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食品表示の最近の動き
     -一元化の際に今後の課題とされた項目を含めて-
国立医薬品食品衛生研究所名誉所員
                (元食品部長、元食品添加物部長)
米谷 民雄

1. はじめに

食品表示が食品表示法により一元化され、その食品表示基準が平成27年4月1日に施行され、経過措置期間を経て令和2年4月から完全実施された。その際に別途検討が必要として、加工食品の原料原産地表示、遺伝子組換え表示の在り方、食品添加物表示、インターネット販売等における食品表示などが、今後の検討課題として残された。筆者はこれまでいくつかの食品表示に関わり、また「食品の表示に関する共同会議」の委員を務めたことから、残された課題の検討経過に注目してきた。最近それらの検討結果が次々と報告され施策に反映されている。そこで、表示が適正かを判定する検査方法に焦点を当てて、最近の食品表示の動きをまとめてみた。

2.生鮮食品の原産地表示-熊本県産アサリの偽装

生鮮食品には原産地表示が義務付けられているが、アサリについては少なくとも20年近く前から中国産・韓国産などを国産と偽装する事件が相次いでいた。近年では熊本県産表示のアサリ流通量が熊本県のアサリ出荷量と比べ著しく多いことから、産地偽装が疑われていた。

外国産と国産を判別する方法としては、近年ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)などの機器が進歩したため、含有元素分析や安定同位体比分析がよく使われている。生育する土壌や水域の元素組成が産物に反映されるからである。しかし、例えば同じ中国産でも値に幅があり国産も同様であるため、重なる部分があり明確に判別できないことが多い。

昨年(令和4年)2月に農水省は、その前年10~12月に広域小売店で販売されていたアサリの実態調査結果を発表した1)。DNA分析で一塩基多型の比較をした結果、熊本県産表示31点のうち30点で外国産混入の可能性が高いと判定された。韓国産にも種類があり、判別法は複雑なようである。

アサリの産地判別に関しては、アサリ貝殻のネオジム同位体比(143Nd/144Nd)から中国産と国産の判別が可能という報告がある2)。MC-ICP-MS(二重収束型マルチコレクターICP-MS)による分析であるが、古い地質の中国と新しい地質の日本では値が異なるため、判別可能という。筆者はHR-ICP-MS(二重収束型高分解能ICP-MS)をHPLCと直結し、同重体干渉無く食品や生体試料中のAsやAl3)の化学形・存在状態を研究してきたが、MC-ICP-MSでは極少イオンの同位体同時測定をすることで、高精度の同位体比分析が可能である。

この熊本県産アサリ事件への対応として、消費者庁・農水省は昨年3月18日に「アサリの産地表示適正化のための対策について」4)で食品表示基準Q&Aを改正し、いわゆる「長いところルール」の適用を厳格化した。具体的には、(1)貝類の「蓄養」が「長いところルール」の算定に含まれないこと、(2) 輸入アサリの原産地は蓄養の有無に関わらず輸出国とする(例外として輸入した稚貝アサリを1年半以上育成(養殖)し、根拠書類保存の場合は国内地を原産地として表示可)などである。今後の原産地表示を見ての、消費者の購買動向が注目される。

上述の「長いところルール」は、水産物ではこれまでも単純ではなかった。養殖魚で種苗(稚魚等)を国内生産地から仕入れ他県の養殖地で成魚にして出荷する場合、種苗育成期間の方が長くても養殖期間に含めず、養殖地を原産地とする考え方がある5)。成魚になり価値がでるので、この場合は消費者の納得が得られるかもしれない。

3.加工食品の原料原産地表示が完全実施

加工食品の原料原産地表示は、表示一元化の際に今後の検討課題の一つとされていた。従来は22食品群と個別4品目のみが対象で、店舗販売の11%程度にすぎなかったという。

そこで平成29年9月1日に全加工食品(輸入品を除く)を対象に原料原産地表示を義務化する表示基準改正がなされ(同日施行)、経過措置期間の後、昨年4月1日から完全実施された。加工食品の重量割合上位1位の原材料について、国別重量順表示をするのが原則である。ただし、原産地が3カ国以上でその上輸入と国産の重量順が固定しない場合は、「大括り表示」と「又は表示」が重なり、「国産又は輸入」という笑えない表示になるが仕方ないであろう。

なお、従来の22食品群及び個別4品目には従来通りの基準が残り、また新しく「おにぎり(のりを使用しているもの)」が個別品目に追加された。米穀の産地の他に、のりの原産地表示が義務化され、のりが国産かどうかを判別できるようになった。

