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フィトケミカルのバイオアベイラビリティ
- 食と薬の間から食品機能成分をみる -
横浜薬科大学薬学部健康薬学科
金谷 建一郎

1.食と薬の間から

同一の天然素材が薬用にも食用にも利用されていることがある。古くから「薬食同源」という言葉で表わされるように、薬と食の関係にはその源が同一であるという側面がある。図1に示すように、我々の祖先は天然資源の中から「食べられる物」、「薬になるもの」、「食べ物にも薬にもなるもの」を選び出してきた。ところが、素材が共通であるにもかかわらず、薬として扱われるか、食として扱われるかによって法的な規制や規格基準には大きな差異がある。
 実際、生薬・漢方薬の原料となる天然素材の中には、わが国の薬事法で定める「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」1)に収載されていないものがあり、これらは医薬品的効能・効果を標榜しない限り食品として利用することができる。たとえば、強壮薬として知られる朝鮮人参(オタネニンジン)のほか、イチョウ葉、エキナセア、エゾウコギ、セイヨウオトギリソウ、ノコギリヤシなどが該当する。また、アロエベラの葉の液汁はリストに収載されているので食品として利用することはできないが、根や葉肉については医薬品的効能・効果を標榜しない限り食品として利用することができる。
 このような背景から、食品機能成分と生薬・漢方薬成分にも高い共通性がみられる。ところが、薬の成分として利用するとなると、その薬理作用(主作用)や副作用(毒性)を考慮し、投与量や投与間隔などを厳密にコントロールしなければならないのに対し、食品成分として利用する場合にはその辺りの問題が曖昧になってしまう。実際、市販されている「健康食品」に含まれる成分について、どの程度の量を摂取すれば最大効果が得られるのか、健康被害を起こすこと無く安全に摂取できる最大量はどの程度か、すなわち適正な摂取量範囲について明らかにされているものはほとんどない。薬と同様、食品機能成分でも、最大限の効能・効果を得るとともに、副作用を最小限に抑えることが求められるのは自明のことである。

図1.「薬食同源」の概念図(PDF:407KB)

2.フィトケミカルのバイオアベイラビリティ

経口で摂取されたものは、消化・吸収され、循環血流に乗って体内に分布する。循環血流に乗って体内に分布することができる摂取成分の量と速度を示す指標をバイオアベイラビリティ(bioavailability、生物学的利用能)という。なお、経口摂取された成分のバイオアベイラビリティを考えるとき、水溶性のものと脂溶性のものとではそれぞれの吸収ルートが図2に示すように異なるので、これらを分けて考える必要がある。
 水溶性の成分のバイオアベイラビリティは、循環血流に乗るまでに通過しなければならない3つの関門を無事に通過できるかどうかで決まる。第一の関門は、腸管系(消化・吸収系)に到達した成分が腸壁の上皮細胞膜を通過できるかどうかである。第二の関門は、膜を通過して上皮細胞に取り込まれた成分がそのまま無事に門脈の血流中に移行できるかどうかである。腸壁の上皮細胞に取り込まれた成分のすべてが門脈血に移行できるわけではない。小腸上皮細胞の管腔側の膜には、特定の成分(異物)を汲み出す機能をもつトランスポーター、すなわちp-糖たんぱく質(Pgp)が存在しており、Pgpが機能して成分が管腔側へ戻される場合もある。たとえば、いくつかの抗がん剤などがPgpによって汲み出されることが知られている。さらに、小腸上皮細胞にはシトクロムP450(CYPs)などの代謝酵素(表1)も存在しており、これらの代謝酵素によって代謝されずに残ったものだけが無事に門脈血に移行できる。第三の関門は、肝臓に存在する代謝酵素(表1)である。門脈血に移行して肝臓に到達し、さらに肝臓での代謝も免れたものだけが循環血流に乗って体内に分布することができるのである(図3参照)。
 吸収された成分が循環血流に乗るまでの間に代謝酵素などの作用を受けてその量を減らすことを薬学分野では「初回通過効果」という。薬の場合、多くのものは初回通過効果によって不活性化されるが、不活性体が活性体になる例(アスピリン→サリチル酸、ヘロイン→モルヒネ、レボドパ→ドーパミンなど)もあり、「プロドラッグ」と呼ばれている。
 初回通過効果は、水溶性のフィトケミカル(phytochemical、ファイトケミカルともいう)のバイオアベイラビリティにも大きな影響を与えるものと考えられる。なお、当然のことながら、初回通過効果で受ける影響は物質によって異なり、90%以上が代謝されてしまう物質もあれば、ほとんど影響を受けない物質もある。
 他方、脂溶性成分のバイオアベイラビリティはどうか。脂溶性の成分は、血液系ではなくリンパ系に吸収され、胸管を経て鎖骨下静脈から循環血流に乗る(図2)。吸収から循環血流に乗るまでの間に関門といえるものがほとんどない。すなわち、脂溶性の成分は、「初回通過効果」を受けることなく循環血流に乗るのである。なお、脂溶性成分でも食物繊維など共存成分の影響、あるいは調理の影響などによって腸管における吸収阻害を受ける可能性はある。したがって、摂取した脂溶性成分の全てが循環血流に到達するとは考えられないが、腸管で吸収できたものはほぼ100%が循環血流に乗るものと想定される。
 水溶性のフィトケミカルの代表としてポリフェノール、脂溶性の代表としてカロテノイドを取り上げ、これらのバイオアベイラビリティについて以下に概説する。

