財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
HOME >魚介類アレルゲンの本体と性状
魚介類アレルゲンの本体と性状
東京海洋大学食品生産科学科 塩見一雄
1. はじめに
 アレルギーは「文明病」といわれるように、日本や欧米などのいわゆる先進国を中心に患者数が年々増加し、深刻な社会問題となっている。中でも食物アレルギーは、生命の維持に必須の食物が原因となるだけでなく、アナフィラキシーショックにより死亡する危険性があるので、花粉症やダニアレルギーと比べると患者数は少ないとはいえ問題はより深刻であると考えられる。食物アレルギーではほとんどあらゆる食品が原因となるが、魚介類の摂取量が多いわが国では魚介類は重要なアレルギー原因食品の一つである。厚生労働科学研究班(代表:海老澤元宏)がまとめた「食物アレルギーの診療の手引き2008」(PDF版をhttp://www.foodallergy.jp/http://www.jaanet.org/guideline/05_syoku/index.htmlからダウンロードできる)によれば、症例数の点で甲殻類(えび、かに)は鶏卵、乳製品、小麦に次いで第4位に、魚類は第7位に位置している。魚介類アレルギーは成人で多いという特徴があり、成人での症例数に限ると甲殻類は第1位、魚類は第4位である。食物アレルギーによる健康危害の防止を目的としてアレルギー表示制度が実施されているが、表示が義務化されている特定原材料7品目のうち2品目(えび、かに)が、表示が奨励されている特定原材料に準ずる18品目のうち5品目(あわび、いか、いくら、さけ、さば)が魚介類である(表1)。
 本稿では、食物アレルギーの基礎知識としてまず発症機構を簡単に説明し、次いでわが国における食物アレルギーの中で重要な魚介類アレルギーの理解のために、魚介類アレルゲン(アレルギー誘発物質)の本体と性状に関するこれまでの知見を紹介する。
表1. アレルギーを起こすおそれのある原材料を含む加工品の表示
2. 食物アレルギーの発症機構
  外部から侵入してくる病原体やウィルスなどの異物(非自己)から自己を守るために働くはずの免疫機構が異常をきたし、非自己に対する拒絶反応が過敏になった結果、自己を攻撃してしまう反応がアレルギーである。アレルギーはT〜W型に分類されているが、食物アレルギーは花粉症やダニアレルギーと同様にイムノグロブリンE(IgE)と呼ばれる抗体が関与しているT型アレルギー(即時型アレルギー)である。食物アレルギーの発症機構の概略を図1に示すが、アレルゲン(本体はタンパク質)が腸管から吸収されて体内に入ると、まずマクロファージなどの抗原提示細胞がアレルゲンを取り込んで数残基のアミノ酸からなるペプチド分子に分解して細胞表面上に提示する。リンパ球にはT細胞とB細胞があるが、T細胞は抗原提示細胞の細胞表面上に提示されたペプチド分子を認識することができるT細胞レセプター(T cell receptor、TCR)を発現している。1つのT細胞は1種類のペプチドのみに特異的なTCRを発現しているが、アレルゲン特異的なTCRをもつT細胞が抗原提示細胞によって提示されたペプチドを認識して結合するとT細胞は活性化されてヘルパーT細胞になり、さまざまなサイトカイン(免疫系の細胞が産生するタンパク質で、他の細胞に情報を伝達する役割を持つ)を産生する。ヘルパーT細胞にはTh1とTh2があるが、T型アレルギーの場合にはTh2細胞が優勢になり、サイトカインとしては主にインターロイキン4(IL-4)を産生する。ヘルパーT細胞が産生するサイトカインによってB細胞は活性化され、活性化B細胞は抗体を産生するようになる。抗体は5つのクラス(IgG、IgM、IgA、IgD、IgE)に分類されているが、Th2細胞が産生したIL-4により活性化されたB細胞はIgEを産生する。産生されたIgEは血液を介して体内各所に運ばれ、IgEレセプターを細胞表面に持っているマスト細胞(肥満細胞とかマストセルともいう)に結合する。これでアレルギーに感作された、すなわちアレルギー発症の準備態勢が整ったことになる。