4.遺伝子組換え表示の在り方

我が国では安全性審査を経た遺伝子組換え食品のみが流通を認められ、検査方法も示されている。ただし国内では販売用には栽培されておらず、輸入品が対象である。また、安全性未審査の遺伝子組換え食品は、厚労省が輸入食品検査で取り締まっている6)

「遺伝子組換え表示の在り方」も今後の検討課題とされていたが、新しい食品表示基準が今年(令和5年)4月1日から施行されることになった。遺伝子組換え表示では、遺伝子組換え食品使用や不分別の場合は表示義務があるが、市販食品では任意表示の「遺伝子組換えでない」の表示がほとんどである。この任意表示について改正された。

従来「遺伝子組換えでない」表示は、分別生産流通管理(IPハンドリング)をして意図せざる組換え体の混入を5%以下に抑えた、大豆・とうもろこし・それらの加工食品に対し任意に表示できた。問題は5%という量であり、EUでは遺伝子組換え表示が免除される意図せざる混入率は0.9%未満であり、フランスやドイツでは「遺伝子組換えでない」表示が認められる混入率は0.1%未満である7)。そこで新基準では二つの場合に分けられ、(1)分別生産流通管理を実施し遺伝子組換え農産物の混入がないことを確認した製品は「遺伝子組換えでない」と表示でき、(2)分別生産流通管理のみの場合は「分別生産流通管理済み」などと表示するとされた。

遺伝子組換え農産物の混入がないことの確認には第三者分析機関等による分析は必須ではなく、生産流通過程で「遺伝子組換え農産物が含まれない旨が記載された分別生産流通管理証明書」を用いて取引を行った場合などでもよいとされている。ただし、科学的検証等により遺伝子組換え農産物を含むことが確認された場合には、不適正表示となる。

「遺伝子組換え農産物混入の判定に係る検査法」は、「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」の改正で追加された、ダイズ穀粒の検査法(遺伝子組換え農産物混入の判定に係る検査法)とトウモロコシ穀粒の検査法(遺伝子組換え農産物混入の判定に係る検査法)で示された8)。公的定性検査法としては、どの分析機関で試験しても同じ結果がでるように、ΔΔCq法が採用されている。国立衛研の報告書9)によると、模擬穀粒試料を用いた試験室間共同試験(6試料×15機関、国立衛研と農研機構で結果を集計)の結果、大豆試料(標的:P35S、RRS2)では0.1%、とうもろこし試料(標的:P35S、TNOS)では0.2%混入がこの公定検査法で「高い信頼性をもって陽性と判定される最低濃度」とされている。また非遺伝子組換え試料では、全試験室で不検出(偽陽性なし)であった。現在の生産流通過程に大きな影響を及ぼさないように、よく考えられた検査方法である。我が国の消費者が分別生産流通管理の努力を認め満足するのか、やはりゼロ表示を求めるのか、今後を注視したい。

5.ゲノム編集技術応用食品の表示

バイオテクノロジー応用食品には遺伝子組換え食品の他に、近年開発されたゲノム編集技術応用食品がある。後者は外来遺伝子ツールを用いて標的DNAを切断し、自然修復の過程で変異(修復エラー)したものを選抜したものである。遺伝子が変わっただけで外来遺伝子は導入されておらず、自然界でも起こりうる変化だけをした食品である。

現在までに3品目が、「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」10)に基づき届けられている。この取扱要領では届け出る重要情報として、(1)外来遺伝子及びその一部の残存がないことの確認に関する情報、(2) 確認されたDNAの変化がヒトの健康に悪影響を及ぼす新たなアレルゲンの産生及び含有する既知の毒性物質の増加を生じないことの確認に関する情報、を掲げている。(1)の外来遺伝子が無いのが、ゲノム編集食品が遺伝子組換え食品と最も異なる点である。

表示については、「外来遺伝子等が残存しないものは、ゲノム編集技術を用いたものか、従来の育種技術を用いたものか、科学的に判別不能」という理由を最大の根拠として、現段階では食品表示基準の対象外としている11)。遺伝子組換え農産物から加工した油やしょうゆにおいても、判別不能のため表示義務がないのと同様の扱いになっている。

6.添加物表示に関する改正

食品添加物の表示は表示一元化の際に、原材料名表示欄で従来の全て重量順から「食品が先、食品添加物は後」と変更された。消費者から、どれが食品添加物かわからないとの意見があったためである。しかし、より重要な課題はその後の「食品添加物表示制度に関する検討会」の議論に委ねられていた。そして令和2年7月になり検討会報告書に基づき、食品表示基準の添加物の義務表示に関連する表・別表から「人工」「合成」の文字が削除され、さらに令和4年3月に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」が発出された12)