1)ポリフェノールのバイオアベイラビリティ
 食品中のポリフェノールは配糖体として存在することが多いが、糖部分が除かれたアグリコンとして小腸だけでなく大腸上部でも受動拡散(passive diffusion)で吸収されることが、多くの研究で示唆されている2)。たとえば、ヒトの胃と小腸でコーヒー酸の95%がそのまま吸収されるが、その配糖体であるクロロゲン酸はほとんど吸収されない。細胞膜はリン脂質が2列に並んだ脂質二重層でできており、高い脂溶性をもつ成分ほど容易に通過できるため、配糖体よりも相対的に高脂溶性のアグリコンの方が膜を通過するのに有利であるからと考えられる。なお、ポリフェノール配糖体から糖部分を除くのは、小腸粘膜に存在が確認されているラクターゼ・フロリジンヒドロラーゼ(lactase phlorizin hydrolase)の作用によるものと想定されている。また、大腸では細菌叢のもつβ-グルコシダーゼによる作用が想定されている。
 吸収されたポリフェノールは、小腸粘膜や肝臓での初回通過効果を受けたのち、循環血流に乗って体内に分布する。ただし、作用部位での濃度が一定以上、すなわち最小有効濃度以上に達しないと効能・効果を発揮できない。また、吸収と分布によって血中濃度が高まる一方で、同時に代謝と排泄による血中濃度の低下も起こる。すなわち、循環血流に移行したポリフェノールの血中濃度は、図4のように一定時間後に最大濃度に達しその後減衰する。図中で最高血中濃度(Cmax)は摂取後の最大血中濃度、最高血中濃度到達時間(Tmax)は摂取してから最大濃度に達するまでの時間、血中濃度-時間曲線下面積(AUC: area under the blood concentration-time curve)は血中濃度-時間曲線と横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積であり、これらはバイオアベイラビリティの指標となる。
 代表的なポリフェノールの Tmax、Cmax、AUCおよび尿中排泄率(Urinary excretion)について、ヒトを対象とした試験研究をまとめたManachらのレビュー3)で報告されているデータを表2に示す。表中のポリフェノールの中では、没食子酸(gallic acid)のCmaxが最も大きく、ポリフェノールの中では吸収率が良いことを示している。没食子酸に次いでCmaxが大きいのはイソフラボン(Daidzin、Daidzein、Genistin、GenisteinおよびGlycitin)であり、表中のフラボノイドの中ではCmaxが最も大きい。逆に、プロアントシアニジンとアントシアニンのCmaxは表中のポリフェノールの中で最も小さく、吸収率が良くないことが示唆されている。EGCとEGCGそれぞれのCmaxの比較から、ガロイル基がつくと吸収率が顕著に低下することが分かる。
 イソフラボン配糖体(Daidzin、Genistin)とアグリコン(Daidzein、Genistein)それぞれのTmaxの比較から、配糖体がCmaxに到達するまでに要する時間はアグリコンの1.3~1.5倍であることが分かる。このことは、糖部分を除くのに相応の時間がかかることを想定させる。イソフラボン以外でも、総じて配糖体の方がアグリコンよりもTmaxが大きくなる傾向がみられる。

2)カロテノイドのバイオアベイラビリティ
 カロテノイドの吸収メカニズムは、プロビタミンAであるβ-カロテンやβ-クリプトキサンチンなどと同様である2)。すなわち、他の脂溶性成分(コレステロールやビタミンEなど)と伴に胆汁酸の助けを借りてミセルを形成し、まずは腸管の上皮細胞内に取り込まれる。次に、上皮細胞内でアポリポたんぱく質の助けを借りてキロミクロン(カイロミクロン)に再構成され、初回通過効果を受けることなく、リンパ系を介して鎖骨下静脈から循環血流に乗る。循環血流に乗ったカロテノイドは、当然のことながら代謝と排泄による血中濃度の低下を起こす。このため、循環血中のカロテノイドの濃度は、ポリフェノールの場合と同様に一定時間後に最大濃度に達した後、減衰する推移をたどる(図4参照)。

図2.水溶性成分と脂溶性成分の吸収経路(PDF:423KB)
表1.バイオアベイラビリティに影響を及ぼす代表的な代謝酵素(PDF:312KB)
図3.水溶性成分のバイオアベイラビリティ(膜吸収と初回通過効果の影響)(PDF:878KB)
図4.循環血に移行した成分の血中濃度の推移(PDF:497KB)
表2.ヒトにおける代表的なフィトケミカルの体内動態(PDF:807KB)

