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食事によるポリフェノールはどこまで効能があるのか
修文大学 健康栄養学部
准教授 丹羽 利夫

1.ポリフェノールとは

食品には生命を維持するための一次機能、香りや味を楽しむ二次機能、さらにはからだを健康に保つための三次機能があるとされています。この食品の三次機能を示すものとして近年、いわゆるポリフェノールが注目されています。
 ポリフェノールはその名のとおり少なくとも一つ以上フェノール性水酸基を有する化合物の総称で、多くの植物に含まれます。ではそもそもなぜ植物はこのような物質を作るようになったのでしょうか。もちろん本当のことは植物自身に尋ねてみないとわからないわけですが、われわれ人間の考えでは「植物は移動、すなわち何らかの障害が来ても逃げることができない。そのため紫外線や虫などの外敵から身を守るためこのような物質を作るようになった」とされています。また、このように植物にとって有益なものはわれわれ人間にとっても有益なのではないかと考えられるわけですが、先人はすでに漢方薬や民間療法として、(ポリフェノールを含むであろう)植物を素材として、薬として用いてきました。現在そのような薬としても用いられるような様々な食品中の有効成分に関しての研究も進んでおり、そのすべてをここで書くことはとてもできませんので、本稿では食品に含まれる微量機能性成分として、われわれ日本人になじみの深い緑茶・大豆・カレーの3つの食品中に含まれるポリフェノールについて、以下述べていきたいと思います。

2.緑茶

われわれ日本人は子供のころから緑茶に親しんでいることもあり、緑茶が嫌いという人は少ないと思いますが、海外では「家畜の餌である牧草のにおいがする」ということからかつてはあまり飲む人はいなかったそうです。しかしながら近年シリコンバレーなどでは緑茶が人気だそうです。その理由としてはもちろん和食ブームやクールジャパンあるいは国内緑茶メーカー各社の努力があると思いますが、緑茶に含まれる「カテキン」の、がんやアルツハイマー病をはじめとした様々な疾病予防効果が、作用機序を含めて明らかにされてきたことがあります。
 なかでもアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβタンパクに対する実験(Ehrnhoefer et al., 2008)は、食品に含まれる微量成分による、アルツハイマー病などのアミロイド仮説に基づく様々な疾病に対する抑制作用を示しました。またその後、多くのポリフェノールにもアミロイドβタンパクをはじめ、パーキンソン病の原因ともいわれるα-シヌクレインなどに対しても病原たんぱく質重合の抑制や細胞毒性の低下作用が見いだされたという点で、大きな意味があったように思われます。とはいえ残念ながら現時点で我が国において、アルツハイマー病の抑制が成功しているとは言えないのが現状でしょう。もちろん「緑茶を飲んでいるからこのくらいで済んでいる」あるいは「今以上に緑茶を飲む量を増やせば・・・」という可能性はゼロではありませんが、現時点では「茶飲み話」の域を出ないように思われます。
 なおカテキンはいくつかの類縁体を含む総称であり、お茶のカテキンの代表ともいえるものがエピガロカテキンガレート、通称EGCGです(Fig. 1)。そしてこのEGCGを用いた実験により多くの疾病予防の可能性が明らかにされてきました。その一方で、ご存知の方も多いかと思いますが、同じお茶の葉を原料に作られるものにウーロン茶や紅茶があります。これらの嗜好飲料にはEGCGはほとんど入っていません。ではウーロン茶や紅茶にあまり三次機能は期待できないのでしょうか。緑茶と比べてどうかということは今後の研究を待たなくてはいけませんが、これらのお茶にも多くの機能があると推測されます。なぜならウーロン茶や紅茶は「お茶の葉」を発酵させて作ります。この過程でEGCGという物質は反応し減少しますが、消失するのではなくいくつかつながった重合体と呼ばれるものになります。これらの多くはフェノール性水酸基を有しているため、単純に言えばEGCGという物質は減少しても新たなポリフェノールが生成し、ポリフェノールとしては減らないということになります。ではこのような重合したポリフェノールの機能はEGCGと比べてどうなのかということを調べなければならないのですが、いくつかの紅茶のテアフラビン類は市販されていますがまだまだ高価で、EGCGのように簡単に実験ができないため十分に比較するだけのデータがないのが現状です。とはいえ特定保健用食品(トクホ)のウーロン茶も存在するように、今後そういったことも徐々に明らかにされていくのではないでしょうか。

