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新たな食品表示制度に向けて―食品表示一元化の動向―
宮城県産業技術総合センター副所長兼食品バイオ技術部長
―消費者庁食品表示一元化委員会座長―
池戸 重信(宮城大学特任教授)

1.はじめに

食品表示の機能の重要性及び表示制度の変遷や法的位置づけ、更に課題については、すでに本誌に示した通りであるが、現在の食品表示制度は、この半世紀の間に社会情勢の変化等に伴う消費者ニーズの多様化や国際的ルールとの調和、偽装事件の発生などが反映して、消費者のみならず事業者にとってもきわめて複雑かつ分かりにくい状況となっている1)。 
 特に、食品の表示に関連した法律には、食品衛生法、農林物資の規格化及び表示の適正化に関する法律(JAS法)及び健康増進法の3つがあるが、いずれも戦後間もなく制定され、かつ各々当初は表示以外の規定内容が主であり、時代とともにしだいに表示に関する規定が付与又は改正されてきたものである。
 また、企画・執行の所管省庁が個別法ごとに異なることや、府令、省令、告示、通知等、個別のルールの根拠規定のレベルや方式が法律によって異なることなども分かりにくい要因とされてきた。
 こうした中、平成21年の消費者庁の設置に伴い、これら食品表示制度の企画・執行が同庁において一元化されたことから、設置後食品表示に関する運用改善とともに課題の把握等を行われてきた。その結果、課題の把握につき一定の成果が得られたことから、平成23年9月に「食品表示一元化検討会(以下「検討会」)」が設置され、新たな食品表示制度に向けての12回の検討会が開催された。
 また、この間にWebによる消費者の意識調査がなされるとともに、意見交換会及び中間論点整理に対するパブリックコメントの聴取等がなされ、これらの情報も踏まえた検討の結果、この度、その報告書がまとめられた。以下その概要を記すこととする。

 

2.食品表示に対する消費者の意識

平成23年12月末に、消費者庁が実施したWebによるアンケート調査(有効サンプル数1,083人)2)によれば、買い物をする際(場所はスーパーマーケットが圧倒的に多かった)の表示の確認事項として、「価格」(81.5%)が最も多く、次いで「消費期限・賞味期限」(71.0%)、「商品名」(52.8%)、「一括表示」(43.5%)、「メーカー・ブランド名」(35.6%)の順となった。
 また、加工食品を購入する際、商品選択のために参考とする表示事項は、「いつも参考にしている」と「ときどき参考にしている」を合わせると、「価格」(91.9%)が最も多く、「消費期限・賞味期限」(87.4%)、「原材料名」(72.9%)、「内容量」(70.7%)、「輸入品の原産国・製造国」(69.9%)の順となった。
 一方、実際に商品を購入する際に知りたい情報が「いつもすぐ見つけることができる」のは、「名称(一般的名称):「魚肉練り製品」「スナック菓子」等」(75%)が最も多く、次いで「原材料名」(57.2%)、「内容量」(56.9%)、「消費期限・賞味期限」(55.8%)の順となった。
 見つけにくいとした理由は、「文字が小さすぎて見つけにくい」「表示事項が多すぎて見つけにくい」の割合が高かった。
 また、現行表示の分かりやすさに関する調査によれば、「名称」「内容量」「原材料名」「消費期限・賞味期限」「製造者、販売者等の名称及び所在地」は分かりやすいという回答が多かった一方で、「アレルギー(特定原材料)の表示」「食べ方、調理方法に関する事項」「遺伝子組換え表示」「食品添加物」「輸入品の原産国・製造国」は分かりにくいという回答が多かった。
 分かりにくい理由は、全ての事項において4割〜6割の方が「文字が小さいため」を挙げていた。
 この関連で、「食品の表示をより分かりやすく、活用しやすいものにするためにどんなことが必要だと思うか」という質問に対し、「表示項目を絞り、文字を大きくする」(72.6%)が、「小さい文字でも多くの情報を載せる」(27.4%)の回答に比べて多く、容器包装以外の表示媒体(ウェブやPOP表示等)の利用に対しては、「できるだけ多くの情報を容器包装に表示する」(50.4%)と、「容器包装に載せる事項を重要なものに限り、それ以外は容器包装以外の表示媒体(ウェブやPOP表示等)を活用して任意に伝達する」(49.6%)の回答がほぼ半々であった(図1)。

