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発酵食品と乳酸菌 -発酵過程における役割と機能-
岐阜大学 応用生物科学部
教授 中川 智行

1.はじめに

私たちは毎日、知らず知らずのうちに様々な発酵食品を口にしている。朝食の場合、和食では大概、一杯のみそ汁から始まり、漬物を頬張りながら、納豆に醤油を垂らしてご飯を掻き込む。一方、洋食では、焼きたてのパンをかじりながら、ヨーグルトを食べる。このありふれた朝食のうち、和食では少なくとも「味噌」、「漬物」、「納豆」、「醤油」が、洋食でも「パン」、「ヨーグルト」は共に微生物の恵みである発酵食品である。また、夜が更けて晩酌を楽しむのが日課の方も多いだろう。もちろん、ビール、ワイン、日本酒などの「酒類」も発酵食品の一つであり、その肴として食する「チーズ」や「発酵サラミ」、通が好む「くさや」や「鮒寿司」などもまた発酵食品である。このように、世の中には様々な発酵食品が存在し、それを醸している微生物も多種多様である。つまり、私たちの食卓は朝から晩まで微生物の恩恵なしでは語ることができない「微生物ワールド」なのである。
 もちろんこれら発酵食品は、昨日、今日、急に現れたものではなく、太古の昔から私たち人類が試行錯誤を繰り返すことで身につけてきた術であり、現在まで伝承してきた先人たちの英知の結晶と言っても過言ではない。しかし、私たちの先祖は微生物の存在を知る由もなく、それぞれの土地の気候風土に応じて経験的に特定の微生物を優先的に生育させる方法を身につけてきたと言える。つまり食品の発酵とは、その発酵過程で能力を発揮する微生物たちに、いかに心地よく働いてもらうか、また発酵過程で不必要な微生物をいかに排除するか、その仕組みを構築することである。
 一方、発酵食品と切ってもきれない関係にある最もポピュラーな微生物群は、現在、巷を賑わせている「乳酸菌」である。乳酸菌は「ヨーグルト」、「チーズ」だけでなく、「味噌」、「漬物」、「醤油」、ときには「パン」や「酒類」の発酵にも関与するなど、ほとんどの発酵食品の製造過程に顔を見せる発酵界の中心的存在とも言えよう。本稿では、この「乳酸菌」について解説し、それぞれの発酵食品の製造過程における役割と、最後に筆者らの「紀州なれずし」の菌叢解析の研究を紹介したい。

2.乳酸菌の種類と分類

乳酸菌という名前は誰もが一度は聞いたことがある微生物名であろう。乳酸菌は、嫌気的に消費したグルコース量に対して50%以上の乳酸を生産するグラム陽性細菌群の総称で、ただ単に乳酸をたくさん作る細菌たちを乳酸菌と呼んでいる。よって乳酸菌は、6科35属にもまたがり、桿菌も球菌も含む非常に多様な細菌群の集合体である1)
 ということは、「乳酸を作る」というだけで分類されている乳酸菌には多様な乳酸発酵経路が存在するのではと思ってしまう。しかし、乳酸菌による乳酸発酵経路は意外とシンプルで、大きく二つのタイプに分けられる。一つは1分子のグルコースから2分子の乳酸を生成する「ホモ乳酸発酵」、もう一つはグルコースから1分子の乳酸とエタノール、CO2を生産する「ヘテロ乳酸発酵」である(図1)。もちろんホモ乳酸発酵の方が乳酸生成量は多く、ヘテロ乳酸菌は発酵中にCO2を生産してしまうため密閉容器中での発酵には適さないなど、乳酸菌の産業利用を考える上で乳酸発酵形式は極めて重要な性質の一つと言える。
 一方、近年、「植物性乳酸菌」と「動物性乳酸菌」という用語をよく耳にする。「植物性乳酸菌」とは植物から分離されやすく、植物質を発酵する乳酸菌の総称で、逆に動物に由来する乳酸菌は「動物性乳酸菌」と呼ばれている。しかし、植物性乳酸菌は人腸内からも単離され、動物性乳酸菌が植物体からも単離されるなど、ただ単に分離源から乳酸菌を分類すると様々な弊害が出てきてしまう。よって学術的には「植物性乳酸菌」、「動物性乳酸菌」という分類はあまり意味をなさないとの意見もあるようだ。しかし、特定の乳酸菌種の植物との相性、ミルクとの相性は筆者も経験上、存在するように感じており、さらには植物性乳酸菌の詳細な解説を拝読するとその定義も納得できる2)。よって、彼らの能力をしっかり吟味した上で上手に使いたい用語の一つである。

図1. 乳酸菌の乳酸発酵形式
図1. 乳酸菌の乳酸発酵形式.

