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食物アレルギー
しばた小児科医院
柴田丈夫

はじめに

食物アレルギーの罹患率はこの20年ほどで約3倍近く増加し急増しています。原因については住環境の変化や食生活の西洋化、従来あまり食べられていなかった食品の摂取などが取り上げられています。文明化とアレルギーは何か密接な関係があるようですね。しかしながら欧米において、乳幼児の主たる原因食物は卵と牛乳であり、日本と同様の傾向を認めそれも一概には言えないようです。最近の話題として、洗剤の「茶のしずく」事件から明らかになったように、食物アレルギー発症の機序の一つとして、皮膚からの原因物質の侵入経路が注目されてきています。卵の成分が皮膚から侵入して食物アレルギーが発症するって、とても興味がありますね。また、以前には見られなかった果物、野菜などによる食物アレルギーも普通に見られる様になってきています。平成26年8月2日の第5回食品衛生セミナーにおいて、多くの食品関係の方々に対して食物アレルギーの疫学、発症機序、症状、対処方法などについてお話しする機会をいただきました。この稿ではその時に発表した内容についての概略を述べます。

免疫とアレルギー

図1に示すように、異物が体に入って来たときの生体の対応(免疫反応)の仕方は、自分自身の体を守るように有利に働く場合と、不利益に働く場合に分けることができます。この免疫反応の中心にあるのが抗体(免疫グロブリンといいます)で図2に示すように、IgG、IgA、IgM、IgEなどの種類があります。アレルギーに関しては特にIgE抗体が重要な役割をしています。アレルギーとは、主にこのIgE抗体を介して本来無害であるはずの花粉、ダニの死骸、食物などに過敏に反応して体に不利な反応を来す場合と定義できます。例えばスギ花粉症の人では採血検査をするとスギに特異的なIgEがとても高い値を示します。ただし、食物アレルギーの場合は例えば卵白IgEの値が高い場合でも、食べて大丈夫なことがあります。血液検査だけに頼る診断では不十分で、患者から詳しく話を聞いて総合的に判断することが大切です。

図1.アレルギーとは?(PDF:86KB)
図2.免疫グロブリン(抗体)(PDF:58KB)

食物アレルギーとは?

 定義;食物により引き起こされる生体に不利益な反応のうち、免疫学的機序が関係する反応(図3

例えば食中毒は食品中に含まれる細菌やウィルスなどが原因なので下痢、嘔吐などが食物によって引き起こされたとしてもアレルギーとはいえません。乳糖を体質的に分解できずに牛乳など乳糖を含んだ食物を摂った時に下痢を起こす乳糖不耐症という病気の場合などは、食物アレルギーとは言えず食物不耐症といいます。
図4に食物不耐症の例を挙げておきました。青物の魚に当たって蕁麻疹がでるのは多くはアレルギーというより、少し古い魚にあるヒスタミンが原因です。山芋、里芋で赤くなるのはアセチルコリンの作用です。

図3.食物アレルギーの定義(PDF:179KB)
図4.食物不耐症(PDF:58KB)

アレルギー(食物)反応のしくみ(図5

新生児、乳児期に湿疹を主症状として受診する乳児の中に、母乳栄養だけで一度も卵や牛乳を食べたことがないのに検査をしてみるとすでに卵や牛乳に対するIgE抗体を持っていることがあります。経母乳感作か、経皮感作かは明確な判断はできませんが、母乳中には母親が食べた食物抗原が腸管から吸収され血液中を巡り、母乳に微量ではありますが分泌されています。普通人は血液中にある食物抗原に対しては、異物としては認識しません(免疫学的寛容といいます)。このことから母乳栄養児が母乳中の食物抗原(卵、牛乳など)に感作されるとすれば、免疫学的寛容が獲得されていない状態と言えます(皮膚からの感作経路に関しては成人になってからも「茶のしずく」事件で明らかになったように、食物アレルギーが成立します)。食物アレルギーが年齢とともに軽快していくのは食物抗原に対して免疫学的寛容が発達していくことだとも考えられます。
 アレルギー反応のメカニズムはIgEを介して起こる即時型アレルギーとIgEが介在しない遅発型アレルギーの大きく二つに分けられます。ほとんどの食物アレルギーは即時型です。図5に示したように食物抗原特異的IgE抗体が皮膚、腸管粘膜、気管支粘膜、鼻粘膜などにある肥満細胞(マスト細胞)の受容体に結びつき、その結果としてマスト細胞から化学伝達物質と呼ばれるヒスタミン、ロイコトリエンなどが放出されます。知覚過敏、毛細血管の拡張がおこり、咳嗽(気管支ぜんそく)、鼻汁(アレルギー性鼻炎)、蕁麻疹などの様々なアレルギー症状が出現します。

図5.アレルギー反応のしくみ(PDF:326KB)

