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サルモネラ食中毒〜発生状況と検査法について〜
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
室長 吉田篤史

はじめに

例年よりも一足早く6月上旬頃から気温が高くなり、梅雨時の特徴である蒸し暑い日が続いています。気温(=温度)、蒸し暑い(=水分)、食品(=微生物にとっての栄養源)と捉えるならば、微生物が繁殖するための条件が整った「食中毒シーズンの到来」をイメージされる方も多いと思います。
 本稿では、食中毒事件の病因物質で10年前よりも件数は減少しつつあるものの、常に上位グループに居続ける「サルモネラ属菌」について、基礎知識、最近の食中毒発生状況とその事例、検査方法について説明したいと思います。

サルモネラ属菌の基礎知識

1) 分布、原因食品
 サルモネラ属菌は、鶏、豚、牛など動物の腸管や土壌、下水、河川、湖沼など自然界に広く分布する細菌で、鶏肉や卵を汚染することが多いため、卵及びその加工品や鶏肉が食中毒の原因食品となるケースが過去多数報告されています。卵や鶏肉以外にも牛肉、豚肉などの肉類、淡水魚(うなぎ、すっぽん)及び二次汚染を受けた食品なども原因食品となります。
 平成25年1月〜12月に発生したサルモネラ属菌食中毒で原因食品として特定された事例として、冷製ポタージュ、柳川風煮、シュークリーム、じゃがいもハンバーグ、すっぽん料理、鶏キモ刺身、鶏ズリ刺身、鶏モモたたき、鶏ムネたたきなどが挙げられます(1)
 また、平成25年度食品の食中毒菌汚染実態調査(2)によると、厚生労働省の指定品目の中では鶏ミンチ肉(32検体中15検体陽性)を筆頭に、豚ミンチ肉(119検体中5検体陽性)、牛豚混合ミンチ肉(88検体中4検体陽性)、鶏タタキ(29検体中3検体陽性)からそれぞれサルモネラ属菌が検出されています。
 したがって、これらの食品、食材を安心して喫食するためにもサルモネラ属菌の特徴を把握しておくことは重要です。

2) 食中毒予防策と食中毒症状
 サルモネラ属菌の特徴として、熱には弱く(一般に60℃、20分間の加熱で死滅する)、乾燥や冷凍に対して強いことが知られています。
 熱に弱いという特徴と「1)分布、原因食品」から、サルモネラ食中毒を予防するためには、肉類や卵については75℃、1分間以上の加熱を行う、卵を生で食べる場合には賞味期限を確認し出来るだけ早く喫食する、また、卵は他の食材とは別にして低温保存を行う、そ族、昆虫などによる二次汚染対策として、これらの侵入を防止するような設備とすると共に、必要に応じて駆除を行うなどが挙げられます。
 なお、潜伏期間は6〜72時間、急な発熱(38℃〜40℃)、激しい腹痛、嘔吐、水様性下痢が主な食中毒症状です。

最近の食中毒発生状況及び食中毒事件例

1) 最近の食中毒発生状況(1)
 平成25年1月〜12月までの病因物質別食中毒発生状況によると、食中毒事件総数は931件、この内カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、サルモネラ属菌、ぶどう球菌、腸管出血性大腸菌(VT)など細菌を病因物質とする食中毒が361件(全体の38.8%)、サルモネラ属菌による食中毒はカンピロバクター・ジェジュニ/コリに次いで2番目に多い34件(細菌性食中毒の9.4%)発生しています。10年前の平成15年(350件)、5年前の平成20年(99件)と比較すると、サルモネラ属菌を病因物質とする食中毒事件数は減少傾向にあるといえます。幸い死者はいないものの、年間861名もの食中毒患者が出ていることを考えると、サルモネラ属菌食中毒に対する注意は引き続き必要です。特に年間の発生件数をみると、7月〜9月に集中(34件中21件)していることから、今最も警戒しなければならない食中毒菌であるといえるでしょう。
 また、平成25年1月〜12月までの原因施設別食中毒発生状況によると、飲食店が18件と最も多く、事業場5件、旅館2件となっています。飲食店が原因施設となる事件数はここ10年同じような傾向にあり、特に平成15年には81件発生、全体(350件)の23.1%を占めています。

2) 食中毒事件例
 ここでは、公開されている食中毒事件例として平成25年9月に千葉県で発生した事例を紹介します(3)。起点は、平成25年9月9日午前10時50分ごろ、発熱、下痢症状を呈した生徒8名を診察したとの連絡が保健所に入りました。その後患者数は23名に増え、追跡調査の結果、共通して食べている食品が千葉県東金市内にある給食施設で提供された食事であったこと、患者及び給食施設の従事者の便からサルモネラ属菌が検出されたこと、患者の発症状況がサルモネラ属菌によるものと一致したことから、この給食施設が原因施設とする食中毒であると判断し、使用停止措置が取られました。原因食品が何であったかについての情報までたどることはできませんでしたが、主な献立(鶏唐揚げ、人参入り千切りキャベツ、チョリソー・ポテトサラダ、ブロッコリー、漬物、ご飯)を中心に、さらに詳細な調査が行われたものと推測されます。

