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冬場のウイルス感染と子どもの健康
三重県立看護大学客員教授
山中胃腸科病院小児科 西口 裕
秋冬の季節は感染症が猛威をふるう時期でもあります。前もって感染症のことを知っておき、適切な対処が出来るようにしましょう。特に乳幼児が感染すると重症化し、入院を余儀なくされたり、時には死に到ることもある「RSウイルス感染症」「感染性胃腸炎(特にノロウイルス胃腸炎、ロタウイルス胃腸炎)」を例にウイルス感染症について、ご一緒に考え子どもの健康を守る行動を実践しましょう。

1.冬に感染症(特にウイルス感染症)が増える訳

(ウイルスは冬が大好き)
  ウイルスは低温・低湿度を好み、冬になると夏より長く生存できるようになり、感染力を強めます。冬場に風邪を始めとするウイルス感染が多くなるのは、外気が寒く乾燥するためです。湿度が高い時期、暑い時期はウイルスの活動は弱々しくなります。 
 (寒いと体の抵抗力も落ちています)
 低気温によって体温が下がることで、人の免疫力は低下します。また、外気の乾燥に加えて、夏に比べて水分を積極的に摂取しなくなるため、体内の水分量も少なくなりがちです。人間の体は60%(乳幼児は80%)が水分ですが、体内の乾燥により喉や気管支の粘膜がカラカラになると、本来粘液でウイルスの侵入を防いでいるノドや鼻の粘膜が傷みやすくなり、ウイルス感染を起こしやすくなります。
 (ウイルスも拡散しやすい季節)
 外気の乾燥によって咳やくしゃみの飛沫が小さくなり、飛沫に乗ったウイルスがより遠くまで飛ぶようになります。一度の咳・くしゃみによる感染範囲が広くなり、感染スピードが上がります。

2.感染(症)発生の三大要因

ウイルス感染症についてお話するまえに、感染(症)発生の三大要因についておさらいをしておきましょう。これをベースに考え、行動することが感染症から身を守る原則になります。
 感染症は、生きた病原体が生体内に入り、生息することによって起こる病気です。感染の発生や流行には、その原因である病原体、生活環境及び宿主側の条件が互いに関連しています。感染源(病原体)、感染経路、感受性の宿主(固体の条件)を感染(症)発生の三大要因といい、「感染源」「感染経路」「感受性の宿主」この全てが揃った時に、感染症は発生します。1.ウイルスは冬が好きは「感染源」ウイルスも拡散しやすい季節、「感染経路」寒いと体の抵抗力も落ちる、「感受性の宿主」(固体の条件)と考えれば、冬場にウイルス感染症が増加するのも納得できます。
 皆さんはインフルエンザ等で学級閉鎖を経験したことはありますか。しかし、学級閉鎖になるような大流行でも決して全員がかかるわけではないですよね?その教室内に間違いなく「病原体」が溢れているにも関わらずです。それはなぜでしょうか。感染症発症は「病原体」だけではなく、「感染経路」「個体の条件」にも左右されるからです。発症しなかった人は、しっかりと手洗い・マスクをして感染経路を断ち、身体の中に病原体を入れないようにしていたのかもしれません。もしくは、しっかりと予防接種で免疫を作り、毎日早寝早起きで病原体に負けないくらいの健康体だったのかもしれません。
 つまり、感染症にかからないようにするためには、この3つの原因のうち、どれか一つを防げばいいということです。感染の三要素を一つずつ見てゆきましょう。

@病原体 読んで字のごとく病気の基となるもので、一般的には「ウイルス」「細菌」に分けられます。
A感染経路 病原体が人の身体に入り込む方法のことです。
 「飛沫感染」「空気感染」「接触感染「経口感染」の4つに分けられます。

