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ISO17025の本当の価値?!
 ISO17025、いわゆる試験所認定は試験能力に関する一般要求事項を規定した国際規格です。1978年にヨーロッパで相互商取引のための試験所の能力を示す規格ISOガイド25として発行されました。その後、このガイド25は1999年にISO17025と名称を変え、2005年に改定が行われました。ISO17025は管理上の要求事項(俗に言うISO9001と共通部分)と技術上の要求事項に分かれています。ISO17025はISO9001のような認証ではなく、認定であり、弊財団がISO17025取得時にお世話になった「財団法人 日本適合性認定協会(JAB)」のHP掲載の言葉をお借りすると次のことが要求されることになります。
1. マネジメントシステムを運営し、
2. 技術的に適格であり、
3. 技術的に妥当な結果を出す能力がある
 これらのことを、個人の「職人技」に頼ることなく、組織の力として築き上げなくてはなりません。もちろん有る程度の「職人技」も技術者として重要ですが、特に弊財団のような第三者機関では、均一な試験結果を常に提出するためにも組織としての職人技が必要とされます。
 ISO17025の価値は、どちらかといえば対外的なアピールや試験成績書の信頼度の高さといった外向きなことに目が向きがちですが、本当の価値はもっと内向きで、試験所の技術力向上を永続的に出来るシステムを持っていることに価値が有るのではないかと思います。
 特にISO17025の技術的要求事項である「5.4.6.2 試験所は,測定の不確かさを推定する手順をもち,適用すること。」「5.9.1 試験所は,請け負った試験の有効性の監視のため品質管理手順をもつこと。結果のデータは,傾向が検出できるような方法で記録し,実行可能な場合,結果の検討に統計的手法を適用すること。」については、ISO17025の取得意思の有無を問わず、日常の試験技術向上の取り組みに取り入れることで、PDCAサイクルが助長されます。
 この「不確かさの推定」「傾向が検出できる品質管理手順」がどのように技術向上に寄与するのかを残留農薬試験を例にフローシート (図-1)にまとめ、その説明を以下に示しました。
図-1 不確かさ測定と傾向の検出フローシート
(1)特性要因図の作成
「不確かさ」の推定は、つまずき易い関門*1ではありますが、とにかく現状の試験操作において、バラツキを生む要因にはどのようなものが有るのかを考えリストアップします。これが結構難しいのですが、同じ職場の複数人で、思いつく要因を列挙していくのも良いかと思います。すると自分では気が付かなかった要因が出てきます。その際、要因としての大小は考えず挙げていき、特性要因図としてまとめます。(図-2:細かな要因は削ってあります
図-2 特性要因図例
(2)バジェットシートの作成*2
(1)で挙げた要因をバジェットシートに列挙していきます。ピペットの公差のようにカタログデータを元に算出を行う「タイプB」、ピペット操作のバラツキなどのように、繰り返し作業などにより標準偏差を求める「タイプA」とに分類していきます。そして、それぞれの要因を数値化することにより、「不確かさ」への寄与率が一目で分かるようになります。これらを足しあわせ(合成された)「不確かさ」がまず、妥当であるか否かを判断します。例えば、残留農薬試験であれば、「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」を拠り所として、(http://www.mac.or.jp/mail/090801/04.shtmlも参照下さい)評価してみます。机上で算出した「不確かさ」が妥当性評価ガイドラインの室内精度の評価基準を超える場合は、何れかの要因を更にコントロールして、「不確かさ」への寄与を低減させる必要が出てきます。
(3)枝分かれ実験計画の作成と実施
(2)の机上の見積もりでは、妥当な結果が出ると推定されれば、手順書に基づき実際に添加回収試験などを枝分かれ実験で、行って見ます。ここで重要なのは、(1)(2)要因を再現する環境下での実験計画を立てることです。当然、日を変えてのバラツキは確認すべきですが、複数の試験者がいる場合は、人を変えてのバラツキを見ておく必要もあります。枝分かれ実験については、前述の妥当性評価ガイドラインもしくはJISZ8402-1、JISZ8402-2*3を参考に有効な実験計画を立てることが重要です。
(4)不確かさ見積もりの評価
(2)の机上で見積もった「不確かさ」と実際の実験結果から求めた「不確かさ」が合えば、見積もりと実態が合致したことになりますので、「不確かさの要因が理解できている。=バジェットシートは正しい」と評価して良いことになります。合わなければ、再度特性要因図を確認し、リストアップに漏れなどの不備は無いか、バジェットシートで実際と合わないような算出法を行っていないかを確認することが必要になります。
(5)結果の妥当性評価
実際に行った実験結果が「妥当性評価ガイドライン」の室内精度に適合していれば、「妥当な結果を出す能力」があると判断して良いといえます。適合していなければ、バジェットシートを見て、不確かさ要因の寄与率の高いものをもっとコントロールすれば、精度向上が果たせます。表-1を例に取れば、「不確かさ」寄与のほとんどは、測定機器(ここではGC/MS)の感度変動が最も大きいものになっています。つまり、測定機器のメンテナンスをまめに行い、変動の無い感度を維持することが必要であり、予防措置的には定期的なメンテナンスを行うことが推奨されるでしょう。また、感度変動の大きな原因となる「マトリクス効果」の低減(http://www.mac.or.jp/mail/090601/05.shtmlを参照下さい)を行うことも有効かもしれません。その要因を特定、改善することにより、技術力向上のPDCAサイクルが回ることになります。
表-1 バジェットシート例
(6)〜(8)傾向の検出
(1)〜(5)で、妥当な結果を出す能力については確認が出来ました。続き行うべきことはその能力維持です。(6)で、単発的には、妥当性の評価を行った母集団に対し、zスコアを算出し、2以内であるかを確認します。2以内であればひとまず良好といえますが、(7)の様にそれらを継続して蓄えた経時的データを残すことが重要になります。(7)の右グラフの様に徐々にzスコアが高くなっていく場合(妥当性評価を行ったときの母集団データに比べて値が徐々に高い値を示す)やその逆の場合は注意が必要です。測定機器の汚れの蓄積、標準品の劣化・濃縮などが考えられます。zスコアが2以内のうちに傾向を掴み、対策を取れば不採用のデータを増やさずに済み、予防措置として働きます。 また時には(8)の様に外部精度管理に参加し、外的な評価を得ておく必要もあるでしょう。
このように、ISO17025取得意思の有無に関わらず、「不確かさの推定」「傾向が検出できる品質管理手順」というものを取り入れることにより、バラツキを生み出している要因が「数値」として理解でき、傾向による予防措置を行うことも出来るようになります。つまり、効率的・効果的に技術力向上のPDCAサイクルの推進力とすることができるのです。認定取得の必要性がないと脚を踏み入れにくいISO17025の世界ですが、このことこそがISO17025の本当の価値と言えるでしょう。
*1 不確かさの入門には、製品評価技術基盤機構の「不確かさの入門ガイド」が良いと思います。
http://www.iajapan.nite.go.jp/jcss/pdf/koukaib_f/ASG104-03.pdf
*2 通称GUM(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement )の事例集が役に立ちます。日本語訳、「測定における不確かさの表現のガイド(日本規格協会)」が書籍販売されています。
*3 日本工業標準調査会 のHP で閲覧可能です。 http://www.jisc.go.jp/
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