 分析研究室長
1998年 農林水産省東北農業試験場 作物開発部 品質評価研究室長
2000年 農林水産省食品総合研究所 分析評価部長
2001年 独立行政法人食品総合研究所 分析科学部長
2006年 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
      食品分析研究領域長(2009.3 定年退職)
2009年 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 専門員
2013年 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
      アドバイザー 現在に至る(2015年4月より法人名が、国立研究開発法人に変更、
      2016年4月より食品総合研究所が食品研究部門に改称)

1991年 農学博士(東京大学)

現在:文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会 食品成分委員会 臨時委員、主査
  東洋大学非常勤講師
  日本適合性認定協会技術専門家

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