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第9版食品添加物公定書作成検討会の報告書内容について概説
国立医薬品食品衛生研究所名誉所員
(第9版食品添加物公定書作成検討会委員)
米谷民雄

Ⅰ.はじめに

第9版食品添加物公定書作成検討会報告書が、2014年3月26日開催の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会において報告された。平成22年7月から平成26年1月の3年半をかけて、12回の検討会、16回の作業部会、その他の打合会などで検討され、まとまったものである。今後、食品安全委員会への諮問、消費者庁への連絡、パブリックコメント、WTO通報などの手続きを経て、平成27年に官報告示される計画となっている。第8版公定書は平成19年に刊行されているため、前版から最短でも8年後の刊行となる。検討会の報告書が部会に報告されたのを機に、報告書に収められた今回の改正の概要について説明させていただく。

Ⅱ.第9版食品添加物公定書作成における重要課題

新規に食品添加物に指定される品目には指定時に成分規格が設定されるため、検討会で新たに規格を検討する品目は、既存添加物の未収載品目が主となる。その中で、特に多く残っていたのが酵素品目である。その結果、今回新規収載される既存添加物87品目中、62品目が酵素品目となっている。
 既存添加物名簿では酵素はその機能が品目名となっている。そのため、同一品目名ではあるが複数の基原から得られる酵素品目が、規格設定の困難さからこれまで未収載で残っていた。収載するとなると、①酵素活性をどのように規定するのかという難題がまず持ち上がる。また、②酵素品目に対しては一般試験法の微生物限度試験法が重要になるが、これまでは日本薬局方に準拠した試験法になっており、近年の国際汎用添加物の指定作業の中で、JECFA規格の微生物試験法と異なるために問題となっていた。さらに、③これまでJECFA規格と整合をはかるために、従来の主として鉛を対象とした重金属試験法(呈色の比較)を鉛単独の鉛試験法(原子吸光光度法)に変更してきたが、酵素品目が主に製剤として流通しているため製剤を含めた規格とすることになり、現行の鉛試験法で採用している前処理法で対応できるか懸念された。加えて、④新規収載予定の酵素品目には、遺伝子組換え食品添加物が含まれてくる品目があり、それをどのように公定書に含めるかという問題もあった。このように、残されていた酵素品目を収載するにあたっては、解決すべき課題が山積していた。

Ⅲ.酵素品目への対応

作成検討会での検討の結果、①については、1品目の規格の中に複数の活性試験法を並列記載し、そのいずれかに適合することを確認試験とした。なお、JECFAにおいては同じ酵素名でも基原別に規格を設定している。
 ②への対応としては微生物限度試験法がJECFA法にあわせる形で改められ、生菌数試験、真菌(酵母及びカビ)数試験、大腸菌群及び大腸菌試験、サルモネラ試験の新しい方法が示された。なお、酵素品目には自家消費が想定される場合があり(11品目)、その場合には微生物限度試験を適用しないことになった。自家消費といっても、それを使用して製造された食品は市場に流通する場合がある。これについては、今後、具体的な内容が示されるものと思われる。
 ③の鉛試験法(原子吸光光度法)では酵素製剤にも対応できるよう、前処理法が全面的に見直され、現行の2法のうち1法を削除し、新たな方法を追加して、全部で5つの方法を収載することが提案されている。
 ④の安全性審査の手続きを経た旨の公表がなされている遺伝子組換え食品添加物が含まれてくる品目は、現在のところ7品目である。それらの遺伝子組換え添加物については、食品安全委員会の審査を受けていることを考慮し、「遺伝子組換えに係る審査を受けた酵素については,当該酵素の定義の基原に係る規定を適用しない」こととされ、そのことを「D 成分規格・保存基準各条」のはじめに明記することになった。そのほかに、安全性審査の結果、セルフクローニングやナチュラルオカレンスであるとして、組換えDNA技術応用添加物には該当しないとされている添加物については、定義(基原)にその菌種が入るようにされている。

Ⅳ.その他の主な改正点

1) 通則
 これまで試験に用いる水は,「別に規定するもののほか、(日本薬局方の)精製水とする」とされていたが、今回「飲用適の水を精製した水」と、食品分野の表現に変更される。ただし、「飲用適の水」については食品製造と密接に関わる水の規格であり、清涼飲料水等の規格基準の改正に伴い「食品製造用水」が新たに規定されたことから、今後、修正があるかもしれない。
なお、「飲用適の水」と清涼飲料水については、Sunatec e-Magazineの
 ・vol.45(http://www.mac.or.jp/mail/091201/01.shtml
 ・vol.56(http://www.mac.or.jp/mail/101101/01.shtml
においても、その動向をお伝えしてきた。再度、参照していただければ幸いである。