ここに侵入してきたアレルゲンがマスト細胞表面のIgEと架橋するように結合すると、マスト細胞から化学伝達物質(ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)が放出され、アレルギー症状が引き起こされる。マスト細胞は皮膚、気道、腸管などに存在するので、それぞれの部位で特徴的なアレルギー症状(例えば、皮膚ならじんましん、気道なら気管支ぜんそく、腸管なら下痢)が現れることになる。なお、アレルゲン分子のうちIgEと結合する領域をIgEエピトープという。IgEエピトープはアレルギーの発症に直接関わっているので、アレルゲン研究ではIgEエピトープ解析は非常に重要である。
図1. 食物アレルギー(T型アレルギー)の発症機構
3. 魚類のアレルゲン
 魚類の主要アレルゲンとしてはパルブアルブミンが有名である。その他に、コラーゲン、アルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ、トランスフェリンがアレルゲンとして報告されているが、今のところアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼはタラのみで、トランスフェリンはマグロとカジキでといったように特定の魚種でしか同定されていない。以下に、パルブアルブミンとコラーゲンについて詳しく述べる。
3.1. パルブアルブミン
 アレルギーの主役であるIgE抗体は石坂公成・照子夫妻(当時、米国ジョンス・ホプキンス大学)によって1966年に発見された。その直後から魚類アレルゲンに関する研究は北欧のタラ類Gadus callariasで開始され、主要アレルゲンはパルブアルブミン(当初アレルゲンMと命名されたが、今ではアレルゲンの命名法にしたがってGad c 1と呼ばれている)であることが明らかにされた。Gad c 1は、食物アレルギーだけでなくすべてのアレルギーでアレルゲンの本体が明らかにされた最初の例である。その後、各種魚類の主要アレルゲンは例外なくパルブアルブミンであることが証明されている。パルブアルブミンは分子量1.2万の脊椎動物特有の筋形質(水溶性)タンパク質である。Ca2+結合能をもち、筋肉の弛緩に関与していると考えられている。加熱に対して非常に安定なタンパク質で、アレルゲンになりやすい要件を備えている。
 各種魚類のパルブアルブミンのアミノ酸配列を図2に、立体構造(マサバパルブアルブミン)を図3に示す。パルブアルブミンは、αへリックス-ループ-αへリックスで構成されているEF-handモチーフをもつことが大きな特徴である。ABドメイン、CDドメイン、EFドメインと呼ばれている3領域がEF-handモチーフに相当し、CDドメインとEFドメインのループ部分(領域51-62および90-101)がCa2+結合部位である。
図2. 魚類パルブアルブミンのアミノ酸配列
図3. マサバパルブアルブミンの立体構造
 臨床現場では、魚類アレルギー患者の多くは特定の魚種だけでなく魚一般に対して反応するといわれている。このことは各種魚類のパルブアルブミンはお互いに抗原交差性を示す、すなわち共通のIgEエピトープをもっていることを意味している。Gad c 1の場合、 IgEエピトープは主として一次構造に依存していると考えられ、4つの領域(33-44、49-64、65-74、88-96)が主要なIgEエピトープとして提唱されている(図2)。一方、筆者らは、オーバーラップペプチドを用いてマサバパルブアルブミンの一次構造IgEエピトープを検討したが、Gad c 1で提唱されている4つの領域を含むペプチドのいずれもIgE反応性をほとんど示さず、主要なエピトープは領域21-40に含まれることを認めた。欧米と日本の魚類アレルギー患者の違いも考えられるが、ウナギ、マイワシなどその他の7種魚類のパルブアルブミンの場合、領域21-40に相当するペプチドはIgE結合能をほとんど示さなかった。このことは,魚類パルブアルブミンはそれぞれ固有の一次構造IgEエピトープをもち、魚種間の交差性は一次構造エピトープでは理解できないことを意味している。