3.様々な発酵食品の製造過程における乳酸菌の役割

先述のように、乳酸菌はほとんどの発酵食品の製造過程に顔を見せる発酵食品の中心的存在と記したが、ではこれらの発酵過程で乳酸菌が担う役割はなんなのだろうか。もちろん、それぞれの発酵食品において働く乳酸菌は異なり、その能力も千差万別である。ただ、確実に全ての発酵食品に共通する乳酸菌の役割は「乳酸の生産」である。当たり前のことではあるが、乳酸菌が主要な菌叢になることで彼らが乳酸を大量に生産する、これが発酵食品の生産段階において最も重要なステップとなっている場合が多い。乳酸は電離度が低い弱酸であり、酢酸、クエン酸などとともに食品の変敗を防止する作用があることが古くから知られてきた3)。酸は、非解離型の方が解離型よりも細胞膜透過性が高いため、弱酸である乳酸は強酸よりも微生物細胞内に侵入しやすく、侵入した乳酸は細胞内でH+イオンを放出することで強い抗菌性を示すことになる3)
 つまり、この「乳酸の抗菌作用」が、乳酸菌が関わる全ての発酵食品に共通する一つの機能であり、発酵食品の「保存性」のほとんどはこの乳酸の抗菌作用に由来すると言える。

4.乳酸菌の発酵食品における他者との共生

発酵食品に関わる微生物は多種多様であり、ほとんどの発酵食品は複合菌叢の変遷により発酵し、熟成する。つまり発酵食品では、その発酵に必要な微生物たちのみを選別し、かつ彼らを正しい順番通り発酵過程に登場させねばならない。その登場人物たち(微生物)をまとめ上げ、その方向性を示しているのが乳酸菌であるのかもしれない。以下にその例を示す。

a.酵母との共生に見る乳酸菌の役割

乳酸菌が生産する乳酸は細菌に対して抗菌作用を示すが、酵母やカビなどの真菌類には比較的抗菌作用を示さない3)。このことは非常に重要な性質であり、様々な発酵食品において乳酸菌と酵母が共生する事例が多数ある4)。日本酒醸造では生酛造りにおいて乳酸菌が重要な役割を持つ。生酛造りでは、Leuconostoc mesenteroidesLactobacillus sakeiなどの乳酸菌が乳酸を生成することで野生酵母や細菌の繁殖を抑え、清酒酵母が優占的に生育できる環境を整えているのみならず、不飽和脂肪酸を消費して酵母の環境適応に貢献している5)。また、味噌・醤油づくりでも、もろみ中で耐塩性乳酸菌Tetragenococcus halophilusが優占種として生育し、その後、耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxiiが活躍するが、清酒酵母と乳酸菌のように相思相愛ではなく、両者の関係は微妙なようで、その存在バランスが醤油の風味を左右する6)。さらには、福山酢のもろみ中でも酵母と乳酸菌、酢酸菌が同時に存在することもあるようで、三者の絶妙な共生により伝統的な福山酢が醸されていることがわかる4)
 また、パンの製造でも乳酸菌と酵母の共生を見ることができる。欧州のパネトーネや北米のサンフランシスコサワーなど、サワーブレッドと呼ばれるものがそれに当たる。これらサワーブレッドでは、スターターに乳酸菌と酵母を用いたサワー種を用いることで、独特の風味と酸味を持った特徴的なパンが作られ、その保存性が高められる7)。イタリア北部で作られる伝統的なパネトーネではLactobacillus sanfranciscensisが主要乳酸菌として酵母と共発酵している8,9)
 その他、ワインのマロラクティック発酵やケフィアなど、その発酵過程で乳酸菌と酵母が共生する発酵食品は多数あり、このようなことからも酵母と乳酸菌の相性の良さを垣間見ることができる。この両者の良好な関係は、上述のように乳酸菌が乳酸を作ることで、比較的乳酸に強い酵母に対して居心地の良い環境を提供している上、酵母の生産するアルコールとともにより雑菌の混入を抑えている、つまり酵母と乳酸菌が共同で砦を守っていると考えることができる。また、乳酸菌は栄養要求性が高く、酵母から様々な栄養素を受け取ることで共生関係を結んでいるとも考えられ4)、両者がお互いを認め合い、うまく利用し合っていると思われる。

