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食品表示制度と食育(若年層の食育を中心に)

宮城大学食産業学部フードビジネス学科 教授
池戸 重信

1 消費者の権利と食品表示

日々の生活に不可欠な食品は、安全性が確保されていることはもとより、安心や満足とともに消費者に提供されなければならない。
 特に、近年の消費者ニーズの多様化等により、新食品や製造技術の開発が積極的に行われるとともに、供給過程も分業化が進展し多段階化・複雑化する一方であることから、的確な情報提供が強く求められるようになってきた。
 食品の表示は、こうした供給サイドと消費サイド間の重要な情報の伝達媒体の一つである。
 すなわち、本来の食品表示機能とは、供給サイドにとって是非消費者に伝えたい情報及び消費者として供給サイドから是非知りたい情報を相互に共有するものである。
 しかし、昭和40年代以降、これらの情報に対する消費者のニーズが多岐にわたって強まるとともに、表示の偽装事件の多発や国際的調和(International Harmonization)の一環としての取組に対応して、法令に基づく表示ルールが次々と強化されて行った1)(図1)。
 この結果、本来の消費者のためという目的意識が薄れ、法令のためにという義務感覚が強まってきたことも否めない。
 ここでは、まず消費者の権利と表示との関係を考察してみることにする。
 昭和30年代半ばのにせ牛缶の表示偽装事件が引き金になり、昭和43年に「消費者保護基本法」が制定された。その後、同法は時代を経て消費者がより自立するための支援をする目的に改正され、平成16年に同法の名称から「保護」が削除され「消費者基本法」となった。すなわち、「保護」から「自立」というスタンスになったわけで、消費者の8つの権利が基本理念として明記された(図2)。
 これらの権利は、いずれも食品表示に関連するものであるが、特に下線を付した「安全が確保される権利」「必要な情報を知ることができる権利」「(商品、役務について)適切な選択を行える権利」及び「消費者教育を受けられる権利」は関連が強い。
 このうち「必要な情報を知ることができる権利」及び「(商品、役務について)適切な選択を行える権利」は情報伝達機能としての表示に直接関連しているが、「安全が確保される権利」については、「食品安全基本法」に、「消費者教育を受けられる権利」については「食育基本法」にも関連事項が明記されている。
 すなわち、食品供給サイドとしては、消費者のこうした法制度上の権利を常に念頭においた対応が求められていることを再認識する必要がある。

2 食品安全基本法と食品表示

BSE問題を契機に、平成15年に制定された「食品安全基本法」は、食品の安全性の確保に関し、基本理念を定めるとともに、施策の策定に係る基本的な方針を定めることにより、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とした法律である。また、内閣府食品安全委員会の設置根拠法令である。
 同法の基本理念としては、(1)「国民の健康保護が最も重要という基本的認識の下に必要な措置を実施」、(2)「食品供給行程の各段階において必要な措置を適切に実施」及び(3)「国際的動向及び国民の意見に配慮し必要な措置を科学的に実施」(第3−5条)の3つが規定されているが、特に(2)「食品供給行程の各段階において必要な措置を適切に実施」については、フードチェーン全体において食品の安全性確保対策が必要であることを示している。具体的には、これらを受けて第6−8条において、国、地方公共団体及び食品関連事業者の責務が明記されており、このうち食品関連事業者については、「事業活動を行うに当たって、自らが食品の安全性の確保について第一義的責任を有していること」(安全対策)のほかに、「事業活動に係る食品その他の物に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならないこと」(安心・信頼対策)の責任が規定されている。
 一方、消費者についても「責任」ではなく「役割」として、「食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明することに努めること」(第9条)が明記されており、食品の安全性に関する食育の推進に関連する規定となっている2)