 2) 一般試験法
 上述した微生物限度試験法や鉛試験法(原子吸光光度法)の他にも、一般試験法の変更は多い。その代表例だけを述べる。
 (1) タール色素試験法
 タール色素試験法においては、ろ紙クロマトグラフィーを用いて試験されてきた「他の色素」がやっと削除され、液体クロマトグラフィーによる試験のみになる。ろ紙クロマトグラフィーでは、最初は薄いが見えていた「他の色素」のスポットが、規定の高さまで展開すると見えなくなり、昔の国家検定に合格するということも時々あったが、今後はすべて数値的に規制されることになる。
 (2)香料試験法
 香料化合物では国際汎用添加物として国の職権で54品目が指定予定であり、2014年6月末現在ですでに51品目が指定されている。その多くが今回の第9版で新規収載される。それらの成分規格の項目は香料としての特性を考え、含量と性状(色と「特有のにおいがある」等の記載)のほかに、確認試験では赤外吸収スペクトルを参照スペクトルと比較して確認し、定量は香料試験法中のガスクロマトグラフィーによる面積百分率法で実施するのが基本である。そのほかに屈折率、比重、融点などの規格値が選択的に設定される形となっている。
 その結果、以前から公定書に収載されていた78品目の香料化合物にくらべると規格の項目数が少なくなっている。そのため、香料化合物の規格統一がはかられ、以前から収載されていた品目では、純度試験から重金属(Pb)やヒ素の規格が削除される。また、一般試験法の香料試験法では一部の項目がけずられる一方、定量法としての「香料のガスクロマトグラフィー」が拡充される。その結果、香料化合物全体において、赤外吸収スペクトルを参照スペクトルと比較する確認試験と、ガスクロマトグラフィーの面積百分率法による定量が、成分規格の柱になっている。

 3)試薬・試液等について
 試薬・試液等については、原則としてJISに基づく名称に変更される。

 4)成分規格・保存基準各条
 (1)各条の右上に、その品目が指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物のいずれであるかが記載されることになった。
 (2)屈折率や比重などの規格はこれまで純度試験の中に置かれていたが、独立した示性値として純度試験の前に置かれることになった。
 (3)純度試験で、ヒ素の規格値が従来のAs2O3としての値から、Asとしての値に変更される。そのため、数値はおおよそ3/4になる。
 (4)成分規格・保存基準各条の分量は、報告書で726頁にわたっている。そのなかで、筆者が担当時代から頭を悩ませてきたのが、酵素反応により糖を付加させた既存添加物品目の規格である。指定添加物のL-アスコルビン酸2-グルコシドのように糖を1個だけ付加したものの場合は簡単だが、糖を複数個(数個~数十個)結合させた混合物1)である場合は、含量を規定する際の表現法が難しい。今回新規収載される酵素処理ルチン(抽出物)や成分規格改正が行われるα-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビアなどがその例である。そこでは含量規定の複雑さと連動して、定量法も大変面倒なものになっている。

 5)製造基準
 第7版公定書から、既存添加物や天然香料を製造する場合の溶媒が規定され、残留基準が設定された溶媒もあった。第9版では酵素品目が新規に多数収載され、微生物を用いて製造される場合もあることから、製造基準として「微生物の菌株として、非病原性の培養株以外のものを用いてはならない。また、微生物の菌株として毒素を産生する可能性のある培養株を用いる場合は、精製の過程で毒素を除去しなければならない」との基準が追加されている。

Ⅴ.第8版公定書と既存添加物名簿収載品目リストの齟齬

既存添加物名簿収載品目リスト(現在365品目収載)の「基原・製法・本質」の内容と、第8版食品添加物公定書(2007年)における「定義」の内容に一部齟齬があったため、平成26年1月30日にリストの一部改正が消費者庁から通知された(消食表第376号)。公定書では、添加物製品にたとえば「乳糖又はデキストリンを含むことがある」と記載されているのにリストにはその記載がなかったり、反対に公定書にはない抽出時の温度がリストに示されていたりしたためである。第9版で新規収載される品目についても、今後、改正が検討されるのであろう。

Ⅵ.おわりに

以上、既存添加物制度発足時の天然添加物担当者として、第9版食品添加物公定書作成検討会の報告書の内容について述べさせていただいた。検討会終了後、すでに4月10日に1品目、6月18日に3品目が新たに食品添加物に指定されている。第9版公定書の告示まではまだ1年(以上)あるため、今後も新たに指定される品目がでてくるであろう。それらについても、収載に向けた作業が進められると思われる。
 平成7年に経過措置として既存添加物の制度が導入されてから、ほぼ20年になろうとしている。既存添加物品目の公定書収載は第7版から始まったが、今回の改訂で流通している既存添加物品目の収載がほぼ完了したといえる。一方で、平成7年の食品衛生法改正時に国会で附帯決議がなされた「国による安全性の確認」も、2014年4月段階で残されているのは7品目だけになっている。安全性確認と規格設定が終了すれば、経過措置として既存添加物にしておく必要がなくなる。既存添加物制度を終了し、指定添加物として指定する準備ができあがりつつある。天然と合成を区別してきた制度から脱却し、真の国際的整合をはかる時が到来したのかもしれない。

引用文献・参考文献

1)
米谷民雄、秋山卓美、佐藤恭子:酵素反応により機能を付与された天然添加物 食品衛生学雑誌 42, 343-353 (2001)

略歴

米谷民雄

京都大学(薬学)で学部からD4まで10年間学ぶ。環境庁国立公害研究所とカンザス大学(Medical Center)での研究を経て、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長(既存添加物担当)・同部長および食品部長として、既存添加物制度や農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究者サイドの中心として対応。2008年4月同研究所名誉所員。2009-2011年(公社)日本食品衛生学会会長。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授。

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