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「食品の取扱いとビタミン愛−浅漬け食中毒を教訓とするために−」
北海道大学大学院 水産科学研究院
一色 賢司

1.はじめに

2012年夏、浅漬けを原因食品とするO157食中毒が発生し、8名もの方が亡くなりました。浅漬けの普及は、冷蔵庫の普及や塩分控えめの健康志向と関係があると思われます。家庭での浅漬けは、個人で管理できる範囲の少量を作り、食べる人への思いやり(ビタミン愛)も添えているので食中毒を起こしにくいのではないでしょうか。さらに、工場等で大量に作られ包装された浅漬けは、中身に問題があっても、その美しい外観から、衛生的取扱いを受けたものと見えてしまうのではないでしょうか。
 今回の浅漬け食中毒は、製造業者のプロ意識の欠如が主たる原因だと思われます。誰が食べるのか等の思いやり(ビタミン愛)どころか、大量生産で利益を得ることに追われていたと思われます。既に、同業者が死亡例を含む数件の食中毒を起こしていました。教訓を得ていなかったことは、厳しく責められるべきだと思います。

表1 浅漬けによる集団食中毒例

主原料等

原因物質

患者数(死者)

発生地域

2000

カブ

腸管出血性大腸菌

7(3)

埼玉県

2001

和風キムチ

腸管出血性大腸菌

27

関東1都2県

2002

キュウリ

腸管出血性大腸菌

102

福岡県

2005

白菜

腸管出血性大腸菌

43(6)

香川県

2011

大根

ソンネ赤痢菌

52

東北4県

2012

白菜

腸管出血性大腸菌

169(8)

北海道

腸管出血性大腸菌の血清型はいずれもO157:H7

2.今後のために

再発防止には、国民全員にO157等の微量感染を起こす病原体がいることを知らせ、全員でフードチェーンに近づけない努力を続けることが必要だと思います。病原体を軽視する食品取扱い業者を社会が許さないようするために、消費者も賢くなって欲しいと思います。農業や水産業の6次産業化による食品の大量生産も奨励されていますが、大量生産等に伴う責任は免除されていません。
 北海道で発生した、浅漬けによる食中毒では、死者数8名、患者数169名に達しました1)。原因食品は、商品名「白菜きりづけ」でした(図1)。再現実験時の塩分は1.9%、pHは6.0でした。加熱工程も発酵工程もありませんでした。原料野菜の出荷から消費までの概要は、図2のとおりです。表1のように、既に浅漬けは複数例の死者を出した食中毒の原因食品として報告されていました。漬物は我々の先祖が苦労して開発した保存食ですが、浅漬けは漬物と異なり塩も酸も少なく調味液を生野菜に浸み込ませたものであり保存食とは呼べないものです。徹底した衛生管理と低温管理、さらに早く食べてしまうことが必要な食品でした。表2は、O157等の病原体の食品における増殖に影響する因子と、病原体を摂取したヒトの健康に影響を及ぼす因子です。食品取扱い者は、担当食品の表2の項目について対策を講じる必要があります。
 浅漬けが大量生産されるようになったのは、1970年代になってコールドチェーンが整備されてからです。コールドチェーンが普及していない国々では、果物や発酵食品以外の生食はほとんど行われていません。高名な食品微生物学者である日系3世のカリフォルニア大学食品保蔵研究所のKeith A.Ito所長は、以前来日された時に、「日本では、プラスチックフィルムで何でもパックされてしまい、全てが清潔に見えてしまうようだ。要冷蔵食品も常温流通食品に見えてしまう」と心配しておられました。
 我が国では、昔から高貴な方も野菜は生食していたとする推測もあります2)が、地面から離れた果物と異なり、地面に近い物を積極的に生食していたとは思えません。野菜等の栽培には人糞等も肥料として用いていました。野菜が生で食べられるようになったのは第二次世界大戦後に化学肥料が普及してからであろうと思われます。浅漬け食中毒を今後の食品安全の教訓とするために以下に考察を行います。2012年夏の浅漬け食中毒の詳細な経過報告は、札幌市保健所の報告1)やホームページ等で行われています。

表2 食品中の病原体増殖要因とヒト側の病原体感受性変動要因

食品中の病原体増殖要因

ヒト側の感受性要因

水分活性Aw

内部要因

外部要因

pH

体質

温熱寒冷

酸素含量

体調

湿乾

脂質含量

年齢

食物

鉄含量

性(妊娠)