b.ヨーグルト発酵過程における乳酸菌−乳酸菌共生系の役割

発酵食品の発酵過程で乳酸菌が共生関係を結んでいるのは酵母だけではない、乳酸菌同士で手を組んで発酵過程を進めているケースもある。
 ヨーグルトはその典型的な例で、国連食糧農業機関・世界保健機構(FAO/WHO)により設立された国際政府間機関「コーデックス委員会」では「Lb. delbrueckii subsp. bulgaricusStreptococcus thermophilusの2種類の乳酸菌の共生作用で乳を発酵させて生産したものをヨーグルトとする」と規定されている10)。両者をスターターとして用いた場合、非常に面白い挙動を示すことが知られている。ヨーグルトの発酵初期では、Stc. thermophilusのみが顕著に増殖し、その後pHが5.5〜5.0に低下するともう一つの乳酸菌Lb. bulgaricusも増殖してくる11)。これは両者が共生関係にあり、Stc. thermophilusLb. bulgaricusにギ酸、CO2などを供給し、Lb. bulgaricusStc. thermophilusにペプチドとアミノ酸を供給することで、お互いの生育を促進している12,13)。また、近年、Stc. thermophilusがNADH酸化酵素によりミルク中の溶存酸素を消費し、嫌気状態を確立することで発酵環境を整え、満を持してLb. bulgaricusとヨーグルト発酵を行なっていることが分かってきた11,14)。さらに、彼らは生育に必要な物質の供給のみならず、共生の過程で生育に必要な遺伝子まで水平伝播にて交換しているようである15)
 このようにヨーグルト発酵におけるStc. thermophilusLb. bulgaricusの関係は非常に親密で、お互いなくてはならないパートナーとして共生関係を結んでいることがうかがえる。

c.紀州なれずしの発酵過程における乳酸菌−乳酸菌共生系の役割

最後に筆者たちの研究について少し触れさせていただく。筆者の出身地、和歌山県日高地方では現在でも秋祭の際、各家庭で鯖の「なれずし」を作り、それを振る舞う習慣がある。私の実家でも毎年、秋祭のシーズンに母が鯖のなれずしを仕込む。子供の頃、あの独特の風味が苦手だった思い出があるが、歳をとるとともに現在、あの味に美味しさを感じている、ヒトの味覚とは不思議なものである…。
 なれずしとは、主として魚介類、ときには鳥獣肉を主材料として、それに塩と米飯を混ぜ、乳酸発酵した保存食で、主に東南アジア、東アジアに分布し、世界の他の地域では見られない独特な発酵食品である16)。日本では、なれずしが現在の一般的な「寿司」の原型と言われ、琵琶湖の「鮒ずし」をはじめ、北海道・東北の「いずし」、加賀の「かぶらずし」、岐阜、三重、兵庫などの「鮎ずし」、紀伊半島の「なれずし」など、現在でもたくさんのなれずしが郷土料理として現存し、その発酵を支える菌叢の解析が多数行われている17,18,19,20)。このような中、私自身、微生物屋として、母の作る「鯖のなれずし」の菌叢に興味を持ち、その解析を行うことにした。
 紀州日高地方のなれずしの製造方法は、材料である鯖を塩漬けにし、その後、塩抜きをしたあと、米飯に乗せて、アセの葉に包んで桶に詰めて重石をする(図2)。発酵は室温で5日程度行うのが「早なれ」、10日以上発酵させるのが「本なれ」と呼ばれ、中には数十年も熟成させたなれずしもあるという。筆者の母が作るなれずしは、一般的な「早なれ」であり、その発酵過程における菌叢を16S rRNAメタゲノム解析を用いて観察した。その結果、発酵開始時には総菌数のうち乳酸菌の割合は1/4程度であったが、5日目には9割以上が乳酸菌に置き換わっており、その主要菌種はLb. plantarumであった(図321)。また、乳酸菌の発酵菌叢における経時変化を追跡したところ、発酵初期は乳酸球菌のLactococcus属が登場し、その後、発酵が進むと乳酸桿菌のLactobacillus属が顕著に増加した(未発表データ)。また、発酵初期に現れるLc. lactisと発酵後期に現れるLb. plantarumの混合培養を行ってみると、好気条件下ではLc. lactisが優占的に生育するが、静置培養ではLb. plantarumが独占的に生育した(未発表データ)。つまり、なれずしの発酵においても、ヨーグルト菌叢と同じく球菌から桿菌への乳酸菌変遷が起こり、その鍵因子はどうも「酸素」のようである。
 なれずしの発酵過程の解析は、まだまだ道半ばではあるが、その発酵過程を紐解くことで伝統的発酵食品の魅力を再発見できるのではと考えている。

図2. 紀州なれずしの製造過程. ①−② 塩漬け-塩抜きをした鯖を米飯の上にのせる、③−④ アセの葉で包み、桶に隙間なく詰める、⑤ 重石をし、5日間、室温で発酵させる、⑥ 完成。

図2.紀州なれずしの製造過程. ①−② 塩漬け-塩抜きをした鯖を米飯の上にのせる、
③−④ アセの葉で包み、桶に隙間なく詰める、⑤ 重石をし、5日間、室温で発酵させる、⑥ 完成。

図3. 紀州なれずしの発酵5日目の菌叢解析.
図3. 紀州なれずしの発酵5日目の菌叢解析.

