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新年の願いを港町から
北海道大学大学院 水産科学研究院
一色 賢司

函館は、港町である。強い風が吹き付けることがある。昔から、大火に苦しんできた。函館の大学に職を得て6年が過ぎた。多くの方々のご支援をいただいて食品の学会を2回開催することができた。2回ともに滅多に来ない台風に意地悪をされながらも、全国からの参集者に来て良かったと喜んでいただいた。写真は日本食品衛生学会終了直後の、台風一過の函館山からの夜景と、日本食品化学学会の会場となった明治12年創業のレストラン五島軒である。函館は食品の勉強をするのに適した町であると思われる。
 学科長をお引き受けしていた時に、学生の有機溶媒の取り扱いミスから引火し、火事になった。幸い負傷者はいなかった。沢山の消防自動車による放水が行われた。徹底的な放水で階下の研究室等も使い物にならなくなった。その後、たびたび避難訓練や消火訓練が行われた。しかし、他の建物であるが暖房器具によるボヤ騒ぎが起こった。さらに、新築の実験棟でも電気のタコ足配線によるボヤ騒ぎが発生した。消防署からキツイお灸が据えられ、防火計画の作成や避難訓練等が実施されている。
 昨年、北海道では8名もの死者を出した浅漬けO157食中毒が発生してしまった。不良品の浅漬けの製品回収(リコール)にも不手際があったのではないだろうか。他山の石とし、食品で迷惑をかける消費者を一人でも増やさないためにも、下記の国際的合意文書を大事にしていただきたい。Codex国際食品規格委員会の「食品衛生の一般的原則」の製品回収(リコール)の部分である。 

函館山からの夜景 レストラン五島軒

 

5.8 製品回収手順

管理者は、あらゆる食品の安全性を脅かす危害要因を対象とし、市場から目的とするロットの最終製品を完全かつ迅速に回収できる効果的な手順を確保すべきである。緊急対応を要する健康被害の原因食品として回収される場合は、同じ条件で生産された他の製品及び同じ公衆衛生上の危害が存在するかもしれない他の製品について安全性を評価し回収することが必要となる。広く警告を行うことを考慮しなければならない。回収された製品は、それらを破壊、ヒトの消費以外の目的のために使用、ヒトの消費にとって安全であることを確認又はそれらの安全性を確保するために再加工されるまで管理下に置かれなければならない。
Code of Practice:General Principles of Food Hygiene, CAC/RCP 1-1969, Adopted 1969.
Amendment 1999. Revisions 1997 and 2003.

火事を出さない対策と出てしまったと仮定した避難訓練が大事なように、不良食品を出さない対策と出してしまったと仮定した製品回収(リコール)の訓練が大事である。不良食品を出してしまって、食品衛生法による回収命令を受ける前に、自主回収を行うことへの準備も必要である。準備もなく、訓練もなく、責任感もない、これでは消費者への迷惑を増やすことになってしまうのではないだろうか。
 一方、下記は、Codex総会で合意されたトレーサビリティの定義である。
 トレーサビリティ(Traceability):生産、加工および流通の特定の一つ、または複数の段階を通じて食品の移動を把握できること。
http://www.codexalimentarius.org/search-results/?cx=018170620143701104933%3Ai-zresgmxec&cof=FORID%3A11&q=tracability&siteurl=http%3A%2F%2Fwww.codexalimentarius.org
%2F&sa.x=0&sa.y=0

 我が国では、トレーサビリティというカタカナ言葉に目くらましをされて、製品回収(リコール)の重要さが軽視されているように感じられる。リコールに役に立たないトレーサビリティはコスト負担のみを消費者に強いることになるように思われる。リコールの準備や訓練をすれば、トレーサビリティは自然に整ってしまうと思われる。
 科学技術が進歩しても、食中毒や食品トラブルはなくならないであろう。食品取扱い現場で、今年こそ、リコールの準備や訓練を行っていただきたいと願っている。備えあれば憂いなしのフードチェーンの整備を期待している。

 
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