(飛沫感染)
感染している人がせきやくしゃみをした際に、口から飛ぶ病原体がたくさん含まれた小さな水滴(=飛沫)を近くにいる人が吸い込むことで感染します。これを飛沫感染と言います。飛沫は1〜2メートルの範囲に飛び散ります
飛沫感染で広がる感染症:インフルエンザ・百日咳・風しん(三日ばしか)、RSウイルス など
(空気感染)
飛沫が乾燥し、その芯となっている病原体が感染性を保ったまま空気の流れによって拡散し、近くの人だけでなく、遠くにいる人もそれを吸い込むことで感染します。これを空気感染と言います。空気感染は飛沫感染より感染力が強いので注意が必要です。
空気感染で広がる感染症:麻しん(はしか)、水痘(水ぼうそう) など
(経口感染)
病原体や、病原体を含んだ水や食べ物を口に入れることで感染します。これを経口感染と言います。
経口感染で広がる感染症:腸管出血性大腸菌・ノロウイルス・カンピロバクター など
(接触感染)
体液や血液など病原体を含む感染源に触れて、その汚染された手で粘膜(目、鼻、口など)に触ることで感染します。これを接触感染といいます。握手や抱っこなど直接の接触だけでなく、ドアノブ・遊具・タオル・足拭きタオルなど、感染している人が触れたものに他の人が触れることでも病原体が体の中に入り込むことがあります。
接触感染で広がる感染症:エンテロウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・アデノウイルス、RSウイルス など

B個体の条件 体の状態や免疫の有無など、個々人の病原体に対する抵抗力のことです。予防接種を受けたかどうか、日々健康的な生活を送っているかどうかなどによって変わります。

3.ウイルスとウイルス感染症

人の感染症の原因になるものを病原体とよびますが、病原体には多くの種類があり、寄生虫、真菌、細菌、ウイルス及びプリオンにわかれます。その中で、ウイルスの特徴は簡単には(表1)のようになります。他の病原体とことなり、蛋白の殻に包まれた感染性の遺伝因子(核酸分子)で、生きた細胞の中でのみ増殖し、細菌のように人工培地で培養することができません。宿主細胞に感染していないときは、核酸と蛋白からなる高分子物質であって、生物として活動せず、増殖もしません。RSウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスを例にみてみましょう。

(1)RSウイルス(respiratory syncytial virus)とRSウイルス感染症
@RSウイルス
 パラミクソウイルス科 ニューモウイルス属に属するウイルスで、皆さんご存知の、臨床上も重要な麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、なども同じく、パラミクソウイルス科に属します。RSウイルス(図1)は直径80〜350nm(1nmは、1mmの100万分の1)の球形、または細かい糸状で、55℃以上の熱などに弱く、エーテルなどで不活化するとされています。その特色は、ヒトにのみ感染し、感染者の咽頭分泌液中に排泄されるウイルスが、飛沫感染や接触感染によって伝播します。
 ヒトに感染するウイルスには、ヒトにのみ感染するものと、ヒト以外の動物にも感染するものとがあります。ウイルスは、宿主細胞の表面にある物質を受容体として感染しますから、ヒトの細胞にだけ存在する物質を受容体にするウイルスはヒトにしか感染できません。RSウイルスはそのようなウイルスということになります。さらに、ウイルスが宿主に感染する場合、吸着する受容体などによって、特定の細胞・臓器に好んで感染する臓器・組織親和性があり、それがウイルスの病原性を決める重要な因子の1つで、ウイルス感染症の病態・臨床像に深く関ります。RSウイルスは呼吸器親和性のウイルスと言えます。一方、同じパラミクソウイルス科に属するムンプスウイルスは唾液腺親和性、麻疹ウイルスは多くの標的臓器をもつ全身性(向汎性)ウイルスです。感染性胃腸炎を引き起こすノロウイルス、ロタウイルスは腸管親和性ウイルスです。
ARSウイルス感染症
 RSウイルス感染症は年齢を問わず、生涯にわたって罹患するもので、軽いかぜ様症状から重症の細気管支炎や肺炎などの下気道疾患にいたるまで様々な症状を呈します。特に、乳幼児期においては重要な疾患で、初感染の1/3が下気道疾患を起こすことが報告されており、1歳以下では中耳炎の合併がよくみられます。乳児の約70%が1歳までに罹患し、3歳までにすべての小児が抗体を獲得すると言われています。この病気に十分注意が必要とされるのは、重症化するとまれに肺炎などを引き起こす危険があるためです。特に生まれて6カ月以内の赤ちゃんが感染すると、重症化する確率が高くなり注意が必要です。一度かかれば抗体ができて再びかからないおたふく風邪などと違い、何度でも再感染しますが、一般的に年齢が上がるにつれて症状は軽くなり、年長児以降の重症化はあまり見られません。
 毎年特に都市部において流行を繰り返し、我が国においては11月〜1月にかけて12月をピークとする流行がみられます。(図2)RSウイルス感染症の患者報告数の推移を見ると、例年、秋から冬にかけて増加しています。特に今年を含め、この2年は大きく増えています。
 主な感染経路は、大きな呼吸器の飛沫と、呼吸器の分泌物に汚染された手指や物品を介した接触です。家族内感染が起こりやすく、軽症のかぜ様症状を呈する学童から家族内に持ち込まれることが多いため、知らないうちに乳幼児にうつしてしまうケースがあるようで、乳幼児とより年長の小児がいる家族は特に注意が必要です。
表1 ウイルスの特徴(PDF:4KB)
図1 蛍光電子顕微鏡写真(PDF:14KB)
図2 RSウイルス感染症の年次推移(PDF:30KB)