検査方法

ここまでヒトに対するサルモネラ属菌食中毒について説明してきましたが、サルモネラ属菌は、ヒトに対してだけでなく皆さんが大切に可愛がっている愛がん動物(ペット)にも健康被害をもたらすことが知られています。平成20年6月18日、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律が制定されました(4)。第七条の二(有害な物質を含む愛がん動物用飼料の製造等の禁止)に、病原微生物により汚染され、又はその疑いがある愛がん動物用飼料の使用が原因となって、愛がん動物の健康が害されることを防止するために必要があると認めるときは、関連審議会の意見を聴いた上で、製造業者、輸入業者に対して、当該愛がん動物用飼料の製造、輸入又は販売を禁止することができると定められています。平成21年9月1日に制定された「愛玩動物用飼料等の検査法」の中に、病原微生物として今回の主役である「サルモネラ」が挙げられており、その検査法を紹介します。
 また、海外との取引が今後ますます増加することを背景に、日本国内だけで通用する方法ではなく、広く海外でも通用するような検査方法の作成が進められています。そこで、国内外を問わず標準法として採用されているISO法に基づいた検査方法(ISO 6579:2002(E))を紹介します。
 愛玩動物用飼料等の検査法(4)図-1、ISO 6579:2002(E)の検査法(5)図-2にまとめました。いずれの検査法も、前増菌培養、選択増菌培養、選択分離培養、確認同定、血清型別確認試験がありますが、愛玩動物用飼料等の検査法では、選択分離培養と確認同定の工程間に「純粋分離培養」の工程があります。検査概要は、食肉製品や食鶏卵の食品に衛生法に基づく規格試験と大きな違いはありませんが、特に選択増菌培養、選択分離培養で使用する培地の種類や温度に特徴がみられます。
 愛玩動物用飼料等の検査法では、選択増菌培養にハーナ・テトラチオン酸塩培地及びラパポート・バシリアディス培地(RV)を用いて、41〜43℃、18〜24時間培養するのに対して、ISO6579:2002(E)の検査法では、ラパポート・バシリアディス ソイ ブイヨン(RVS)及びミュラーコフマンテトラチオネートブイヨン(MKTT)を用いて、RVSは41.5±1℃、24±3時間、MKTTは37±1℃、24±3時間培養します。
 選択分離用培地として、愛玩動物用飼料等の検査法では、DHL寒天培地及びブリリアントグリーン寒天培地(BG寒天培地)を用いて35〜37℃、18〜24時間培養するのに対して、ISO6579:2002(E)の検査法では、XLD寒天培地とBG寒天培地や亜硫酸ビスマス寒天培地(BS寒天培地)を併用します。培養条件は、37±1℃、24±3時間です。

図-1.愛玩動物用飼料等の検査法(PDF:30KB)
図-2.ISO 6579:2002(E)の検査法(PDF:43KB)

まとめ

食品関連企業にとって食中毒とは「食中毒事故」のことであり、食中毒事故に伴い発生する4つの責任、即ち、社会的責任、刑事責任、行政責任(営業停止処分、営業許可の取り消し)、民事責任(賠償問題)が科せられることとなり、その後の企業活動にとって非常に大きなダメージを受けるということが容易に想像されます。平成23年8月に生卵を使った料理を食べたことでサルモネラ食中毒となり死亡した事件が宮崎県延岡市でありました。裁判の結果、生産業者は約4,500万円の支払いを命じられています(平成26年4月)。
 平成26年6月2日現在、厚生労働省に報告があった食中毒事例は既に230件を超えていますが、幸いにもサルモネラ属菌が病因物質となった食中毒事件は発生していません。サルモネラ属菌の分布、原因食品、特徴を把握した上で適切な食中毒予防策を実施し、サンプルの種類に合わせた定期的な検査を通じて、安全、安心を確保しつつ、サルモネラ食中毒をはじめとして食中毒事例が増えないことを切に願っています。

参考文献

(1) 厚生労働省ホームページ
   http://www.mhlw.go.jp/
(2) 食安監発0327第1号 平成26年3月27日 平成25年度食品の食中毒菌汚染実態調査の結果について
(3) 千葉県ホームページ
   http://www.pref.chiba.lg.jp/
(4) 独立行政法人農林水産消費安全技術センターホームページ
   http://www.famic.go.jp/
(5) ISO 6579:2002(E)(Microbiology of food and animal feeding stuffs-Horizontal method for the
   detection of Salmonella spp.)

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