Fig. 1 緑茶・大豆・カレーに含まれる代表的なポリフェノール

3.大豆

大豆もわれわれ日本人にとってはなじみの深い食品ですが、実は大豆も緑茶と同様、海外ではあまり食べられない食材でした。特に欧米では大豆イコール家畜の飼料という認識がされていたそうです。しかしながら大豆についても近年、その機能性が明らかになるにつれ海外での消費が拡大しているようです。実際「tofu」は海外でも通用するそうですし、「kikkoman」といえば醤油が出てくるそうです。
 ではこの大豆の機能性とはどのような成分に由来するのでしょうか。かつては主に大豆たんぱくあるいは食物繊維が注目されていました。現在もこの研究は進んでいますが、今回は「ポリフェノール」ということで「大豆イソフラボン」と呼ばれる物質に注目してみましょう。お茶のポリフェノールの代表がEGCGであるように、大豆のポリフェノールの代表が「ダイゼイン」と「ゲニステイン」であり(Fig. 1)、これらはまとめて大豆イソフラボンと呼ばれたりします。これらの大豆イソフラボンは大豆中には主に配糖体や有機酸のエステルとして存在しています。このような配糖体や有機酸のエステルはその状態では活性が低いとされていますが、大豆を食べた際にはグルコシダーゼなどによる分解を受けて大豆イソフラボンとなり、機能を示すとされています。なお豆乳などのパッケージには大豆イソフラボンの量を「アグリコンとして」記載することが多いようですが、これは豆乳などの大豆製品に含まれる大豆イソフラボンの配糖体や有機酸エステルなど様々な形態の「大豆イソフラボン」をきれいに分解して、大豆イソフラボンだけを取り出したらこれだけの量になるといった意味です。
 大豆イソフラボンの機能も数多く報告がありますが、特徴的なものとしてはいわゆる「女性ホルモン様作用(エストロゲン作用)」であり、植物由来のエストロゲン作用物質ということでファイトエストロゲンなどとも呼ばれます。大豆イソフラボンはその化学構造が女性ホルモンであるエストラジオールに似ていることから(ぱっと見似ていないような気もしますが)、女性ホルモンの受容体に結合することができ(Jiang et al., 2013)、女性ホルモンとして作用すると考えられています。そのことから、閉経後のホルモンバランスの乱れからくる諸症状、なかでもいわゆる更年期障害あるいは骨粗鬆症といった症状を改善するためのホルモン補充療法としての活用が期待されています。
 しかしながら、女性ホルモンは乳癌のリスクとされており、素人判断による乱用には注意が必要です。ただし、疫学研究では、大豆(イソフラボン)の摂取は乳癌リスクを低減させるといわれています。