3 食育基本法及び食生活指針と食品表示

平成17年に、食育について基本理念を明らかにしてその方向性を示し、国、地方公共団体及び国民の食育の推進に関する取組を総合的かつ計画的に推進することを目的とした「食育基本法」が制定された。
 同法の前文には、「食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付ける」とともに、「様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている」ことが明記されており、表示に関する知識とそれに基づく適正な食品の選択もここに表されている。
 また、7つの基本理念(図3)のうち、「食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行われなければならない」(第2条)における「適正な判断力」には、食品表示の知識や理解も含まれることとなる。
 一方、他の基本理念のうち、当然のことながら「子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割」(第5条)及び「食に関する体験活動と食育推進活動の実践」(第6条)の対象にも食品表示に関する内容も含まれている。
 さらに、「食品の安全性の確保等における食育の役割」として規定されている「食育は、食品の安全性が確保され安心して消費できることが健全な食生活の基礎であることにかんがみ、食品の安全性をはじめとする食に関する幅広い情報の提供及びこれについての意見交換が、食に関する知識と理解を深め、国民の適切な食生活の実践に資することを旨として、国際的な連携を図りつつ積極的に行われなければならない」(第8条)における安全性をはじめとする食に関する幅広い情報の中には、期限表示やアレルギー表示などが該当する。
 ところで、国の責務や地方公共団体の責務に加えて、これら食品表示に関するルールを含めた食育の推進には 「教育関係者等及び農林漁業者等の責務」(第11条)や「食品関連事業者等の責務」(第12条)も明確に規定されている。
 また、特に国民についても、「責務」という表現で「家庭、学校、保育所、地域その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、生涯にわたり健全な食生活の実現に自ら努めるとともに、食育の推進に寄与するよう努める」(第13条)と明記されている。このようにあえて「国民の責務」という位置づけにした重要性は、「食品安全基本法」における「消費者の役割」として比して注目される。
 ところで、「食育基本法」に先がけて平成12年に、当時の文部省、厚生省及び農林水産省の3省が決定し、その推進について閣議決定された「食生活指針」は、国民が健全な食生活を実現するための10項目の実践項目から成っている3)(図4)。
 これら10項目は、健康・栄養面のみならず、食習慣や食文化、さらには食べ残しなどの環境面なども対象としている。また、これら10のメインフレーズともいうべき各項目には、補足的内容や解説的内容を付すことにより、より判りやすくすることを目的とするため各々数項目の「食生活指針の実践のために」というサブフレーズが記載されている。
 例えば、図4のメインフレーズのうち、「食塩や脂肪は控えめに」の「食生活指針の実践のために」にはサブフレーズとして「栄養成分表示を見て、食品や外食を選ぶ習慣を身につけましょう」が、また「調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく」には、「賞味期限や消費期限を考えて利用しましょう」が記載されており、いずれも表示の有効利用を促している。