図1(PDF:42KB)

 

3.食品表示制度一元化の必要性

食品の表示は、その利用主体である消費者のためにあることは言うまでもない。
 すなわち、消費者が有している権利との関係を明確にしておく必要がある。
 平成16年に、それまでの「消費者保護基本法」から改正された「消費者基本法」には、基本理念として、安全性の確保や商品及び役務についての自主的かつ合理的な選択の機会の確保等8つの権利が規定されている。これは、消費者像をそれまでの「保護される者」から「自立した主体」として位置づける消費者政策の転換を意味するものであり、これら自立を図る上でも、適切な情報の提供が前提となる。
 更に、改正後の消費者基本法では、消費者は、自ら進んで消費生活に関して必要な知識を習得し、必要な情報を収集する等自主的かつ合理的な行動に努めなければならないとされている。すなわち、表示は、消費者に対する明確かつ平易な形での情報提供を事業者に促し、消費者自ら適切な判断を行う前提となるものとして位置づけられる。
 ところで、現在食品一般を対象として、その内容に関する情報を提供させている法律には、前記のように食品衛生法、JAS法及び健康増進法の3法がある。これらの法律は、戦後まもなく各々異なった目的で制定された。また、各々の目的のもとに表示の規定のみが定められているものではなく、むしろ制定当初は表示以外の施策を主体に規定がされていた。
 また、これら3法制定後半世紀以上経ても、食品表示に関する目的は各々別個のものであることは変っていない。すなわち、食品衛生法においては、食品の安全性の確保のために公衆衛生上必要な情報、JAS法においては、消費者の選択に資するための品質に関する情報、そして健康増進法においては、国民の健康の増進を図るための栄養成分及び熱量に関する情報を対象としたものである。特に食品衛生法とJAS法の間には重複がみられるものがあり、また、用語の使われ方も異なるものがあるなど、現行の食品表示制度は、複雑で分かりにくいものとなっていることから、両法律を所管していた厚生労働省と農林水産省の連携のもと、平成14年に「食品の表示に関する共同会議」を設置し、審議の一元化を図って、期限表示の統一など徐々に複雑な仕組みの改善がなされてきたところである。
 しかし、所管省庁が分かれている中で、食品表示制度を完全に統合するには至らなかった。
 その後、平成21年9月に消費者庁が設置され、食品衛生法、JAS法等に基づく表示基準の策定事務を一元的に所管する食品表示課が設置された。このように、先ず組織面で一元化がなされたことにより、食品表示制度それ自体についても、一元化の実現可能性が高まった。今回の検討会は、まさに半世紀を経て初めて、食品表示制度の原点に立って、そのあり方につき見直す機会となったと言ってもよい。
 なお、一元化とは前記3法で規定している全ての内容を統合するものではなく、食品表示制度の一元化とは、上記の各法のうち、食品表示制度に関する規定を抜き出して、これらを統合した新法を制定することである(図2)。

図2(PDF:142KB

 

4.新しい食品表示制度の在り方

食品表示制度は、消費者にとって真に必要な表示について、事業者の実行可能性等を十分に踏まえた上で、表示基準を定め一定の事項の表示を義務付けることを基本とするものである。また、新たな食品表示制度の検討に当たっては、消費者がその表示を見付け、実際に目で見て(見やすさ) 、その内容を理解し、消費者が活用できる(理解しやすさ)ものになっているか否かの視点をもって検討を行う必要がある。

(1)新表示制度の目的は安全性優先のもとで
 新しい食品表示制度の目的については、消費者基本法の基本理念を中心に規定したり、3法の目的を入れ込む等の意見もあったが、上記のような食品の特性及び消費者基本法の基本理念の趣旨を踏まえ、食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることを最優先とし、これと併せて、消費者の商品選択上の判断に影響を及ぼす重要な情報が提供されることと位置付けることが適当とされる。