 パルブアルブミンはCa2+結合性タンパク質であるが、近年、魚類パルブアルブミンからCa2+を除去すると立体構造が少し変化し、IgE反応性は著しく低下することがわかってきた。したがって魚類パルブアルブミンのIgEエピトープとしては一次構造よりCa2+結合により保持された立体構造が重要で、抗原交差性は立体構造エピトープに依存していると考えられる。ファージディスプレー法に基づくミモトープ解析により、コイパルブアルブミンの立体構造IgEエピトープ候補として3つの領域(23-37、77-79、87-94;図2)が推定されているが、実験的証拠は得られていない。魚類パルブアルブミンのアレルゲン性および抗原交差性を分子レベルで理解するためには、各種変異体のIgE反応性を評価するなどにより立体構造IgEエピトープを解明することが望まれる。
 上述のように,魚類パルブアルブミンのIgE反応性にはCa2+結合により保持された立体構造が必要であるので、Ca2+結合に必須の残基を置換した改変パルブアルブミンのIgE反応性は低いことが予想される。筆者らは、CDドメインのAsp-51をAlaに、EFドメインのAsp-90をAlaに、Asp-51とAsp-90の両方をAlaに置換した3種類の改変マサバパルブアルブミン(D51A、D90A、D51/90A)を大腸菌で発現してIgE反応性をELISAで評価し、D51/90AのIgE反応性は著しく低いことを示した(図4)。コイパルブアルブミンについても、CDドメインのAsp-51とAsp-53、EFドメインのAsp-90とAsp-92をすべてAlaに置換するとIgE反応性は著しく低下することが報告されている。アレルギーの根本的治療法として、抗原(アレルゲン)を少量ずつ投与して免疫寛容を誘導する減感作療法が知られているが、天然抗原の場合にはアレルギー発症の危険性があるので、IgE反応性のできるだけ低いより安全な改変アレルゲンの作出が望まれている。D51/90Aは、魚類アレルギーの減感作療法において発症の危険性が低い抗原として有望であると考えられるので、その免疫寛容誘導効果を実験動物で検証することが求められる。
図4. 改変マサバパルブアルブミンのIgE反応性
3.2. コラーゲン
 パルブアルブミンに次ぐ魚類アレルゲンとして、2000年代に入って筆者らはコラーゲンを同定した。コラーゲンはマイナーアレルゲンではあるが、わが国の魚類アレルギー患者の約1/3が認識するので軽視できない。コラーゲンは動物に普遍的に含まれているタンパク質で、分子量11-12万のα鎖3本がコイル状にからまって1分子を形成している。未変性状態では水に不溶であるので抽出されないし、加熱すると変性して各α鎖はほぐれ水に可溶になるが、魚肉から加熱抽出した場合には筋肉のプロテアーゼ作用を受けて断片化(ゼラチン化)しやすい。このような特異な性質のため、コラーゲンは魚肉の抽出液中に存在しない、またはたとえ存在しても分解していることが多いので、魚類アレルゲン研究では長年にわたって見落とされてきたと思われる。
 各種魚類のコラーゲンはお互いに抗原交差性を示すことが明らかにされている。ゼリーなどの料理に使われているゼラチンによるアレルギーも知られているが、料理ゼラチンはウシまたはブタのコラーゲン由来であるので、ゼラチンアレルギーは哺乳類コラーゲンアレルギーということになる。しかし、魚類コラーゲンと哺乳類コラーゲンとの間では抗原交差性はみられない。また、魚類コラーゲンと無脊椎動物コラーゲンとの間にも交差性はないと考えられている。
 筆者らは、ニジマスコラーゲンのα2鎖をモデルとし、全長を5分割したタンパク質のIgE反応性評価、さらにもっとも強いIgE反応性を示したタンパク質の全長をカバーするオーバーラップペプチドのIgE反応性評価により、主要なIgEエピトープは941-960の領域に含まれることを明らかにした。本領域に相当する魚類および哺乳類のコラーゲンα2鎖の配列を図5に示すが、哺乳類はニジマスと著しい変異があるのに対し、シロザケはニジマスと完全に一致し、オヒョウとゼブラフィッシュではわずか1または2残基の変異しかみられない。オヒョウとゼブラフィッシュについてはこの領域のペプチドを合成してIgE反応性も確認している。魚類コラーゲンの一次構造情報は非常に乏しいが、領域941-960は魚類コラーゲンα2鎖の共通のIgEエピトープである可能性が高いと考えている。
