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包材を透過する異臭物質

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第一理化学検査室 小林尚

はじめに

現在、我々の手元に届く食品は、そのほとんど全てが包材によって包装されている。
 一見、包装中の食品は包材によって守られているため、外部の環境から遮断され、臭いについては大きな問題はないと思われる。しかし、異臭物質の中には、包材を透過して食品に吸着する物質も存在するため、包装されていることが万全の対策ではないことを十分に考慮する必要がある。

1.包材中を移動する異臭物質

包装中の食品への異臭物質の移行は、まず包材への異臭物質の吸着・溶解から始まる。  「フィックの法則」によると、環境中に濃度勾配があると、濃度の濃い方向から薄い方向への物質の移動が起こり、一定の濃度になろうとする。これに従って、包材の表面に吸着した異臭物質は、包材の表面と内部における異臭物質の濃度を一定にしようとして、包材の内部へ拡散浸透する。そして、包材を浸透していった異臭物質は、内部の食品との親和性により吸着される。  また、紙の包材の場合には、毛細管流れ現象によって、包材内外の濃度を一定にしようとし、外部から内部への異臭物質の移動が起こる。  牛乳パックに入った牛乳を例として、異臭物質の透過を確認するための実験を行った。 近くに何もない状態で1昼夜保存した牛乳と、未開封のまま隣にレモンを置き、1昼夜保存した牛乳の臭い成分をそれぞれ分析し、比較を行った。(図1図2
図1と比較し、図2においては、レモン臭の主成分であるリモネンをはじめ、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、メチルヘプテノンといった、レモンの代表的な臭い成分が確認された。
 この結果からも、臭い成分が牛乳パックを透過し、牛乳中に移行したことが分かる。

2.食品への異臭物質の吸着

1.項に示したように、異臭物質は包材内を移動し、透過するが、包材の材質と異臭物質の特性によって、その透過量や拡散速度は変わる。通常、物質の溶解性において、同じような性質を持つ物質は良く混ざり合う。このことから、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)のように、極性が低い材質の包材には、同じように極性が低いヘキサン、スチレン、ベンゼン、トルエン、キシレンや、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン類が良く吸着し、浸透していく。
 また、包装中の食品においても、上記のような極性が低い異臭物質は、水に対する溶解度が低く、脂質に対する溶解性が高い。このことから、脂質を多く含む食品に良く吸着されることが推測される。

3.移り香の対策

以上のように、包装されている食品においても、環境中からの異臭物質の移行は起こり、それによって異臭クレームが発生することも十分に考えられる。
 食品業界においては、原料、包材、輸送、加工、保管、消費者と、さまざまな環境を経由することもあるため、どこにどのような異臭発生のリスクがあるかを幅広く把握しておくことが重要である。特に、輸送と保管の環境には長期間さらされることもあるため、注意すべき重要な箇所と考えられる。
 におい物質は、あらゆる環境中に必ず存在するため、移り香を完全に防ぐことは非常に難しいが、対策の一つとしては、発生するリスクのある環境を把握し、それに対して包材の種類を変更することや、環境を改善することが挙げられる。
 しかし、最も大切なことは、異臭物質は包材も透過することを十分に考慮し、異臭の原因となりえる物質の付近や環境中に、食品を長期間共存させないことである。
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