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微量必須元素としてのモリブデン
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
第一理化学検査室

ミネラルは、生体内で骨や歯などの組織を形成したり、生命活動に欠くことのできない代謝調整作用と密接な関係を持っています。しかしながら、ミネラルは体内では合成することができないため、食品や飲料から摂取していますが、インスタント食品やファーストフードなど、栄養の偏りやすい食生活ではミネラルが全般的に不足がちといわれています。
 現在、人の体にとって必須であることが確認されている元素は16種類(表-1)あり、この内、厚生労働省は「日本の食事摂取基準2010年版」においてイオウ、塩素、コバルトを除く13元素について摂取基準を設けています。
 一方、栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)では、さらにモリブデンを除いた12種類のミネラルが「栄養成分」として規定されていますが、消費者庁調査事業においてモリブデンの分析法が検討されており、モリブデンを栄養成分に追加する方向で検討が進められています。
 各ミネラルの働きについては2009年9月号のメールマガジンでご紹介していますが、今回は、その中でも栄養成分に追加されればその存在が注目されることが考えられる「モリブデン」についてご紹介します。

表-1 人の体にとって必須である元素
ナトリウム マグネシウム リン イオウ
塩素 カリウム カルシウム クロム
マンガン コバルト
亜鉛 セレン モリブデン ヨウ素

モリブデンとは

モリブデンは、元素記号Moで表される銀白色の金属で、第六族元素に属します。工業的には金属素材としてだけでなく、ステンレスなどの合金鋼の添加元素としても利用されています。
 体内には10mg程度存在し、肝臓や腎臓に多く分布しています。体内でモリブデンを合成することができないため、私たちは食事により摂取しています。モリブデンを多く含む食品には、豆類、穀類、肉類、乳製品があり、通常の食事をしていれば吸収率が良いため欠乏症になることはありません。

生体内での働き

生体内でモリブデンは亜硫酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼなどの補酵素中に存在しており、有害成分の無毒化、排泄など代謝に係る重要な役割を果たしています。先天的なモリブデン補欠因子欠損症では、脳の萎縮及び機能障害、尿酸の代謝障害、精神発達遅滞などが生じます。モリブデンの過剰摂取では、モリブデンと銅が拮抗関係にあり、銅が排出されて銅欠乏症を起こす可能性があります。

食事摂取基準

モリブデンの食事摂取基準を表-2に示します。通常の食事であれば、モリブデンの摂取量は食事摂取基準推奨量よりも多くなりますが、耐容上限量は、日本人の摂取状況、アメリカにおけるヒトでの実験、ラットを用いた実験などから450〜600μg/日(9μg/kg/日)が参照値として策定されており、過剰症が問題になることはほとんどありません。

表-2 モリブデンの食事摂取基準(μg/日)
[厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2010年版)より]
年 齢 男性 女性
推定平均
必要量
推奨量 目安量 許容
上限量
推定平均
必要量
推奨量 目安量 許容
上限量
0〜5  (月) 2 2
6〜11  (月) 3 3
1〜2  (歳)
3〜5  (歳)
6〜7  (歳)
8〜9  (歳)
10〜11 (歳)
12〜14 (歳)
15〜17 (歳)
18〜29 (歳) 20 25 550 20 20 450
30〜49 (歳) 25 30 600 20 25 500
50〜69 (歳) 20 25 600 20 25 500
70以上 (歳) 20 25 550 20 20 450
妊 婦 (付加量)
授乳婦 (付加量) +3 +3

モリブデンの分析方法

一般的な金属元素の分析と同様、モリブデンの分析においてもICP発光分析法やICP質量分析法が採用できます。特にICP質量分析法は食品中の超微量元素の分析が可能で、更に複数の元素を同時に測定することが可能であるため、幅広く使われるようになってきました。
 また、消費者庁調査事業において、モリブデンの分析方法の標準化に向けた検討が進められています。分析方法が確立されれば、栄養表示基準における栄養成分に追加される予定であることから、モリブデンの分析需要は今後増えると予想しています。

参考文献

1) 羽場宏光 監修 「イラスト図解 元素」 株式会社日東書院本社
2) 桜井弘 編 「元素111の新知識 第2版」 株式会社講談社
3) ジャック・チャロナー 著、広瀬静 訳 「世界で一番楽しい元素図鑑」 株式会社エクスナレッジ
4) 尾岸恵三子 監修 「図解 看護に役立つ栄養の基本がわかる事典」 成美堂出版株式会社
5) 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」
   http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0529-4.html
6) Sunatec e−Magazine vol.042 「ミネラルの働きとその分析方法」 2009年9月
   http://www.mac.or.jp/mail/090901/01.shtml

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