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三重県で発生したO157食中毒事件の原因究明(事例報告)
![]() 東海食品衛生研究会 庄司 正
(一般財団法人食品分析開発センターSUNATEC理事長) 東海食品衛生研究会では、現場視点で事業者と一緒になって考える食品衛生セミナーをモットーとしている。第2回食品衛生セミナーのテーマは「腸管出血性大腸菌O157等食中毒予防技術セミナー(食中毒事例に学ぶ発生原因と予防対策)」とし、別紙要領のとおり給食事業者を中心にリスクコミュニケーションを行った。
【原因究明の資料】食中毒の発生は行政から公表され、マスコミ報道につながっている。しかし、その事実及び行政処分は報道されるが、原因は調査中とされ社会的に問題となった食中毒事件を除けば、報道も一過性で終わってしまうのが通例である。詳細な調査内容など食品事業者がもっとも知りたい、“どうして発生したのか、どうしたら防げたのか”が行政から公表されることもまれである。(保健所の調査結果が公表されないのは誠に残念である。) 事例報告スライド(三重県で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事件の原因究明)(PDF:1,854KB)
【やはりそうだったのか!】小生は三重県庁で食品衛生行政に36年間従事した。とりわけ食中毒や感染症の予防には熱心であったし、特に腸炎ビブリオ及びノロウイルス食中毒についてはその取組みを本メルマガでも情報提供してきた。また、O157食中毒対策についても松阪食肉衛生検査所で牛肉及び内臓の衛生的取扱いについて関係者と一緒になって取り組んだ。この内容についても本メルマガでO157対策として紹介し、内臓の危険性を指摘してきた。 牛生レバーを食べるには(食肉を生食する消費者の覚悟、提供する営業者の責任) 現役時代は経験しなかったO157食中毒、しかし退職1年後の平成22年に4件(集団給食施設3件、焼肉店1件)も発生し、24年にも焼肉店で2件のO157食中毒が発生したのである。これまでその原因究明には高い関心はあったが、今回のセミナー開催を機会に後輩諸氏の作成した食中毒発生詳報を拝見する幸運に恵まれた。そして、発生詳報を読んで思ったことは、“やはりそうだったのか!”である。その内容について、まず2件の焼肉店で発生したO157食中毒の特徴を紹介しよう。
【まず3類感染症患者発生で始まる】スライドに示したように腸管出血性大腸菌は二つの顔をもっている。一つは感染症予防法で3類感染症(コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス)として規定されている。検便結果で陽性(保菌)の感染者(患者及び無症状保菌者)には、家族や周囲に感染を広げないための就業制限等の人に関する措置が保健所から指導される。この感染者数は毎年4千人前後報告されている。本年も6月末(第26週)から連続して毎週100名を超える感染者数が報告されている。(第32週8/11現在、全国) 三重県感染症情報センター(腸管出血性大腸菌感染症三重県報道発表資料)
【やはりそうだったのか、焼肉店におけるO157食中毒の発生原因】公開請求した2件の焼肉店におけるO157食中毒の共通項は次のとおりであった。
【焼肉店における取扱衛生とリスク】2件の焼肉店での保健所の調査結果を、「汚染経路」と「施設等の不良個所」に分けてスライドに紹介した。焼肉店が取り扱う食材(食肉及び内臓)は腸管出血性大腸菌の汚染率が非常に高く菌量も多い。にも拘らず内臓を生で提供したり、他の食材を汚染させないための衛生管理が杜撰であったといえる。
【生肉、生レバー規制強化の影響】国立感染症研究所のホームページでは、「腸管出血性大腸菌O157の発生動向の変化−2011年以降の生肉、生レバー規制強化の影響についてー」が公表されている。 腸管出血性大腸菌O157の発生動向の変化
【コーヒーブレイク、トング トング ハシ!】愛知県岡崎市保健所の取組が全国食品衛生監視員研修会優秀演題として食品衛生研究2013年8月号に掲載されている。そのタイトルは、「焼肉を安全に食べるための食肉の取扱い方法の検証」である。大腸菌を使って、トングと箸をどのように使えば安全に食肉が食べられるかを科学的に検証し、その啓発ソングまで作った素晴らしい取組みである。
これらを分かりやすく図示した啓発用リーフレット、また広めるための啓発ソングの歌詞カードも紹介されている。 発表抄録(PDF:964KB)
【集団給食におけるO157食中毒】2010年(H22)に三重県では集団給食におけるO157食中毒が3件発生した。5月末に発生した学校給食の2件は、学校の所在地及び調理施設は異なるが系列校で、給食事業者が同一、メニュー・食材の納入業者も同一であるので一つの食中毒事件とみなすこともできる。もう1件は、8月末に福祉施設で発生した。
【学校給食における発生事例】学校給食で発生した食中毒では、スライドに紹介したようにサラダに使用された刻みハムからO157が唯一分離され、患者由来菌と遺伝子型が一致した。ハムは食品衛生法で厳しい規格基準が設定され安全性の非常に高い食品である。したがってO157が分離された刻みハムは、その加工過程でO157に汚染されたことは疑いがない。しかも再加熱せずそのままサラダにトッピングされていたが、保健所の調査報告書では原因食品は不明とされている。
【福祉施設における発生事例】この事例では、スライドに紹介したようにラーメンのトッピングに使われたチャーシュー及びゆでたモヤシからO157が検出され、患者由来株と遺伝子型が一致した。しかしチャーシューを製造・加工した食肉販売店におけるO157汚染及び調理場内汚染の可能性については、断定できなかったとされている。
【リスクコミュニケーション】セミナーのリスクコミュニケーションでは、やはり野菜の消毒や加工食品の再加熱をどうすればいいのかが議論の中心となった。免疫的に弱い立場の学校給食や病院給食では全て加熱が原則かもしれないが、健康な大人を対象とする事業所給食ではどうすればいいのか。昨年発生した浅漬O157食中毒を受けて、各社はどのように取り扱っているのか。どのような考え方でやればいいのか、活発な質疑が続いた。
参考文献食品衛生研究 Vol.63,No.8(2013) 全国食品衛生監視員研修会優秀演題「焼肉を安全に食べるための食肉の取扱い方法の検証」(岡崎市保健所 春日井昭豊他)
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