(2)用語の統一化
 現行では、食品衛生法とJAS法で定義が異なるものがあり、これらの用語の統一・整理を行うことが適当である。なお、具体的な表示の方法等については、現行制度では、法律、府令、告示等のほか、通知やいわゆるQ&Aによってルールが定められている。特に、食品衛生法に関しては、必要に応じ、随時通知が発出されており、ルールの全体像を把握することが難しくなっている状況にある。このため、これらを一括して整理し、ルール全体を一覧できるようにすることが適当である。

(3)できるだけ多くではなく重要な情報をより確実に
 情報の重要性は消費者によって異なり、アンケート結果によれば、商品に表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはないことから、新たな表示制度は、表示事項全ての情報が消費者に伝わることを前提として、できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切と考えられる。
 また、情報の重要性は、生鮮食品、加工食品など食品によっても異なる。
 これらを踏まえ、新たな食品表示制度の検討に当たっては、情報の重要性に違いがあることを前提とした制度設計とすることが適切と考えられる。

(4) 表示の見やすさ(見付けやすさと視認性)
 情報の重要性は消費者によって異なる。しかし、表示義務を課すことにより行政が積極的に介入すべき情報のうち、全ての消費者に確実に伝えられるべき特に重要な情報として、アレルギー表示や消費期限、保存方法など食品の安全性確保に関する情報が位置付けられると考えられる。
 消費者庁が実施したWEBアンケート結果によれば、表示の分かりにくい理由として「文字が小さいため分かりにくい」との回答が最も多く、また、文字の大きさと情報量について質問したところ、「表示項目を絞り、文字を大きくする」が72.6%であった。 今後、高齢化が進展する中で、高齢者の方々がきちんと読み取れる文字のサイズにすることが特に必要であり、このような観点からも、文字を大きくすることの必要性は高いと考えられる)。

   

このため、現行の一括表示による記載方法を緩和して一定のルールの下に複数の面に記載できるようにしたり、一定のポイント以上の大きさで商品名等を記載している商品には義務表示事項も原則よりも大きいポイントで記載するなど、食品表示の文字を大きくするために、どのような取組が可能か検討していく必要がある。

 

5.義務表示事項の範囲

(1)安全性優先に消費者のメリット・デメリットのバランスを前記のとおり、食品表示制度の目的の中でも、食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることが最も重要であり、表示を義務付ける事項の検討に当たっては、食品の安全性確保に関わる事項を優先的に検討するとともに、食品の安全性確保に関わらない事項について表示の義務付けを検討するに当たっては、消費者にとってどのような情報が真に必要な情報であるか否かよく検証することが必要である。また、表示を義務付ける以上、基本的に、規模の大小を問わず全ての事業者が実行可能なものであるか否か、また、表示内容が正しいか事後的に検証可能なものであるか否かの検討が必要である。このため、消費者への情報提供を充実させていく上で、商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、事業者の実行可能性に影響を及ぼすような供給コストの増加があるのか、さらに、監視コストその他の社会コストなど総合的に勘案した上で、消費者にとってのメリットとデメリットをバランスさせていくことが重要である。

(2)現行の義務表示事項に対する検証と優先順位の考え方の導入
 現行で義務表示の対象となっている事項として、 例えば、加工食品については、 名称、原材料名、食品添加物、内容量、期限表示、保存方法、製造者等の名称及び所在地、アレルギー物質、原産国名(輸入品)などがある。いずれも、具体的にみてみると、長年の議論の積み重ねの下にその必要性が認められてきたものである。これまでの議論も踏まえつつ、食品表示の一元化に当たって優先順位の考え方を導入する機会に、情報の確実な提供という観点から現行の義務表示事項について検証を行うべきである。