大気

流通履歴

代謝

温度履歴

その他

薬剤

微生物フローラ

 

化粧品

抗菌性物質

 

日光

物性(固体・液体・気体)

 

放射線

環境影響(容器・包装)

 

微生物

その他

 

ストレス

 

 

その他

図1:白菜きりづけ製造工程(PDF:28.8KB)
図2:原料野菜や商品の流通経路(PDF:8.22KB)

 

3.食料調達と分業

食品の生産、流通、加工、消費を分業で行うことが多くなりました(図3)。人間は従属栄養型の生物の一種ですが、その食べ物と他の生物の関係を科学的に理解する機会を失っている方も多いと思われます。食料の一次生産から消費までを連続して捉える大局観や、食品としての衛生的な取り扱いが全過程に必要です。次世代のためにも無理や無駄のない持続可能な食品の生産や調達と安全性確保が行われる必要があります。食品安全を達成するためには、食べる人を思いやるビタミン愛のバトンタッチが、農場から食卓まで必要です。
 生物学分野でのフードチェーンは食物連鎖を意味し、生物間における食べたり、食べられたりする連鎖的つながりです。人間側から見た食料調達のフードチェーンは、図3のように一次生産者、加工、卸売、流通、外食産業、小売業、最終消費者等をつなぐ食料品の流れを指します。病原体や環境汚染物質を食品が媒介した事例の経験から、フードチェーンの全過程で衛生管理を実践しなければ食品安全は達成困難であると認識されています。Codexでは1997年にフードチェーンに共通な衛生規範として「食品衛生の一般原則」を採択し、食料調達・消費に関連する全ての場面での活用を呼びかけています。
 生食用野菜の安全性確保についても、1996年の我が国で発生したカイワレ大根が原因食品とされるO157食中毒事件も重要な動機となり、Codexにおいて生食用果物とともに衛生規範の必要性とその内容が議論され、2003年に採択され、2010年に改訂や追加が行われています3)。小生もその作業に携わったことがあり、図4のようにO157等の病原菌が野菜等を汚染するルートは沢山あることが問題となりました4)。今回の浅漬け食中毒では、未熟な堆肥が原因と決まったかのような報道が行われ、他のルートが目隠しされ、無視されるような状況が生じました。動物由来物や畜産廃棄物の全量が堆肥化されているのでしょうか。未熟な堆肥だけに目を奪われることは、あってはならないことです。すべての汚染経路に対策を施すべきです。実際には、図3の各段階で、図4の全てに注意を払う必要があり、時間軸をも加えた多次元的な対策が必要となります。病原微生物の環境適応や増殖能力も十分に配慮すべきです。 

図3:食品の原材料生産から食卓までの流れと分業(PDF:53.8KB)
図4:動物に由来する病原体の農作物への移行ルート(PDF:13.8KB)

 

4.過ちて改めざるを

食中毒等の危害要因は、フードチェーンの各地に存在し、これまで人類は様々な工夫により、そのリスクを低下させてきました。食中毒の原因となる病原体も変化しています。後述するEUで大規模な食中毒を引き起こした病原大腸菌O104は、志賀毒素産生性と腸管凝集付着性の両方の病原因子を併せて持っていました。
 加熱調理により食中毒や感染症の発生リスクを低減することができます。微生物の菌株を冷凍して保存することがあります。病原体の細胞も冷蔵や冷凍には耐えて、生存細胞数を減らしながらも、生き続けることができます。環境条件の回復とともに増殖を開始することが可能です。2011年に米国でメロンが媒介した大規模なリステリア食中毒が発生しまた。多くの老人が丸ごとメロンをナイフで切り取って生食し、残りを冷蔵庫に戻したことが災いを広げたと推察されています。死者は33名にも及んでいます。原因菌のListeria monocytogenesは、優れた低温増殖性を有しています。
 先進国では、5℃以上を食品の温度管理における要注意範囲とすることが多く、WHO世界保健機関も図5のように、5〜60℃で食品を放置しないように注意喚起を行っています(http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/microbial/5keys/who5key.html)。EUでは、芽物野菜フェヌグリークハーブモヤシの生食により4000名を超す患者と50名を超す死者が生じた病原大腸菌O104による食中毒が起きていいます。我が国では1996年にカイワレ大根の生食による大きな食中毒を経験しています。原因菌は腸管出血性大腸菌0157でした。「一次生産から最終消費までの連続した衛生管理が必要」という得られた教訓を忘れないように努力すべきです。その当時は、生ものは樹上の果物でさえ食べないという恐怖感が浸透していましたが、15年後の2011年には牛生肉ユッケを食べで5名が死亡するO111食中毒が起こっています。
微量感染を起こす食中毒菌対策の要の一つは、国民が食べ方に注意することにあると思われます。忘れやすい国民に、リスクコミュニケーションを工夫して忘れないように呼びかける必要があります。国民一人一人に対策の必要性を納得していただくことを重視して欲しいと思います。フードチェーンの川上や食品メーカーだけに注意喚起しても、再発すると思われます。衛生規範を改訂した5)ので終りではなく、リスクコミュニケーションを重視して、国民全員のよる予防行動を起こして欲しいと思います。寺田初代食品安全委員会委員長の持論であった入学試験問題として出題することも現実的なリスクコミュニケーションだと思われます。国民の理解を得ずに規制を強化するだけでは、過ちは改められないと思われます。