4 若年層における食品表示教育の現状

「食育基本法」において示されているように、食育はあらゆる場所・機会に行うことが必要であるが、特に、子どもの保護者や教育関係者の役割は重要である。
 現在、若年層(小中学生)に対する食育の一環としての食品表示に関する普及活動は、国、地方公共団体、教育現場等においてどの程度なされているだろうか。
1)国、地方公共団体における取組
国又は地方公共団体における取組として、農林水産省ではJAS法に基づく食品表示制度の普及活動を行ってきた。具体的には、ホームページでの情報発信、普及資料の作成・配布、食品事業者や消費者を対象とした各地での説明会や学習会、新聞広告などである。しかしこれらの普及活動の対象は若年層に限ったものではなく、広く一般向けの取り組みである。若年層に特化した普及活動は行われていない。
 一方、地方公共団体のうち、宮城県の場合、食品表示適正化事業としてJAS法及び景品表示法に基づく監視・指導を行うとともに、生産者・事業者や消費者等への普及啓発を行ってきた。食品表示監視指導事業は、各種情報に基づく確認調査及び監視・指導(食品表示110番、食品表示ウォッチャー事業、食の安全安心消費者モニター等)を行うものである。
 食品表示制度普及啓発としては、市町村JAS担当者及び県関係機関職員研修会、消費者を対象とした講習会(みやぎ出前講座、食品表示研修会等)、生産者・事業者を対象とした研修会、輸入生かき偽装防止特別監視員(オイスターGメン)調査事業、宮城県産生かき適正表示協会の指導等が内容となっている。
しかし、これらの普及活動も一般向けであり、若年層に限定とした取り組みではない。仙台市も同様な対応である。
 これからの健全な食生活を担う若年層に対する食育教育の効果は大いに期待されるところであるが、知識レベル等を考慮した場合、主婦層等成人消費者に対する普及・啓発手法をそのまま当てはめることは困難である。しかし、予算制約等の事情から、特別の事業として対応することが困難であることが実態となっている。
2)学校教育における取り組み
小学校において食品に関する内容の学習は、「家庭」科目の分野に含まれている。特に食品表示に関しては、6年生で学習する。
 小学校学習指導要領の6年生の家庭においては、食事のとり方・組み合わせ、食品の栄養的な特徴、調理・盛り付け・配膳、調理用具の取り扱いなどの内容はあるが、食品表示に関する内容は記載されていない。
 宮城県が使用している小学校6年生の家庭の教科書では、調理の計画を立てる学習の中に、発展課題として食品の日付け表示(賞味期限、消費期限)、JASマーク、加工食品の品質表示例が載っているが、発展課題は必ずしも学習しなければならないというものではない。そのため、担当教諭の判断次第で授業で取り上げる場合もあれば、取り上げない場合もある。
 図5は小学校6年生の家庭科の教科書の一部である。ここには、消費期限と賞味期限の定義と違い及びJASマークの説明がなされている。
 特に、保存方法など家庭での安全性確保に関する正しい理解を深めることを目的としているように判断される。
 しかし、食品表示に関する内容は発展課題という位置づけで教科書に載っていることから、担当教諭によって授業で取り上げる内容に違いがあることも事実である。   
 一方、中学校において食品に関する内容の学習は、「技術・家庭」科目の家庭分野に含まれている。特に食品表示に関しては、2年生で学習する。
 宮城県が使用している中学校2年生の技術・家庭の家庭分野の教科書では、「食品の表示を知ろう」という題で、「食品の表示」、「食品添加物」及び「消費期限、賞味期限」についての内容が載っている。
 また、教科書のほかに技術・家庭ノート(家庭分野)を使用して、教科書の内容を整理しながら授業を進めている(図6)。学校によってワークノートや資料集等の、教科書以外の教材の使用には差がある。
3)若年層における食品表示制度に対する理解度
各段階の若年層における食品表示に関する知識や理解の現状を把握するために、小学校及び中学校の生徒を対象にアンケート調査を実施した結果、これらの世代は小学生、中学生を問わず「自分にとって必要な表示を見る」者が約6割を占めていた(図7)。
 関心の高い表示事項としては、小中学生とも「価格」が約9割、「期限表示」が約8割と多く、次いで「原産地」及び「栄養成分」について関心が強くなっている(図8)。
 ただし、「原産地」は小学生と比して中学生は関心が低くなっているのに対し、逆に「栄養成分」は、中学生に関心が高く、その理由はダイエットを気にしてカロリーをなるべく摂らないようにしているからということであった(図9)。特に女子の大半がこの理由を根拠としており、その後20代女性のBMIを指標とした「低体重(やせ)」の割合の増加につながっているものと判断される。
4)若年層に対する食育方法
小中学生がどの程度食品表示のルールを理解しているかを、図10を例とした簡単なクイズ方式で調査した結果、図11に示すように、項目によっては必ずしも十分な理解はされていなかった。
 また、アンケート調査結果によれば、中学生より小学生の方が表示に関心が高いことが注目され、またクイズ方式のようにゲーム感覚での学習方法が評価及び効果ともに期待できることも判った(図12図13)。
 なお、表示ルールの理解度問わず、消費者が食品を供給し表示する食品企業の立場に立って、無地の食品包装紙に自由に表示させるという「表示体験試験」(本誌前年度にて解説)も、表示する企業の事情の理解ととともに、当該試験を通じて現行のルールの学習効果があることも判った。
 いずれにしても、食育基本法に示されているように、学校の教員はじめ教育分野の関係者のみならず、保護者や食品企業も一体となった総合的な食育の取組が期待される。

5 安全性関係表示と食育(テイクアウト製品を例に)