(3)新たな義務付けにも優先順位と国際動向を踏まえて
 現在表示が義務付けられていない事項についても新たに表示や情報提供を義務付けたり、制度の適用範囲を容器包装以外にも拡大しようとする場合には、優先順位の考え方を活用すべきである。すなわち、それが「より多くの消費者が重要と考える情報」かどうかという観点から、優先順位をつけて検討すべきであり、容器包装以外の媒体によって必要な情報を提供すれば、容器包装への表示は省略することができるといった形で、消費者だけでなく、事業者にとっても選択の余地があるという意味で望ましい制度とすることも考えられる。一方、将来においても、優先順位に留意しつつ、必要に応じて表示事項を見直すことも重要である。このような観点からの見直しが可能となるよう、義務表示事項を柔軟に変更できるような法制度とすることが必要である。 また、国際的には、コーデックス委員会において、食品表示の在り方等の議論について進展がみられるところであり、諸外国においても、近年、食品表示制度の見直しが進められているところである。これらの動向を踏まえることも必要である。

 

6.事業者による自主的取組の促進と行政による消費者への普及啓発の充実

消費者のニーズに対応することは、消費者と事業者の信頼関係を構築する上で非常に重要であり、法令に基づき表示が義務付けられたもの以外であっても、消費者へ提供される情報を充実させるため、消費者の適切な商品選択が図られるよう、義務表示事項としない任意表示事項について、ガイドラインの整備等により、事業者の自主的な情報提供の取組を充実させることが適当と考えられる。一方、消費者自らが食品及び食品表示に対する知識を高めていくとともに、これにより消費者が入手できる情報の中から自身が必要なものを取捨選択し、適切な商品選択ができるようにしていくことも重要である。行政としては、そのような消費者の取組が促進されるよう、食品表示制度や食品に関する諸々の情報に関する普及啓発を充実させていくことが必要である。

 

7.新たな食品表示制度における適用範囲の考え方

現行の食品表示制度については、原則として、容器包装入りの加工食品を主な対象とし、表示基準を定め一定の事項の表示を義務付けているものであり、新たな食品表示制度においても、容器包装入りの加工食品を対象の基本とすることが適当である。一方、社会構造の変化による食の外部化の流れや、インターネットの普及等による新たな消費行動の定着などを踏まえた上で、新たな食品表示制度における適用範囲を検討することも必要である。

(1)中食・外食等におけるアレルギー物資対策の検討
 現行の食品表示制度では、中食や外食には、一部を除き、食品衛生法やJAS法に基づく表示義務は、原則として課されていない。これは、中食や外食には、調理や盛りつけ等により原材料や内容量等にばらつきが生じたり、日替わりメニュー等の表示切替えに係る対応が困難であるといった課題や特徴があり、また対面で販売されることが多く予め店員に内容を確認した上で購入することが可能であることや、表示切替えに伴うコストが相当なものになるためである。一方で、アレルギー物質に係る情報を食品表示として充実させることは非常に重要なことから、消費者庁は、関係省庁と連携しつつ、アレルギー表示に関するガイドラインの策定を支援するなど必要な環境整備を進めることが適当である。

(2)インターネット販売等は別途検討
 国民のおよそ8割がインターネットの利用者であり、また高齢者を中心に食品購入や飲食のアクセス機会が確保できない事態に対しても高い利便性を持つインターネット販売が重要な役割を果たすことが期待されていると考えられる。一方で、インターネット販売の形態としては、ネットスーパーのように小売店で実際に売られている膨大な商品を取り扱っているものから、個人が独自のサイトを通じて食品を販売するものまで、極めて多様な実態があることを考慮する必要がある。

以上のことを踏まえ、インターネット販売における食品の情報提供の在り方については、専門的な検討の場を別途設け、消費者のニーズを踏まえつつ、専門家を交えて検討を重ねることが必要である。

 

