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食品事業者における品質保証・品質管理教育の組織的な取組み②
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
コンサルティング室

1.はじめに

食品事業者において品質保証・品質管理のための教育は非常に重要である一方、事業者によっては教育に掛けることができるコストや時間が不足している。このため、事業者は自らに必要な教育について整理し、優先順位を決めて、効率良く、取り組むことが望まれる。

前号では食品安全マネジメントシステムのISO22000:2018にて要求される力量に対する主な教育や、品質保証・品質管理のために更に必要となる教育について紹介した。

本号では、継続的な教育体制の構築や教育プログラムの作成、教育を効率的に行うためのノウハウ例として、当財団にて事業者への教育支援をこれまで行ってきた中で気づいた、よく見られる問題点とその対策例を紹介する。これらが当てはまる事業者において、改善の参考となれば幸いである。

なお、事業者における教育は多岐にわたるが、本稿では、前号に続き食品事業者において特に重要な品質保証・品質管理教育について記す。

2.よく見られる問題点

 

【問題① 教育推進の担当が不明確】

例えば、新入社員教育は人事部門が対応しているが、他の教育は、各部門でそれぞれ独自に行っており、その教育内容や実施状況の全容を把握する部門が決まっていない。

このような場合、事業者内で教育内容や実施状況が管理されず、教育不足や形骸化に繋がる。

 

【問題② 教育計画の不足】

上記の問題と一部重複するが、新入社員教育や前号に記したISO22000:2018にて要求される力量に対する教育(要求事項を満たすための)については計画されているが、その他の教育については計画されていないことが多いと感じる。

例えば、製造部門においては、前号に記した前提条件プログラムに関する教育計画が不足している場合が多い。また、製造部門以外の開発や購買、物流などの部門に対して、健康被害に繋がる食品安全ハザードや品質リスクに関する教育、それらの未然防止に関する教育などが計画されていないことも多い。

また、計画されている教育でも実施のための時間や経費について検討されていない場合もある。

 

【問題③ 実施後のフォロー体制の不足】

教育の有効性評価として、教育後に受講者にアンケート調査や理解度テストなどを実施される場合が多い。しかし、教育を受けた者が教育された内容を実務に活用し、事業者が求める力量の取得に繋がっているかを確認するには上職者が部下の教育履歴を把握し、計画的に評価するなどのフォロー体制が望まれるが、その体制を構築しておらず、アンケート調査や理解度テストを活かしきれていない事業者が多い。

特に、教育記録を紙媒体のみで管理している場合、これまでの教育履歴を把握しづらく、フォロー体制を構築できていない場合が多く見受けられる。

3.対策

上記のような問題に対して推奨される対策例として、以下の手順による教育体制や教育プログラムの見直しが挙げられる。

 

  • 1) 事業者内の教育の計画や実施状況を把握する担当部門を決める
    製造に関係する部門として、品質保証部門が中心となることが望ましいと考える。
  • 2) 各部門での教育に関する現状を調べ、上記の担当部門に情報を集約する
    情報を集約することによって、各段階でのスキルが平準化され、不足する教育が把握できる。
  • 3) 追加した方がよい教育について担当部門が中心となり、対象の部門責任者と協議する
    協議により、不足する教育だけでなく、クレーム再発防止などの自組織にとって必要な教育を実施することができる。
  • 4) 検討した教育内容を計画として明文化する
    例えば、必要な教育を製品化のプロセス毎で区分し、それぞれに必要な教育プログラムを計画する。
  • 5) 各自の教育履歴を容易に把握でき、それを参考にした力量評価を行う体制を構築する
    教育履歴をスキルマップとリンクできるようにデータベース化できることが望ましい。

 

なお、事業者に合った教育体制の構築は時間を要するものであるため、初期の取組では目標を高く設定せず、実施可能な範囲の内容を追加する方がよい。

また、教育の実施には時間や費用が必要となるため、計画時点で予算化するなどの対応が必要である。計画終了時に集約された教育結果を基に経費も考慮に入れて、計画の見直し、改善を検討する必要がある。

4.効率的な教育方法例

事業者において必要な教育を明確にした後は、それらの教育をできるだけ効率的に実施することが望まれる。教育を効率的に実施するための方法例を記す。

 

【外部機関の利用】

自組織よりも外部の方が効率的に実施できる場合には、専門的な知識や力量を有する外部機関を選定し、活用する方法もある。

例えば、食品を取り扱う上で共通する考え方や基礎知識などは外部機関が行う教育プログラムを活用する方が、効率よくかつ他社の事例など幅広い知識が得られると考える。

また、自組織の過去のトラブル事例などに関する教育は組織内で行われることが多いが、外部機関が第三者の視点から教育を行うことでより客観的で効果的な教育に繋がることもある。

 

【IT活用】

インターネットを利用した学習として、動画や教育資料の配信などによって教育を行う方法も有効である。

スマートフォンなどの電子媒体を活用した方法もあり、受講者が受講しやすいタイミングで個々に教育を受けることができ、未受講者把握や受講者の記録管理なども容易にできるメリットなどがある。

また、確認テストを同時に行い、その結果を分析することで、教育資料や教育方法の円滑な見直しを図ることもできる。

このようなインターネットを利用した学習は外部機関が教育サービスとして提供するケースも多いが、近年、事業者内で安価に提供されている市販ツールを活用し、自らの教育プログラムとして構築されるケースが多くなっている。

5.おわりに

組織的な品質保証・品質管理教育の取組みは、自組織に必要な知識を把握し、効率良く教育されるべきもので、実施した際は対象者の確実な力量の向上が求められる。

食品事業者が現状の教育体制や教育プログラムが適切なものであるかを見直され、必要な教育を実施されることにより、これまで以上に安定した品質の製品を継続して提供できる体制に繋がることを期待する。

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