食物アレルギーの原因食物(図6

年齢別に図にしてあります。3歳までは鶏卵、乳製品、小麦が上位を占めています。大豆、米を合わせて5大アレルゲンと呼ばれています。鶏卵、乳製品、小麦で食物アレルゲンの割合を見ると0歳児では約90%、2-3歳児で58%となりますが、小学生になると鶏卵で15%と低下します。小学校高学年から成人では甲殻類(エビ・カニ)、果物類が上位を占めるようになります。このことから鶏卵、乳製品、小麦を主体とした小児期とエビ・カニ、魚類、果物類などが主体となる成人期に食物アレルギーを分けて考える事も理に適っていると言えます。最近1‐2歳児の魚卵(イクラなど)アレルギーが増加しています。私の幼少時にはとても高価で食べられませんでしたが、回転寿司店で気軽に食べられることができるようになった事が大きな原因と思われます。年齢によって原因食物が変化していくのは興味深いですね。小児型の特徴は大部分のお子さんで年齢とともにアレルギー症状が自然に良くなることです。小学校に入学するころには約9割が卵や牛乳を食べられるようになります。残り1割の方が一生鶏卵や乳製品を摂取出来ず、成人まで持ち越す場合があります。

図6.食物アレルギーの原因(年令別)(PDF:77KB)

食物アレルギーの症状(図7

食物アレルギーにはどんな症状が現れるのでしょうか。症状別に図7に示します。
 新生児・乳児消化管アレルギーについてはまだ十分な検討がされていません。嘔吐、下痢、血便を主症状とするミルクが原因の消化管アレルギーで新生児期から発症します。幸い診断と治療が適切に行われた場合は、1歳までに約7割が軽快します。
 即時型反応と呼ばれているタイプが乳幼児期の食物アレルギーのほとんどを占めています。私たちが最もよく遭遇する症状です。食物を摂取して10数分から数時間以内に症状が現れる事がほとんどです。図8に示したように軽症の場合は蕁麻疹から始まり瞼の腫れ、腹痛、嘔吐などの消化器症状を来します。息が苦しい、ゼーゼーするなどの呼吸器症状が認められた場合は注意を払う必要があります。1から8の症状順に重症度が高くなります。諸症状に対する処置方法や、最も注意を要するアナフィラキシーについては、後ほど詳しく述べることにします。

特殊型(図9):食物依存性運動誘発アナフィラキシー

特定の食物を摂取した後に運動することによって、アナフィラキシーが誘発されることがあります。小麦、甲殻類が原因の場合が多いが、最近果物との関連も増加してきています。お昼ご飯に小麦、魚介類を含む食事をした後にテニスなどの比較的激しい運動をした後、蕁麻疹、息苦しさなどの症状とともに呼吸困難を伴うアナフィラキシーショックに至ることもあります。

口腔アレルギー症候群:

果物やトマトなどを食べたときに口腔内がイガイガ、ヒリヒリしたりする症状が現れます。

図7.食物アレルギーのタイプ(PDF:128KB)
図8.食物アレルギー(即時型)(PDF:103KB)
図9.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(PDF:330KB)

食物アレルギーの診断(図10

食事と関連したアレルギーが疑われる症状の患者が受診されました。症状の出現したときの状況やこれまでの既往歴、家族歴、ペットとの接触、母乳栄養かなどチェックします。こういった聞き取り(問診といいます)から、食物アレルギーが疑われた場合、急がないときは食事日誌を渡して症状との関連を探ります。また、疑わしい食材などのスクリーニング検査として総IgE値や、特異的IgE(卵、牛乳、ダニなど)を調べます。食物アレルギーの原因となっている食材が予想された場合は、食物除去を1~2週間試みます。アレルギー症状が軽快すればその食物が原因だと推定できます。症状が良くなったころに原因と思われる食品を食べてもらいます。アナフィラキシーショックを来すことがまれにあるので決して安易に家庭では行わないように指導しています。例えばゆで卵を家から持参し、外来で少量から食べさせてみることが良いと考えます。ここで注意しなければならないのは、血液検査による特異的IgE値の高低だけで食物アレルギーを診断してはならないことです。図11に示すように例えば牛乳のIgE値が3.0の場合1歳未満児では症状を誘発する可能性は90%ですが、1歳児では50%、2歳以上では約30%です。あくまでも参考値として扱うべきと考えられます。担当医が検査値の高低だけで判断した場合、間違った食事指導、行き過ぎた栄養指導が行われることになり、患者の大きな不利益につながりかねません。

図10.食物アレルギーの診断(PDF:167KB)
図11.プロバビリティカーブ:血液検査だけでは「確定」できない(PDF:101KB)