図5:WHO安全に食べるために5つ鍵より(PDF:82.3KB)

 

5.彼を知り、己を知れば

我々の祖先が獲得した火を使う技術により、消化吸収できる食料は増加し、安全性も向上しました。人口も増加し、食料確保や食品開発の技術開発は促進されてきました。我が国では生食は続けられてきました。先祖は単にそのまま食べるだけではなく、干したり、漬たり、発酵させたりして非加熱で食べる技術も発達させました。調理加工の技術の特性とその利用方法が確立されるまでは、食後に体調不良を起こし、落命したこともあったと思われます。
 食品に関係する技術をその原理から整理すると図6のようになります。複数の技術を組み合わせて、食品の色・味・香り等の品質を維持しながら、安全性を確保するハードルテクノロジーは容器包装技術とともに発展を続けています6,7)。加熱工程を持たない生食用食品の大量生産や広域流通と安全性確保を考える場合には、原材料の生産から予防的な取り組みを行い、良い仕事を消費までバトンタッチすることが必要になります。その上で、ソルビン酸等の保存料が添加されていれば、今回の浅漬け食中毒でも多くの犠牲者を出さずにすんだと思われます。
 技術的には、複数の技術を組み合わせ、多重の安全性確保を実施することが必要となります。表3は、食品の微生物制御法の分類です。食品と微生物、それぞれの種類が多く、その組み合わせは無限となることからも、複数の手法を組み合わせて実施する必要があります。忘れてはならないことに、微生物の種類が多いことや同一種類のなかでも多様性があることです。同一菌種の中でも、病原性、環境抵抗性等が異なることがあり、変異を起こして更なる多様性を獲得することもあります。食品中での増殖は条件が整えば、活発に進行します。O157は最適条件下では、約20分間で分裂し1晩で数億個にも増えます。一方、75℃のお湯の中では1分間で全滅します。菌数の変化が条件によって全く異なることが大きな特徴です。病原体としての微生物を取り込んでしまった人間が発症するか、否かにも個人差があります。一般的には、乳幼児や老人、妊産婦、病気を持っている人では、少ない菌量で発症することがあります。
 注意を要する病原体として発症菌量の少ないサルモネラSE菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、ノロウイルスなどの病原菌があります。これらの病原体は、100個以下でヒトを発症させると考えられています。予防策は、加熱できない生食食品では、国民全員が良く各病原体の特性を知り、協力して清潔を保つことであると考えられます。敵も分からず、味方も分からずでは、困ったことになってしまいます。食べる人を思いやるビタミン愛を忘れずに添加して欲しいと思います。 

図6:食品の調理加工方法の分類(PDF:11.3KB)

表3 食品の微生物制御法分類

原理 手  法  等
殺菌 加熱−高温、高周波加熱、赤外線加熱、通電加熱、低温加熱、乾熱
非加熱−薬剤殺菌:液体殺菌剤、ガス殺菌剤
 放射線殺菌:紫外線、γ線、電子線、X線
 その他:超音波、超高圧、電気的衝撃、パルス光
除菌 ろ過、沈降、洗浄、電気的除菌
遮断 包装、コーティング、クリーンルーム
静菌 低温保持:冷蔵、冷凍
 水分活性低下:乾燥、濃縮、物質添加
 酸素除去:真空、脱酸素、ガス置換
 微生物利用:発酵、拮抗微生物
 化学物質添加:アルコール、塩、酸、糖、抗菌性物質

