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ピペットの性能
一般財団法人 食品分析開発センター SUNATEC
第二理化学検査室

はじめに

弊所のメールマガジン 2017年8月号(SUNATEC e-Magazine vol.137)の豆知識「試験に使用する器具の選定 」では、器具の選定の大切さに触れたが、その中で全量ピペットとピストン式ピペットの性能比較を紹介した。ピストン式ピペットは全量ピペットに比べて使用が容易であり、手早く分取できるため、作業効率面でも是非使用したいところである。そこで、実際にどの程度の差が生じるのか、簡易的な方法ではあるが比較試験をしたのでその結果を紹介する。

性能比較

全量ピペットとピストン式ピペットで1 mLを分取した際の排出量を表1に示す。表1より、10%程度のメタノールや食塩を含んでいても、ピストン式ピペットで正確(誤差1%未満)に分取できうることが示された。一方、メタノール含量が高くなると、数回のピペッティングでは、ピストン式ピペット内の圧力が安定せず、吸引後、保持できずに漏れ出す、あるいは余分に吸引するといった、溶媒蒸気とピストン式ピペット内蒸気が平衡化されていないことに起因すると考えられる現象が起きた。そこで、メタノール含量が高いときのピストン式ピペットの連続20回(別に数回ピペッティングを実施)の排出量を図1に示す。回数を増すごとに排出量が漸減していることから、簡易なピペッティングでは、排出量が安定しないことが分かる。メタノール含量が高いときに安定した排出量を得るためには、10回程度はピペッティングを実施しておくことが無難ではあるが、目視で吸引した液体を保持できているか都度確認することが大切である(チップが正しく装着されているかの確認も兼ねることができる)。また、安定したとしても、メタノール含量が高いと誤差が大きくなる(表より、メタノールでは4%)ため、正確さは全量ピペットよりも劣る。一方、全量ピペットは、ピストン式ピペットで必要なピペッティングは不要であり(ただし、共洗いが目的であれば実施が必要である)、メタノールを含む場合での使用でも変動の少ない安定した排出量が得られた。しかし、水及びメタノールの混液(1:1)では、他の溶媒に比べて誤差が大きかった。これは、排出量が1 mLと少量であったために、“球部を掌で温めて”排出できず、吹き出して使用したため誤差が生じやすかった可能性もあるが、純粋な水やメタノールよりもその等量混合物のほうが高粘度であるためではないかと考えられる。全量ピペットは、ピペット内の濡れ(残着液)の量をコントロールすることで精確さを得ている。また、そもそも水を用いたときに保証される精確さである。そのため、粘性や表面張力などが水と異なると、残着量は変わるはずであり、排出量は水の場合と違ってくる。ただ、誤差も1%程度であり、純水なメタノールの場合も十分精確であることから、全量ピペットは通常の使用には差し支えないが、水と比べて、ひどく“さらさら”していたり、とろみがあったりするような液体を採取する場合には、全量ピペットを用いたとしても、その精度は疑ってみることが望ましい。
 今回の比較試験には使用しなかったが、直接置換式のピストン式ピペットを用いれば、液体の粘度や揮発性の影響を受けずに分取することができる。使いやすく、使用者の技能もあまり要求されないので使用したいが、各段に高価であることが難点である。

表1 各種溶媒を使用したときのピペットの排出量

  水及びメタノール
の混液(9:1)
水及びメタノール
の混液(1:1)
メタノール 10w/v%
食塩水
全量ピペット 1.004 1.000 0.990 0.996 1.001
ピストン式ピペット 1.001 0.996  0.998※  1.040※ 1.002

(mL)

試験方法:
風袋既知の全量フラスコを用いて溶媒を正確にはかりとり、比重を算出した。この溶媒1mLをピペットでとり排出量を秤量した(n=5)。得られた平均値を先の比重を用いて容積換算したものを表中に示した。ただし、ピストン式ピペットは、数回のピペッティングののち使用した。
※追加で15回ピペッティングを実施(図1の16~20回目の平均値)

 

図1 ピストン式ピペットにおける排出量の推移

おわりに

全量ピペットとピストン式ピペットの比較の一例を紹介した。水が大部分を占める液体であれば、ピストン式ピペットでも十分な精確さが得られる可能性が示された。一方、非水系では、ピストン式ピペットでは安定しにくく誤差も生じること、全量ピペットも精確とは限らないことも示された。ただし、使用時に要求される精確さ次第では、ピストン式ピペットでも有機溶媒さえも含めて使用に適する可能性がある。全量ピペットの代わりにピストン式ピペットが使用できれば、メニスカスやピペット先端の濡れに気を配る必要がなくなり、作業性が改善するほか、試験系のスケールダウンなどもしやすくなる。担当している試験での全量ピペットを使う必要性を一度考えてみてはどうだろうか。

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