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三重県のカキ養殖海域におけるノロウィルス遺伝子の分離状況
〜第二報〜
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稲垣 暢哉(微生物検査室)

はじめに

現在、ノロウイルスを原因として起こる食中毒は患者数が最も多いです。厚生労働省に報告のあった平成23年のノロウイルスによる食中毒の事件数が296件、患者数が8,619人でした。これは、食中毒の総事件数の27.9%、総患者数の39.9%に当たります。
ノロウイルスを原因とする食中毒の特徴として近年は、二枚貝による感染は少なく、感染者によって汚染された食品が原因食品として多いことが分かってきています。しかし、二枚貝によるノロウイルス食中毒の発生予防は今日でも大きな課題となっています。
 本年1月11日、三重県で行われた第65回三重県公衆衛生学会において、昨年に続き「三重県のカキ養殖海域におけるノロウイルスの分離状況と新しい取り組み(第二報)」というテーマで発表させて頂きました。このメールマガジンでも昨年に続く第二報として掲載したいと思います。

厚生労働省HP ノロウイルス食中毒の発生状況は?
※三重県のカキ養殖海域におけるノロウイルス遺伝子の分離状況(第一報)
図1.ノロウイルス食中毒の原因食品の推移グラフ(PDF:10.9KB)

 

三重県のカキの衛生対策と弊財団の取り組み

三重県は全国有数の生食用殻付きかきの養殖が盛んな県です。三重県伊勢保健福祉事務所では平成15年度より「みえのカキ安心情報」のホームページ掲載を行っています。これは、平成9年度から始まったカキのノロウイルス汚染メカニズムに関する調査・研究により、ノロウイルスによる食中毒が発生しやすくなると考えられる海域情報6要因をモニタリングし、関係者に注意を促すシステムです。弊財団では6要因の1つであるカキのノロウイルス遺伝子のモニタリング検査を平成17年から一部、平成20年から一括して受託検査を行っています。(※カキ年度:例 23年度⇒23年10月〜24年3月末)

 

平成23年度のカキによる食中毒の発生とその特徴

(1)平成24年2月に三重県内で2件発生
 三重県産のカキによる2件の食中毒は、どちらも加熱調理用カキ(未浄化カキ)の加熱不十分が原因でした。また、県外では3月に2件の食中毒発生がありました。
 (2)患者から分離されたノロウイルスの遺伝子型
 第一報で報告した平成22年に発生の2件の食中毒と同様にGT、GU、GT+GUと様々な遺伝子型が検出されました。これは、カキを原因食品としたノロウイルス食中毒の特徴と考えられます。
 (3)発生時の養殖海域のカキから分離されたノロウイルスの遺伝子型
 平成22年に発生した2件の食中毒発生時の海域も複数の遺伝子型が検出されていましたが、やはり今回も複数の遺伝子型が検出されました。これは、ノロウイルス食中毒のリスクが高まっている時期に見られる傾向ではないかと考えられます。
 (4)養殖海域の検査で未検出の時に発生
 3件の食中毒発生時の直前の海域では複数の遺伝子型が検出されましたが、最初の1件の食中毒発生時の直前の海域ではノロウイルス遺伝子が検出されませんでした。現行の検査法では検出率等に課題があると思われます。

図2.食中毒発生時の海域情報と患者の遺伝子型(PDF:19.8KB)
図3.食中毒発生時の海域の遺伝子型(PDF:14.1KB)

 

これまでの食中毒発生と遺伝子型

(1)多発時の遺伝子型
 平成15年1月2月に食中毒が多発した時(13件)の養殖海域のカキから分離された遺伝子型を調べた結果、複数の遺伝子型がかなり高頻度に検出されていました。このことからも、複数の遺伝子型が検出される時期というのはノロウイルスの濃度が高まっている時期ではないかと考えられます。
 (2)養殖海域のモニタリング結果と海水温・降雨
 平成24年の2件の食中毒が発生した日の数日前には50mm以上の降雨があり、水温10℃以下と3要因が重なる状況となっていました。
 海域情報6要因の中でも、モニタリング結果陽性、海水温10℃以下、降水量50mm以上の3要因が重なる時期は特に重要であることがわかりました。

図4.平成15年食中毒多発時の海域の遺伝子型(PDF:13KB)

 

新しい取り組み

(1)迅速な検査
 検体の業者輸送委託を弊財団の直接受託に切り替えることで、平成24年度から検査結果を1日早く出せるようになりました。したがって、週末のカキの需要期の仕入れに活かせるシステムとなったと思います。
 (2)浄化カキの検証
 平成23年度の食中毒の原因は加熱調理用カキ(未浄化カキ)の加熱不十分とされており、生食用カキによる食中毒は報告されていませんでした。そこでシステム管理者である「みえのカキ安心協議会」に提案し、平成24年度からは浄化後のカキも検査することでその効果を検証することとなりました。

みえのカキ安心情報

 

最後に

今回、昨年に続く第二報として第一報の考察に対する検証、そして新しい取り組みについて発表を行いました。今後も、弊財団が日々行っているカキのノロウイルス検査結果と食中毒発生との関係について引き続き調査研究し、少しでも公衆衛生に役立てることができれば幸いです。

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