各手法を組み合わせて実施することが多い。放射線殺菌は、我が国では、未だ認可されていない。また、殺菌剤、抗菌性物質、包装材料等も、食品衛生法により認可されたものしか使用できない。

 

6.リスク分析と危機管理

今日では,フードチェーンの全容が見えにくくなり、家庭内で受継がれてきた食品安全に関する知恵も,次世代へ受渡すことが難しくなっています。従前は市場に毎日のように食材を買い出しに行っていました。家庭での食中毒対策は、「清潔、迅速、温度管理」が合言葉でした。やがて、各家庭にも冷蔵庫が普及し、毎日の買い出しはまとめ買いへと変化しました。現在では、食品原材料の生産、加工、流通、販売も分業で行われるようになっています。外食や調理済み総菜の利用も増えており、図3のような複雑な食材の流通を経て、最終的に消費者の口に入っています。遠く離れた海外から輸入された魚介類や野菜類も生食されています。
 浅漬け等の生食食品には、kill stepと呼ばれる病原体や寄生虫を殺す工程がありません。あっても効果的ではない場合がほとんどです。食べた消費者が体調不良を起こす可能性を認識すべきであり、特にハイリスクグループと呼ばれる発症しやすい人々への思いやりを忘れるべきではありません8)
 法律で認められた殺菌剤を使って野菜等を消毒する場合、菌数を減らすことはできてもゼロにすることはできません。塩素水を使った場合は10%程度のO157は生き残ります4)。塩素水を使う意義は、野菜等に付着した病原体の菌数を減らすことと、洗浄水に分散した病原体を殺滅して汚染を広げないことです。殺菌剤を使用していない水は、汚染を媒介することになります。Kill stepを持たない生食用食品のリスクを増やさないためには不断の衛生管理、特に低温管理が必要です。今回の浅漬け食中毒では、図2の全ての販売経路の商品を食べた消費者が発症しています。適切な低温管理が漬物業者の時点で行われていなかったと推測されます。当研究室では、要冷蔵食品等の自主的な温度管理に貢献するために色の変化で温度管理状況を判定するインジケータ(Time-temperature indicator, TTI)の研究を行っています9)図7のように環境温度が低いと変色時間は長く、環境温度が高くなると変色時間は短くなります。図7のインジケータの変色時間は、低温増殖性のリステリアの菌数が10倍になる前に変色するように調整してあります。このようなインジケータを原材料の収穫時から起動させて、連続した低温管理もできるようになりつつあります。冷蔵庫は魔法の箱ではないことを認識させるための衛生教育の教材としても有効です。
 平常時に、食品取扱い者は自分の担当する食品の長所と欠点を把握しておく必要があります。食中毒等の不都合を予防するためにはリスク分析手法を勉強する必要があります。リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションの3要素を理解し、不明な点は、調べたり、問い合わせたりする努力が必要です。常日頃から努力をしていると、食中毒や不良品の疑い等が生じた場合にも冷静な対応が可能となります。特に、必要なデータや情報はどこにあるのか、誰に相談すべきか等の判断が適切かつ、速く行えます。疑いをかけられたり、苦情を持ち込まれたりしてから、対応しようとしても手遅れとなる場合が多いと思われます。浅漬け食中毒事件では、製品のバッチやロット管理も不十分でリコール(製品回収)に手間取りました。広域に当該食品が流通し、遠方からの観光客も摂取していました。この事件から教訓を得て、保健所の管轄に関する連絡調整、国と自治体間の連携、さらには地方衛生研究所等の技術力の維持向上等の点検と整備を行って欲しいと思います。
 イザという時のリコールの準備や訓練は大切です。リコールに役立たないトレーサビリティは欠陥であり、リコールの準備をしていればトレーサビリティは、自然に整備されて行きます。本メールマガジンの正月号も参考にしてください
http://www.mac.or.jp/mail/130101/02.shtml)。 

図7:温度管理用インジケータの色調変化(PDF:50KB)

 