(2)ノロウイルス(Norovirus)とノロウイルス感染症(胃腸炎)
@ノロウイルス(Norovirus)
 カリシウイルス科(Caliciviridae)に属する球状(表面にカップ球の構造)大きさ30〜38nmのRNAウイルス(図3)で、電子顕微鏡で観察される形態的分類ではSRSV(小型球形ウイルス)、あるいはノーウォーク様ウイルスと呼ばれてきたウイルスで、2002年夏、国際ウイルス命名委員会によってノロウイルスという正式名称が決定され、世界で統一されて用いられるようになりました。ノロウイルスはヒトの空腸の上皮細胞に感染して絨毛の萎縮と扁平化、さらに剥離と脱落を引き起こし下痢を生じると考えられています。成人及び小児の冬のウイルス性下痢症(胃腸炎、食中毒)の主な原因の1つでウイルス性食中毒のほとんどを占めています。(表2表3
Aノロウイルス胃腸炎
 ノロウイルスはヒトに対して嘔吐・下痢・軽度の発熱などの急性胃腸炎症状を引き起こすが、その多くは数日の経過で自然に回復します。まれに、脱水症状を起こす重症例、死亡例もあります。特に乳幼児の脱水には注意が必要です。治療としての抗ウイルス薬はなく、通常は対症療法で、脱水に対する処置が重要です。
 ウイルスを含む糞便によって汚染された水や食品、または汚染された水域でとれた生あるいは加熱不十分の魚介類(特にカキ・ハマグリ・赤貝などの二枚貝)によって経口感染します。感染力が強く、極少量でも感染し、しかも環境中で比較的安定して存在できるので、患者の糞便や嘔吐物によるヒトからヒトへの二次感染(汚染された手指や物品を介して、又は乾燥して舞いあがったウイルスが口から入る)が多く発生しています。有効なワクチンはなく、患者の糞便・嘔吐物の適切な処理・消毒及び身近な感染防御策として手洗いの励行が重要です。
図3 ノロウイルスの電子顕微鏡写真(PDF:23KB)
表2 ノロウイルス食中毒年次報告数(PDF:12KB)
表3 ノロウイルス食中毒の年次・月別報告数(PDF:25KB)