4.カレー

最後にカレーですが、カレーに入っているクルクミン(Fig. 1)は我が国においてはその知名度において市民権を得たといってもいいのではないでしょうか。特にお酒をよく飲む方は脳裏にあのボトルが思い浮かぶ方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際に飲む前に飲むと次の日がまるで違うなどという意見も耳にします。とはいえ、過信して飲みすぎては本末転倒ですので、ほどほどに。
 またクルクミンはポリフェノールではありますが、もう一つその化学構造の中に「β-ジケトン」という他のポリフェノールにはあまり見られない構造を持っています(Fig. 1)。そしてフェノール性水酸基を持たなくてもこのβ-ジケトンを含む基本骨格のみで活性を示す場合もあること(Albena et al., 1999)、あるいはこのβ-ジケトンを化学的に改変することによって生理機能が変わることから(Bernald et al., 2009, Okuda et al., 2016)、クルクミンはポリフェノールとしてだけではない作用を持つのかもしれません。もしそうなら、クルクミンは他のポリフェノールとは異なる作用機序によりユニークな作用を示すことも期待できます。
 同様にクルクミンの構造上の特徴として、ケトエノール互変異において非常に長い共役系を有するということが挙げられます。このことによりクルクミンはその特徴的な黄色い色を呈するといえます。逆にいえばこの共役系に関係する主鎖の二重結合を還元すると色を失います。この代表ともいえるものがテトラハイドロクルクミンと呼ばれるもので、近年この物質を含むサプリメントも海外では売られているようです。しかし後述しますが、近年クルクミンが生体内においてテトラハイドロクルクミンに代謝されることも明らかにされており、色の好みはともかくあえてサプリメントとして取る必要があるかは疑問です。
 クルクミンの機能をいう際よく目にするのは、カレーの本場であるインドと他の国の疾病リスクを比べるものがあります。実際にこのような疫学研究は数多くなされています。とはいえ、これが本当にクルクミンに由来するのか、他の要因、たとえばヒンドゥ教による食環境(たとえば牛を食べない)なのか、あるいは交通事情などによる一日の運動量などの影響といったものについても含めて判断する必要があり、インドにおけるアルツハイマー病患者数がアメリカと比べ少ないからといってそのすべてを食品、なかでもカレー(クルクミン)を原因とするのは飛躍しすぎではないでしょうか。

5.ポリフェノールの生体での効能

最後に、このようなポリフェノールをはじめとする食品の効能について考えたいと思います。いまさらという気もしますが、上述のようなポリフェノールの機能はどのようにして明らかにされたのでしょうか。大きく分けて以下のようなものがあります。
  1)酵素やたんぱく質の反応を見る
  2)培養細胞での反応を見る
  3)マウスなどの実験動物での反応を見る
  4)ヒトでの反応を見る
 基本的に下に行くほど、ヒトに対する機能評価の正確さは増すのですが、その分サンプル(と資金)が大量に必要になります。そのためヒト試験では精製されたサンプルではなく、「目的とする成分をそれなりの量含む」ようなものを与えるということが増えます。そうすると得られた結果が見たい成分の結果なのかどうかという部分での正確性が下がります。またヒトでは食事の管理についての影響も出ます。やはり何十人に毎日同じ食事をとってもらい、さらには運動・生活サイクルといったものを含め食事以外を均一にするというのはなかなか大変だということは容易に想像されます。また「ヒトでの反応を見る」には「4.カレー」で述べたように、疾病リスクの異なる二つの地域に着目し、その原因を推理するというアプローチもありますが、その正確さもそこで述べたとおりです。
 筆者はお医者さんではなく、また血を見るのも嫌いなので「酵素やたんぱく質の反応を見る」「培養細胞での反応を見る」という手法を主に取り入れていますが、学会などではときおり「ヒトで見なければ意味がない」という方がいらっしゃいます。理想はそうかもしれませんが、私としては「ヒトでの作用」よりも「化学構造の明らかな物質の(最終的にヒトに効くかはさておき)何らかの作用」を明らかにするという姿勢で臨んでいます。そうすればたとえその物質がヒトで全く効かなくても、その物質を化学的に修飾するなどしてヒトでも効くようにすることができると考えているからです。もしもこの拙稿をご覧になられた方の中に今後、私の発表などを聞かれる方がいらっしゃれば、ああそういう考え方なんだと温かく見守っていただければ幸いです。少し話がそれましたが、効能を調べる方法には一長一短があると考えます。
 ではなぜ細胞では効いたのに、ヒトでは効かないということが起こるのでしょうか。もちろん理由はいろいろあるのでしょうが、ポリフェノールについていえば、体内への吸収が悪いということが挙げられます。すべてのポリフェノールの詳細な体内動態を明らかにするというところまで至っていませんが、一般的に食事により取り込まれたポリフェノールはその一部が吸収されるのみであり、取り込まれたものも硫酸やグルクロン酸抱合体として水に溶けるように代謝され、速やかに尿として排出されるとされています。
 さらに近年ポリフェノールが腸内細菌などの働きにより、摂取後様々な形に代謝されることが明らかになっています。筆者らも大豆イソフラボンの腸内細菌代謝に関して明らかにしてきましたが(Niwa et al., 2010, 2015)、EGCGやクルクミンについても腸内細菌による代謝が明らかにされつつあります(Hassaninasab et al., 2011, Herath et al., 2007, Takagaki and Nanjo, 2010)。またこのような腸内細菌ブームにより、近年大豆イソフラボンのひとつであるダイゼインから腸内細菌により産生されるエクオールという物質が注目されています。とはいえ、エクオールの生理作用は確かにダイゼインより増えますが、大豆に十分量含まれているもう一つの大豆イソフラボンであるゲニステインとはそれほど変わらないというのが現実です(Jiang et al., 2013, Niwa et al., 2010)。とはいえ、ポリフェノールの腸内細菌による代謝研究は始まったばかりともいえ、そのような代謝が生理機能にどのような影響があるのか今後の研究が待たれます。
 特殊な場合を除き、我々はこのようなポリフェノールを口から摂取します。そしてこれらがどのように吸収・代謝・排泄されるかは必ずしも明らかにされていません。特に腸内細菌は人によって異なるため、その代謝はまさに十人十色です。また、上述のように、「酵素やたんぱく質の反応を見る」「培養細胞での反応を見る」ことができても、その有効成分が吸収・代謝をへて、必要な部位にどれだけ存在するかは十分に解明されていないのが現状です。