図5. 魚類コラーゲンα2鎖および哺乳類コラーゲンα2鎖の領域941-960のアミノ酸配列
3. カンピロバクター食中毒
4.1. トロポミオシン
 甲殻類のアレルゲンに関する研究は1980年代初めから欧米で行われ、1993年になってようやく、部分アミノ酸配列分析結果からインドエビの主要アレルゲンはトロポミオシンであることが証明された。その後、各種エビ類やカニ類の主要アレルゲンは共通してトロポミオシンであることが分子レベルで相次いで明らかにされた。トロポミオシンは筋原繊維タンパク質(塩溶性タンパク質)の一種で、アクチン、トロポニンとともに細い筋原繊維を構成して筋収縮の調節を担っている。ほぼ全長にわたってα-へリックス構造をとっている分子量約3.5万のサブユニット2本がお互いによじれあって1分子となっている。魚類の主要アレルゲンであるパルブアルブミンと同様にトロポミオシンも加熱に非常に安定なタンパク質で、アレルゲンになりやすいといえる。
 これまで欧米で研究の対象として取り上げられたエビ類、カニ類はすべて新軟綱亜綱十脚目に属する甲殻類である。表2に示すように、わが国のアレルギー表示制度の対象となっている「えび」「かに」もいずれも新軟綱亜綱十脚目の仲間で、「えび」は板鰓亜目と抱卵亜目のコエビ下目、イセエビ下目およびザリガニ下目を、「かに」は抱卵亜目の異尾下目(ヤドカリ類)と短尾下目(カニ類)を指している。筆者らは十脚目のウシエビ(ブラックタイガー)、クルマエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、タラバガニ、ズワイガニ、ケガニだけでなく、エビの代替品として食用にされることがある新軟綱亜綱オキアミ目のナンキョクオミアミ、一部地域で珍味として食べられている蔓脚亜綱有柄目のカメノテおよび無柄目のミネフジツボ、さらに寿司ねたとして利用されているトゲエビ亜綱口脚目のシャコについても検討を加え、すべての種類で主要アレルゲンはトロポミオシンであることを確認している。十脚目以外の甲殻類はアレルギー表示の対象外であるが、アレルギーの点では「えび」「かに」と同等であると考えられるので注意が必要である。とくにカメノテやフジツボについては、甲殻類であることを理解していない人も多いので、知識の普及も重要であろう。
表2. 主な食用甲殻類の分類
 各種甲殻類トロポミオシンのアミノ酸配列を図6に、配列相同性を表3に示す。各種甲殻類のトロポミオシンはお互いに抗原交差性を有するが、このことはアミノ酸配列の類似性およびIgEエピトープの保存性の高さから容易に説明できる。まず十脚目のトロポミオシンに注目すると、アミノ酸配列の相同性はおおむね90%以上と非常に高い。筋肉は収縮速度の差異によりfast muscle(速筋)とslow muscle(遅筋)に分類され、トロポミオシンにもfast muscle由来のfast typeとslow muscle由来のslow typeがある。slow typeはさらに、slow-tonic typeとslow-twitch typeにわけられる。各typeのトロポミオシンのアミノ酸配列を比較すると、fast typeとslow typeのトロポミオシンのアミノ酸配列の間では領域39-79に集中して変異がみられ、さらにslow-tonic typeと他の2つのtypeの間ではC末端領域(269-284)にも多少の変異がみられる。興味深いことに、エビ類トロポミオシンは例外なくfast typeで、カニ類トロポミオシンはタラバガニ胴肉にslow-tonic typeと一緒に検出されたfast typeを除くとすべてslow typeである。