この内容を理解するには厚労省の過去の施策の説明が必要と思われるので、以下に記す。筆者は平成元年から厚労省研究所(国立衛研)で食品添加物に関わり天然添加物を担当したが、その年は2年後の添加物全面表示に向けて天然添加物の表示品名が告示された年である。平成7年の食品衛生法改正以前は化学的合成品のみが食品添加物に指定され、天然添加物は昭和の時代には使用しても表示義務もなかった。昭和の時代には合成(指定)添加物の表示も全面表示でなく、徐々に対象添加物・対象食品が拡大されていったが、昭和58年8月には表示対象78品目において、人工(合成)甘味料、合成着色料、合成保存料など8用途の場合には添加物名に加えて用途名の併記が義務づけられた13)。当時も天然添加物は広く使用されていたが表示義務がなかったため、表示義務のある合成(指定)添加物の用途名は合成着色料などと「合成」「人工」を付けた用途名で表示された。なお昭和58年8月には現在保健機能食品に広く使用されている亜鉛塩類(グルコン酸亜鉛及び硫酸亜鉛)などが食品添加物として認められ、腸性肢端皮膚炎や味覚障害の観点から必須微量元素の研究者として喜んだものである。亜鉛塩類などと複数の化合物を1つの品目名で指定したのは、昭和47年の衆・参国会附帯決議への対応として指定添加物の品目数を増やさないためであった。

さて、厚労省から添加物表示を引き継いだ消費者庁は食品表示基準の横断的義務表示の中の添加物に関する表と別表(第3条第1項の表及び別表第6と第7)に「人工」「合成」の用語をそのまま残していたため、令和2年7月16日にそれらの用語を削除したのである。「人工」「合成」と表記された食品添加物が安全性に問題があるかのような誤解を与えるとして、誤認防止の観点からも削除された。経過措置期間の後、令和4年4月1日から義務表示部分で完全実施された。本来なら平成7年の食品衛生法改正で旧6条の「化学的合成品」から新10条の「添加物」に変わった時点で、添加物関連の表・別表では天然・合成添加物を区別しない「甘味料」「着色料」などの用途名だけにすれば良かったのだが、それまで用途名併記で使用させていた「人工甘味料」「合成着色料」などの用途名を継続使用可としたことが裏目にでたのかもしれない。

続いて令和4年3月30日に消費者庁は、容器包装上に任意表示されている「無添加」「不使用」などの表示が表示禁止事項に該当するかを事業者に自己点検させるため、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表した12)。消費者は食品選択で食品添加物を避けるために「不使用表示」食品を優先する傾向が強く、食品に「不使用表示」が氾濫しているためである。このガイドラインは、一般用・業務用加工食品の容器包装の任意表示に適用される。2年程度の間に表示の見直しを行うことが求められており、令和6年3月末までが経過措置期間である。

このガイドラインには食品表示基準第9条(表示禁止事項)に該当する可能性がある表示例が、10の類型で示されている。例えば「類型2」では食品表示基準に規定されていない(削除された)用語を使用した表示(例:「人工甘味料不使用」等)が、「類型4」では同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示(例1:日持ち向上目的で保存料以外の食品添加物(グリシンなど)を使用した食品に、「保存料不使用」と表示、例2:既存添加物の着色料を使用し「合成着色料不使用」と表示)が示されている。いずれも、食品表示基準第9条第1項第1号(実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させる用語)の表示禁止事項に該当するおそれが高いとしている。ちなみに保存料ほど強力ではないが日持ち向上目的の「日持ち向上剤」(正式用途名ではない)という範疇の添加物があり、グリシンも含まれている。

「実際の商品で禁止事項に該当するかはケースバイケースで全体として判断する」12)とされている。今後の消費者庁の対応が注目されるが、経過措置期間中の事業者や消費者の動きも重要になるであろう。なお、不使用表示のより根本的な解決のためには、食品添加物に対する消費者の正しい理解を深める啓蒙活動の一層の充実や、学校での食品添加物の安全性についての教育が重要なのは言うまでもない。