「食事によるポリフェノールはどこまで効能があるのか」というテーマに否定的なことを多く書いたような気がしますが、私自身その効能をすべて否定しているわけではなく、まだまだ不明な点・解明しなければいけない点が数多く残されているということをお伝えしたいのです。そういった科学的な視点とともに、マスコミには「これを食べればカンタンに~できる」といったアイキャッチがあふれていますが、運動も含めた生活環境全般を改善しなければならないことはいうまでもありません。
 本拙稿がお読みいただいた方の、健康の一助になることを願いつつ、締めとさせていただきます。

参考文献

Albena et al., Relation of structure of curcumin analogs to their potencies as inducers of phase 2 detoxification enzymes. Carcinogenesis, 20, 911 (1999).

Bernald et al., Curcumin-cross-links cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) polypeptides and potentiates CFTR channel activity by distinct mechanisms. J. Biol. Chem., 284, 30754 (2009).

Ehrnhoefer et al., EGCG redirects amyloidogenic polypeptides into unstructured, off-pathway oligomers. Nat. Struct. Mol. Biol., 15, 558 (2008).

Hassaninasab et al., Discovery of the curcumin metabolic pathway involving a unique enzyme in an intestinal microorganism. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5462 (2011).

Herath et al., Microbial metabolism. Part7: Curcumin. Nat. Prod. Res., 21, 444 (2007).

Jiang et al., Mechanisms enforcing the estrogen receptor β selectivity of botanical estrogens. FASEB J., 27, 4406 (2013).

Niwa et al., Reduction of leptin secretion by soy isoflavonoids in murine adipocytes in vitro. Phytochem. Lett., 3, 122 (2010).

Niwa et al., Stereochemical determination of O-desmethylangolensin produced from daidzein. Food Chem., 171, 153 (2015).

Okuda et al., Design and synthesis of curcumin derivatives as tau and amyloid β dual aggregation inhibitors. Bioorg. Med. Chem. Lett., 26, 5024 (2016).

Takagaki and Nanjo, Metabolism of (−)-epigallocatechin gallate by rat intestinal flora. J. Agric. Food Chem., 58, 1313 (2010).

略歴

丹羽 利夫(にわ としお)

略歴
1991年3月 名古屋大学農学部農芸化学科卒業
1993年3月 名古屋大学大学院農学研究科博士課程(前期)農芸化学専攻修了
1993年4月 民間企業に約10年勤務
2004年10月 名古屋大学大学院生命農学研究科より学位取得
 任期付研究員等を渡り歩いたのち、
2012年4月 尚絅学院大学総合人間科学部健康栄養学科准教授
2015年4月 修文大学健康栄養学部管理栄養学科准教授 現在に至る

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