食物アレルギーの治療(図12

食物アレルギーの治療のポイントは、正しい診断に基づいて原因となる食物の必要最小限の除去を行うことです。少量でもアナフィラキシーを来すような場合は完全除去が必要です。少量食べられる場合や加熱処理をすればよい場合など、個別の指導が大切となります。家庭内では、主に母親か伴侶が食事管理を担うことになります。スーパーなどでの食品表示の見方を栄養士の同席のもと細かい説明が必要となります。同時に代用食品の紹介もしなくてはなりません。小児の場合は幼稚園や学校との連携が不可欠です。現在特に三重県ではアレルギー児に対して学校生活管理指導表を活用する方式が定着してきています。しかしながら、アナフィラキシーを来す可能性のある児童に関しては、個別に調理方法や配膳、クラスの他の児童に対する指導などについて両親や校長先生、担任、保健師、主治医を交えた定期的な話し合いが必要です。また、緊急時の体制やエピペンの使用方法についても、勉強会を開催して問題点をみんなで共有することが大切です。

図12.食物アレルギーの治療(PDF:84KB)

アナフィラキシーショックについて

学校給食で起こった食物アレルギーの主な症状を示します(図13)。圧倒的に蕁麻疹などの皮膚症状が多いですが約30%に咳などの呼吸器症状、10%に嘔吐などの消化器症状が認められています。ショック症状も約7%認められ対応次第で不幸な転機を迎えることになります。2か所以上の臓器症状があればアナフィラキシー症状とみなし、エピペンを使用することが推奨されています。アナフィラキシーを疑ったときは他の職員を呼ぶ、救急車の手配をする、緊急連絡先へ連絡する、エピペンがあれば投与することが重要です(図14)。

図13.学校給食で発症した食物アレルギー症状(PDF:266KB)
図14.アドレナリン自己注射薬(エピペン)(PDF:459KB)

食物アレルギーの予後(図1516

図に示すように食物アレルギーの年齢分布からわかるように、食物アレルギーの患者の90%が12歳以下の小児です。それ以上の年齢においては、小児期からのアレルギーの持越し患者か新たに魚介類などのアレルギーを発症した成人型の患者となりかなりの頻度で自然緩解することが理解できます。小児においては大豆→小麦→牛乳→鶏卵の順に自然緩解するようです。食物アレルギーの耐性を獲得した場合は摂取しても無症状となり、血中IgE抗体価は減少し陰性化します。学童期、思春期まで持ち越す患者は卵、牛乳アレルギーが多く成人になっても寛解しない場合があります。

図15.食物アレルギーの年齢別分布(PDF:137KB)
図16.食物アレルギー児の予後(PDF:173KB)

最後に

食物アレルギーの機序、原因食物、診断、治療について講演をもとに解説してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。患者はここ十数年で急増しています。原因については住環境の変化や食の西洋化など諸説ありますが不明です。いろいろな要素が混じり合っているのだと考えています。小児の場合1歳未満で発症し就学前には80%以上で自然緩解します。鶏卵、牛乳、小麦、大豆が主たる原因食物ですが、最近魚卵(イクラ)や、ピーナッツなども認められるようになってきました。主治医の指導の下、血液検査なども参考にして偏った食事制限をすることがないように、自然緩解率が高い疾患であることを理解し、前向きに明るく治療を行っていただきたいと思います。また、家庭内だけではなく幼稚園、学校での取り組みも益々重要になってきています。関係者の緊密な連携を実行するためには患者個別の細かい対応も大切ですが、みんなで食物アレルギーを理解し問題を共有するシステム作りが必要です。幸い三重県には独立行政法人三重病院がありアレルギーを専門とする医師、栄養士、看護師がチームを組んで最先端の治療や、地域への啓蒙活動を行っています。何かわからないことなどがあった場合は、主治医、校医を通じてご相談されるとよいと思います。

謝辞
この稿を終えるにあたり多くの方々にご指導いただきました。文中にある幾つかの図表は下記に記す諸先生方からご厚意によりお借りしたものです。ここに深謝いたします。

独立行政法人三重病院
長尾みずほ 藤澤 隆
昭和大学 医学部 小児科学講座 講師
今井 孝成

略歴

柴 田 丈 夫(しばたたけお)

昭和53年04月 三重大学医学部卒業 小児科入局
昭和55年04月 国立津病院(現三重中央医療センター)
昭和56年09月 国立がんセンター中央病院 小児科研修医
昭和58年10月 米国ウェイン州立大学医学部小児科
ミシガン小児病院       学術研究員
昭和61年10月 三重大学医学部 小児科
平成02年10月 三重県立総合塩浜病院   小児科医長
平成06年10月 三重県立総合医療センター 小児科医長
平成17年 04月 三重県立総合医療センター  診療部長
平成17年 07月 三重県立総合医療センター   退職
平成17年 09月 医療法人育児会 北村記念しばた小児科医院 開設

役職:三重県小児科医会       理事(学術担当)
三重アレルギー研究会     幹事
三重小児内分泌研究会    幹事
東海小児内分泌研究会    幹事
三重県医師会 乳幼児健診委員会

所属学会
1.  日本小児科学会  (専門医 指導医)
2.  日本小児アレルギー学会
3.  日本小児感染症学会

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