7.アレルギー表示の動き

アレルギー表示は健康に直接影響する表示である。厚労省が食品衛生法で所管していた時には表示スペースを少なくするため「特定加工食品」の範疇があり、表示義務がある特定原材料でも、その使用が明らかな例えばうどんやマヨネーズでは小麦や卵の表示を省略することができた。しかし消費者庁所管の食品表示法ではこれらの表示も必要となり、事業者向けの食品衛生法から消費者向けの食品表示法に移行したことを実感したものである。

厚労省は平成13年4月に食品のアレルギー表示を義務化し、経過措置の後、平成14年4月1日から完全実施した。筆者はまさにその日に担当の食品部長として異動した。当時表示義務のある特定原材料は5品目(乳、卵、小麦、そば、落花生)で、表示を確認するための検査方法の発出が急務となっており、検査法開発の班に加わった。検査方法は担当室長の努力によりその年の11月に示すことができた14)が、偽陽性や偽陰性を示す食品が多くあり、表示を監視する際の「判断樹」を別添14)で示すなど苦労した。その後特定原材料に「えび」「かに」が追加され、平成22年に消費者庁に引き継がれた15)。昨年6月には消費者庁から従来表示推奨品目であった「くるみ」を特定原材料にする方針が示され、意見募集が令和4年10月13日から11月12日までなされた。その後の諮問・答申、経過措置期間を経ての義務表示完全実施となるが、検査方法の確立が最も重要になる。

検査では特定原材料タンパク質濃度レベルが10 μg/g以上という定量と、「くるみ」を特異的に検出することが必要になる。「えび」「かに」の場合はタンパク質レベルの定量では区別せず定性PCRで特異性を判定しているが、「えび」ではベニズワイガニなどのかにが、「かに」ではシャコや一部のえびが偽陽性を示す場合がある15)。「くるみ」の場合も特定原材料に準ずる表示推奨品目に同じナッツ類のアーモンドやカシューナッツがあり、検査方法の確立には困難を伴うであろう。担当者の苦労が推察される。

一方、「中食・外食へのアレルギー表示」が今も検討課題として残されている。現在、飲食店での外食ではアレルギー表示は義務化されておらず、紅茶くらいしか注文できない消費者もおり、表示のルール作りが求められている。消費者庁に「外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会」が設置されたが、中間報告までしか公表されていない。表示する際の様々な困難な課題が容易に想像できる。表示するには視覚的表現の導入も必要であろう。

8.インターネット販売等における食品表示

今後の検討課題の最後として、ネット販売での食品表示について記す。インターネット販売は食品表示基準の対象外であるため、実際の容器包装上の食品表示とは大きな差があり、不十分な表示でも販売されている。このような状況から消費者庁は、令和4年6月にネット通販サイトの運営者向けに「インターネット販売における食品表示の情報提供に関するガイドブック」16)を公表し、食品表示基準で定められた表示事項を可能な限り掲載するよう求めている。メーカーとのシステム連携によりデータを自動入手・管理ができればよいが、多数のメーカーの商品を扱うネット販売者ではこれも大変な作業になる。一方、手作業ではデータ量が多いため誤入力の懸念がある。

インターネット販売での表示については、コーデックスの食品表示部会(CCFL)でも議題になっており、今年5月の47回CCFLでガイドライン原案につき検討予定である17)。議長は英国で、日本はEWG(電子的作業部会)の共同議長である。こちらの国際的な動きも注目しながら、国内の進捗状況を見守る必要がある。

9.おわりに

食品表示の最近の動きについてまとめてみた。筆者が「食品期限表示の設定のためのガイドライン」の策定検討会座長18)を務め、本メルマガで「食品の期限表示についての最近の動き」19)を紹介してから、すでに十数年が経過した。当時の「食品の表示に関する共同会議」では加工食品の原料原産地表示が毎回議論されていたが、昨年4月の全加工食品対象の原料原産地表⽰義務化完全実施などの報道を目にすると、ここまで進んだかと感慨にふけってしまう。正しい食品表示がなされ、それを消費者が有効に使い食品選択をしていくことを切に望んでいる。

文献
略歴

米谷 民雄

国立医薬品食品衛生研究所

名誉所員(元食品部長、元食品添加物部長)

 

京都大学(薬学)で博士課程まで修了。筑波研究学園都市の環境庁国立公害研究所及び米国カンザス大学メディカルセンターでの生体中微量元素の研究の後、世田谷時代の厚労省国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長・部長及び食品部部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究者サイドの中心として対応。2005年日本食品衛生学会賞受賞。2009-2010年度(公社)日本食品衛生学会会長。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授として茶中残留農薬の研究を実施、現在も同大学で講義を継続中。

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