現在義務化されている表示項目は多々あるが、このうちアレルギー物質と期限表示(特に消費期限)項目は安全性の観点で重要な意味を持つ。
 特に、アレルギー表示のように対象物質の有無の判断が供給サイドに委ねられ、適正に表示されている場合は、購入者の確実な表示確認により安全性は確保されるが、期限表示は家庭内での取り扱いの適正化も含めて影響されることから、消費者の当該表示に対する正しい理解が求められる。
 毎年の食中毒の大半が細菌・ウィルスに起因している(図14)ことから、せっかく供給サイドにおいて適切な微生物制御がなされていた製品であっても、購入後、開封後の温度管理が不適正であれば、事故は発生し得る。
 特に、消費者の微生物・ウィルスに対するリスク管理意識は必ずしも高いとは言い切れない(図15)。
 期限表示の適用要件が、「未開封」かつ表示された「保存方法」によることを、消費者に十分認識してもらう必要があり、開封後の適切な取り扱いに関しても学習の機会を出来るだけ作ることが求められる。
 一方、外食や中食分野については、原材料が頻繁に変化することや、店員によるきめ細かな情報提供により対応可能などといった理由から表示制度が適用されていない場合が多い。
 近年、外食のテイクアウトは大きな市場となっていることから、供給サイドとしてはテイクアウト製品に対する事故防止のための情報提供にも努める必要がある。 
少なくとも自社の責任は十分に果たしていることを客観的に示すことができる態勢が重要である。
 例えば、ハンバーガーは若年層に人気があるメニューである。当学部の学生にハンバーガーを購入後実際にどの程度で消費するかというアンケート調査をした結果、約半数が1時間以内で消費していた。
 また、同時に、消費期限はどの程度と考えているかという質問も行った結果、「1日以内」との回答が最も多かったが、一方では「翌日以内」又は「翌日以降」との回答も少なくなかった(図16)。
 一方、25℃における保存試験の結果、一般細菌数(全量をホモジナイズしたもの)は図17の結果となった。
 この結果を、5点のうち1点でも基準オーバーになった場合は消費には適さないという基準により判定すれば、図17に示すように、製造後1日までは消費可能であるものの、それ以上経過するものは危害を受けるおそれがあると判断される。
 他方で、当学部の学生の食味による官能検査結果を見ると図18に示すように、経過時間の割りには評価の低下は著しくない。
 こうした状況から判断されることは、食べる際の五感感覚では異常は判断することは難しく、かつ消費期限に関する自己判断基準も実際のリスク期間も含め多めに判断されている可能性が強いということである。
 テイクアウトされた製品が家庭内でどのような取扱いがなされているかは不明確であり、またメーカーとしての責任も及ばない。
 しかし、一旦事故が発生すると、クレームや責任を問われるケースも少なくない。
 現在、外食企業によってはテイクアウト製品に消費期限を表示しているところもある。
 必ずしも表示に委ねる必要はないが、消費者のことを考えて保存方法や消費期限に関する口頭等による情報提供に努めることが必要と思われる。

6 おわりに

現在、中食と外食を含めた食の外部化率は43%を超えているといわれる4)。
 また、小売店を通じて販売されている食品は年々加工・半加工品も増加傾向にある。
 すなわち、元々家庭の母親が作って家族に提供してきた食品の大半を食産業界が担っており、「母親」役を務めているとも言える。
 冒頭に記したように、食品は物質のみならず安心と満足とともに提供されるものであり、これらが叶って健全な食生活の実現にもつながるものである。
 こういう現代の状況を踏まえた場合、食品の供給サイドは必要かつ正確な情報提供に努めることは当然であるが、特に情報伝達の媒体としての表示を頼りにすることが多いことから、消費者にとってわかりやすく表示することが重要であり、また併せて消費者に表示のルールについて正しい理解をしてもらう努力も必要と判断される。
 すなわち、食育の担い手として食産業界の役割は大いに期待されるところであり、またすでに日常生活の中で「母親」役を担っている立場からも、その教育効果はきわめて大きなものであり、その結果として得られる両者間の信頼関係の構築を通じて、産業界の更なる発展につながることも事実であると確信している次第である。
引用・参考文献等

1)池戸重信「最近の食品偽装表示問題の実態と背景」(公衆衛生)医学書院Vol.72 No.10 p8-11 2008

2)池戸重信(編著)「ISO食品安全関連法令の解説」(ぎょうせい) 2008

3)閣議決定「食生活指針の推進について」2000

4)(財)外食産業総合調査研究センター「外食産業統計資料集2009年版」2009

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