3.代謝酵素とフィトケミカルの相互作用

初回通過効果に関与する代謝酵素とフィトケミカルの相互作用としては、これらの酵素によるフィトケミカルの変化(酸化、還元、加水分解、抱合)のほか、フィトケミカルによる代謝酵素の阻害、およびフィトケミカルによる代謝酵素の誘導も知られている。

1) 代謝酵素によるフィトケミカルの変化
 上述のように経口摂取された水溶性の物質は、腸管粘膜や肝臓での代謝(酸化、還元、加水分解、抱合)、すなわち初回通過効果を受ける。水溶性の食品機能成分も例外ではなかろう。たとえば、医薬品であるとともにフィトケミカルでもあるカフェイン(中枢興奮薬)やテオフィリン(気管支拡張薬)は、初回通過効果の第Ⅰ相反応(酸化、還元、加水分解の反応)で重要な役割を果たすCYPsの基質となることが分かっている。また、循環血液中や尿中のフィトケミカルを調べると、遊離型のものはほとんど見られず、多くはメチル抱合体、硫酸抱合体、あるいはグルクロン酸抱合体であることから、ほとんどのフィトケミカルが抱合反応(初回通過効果の第Ⅱ相反応)を受けることは間違いない。
 初回通過効果に関与する代謝酵素によって個々のフィトケミカルがどの様な影響を受けるのかについては、ようやく研究が始まったばかりであり、特にCYPsを中心とする第Ⅰ相反応酵素がフィトケミカルに及ぼす影響については、ほとんど何も分かっていないのが現状である。

2)フィトケミカルによる代謝酵素の阻害
 初回通過効果に関与する酵素を阻害する食品事例としてよく知られているのが、グレープフルーツとブンタンである(表3)。これらの食品に含まれるフラノクマリン誘導体(ベルガモチンなど)が、腸管粘膜や肝臓のCYP3Aを阻害するメカニズムが想定されている。フラノクマリン誘導体は、さらに腸管粘膜のP-糖たんぱく質を阻害することも知られている。CYPsを阻害するフィトケミカルとしては、フラノクマリン誘導体のほか、ナリンジン、ナリンゲニン、ダイゼイン、ゲニステインなどポリフェノールでの報告が多い4)

3)フィトケミカルによる代謝酵素の誘導
 初回通過効果に関与する酵素を誘導する食品事例としてよく知られているのが、セント・ジョーンズ・ワート(SJW、セイヨウオトギリソウ)である(表3)。SJWに含まれるヒペルフォリンが遺伝子発現を介してCYP3A、CYP1A2、CYP2C9などを誘導するメカニズムが提唱されている。ヒペルフォリンは、さらに腸管粘膜のP-糖たんぱく質を誘導することも知られている。他に、含硫フィトケミカル(スルフォラファンなど)が第Ⅱ相反応の代謝酵素(グルタチオンS-トランスフェラーゼ、キノンオキシドレダクターゼなど)を誘導すること5)、β-カロテンがCYPsを誘導すること6)も報告されている。

表3.代謝酵素あるいはトランスポーターと食品の相互作用(PDF:532KB)

4.おわりに

食品機能成分を真に我々の健康維持に役立たせるためには、それぞれの機能成分の循環血中最小有効濃度、循環血中最小毒性発現濃度、およびバイオアベイラビリティ指標(Cmax、Tmax、AUCなど)を知る必要がある。これらのデータが得られて、初めてそれぞれの機能成分の適正な摂取量を知り得るのである。
 食品機能成分のバイオアベイラビリティなどに関する研究はようやく緒についたばかりといえるので、今後の進展に期待したい。

参考文献

1)
厚生労働省:「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日 薬発第476号)の「別添2」

2)
I. Epriliati,and I.R. Ginjom:Bioavailability of Phytochemicals,in“Phytochemicals   - A Global Perspective of Their Role in Nutrition and Health“ Ed by V. Rao, pp.401-428(2012)

3)
C. Manach,G. Williamson,C. Morand,A. Scalbert,and C. Remesy:Bioavailability and bioefficacy of polyphenols in human. Ⅰ. Review of 97 bioavailability studies,Am J Clin Nutr81(suppl),230S-242S(2005)

4)
Y. Kimura,H. Ito,R. Ohnishi,T. Hatano:Inhibitory effects of polyphenols on human cytochrome P450 3A4 and 2C9 activity,Food Chem Toxicol48,429-436(2010)

5)
Y. Zhang,and P. Talalay:Mechanism of differential potencies of isothiocyanates as inducers of anticarcinogenic phase 2 enzymes,Cancer Res.,58,4632-4639(1998)

6)
R. Ruhl:Induction of PXR-mediated metabolism by β-carotene,Biochim Biophys Acta,1740,162-169(2005)

略歴

金谷 建一郎(かなや けんいちろう)
京都大学農学部食品工学科卒(1971年) 博士(農学)
横浜薬科大学薬学部健康薬学科 講師
日本食物繊維学会 常務理事
主要著書:薬学生のための栄養と健康(三共出版)

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