7.フードチェーンを大切に

人間は、従属栄養生物であり、祖先から食べ続ける努力を続けてきました。我々の子孫も、生き物を食べるのでしょう。「いただきます」の意味を次世代に伝えましょう。食料の一次生産から消費までのすべての段階で,食中毒に関する理解と予防への忠実な行動が必要です。食料の一次生産から連続して食品の安全性を確保する考え方はフードチェーン・アプローチとも呼ばれています。生食用野菜用の畑や生食用鮮魚の漁場の選定時から、食品の安全性確保に貢献をすることが必要です。流通者,加工者,消費者の責任も当然あります。食料の生産や調達について正確な知識をもたない人々が増えています。全ての人の食料への理解と食品衛生思想の普及が望まれます。
 従来の食品の安全性確保は、食品毎の規格基準を順守することを基本としてきました。次第に、原材料の生産から最終消費までの各ステップを適正に維持管理し、良い仕事をバトンタッチするプロセス管理の有効性が認められるようになってきました。食品媒介感染症対策や環境汚染からの食品の保護,あるいはマイコトキシンの汚染防止などには,一次生産から食卓までの連続した衛生管理(図8)が必要です。適正農業規範(GAP)や適正製造規範(GMP)の考え方の浸透が必要であり,その後にHACCPが導入されることが望まれます。HACCPによる衛生管理には前提条件があるとよくいわれますが,国民全員の食品衛生への理解と実施,食品を介して他人へ迷惑をかけないという思いやりが基本的な土台でなないでしょうか10)。食べる人への思いやりというビタミン愛を忘れると、フードチェーンは信頼できない「道徳なき商業」の場となってしまいます。
 食品のリスク分析では,常にフードチェーン・アプローチを意識する必要があります。リスク評価においても,フードチェーンにおける危害要因の消長を科学的に解析すべきであり,特に汚染率が変動し,劇的な増殖や死滅を示す有害微生物では,より一層の調査研究が望まれます。リスク管理においても,フードチェーンの各段階での安全性確保の自覚と連帯意識を高めていく必要があります。リスク管理においても、フードチェーン・アプローチは大切な考え方であり、実際に達成できない規制をリスク管理として採用しても混乱を招くだけです。リスクコミュニケーションにおいても,国民全員のフードチェーン全体を理解しようとする努力がなければ,食品の安全性確保に関する相互理解は困難であると思われます。特に、微量感染を起こす0157のような病原体対策には、国民全員が生食の短所を忘れないようにすることが必須条件であると考zえられます11)

図8:食料の生産から最終消費までの安全管理の概念図(PDF:12.2KB)

8.おわりに

他の生物を食べなければ生きて行けない従属栄養生物としての人間は、病原体を含めて他の生物との共存を考えるべきであり、多様な調理加工と食べ方でリスクを低減させることも必要です。生産者も、加工業者も、流通業者も、全員、消費者です。全員でフードチェーンの清潔性と透明性を高めて、維持していくための貢献をすべきです。他人に責任を押し付けるだけではフードチェーンは機能不全を起こしてしまいます。安全な食品の安定調達を願って、各自の一隅を照らし続けることをお願いして稿を終わらせていただきます。

 

文 献

1)片岡郁夫ら:浅漬けによる腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例、食品衛生研究、63(3), 27-35(2013)
2)奥村彪生:日本人の生食文化の歴史と安全性、公衆衛生、76,6-10(2012)
3)川本伸一:生鮮野菜の安全確保のための微生物対策、食品と開発、48(1), 5-9(2013)
4)L.R.Beuchat: Pathogenic microorganisms associated with fresh produce. J. Food Prot.,59,204-216(1996)
5)三木朗:浅漬けの衛生管理強化のための通知改正、食品衛生研究、63(3), 21-25(2013)
6)松田敏生:ハードルテクノロジーの応用、食品の非加熱殺菌応用ハンドブック、
  サイエンスフォーラム、2001、p.235-242
7)一色賢司:液体食品の保蔵技術PIDと安全性確保、食品と容器、53,189-193(2012)
8)一色賢司:腸管出血性大腸菌による食中毒とその予防、日本調理科学会誌, 44(4), 315-316(2011)
9)山本貴志ら:メイラード反応を利用した冷蔵食品温度上昇警告するインジケータの改良、日本食品化学学会誌,19(2),84-87(2012)
10)一色賢司:生食される野菜・果物の衛生管理の考え方、日本防菌防黴学会誌、31、13-18(2003)
11) S.Park, et al.: Risk factors for microbial contamination in fruits and vegetables at the preharvest level: a systematic review, J.Food Prot.,75,2055?2081(2012)

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