 十脚目以外の甲殻類の場合、蔓脚亜綱に属するミネフジツボのトロポミオシンだけは他の甲殻類トロポミオシンと変異が非常に大きい(配列相同性は60%未満)。フジツボ類は19世紀初めまでは軟体動物に分類されていたことと関係しているのかもしれないが、ミネフジツボトロポミオシンのアミノ酸配列は軟体動物のマルオスダレガイ科二枚貝(アサリなど)のトロポミオシンに非常に近い(配列相同性は95%以上)。十脚目と同じ新軟綱亜綱に分類されているオキアミ類のトロポミオシンは13-42の領域をはじめとしてかなりの変異を示し、十脚目トロポミオシンとの配列相同性は82-92%とやや低い。一方、トゲエビ亜綱にわけられているシャコのトロポミオシンは明らかに十脚目のfast typeに属し、十脚目のfast typeのトロポミオシンと約97%という高い配列相同性を示す。
 甲殻類トロポミオシンの抗原交差性を、ブラウンシュリンプのトロポミオシンに対して提唱されている8つのIgEエピトープ領域(43-55、88-101、137-141、144-151、187-197、249-259、266-273、273-281)のアミノ酸配列の点からさらに詳しくみてみよう。8つのうち5つのIgEエピトープ領域(88-101、137-141、144-151、187-197、249-259)は十脚目とシャコのトロポミオシンでは完全に,オキアミ類のトロポミオシンでもほぼ完全に保存されており、お互いの抗原交差性を分子レベルで裏付けているといえよう。保存性が低い残り3つのIgEエピトープ領域(43-55、266-273、273-281)は、fast typeとslow typeの間で、あるいはslow-tonic typeだけで変異が著しい領域に相当している。臨床現場では、エビ(fast type トロポミオシンを含む)に対してだけアレルギーを示す患者、あるいはカニ(slow type トロポミオシンを含む)に対してだけアレルギーを示す患者の存在が知られている。そのため、アレルギー表示制度では、「えび」と「かに」を別個に表示するようになっている。エビだけまたはカニだけにアレルギーを示す患者の存在については今のところ分子レベルで説明できていないが、これら患者はfast typeとslow typeのトロポミオシンの間で変異が著しい領域を特に強く認識している可能性がある。
図6. 甲殻類トロポミオシンのアミノ酸配列
表3. 甲殻類トロポミオシンのアミノ酸配列相同性(%)
 トロポミオシンは甲殻類の主要アレルゲンであることを述べてきたが、実はトロポミオシンは無脊椎動物のパンアレルゲン(pan-allergen、幅広い交差性を有するアレルゲン)と考えられている。後述するように軟体動物の主要アレルゲンもトロポミオシンであることがわかっており、甲殻類トロポミオシンとの抗原交差性が確認されている。また、食物アレルゲンではないが、甲殻類と同じ節足動物に分類されるダニ類やゴキブリ類のアレルゲンの一つとしてもトロポミオシンが同定され、いずれのトロポミオシンも甲殻類トロポミオシンと抗原交差性を示すことが認められている。
4.2. アルギニンキナーゼ
 ブラックタイガーおよびシロアシエビ(バナメイエビ)のマイナーアレルゲンとして、分子量4万のアルギニンキナーゼが同定されている。アルギニンキナーゼはアルギニンとATPからアルギニンリン酸を生成する、あるいはアルギニンリン酸の脱リン酸化を触媒する酵素である。アルギニンリン酸は無脊椎動物における重要なホスファーゲン(エネルギーに必要なATPの貯蔵物質)であるので、アルギニンキナーゼは当然のことながら無脊椎動物に広く分布している。アルギニンキナーゼは、一部昆虫類(ノシメマダラメイガ、ゴキブリ、カイコ)のアレルゲンとしても同定されており、甲殻類のアルギニンキナーゼとの抗原交差性も認められている。
4.3. Sarcoplasmic calcium-binding protein(SCP)
 筆者らは、ブラックタイガーのアルギニンキナーゼを精製している過程でアルギニンキナーゼとは異なる分子量2万の新規アレルゲンを見いだし、部分アミノ酸配列解析によりsarcoplasmic calcium-binding protein(SCP)と同定した。その後、バナメイエビのSCPもアレルゲンであることが報告されている。SCPは無脊椎動物特有のCa2+結合性タンパク質で、Ca2+の緩衝や筋肉の弛緩の過程に関与するタンパク質といわれている。SCPは機能的には、魚類の主要アレルゲンとして同定されている脊椎動物特有のCa2+結合性タンパク質であるパルブアルブミンに相当すると考えられている。パルブアルブミン同様にCa2+除去によりIgE反応性はかなり低下することを認めているので、IgEエピトープとしては立体構造が重要であると思われる。なお、イムノブロッティングでは、患者血中IgEはエビ類(とくにクルマエビ科エビ類)のSCPと強く反応するがカニ類のSCPとはほとんど反応しない。カニ類はSCP含量が低い可能性もあるが、いずれにしてもSCPはエビ類に対してのみアレルギーを示す患者の説明になるかもしれない。