(3)ロタウイルス(Rotavirus)とロタウイルス下痢症
@ロタウイルス(Rotavirus)
 レオウイルス科の一種のウイルスで、球状大きさ50〜80nm、正20面体、エンベロープを持たない二本鎖RNAウイルス(図4)で1973年に発見されました。
内核蛋白(VP6)の抗原性により7群(AからG)に分類されます。AからC群がヒトに感染し、A群が広く流行しています。乳幼児下痢症の主な原因として重要なウイルスです。
Aロタウイルス下痢症(腸炎)
 冬季に流行し、成人でも罹患しますが、生後4ヶ月〜2歳の乳幼児に好発し、乳児嘔吐下痢症の多くを占めます。感染者の気道及び腸管(糞便)のウイルスが、経口感染や経気道感染によって伝播し感染します。2〜4日の潜伏期間で、嘔吐と頻回の水様性下痢が起こります。下痢は白色になることがあるため、仮性小児コレラ、白色便性下痢症と呼ばれてきました。一般に予後は良好ですが、中枢神経にも影響し合併症として、痙攣、脳炎、髄膜炎、脳症、ライ症候群、ギラン・バレー症候群、出血性ショック脳症症候群を起こすことがあります。特異的な治療方法はなく、対症療法が行われます。下痢止めは症状の回復を遅らせるため使用しません。予防は、手洗い、十分な加熱、吐物・糞便の始末の後、適切な消毒が必要で、アルコールが無効なため次亜塩素酸ナトリウム液を使用します。ノロウイルスほど感染力は強くありませんが、ほぼ同様の予防策を講じることが必要です。生ワクチンが開発され世界各国で使用されています。我が国でも任意接種ですが、2年前から使用開始されました。生後6週間から接種可能で、接種間隔は4〜8週で、3回の接種を生後8ヶ月までに完了させます。
図4 ロタウイルスの電子顕微鏡写真(PDF:18KB)

 その他の冬季のウイルス及びウイルス感染症として勿論、インフルエンザがありますが、別稿に譲ります。

4.子どもを感染症からまもるために

以上述べてきましたように、ウイルス感染症には細菌感染症のように特効薬はありません。如何に、感染対策の基本を確実に実施するかということが重要になります。
(1)正確な知識をもつ(知識のワクチン)ことが有効(実効)な行動につながります
 自分だけは、自分たちは大丈夫だろう?!は大丈夫ではありません。 冷静に恐れることが重要です。
・学校・幼稚園・保育園でお子さんが集団生活をしている場合、感染症に罹患した際は、十分療養し、感染の可能性がないと定められるまでの期間はお休みしてください。それが、感染症から自らのお子さんや、他のお子さんを守ることに繋がります。
(2)適切な洗浄・消毒の方法を学びましょう
・消毒の前に洗浄が必要です。タオルやシーツ、エプロンなどに吐しゃ物等がついた場合には、洗浄を行った後に消毒を行いましょう。
・熱湯やアルコールなどの薬品を使って病原体を死滅させましょう。ロタウイルスやノロウイルスには次亜塩素酸ナトリウムが有効です。
家庭でも簡単に作れる次亜塩素酸ナトリウム消毒液の作り方を学びましょう
(3)子どもは自らの身を守れません(特に乳幼児は)子どもを守るのは親の役めです。子どもさんと共に学び実行する(共育)環境づくりに努めましょう。
 病原体が体に入ってきたとしても、抵抗力があれば感染・発症することはありません。抵抗力をつける方法には「健康的生活」と「予防接種」があります。
 子どもさんに「早寝」「早起き」「しっかり朝ごはん」「適度な運動・休養」といった基本的な生活習慣を身に付けられるよう家族全員で取り組みましょう。
また、「かかりつけ医」とよく相談し、必要な時期に必要な予防接種(ワクチン)を打ちましょう。
(4)予防の基本は手洗い、うがい、マスク(咳エチケット)
 改めてその大切さ、意味を見直してみましょう(厚生労働省のホームページ等で効果的な手技が公開されています)
 是非、ご家族で冬場のウイルス感染症から身を守る予防対策を実践して元気にお過ごし下さい。

(なお、この原稿は、平成24年10月28日に実施しましたSUNATEC第1回市民公開セミナー「子どもの命を守るために〜食中毒、感染症への予防と対策〜」の講演内容の一部を加筆修正したものです)

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