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食品の理化学検査のための試料調製
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検体調製室

食品中の各種成分の検査を行うためには、検査に供する試料が、その食品を代表していることが重要である。今月号では、理化学検査に供する食品の試料調製について紹介する。

1.食品の試料調製とは

「試料調製」とは、検査の対象となる検体(食品)に対し、縮分、粉砕等の処理を行い、検査に供するための「試料」を調製することをいう。
 食品の検査に供する試料量は、検査項目によって異なるが、おおよそ1~10g程度である。多項目の検査を行う場合であっても、検査に供する試料を調製するために処理する検体の総量は100g~300g程度で、多くても1kg程度までである。
 輸入食品の検査では、検査を行う食品衛生法に基づく登録検査機関等が、該当する年度の「食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令の実施について」(厚生労働省 輸入食品安全対策室長通知)又は「輸入食品等モニタリング計画」の実施について」(厚生労働省 輸入食品安全対策室長通知)において、検査項目、包装形態、ロットの大きさ、食品の性状、検査の対象となる成分の濃度分布を考慮し、ロット(同一条件で製造された品物)を代表する均質性が確保された検体を採取できる様に定められたサンプリング計画に基づき、検体の採取を行い、その検体から検査に供する試料を調製している。
 一方、一般食品の検査では、依頼者から提供された検体が均質性を確保したロットの代表であるかどうかの判断は、検体を採取し、検査機関に提供する食品製造業者、販売業者等に委ねられている。検査を受託する検査機関の立場としては、提供された検体がロットを代表していることを前提として、調製した試料が提供された検体を代表していることが重要となる。

2.試料調製

1)検査部位

食品の栄養成分等の検査は、通常、食さない部分を除いた可食部について行うが、魚の皮や小骨、りんごの皮等は人によって可食部の考えが異なるため、どの部分を除去して検査するかの検査部位の指定が必要となる。表1に除去部位の例を示す。

表1. 食品の除去部位例

食品 除去部位
さくらんぼ、桃 果柄
ほうれん草 株元
玉葱 りん皮、基盤部
しいたけ 柄の基部(石突き)
頭部、骨、ひれ
えび 背わた

一方で、食品の残留農薬等の検査の検査部位は、残留する危険性を考慮した検査部位となるため、残留農薬等の検査行う場合には、厚生労働省食品安全部から公表されている農産物等の食品分類表、及び食品、添加物等の規格基準(昭和34年12月28日、厚生省告示370号)の検体に示された検査部位に従う場合が多い。又、残留農薬基準への適否を判断する場合には、食品分類ごとに指定された検査部位を使用して、検査することが必要となる。
 (メールマガジンvol.038 2009年5月号参照)

2)縮分

検査の対象となる食品の各成分は、部位によって偏りがある。本来は全量を調製する必要があるが、形が大きすぎる、重量、又は容量が多すぎる場合には、全体を分割して代表となる部分を採取する。これを「縮分」という。縮分には、「円錐四分法」、「対角縮分」、「1/○縮分」、「代表試料選出」等がある。キャベツの対角縮分による縮分の例を図1に示す。

総アフラトキシンの算出例
図1. キャベツの対角縮分の例
3)加工食品の調製

惣菜等の調理済食品や加工食品の場合、包装容器内で食材に偏りがあるため、内容物の全量を調製する必要がある。また、全量を取り出したつもりでも、包装容器の内側に、ソース、たれ等が付着していることが多いため、図2に示すように、付着物もできる限りヘラ等により掻き取らなければならない。

包装容器内側の掻き取り例
図2. 包装容器内側の掻き取り例

3.試料の調製

1)試料の均質化

食品の各成分の検査を行うための試料の調製は、検査の一部であり、最初に行う工程である。そのため、食品の性質、温度、検査項目に応じた調製方法を選択して均質化を行わなければならない。調製器具には、包丁、はさみ、乳鉢、フードプロセッサー、ミル、ジューサー、大型粉砕機等があり、食品の量や硬さ、検査の採取量や検査の対象となる成分に応じた調製後の試料の性状(細かさ等)によって使い分ける必要がある。調製器具の内、粉砕器具の例を図3に示す。

粉砕器具例
図3. 粉砕器具例
2)調製時の前処理

油分が多い分離型ドレッシング等は、粉砕混合するだけでは均質化させることが困難である。そのため、このような食品は、調製時に乳化剤を添加し、粉砕混合することで乳化処理を行い、均質化することにより、検体を代表する試料を調製することができる。
 また、ビタミン類や一部の農薬では、粉砕により分解や酸化が生じる可能性がある。この対策として、調製時に分解や酸化を防止するための処理を行う必要がある。例えば、レチノールやカロテンでは、ピロガロールによる処理、ビタミンCでは、メタリン酸による処理、農薬のカプタホール、キャプタン等では、リン酸による処理を行うことで、粉砕等の調製時の分解や酸化を抑えることができる。

4.まとめ

食品の試料調製は、食品の検査において、最初に行われる工程である。この工程で不均一な試料が調製されると、その後の検査を精度よく行っても、食品を代表する検査結果を得ることができない等、その検査結果は意味をなさないものとなる。さらに、検査項目の特性を理解することなく試料調製を実施すると、検査の対象となる成分の分解や酸化を誘発することにもなる。
 このように食品検査において、食品の試料調製が非常に重要な工程の一つであることを、食品の検査に携わる者は常に認識しておかなければならない。

参考文献

食品衛生検査指針 理化学編 2015 公益社団法人日本食品衛生協会
新・食品分析法 日本食品科学工学会 新・食品分析法編集委員会編
新 食品分析ハンドブック 菅原 龍幸、前川 昭男 監修 
日本食品標準成分表 2015年版(七訂)食品マニュアル・解説 
  文部科学省技術・学術政策局 政策課 資源室 監修
  安井 明美、渡邊 智子、中里 孝史、渕上 賢一 編

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