4.4. ミオシン軽鎖
 最近、バナメイエビの抽出液中に分子量2万の新規アレルゲンが検出され、2次元電気泳動後のゲル内消化物のMALDI/MS分析によりミオシン軽鎖であることが証明された。患者の半数以上に認識されるので、主要アレルゲンと考えられている。バナメイエビ以外の甲殻類やその他の動物由来のミオシン軽鎖のアレルゲン性は不明である。ミオシン軽鎖は筋収縮に関与しているミオシン(分子量約22万の2本の重鎖と、各重鎖に2本ずつの軽鎖の合計6本のポリペプチドで構成されている)を構成しているタンパク質である。ミオシン軽鎖はCa2+結合性タンパク質であるが、Ca2+とIgE反応性との関連は不明である。
5. 軟体動物のアレルゲン
5.1. トロポミオシン
 軟体動物の主要アレルゲンは、甲殻類同様にトロポミオシンであることが各種頭足類(イカ、タコ類)、巻貝(アワビ、サザエなど)、二枚貝(ミドリイガイ,マガキ,アサリなど)で証明されている。各種軟体動物のトロポミオシンはお互いにIgE交差性を示すだけでなく、甲殻類トロポミオシンとも交差性を示す。しかし、軟体動物トロポミオシンと甲殻類トロポミオシンとのアミノ酸配列の相同性は約60%とそれほど高くない(図7)。非常に興味深いことに、分類上同じ仲間の軟体動物間ではトロポミオシンの配列相同性はおおむね90%以上と高いが、違う仲間との間では相同性は約70%程度しかない(図7、表4)。現時点でのアミノ酸配列データから、軟体動物トロポミオシンは、頭足類(イカ、タコ類)、巻貝の古腹足目、新腹足目、二枚貝のフネガイ目、イガイ目、カキ目イタヤガイ科、カキ目イタボガキ科、マルオスダレガイ目の少なくとも8つのグループに分けられる。軟体動物トロポミオシンの抗原交差性を理解するためには、各グループのトロポミオシンのIgEエピトープを地道に解析していく必要がある。
図7. 軟体動物トロポミオシンのアミノ酸配列
表4. 軟体動物トロポミオシンのアミノ酸配列相同性(%)
5.2. パラミオシン
 筆者らはごく最近、イムノブロッティングによりクロアワビに分子量10万の新規アレルゲンを検出し、部分アミノ酸配列からパラミオシンであることを明らかにした。クロアワビのパラミオシンとトロポミオシンとの間には抗原交差性が認められたが、分子レベルでは交差性は説明できていない。パラミオシンは無脊椎動物特有の筋原繊維タンパク質で、これまでにダニ類およびアニサキスのアレルゲンとしても同定されている。すでにクロアワビのパラミオシンのアミノ酸配列をcDNAクローニングにより解析しているが、ダニ類やアニサキスのパラミオシンとの配列相同性は35%程度で、お互いの抗原交差性はないと思われる。
5.おわりに
 魚介類アレルゲンに関する研究はここ10数年の間に急速に進展し、魚介類アレルギーを分子レベルでかなり理解できるようになってきた。しかし、魚介類アレルギーの診断・治療・予防に向けては、魚類パルブアルブミンの立体構造IgEエピトープ解析、各種軟体動物のトロポミオシンのIgEエピトープ解析、未知アレルゲンの同定など今後の検討課題は山積している。とりわけ魚介類は種類が非常に多様であるので、これまでに得られた知見が多くの種類に普遍的に適用できるかどうかを検証していくことが必要である。また、個々の魚介類のアレルゲン性を、アレルゲンの質(IgE反応性)と量(含量)の面から評価してデータベース化していくことも望まれる。魚介類アレルギー問題の解決に向けて、このような課題が一つずつ解決されていくことを期待して本稿を終わりにしたい。
Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.