5.おわりに

本稿では「発酵食品と乳酸菌 -発酵過程における役割と機能-」と題して、様々な発酵食品の製造過程における乳酸菌の役割と機能を簡単に紹介した。世間では、「発酵食品は体に良い」と発酵食品を全て一括りで語っているが、もちろん発酵食品の製造過程は千差万別で、そこでメインに働く微生物もまた多種多様であるので、全ての発酵食品を同じ土俵で比較することはできない。ただ、大多数の発酵食品において乳酸菌がそれぞれの発酵過程をリードし、他の微生物たちの能力を引き出しているようである。このように発酵食品の発酵過程にもそれぞれの微生物の思惑と生き様が見え隠れし、多くの発酵食品で発酵微生物を統率し、まとめ上げている乳酸菌種の働きはとても興味深い。もちろん発酵食品のプロバイオティクスとしての機能もとても興味深いが、発酵食品を醸す微生物たちのドラマに目を向け、先人たちが築き上げてきた英知の結晶「発酵」を理論的に知ることで、また先人たちの偉大さと発酵食品の面白さを再認識できるかもしれない。

参考文献

1) 平山 洋佑, 遠藤 明仁. 腸内細菌学雑誌, 30: 17-28(2016)

2) 岡田 早苗. 日本乳酸菌学会誌, 13: 23-36(2002)

3) 内藤 茂三. サナッテクメールマガジン. http://www.mac.or.jp/mail/120401/03.shtml(2012)

4) 古川 壮一, 片倉 啓雄. 生物工学, 90: 188-191(2012)

5) 溝口 晴彦. 日本醸造協会誌, 108: 382-388(2013)

6) 田中 昭光. 生物工学, 85: 196(2007)

7) 仲田 弘明, 長谷川 秀樹, 櫻井 博章, 田村 雅彦. 日本食品科学工学会誌, 57: 85-90(2010)

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9) Maruyama Y, Okada S. Food Preserv Sci, 32: 59-66(2006)

10)日本乳酸菌学会編. 乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス(京都大学学術出版会, 京都),(2010)

11)Sasaki Y, Horiuchi H, Kawashima H, Mukai T, Yamamoto Y. Biosci Microbiota Food Health, 33: 31-40(2014)

12)佐々木泰子. 日本乳酸菌学会誌, 27: 167-175(2016)

13)小田 宗宏. モダンメディア, 62: 367-374(2016)

14)佐々木泰子. 日本乳酸菌学会誌, 26: 109-117(2015)

15)Liu M, Siezen RJ, Nauta A. Appl Environ Microbiol, 75: 4120-4129(2009).

16)石毛 直道. 国立民族学博物館研究報告, 11: 603-668(1986)

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18)Matsui H, Tsuchiya R, Isobe Y, Narita M. J Food Sci Technol, 50: 791-796(2013)

19)Koyanagi T, Kiyohara M, Matsui H, Yamamoto K, Kondo T, Katayama T, Kumagai H. Lett Appl Microbiol, 53: 635-640(2011)

20)Koyanagi T, Nakagawa A, Kiyohara M, Matsui H, Yamamoto K, Barla F, Take H, Katsuyama Y, Tsuji A, Shijimaya M, Nakamura S, Minami H, Enomoto T, Katayama T, Kumagai H. Biosci Biotechnol Biochem, 77: 2125-2130(2013)

21)Nakagawa T, Kawase T, Hayakawa T. Food preserv Sci, 42: 243-246(2016)

略歴

中川 智行(ナカガワ トモユキ)
岐阜大学応用生物科学部
応用生命科学課程 教授

1999年
京都大学大学院農学研究科 博士課程修了 博士(農学)
1999年
東京農業大学生物産業学部食品科学科 助手
2001年
 同 講師
2007年
岐阜大学応用生物科学部食品生命科学課程(現 応用生命科学課程) 准教授
2013年
 同 教授  現在に至る
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