8.新たな食品表示制度における栄養表示の考え方

(1)現行の健康・栄養政策における課題
 健康の維持・増進は国民全ての願望であり、健康寿命を延ばすことは重要な課題である。健康な生活を維持するためには色々な要素が関連するが、中でも日々の食生活が大きく影響している。近年における国民の栄養状況を見ると、20−60歳代男性の約3割りが「肥満」となっている一方で、20歳代の女性の約3割が「やせ」となっており、また、全摂取熱量に占める脂肪の割合や食塩の摂取量も目標値を超えている。これらの状況は生活習慣病の増加にも影響し、ひいては医療費の増大にも繋がっている。こうした状況を背景に、国の健康・栄養政策に関しては、平成12年に、10年間を目標期間として国民健康づくり運動の方針「健康日本21」が策定された。更に、「健康日本21」の次期方針として平成24年7月に策定された「健康日本21(第2次)」においては、非感染性疾患の予防の観点から、栄養・食生活における生活習慣の改善のため適正体重を維持している者の増加や食塩摂取量の減少や新たに社会環境の改善に取り組むことが基本的な方向の一つとして示される中、その取組を促すため食品中の食塩や脂肪の低減に取り組む食品企業数等の増加などの具体的目標を掲げている。
一方、平成12年には文部省(現在の文部科学省)・厚生省(厚生労働省)・農林水産省 の3省が決定し、その推進について閣議決定された「食生活指針」が策定され、同指針に基づく栄養改善活動もなされてきた。
 今回の栄養表示のあり方は、こうした栄養施策の一環として、個人の行動に変化を促すための環境作りを促進するために重要な役割を果たすことを期待するものとして位置づけされる。

(2)国際的な栄養表示制度は義務化の方向に
 国際的には、コーデックス委員会が、平成20年の第31回総会において、栄養表示ガイドライン(CAC/GL 2-1985)に関し、栄養表示の義務化などについて新規で検討を行うことを決定し、同委員会の食品表示部会において検討が行われ、平成24年5月に行われた第40回食品表示部会では、国内事情が栄養表示を支持しない場合を除き、予め包装された食品の栄養表示を義務とすべき、ただし、栄養あるいは食事上重要ではない食品又は小包装の食品等の食品は表示義務の対象外としてもよいとの見直し案が合意され、同年7月の第35回コーデックス委員会総会において同見直し案が採択されたところである。
 また、既に栄養表示の義務化が導入されていた米国に続き、このような動きに歩調を合わせる形で、南米諸国や中国、インド、韓国、オーストラリアやニュージーランドなどの各国で栄養表示の義務化が進められてきた。欧州連合(EU)においても、平成23年11月に、食品表示に関する新規則が公示され、同年12月に発効した。栄養表示の在り方を考える上では、このような国際的な動向や各国の表示の実態などを踏まえつつ、検討を行うことも必要である。

(3)新しい栄養表示制度の枠組み
 義務化の対象食品としては、原則として、予め包装された全ての加工食品とする一方、消費者全体にとって栄養の供給源としての寄与が小さいと考えられるものなどは対象外とすることが適当である。
対象事業者は、原則として、事業規模等による事業者単位の適用除外は行わず、全ての事業者を対象とする一方、例外として、家族経営のような零細な事業者に過度の負担がかかるようであれば、適用除外とすることが適当である。
 対象とする栄養成分については、表示の対象成分を予め決めてしまうと、その後変更することは容易ではないため、環境整備後の状況を踏まえつつ、実際の義務化施行までに対象成分を決めることが適当である。なお、コーデックス委員会の栄養表示ガイドラインにおいて、栄養表示を行う際に必ず表示すべき栄養成分として定められているものには、現行の一般表示事項(エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム)のほかにも飽和脂肪酸や糖類がある。対象成分の検討に当たっては、これらを含め、各国の義務表示の実態を踏まえつつ、幅広く検討する必要がある。
 表示値の設定方法については、現行制度の表示値と実際の含有量との間の差の許容範囲について、バラツキが大きくなると考えられる食品を含め、幅広い食品に栄養表示を付することができるようにするため、現行の許容範囲に縛られない計算値方式の導入、低含有量の場合の許容範囲の拡大、幅表示の活用等を図ることが適当である。

(4) 栄養表示の義務化に向けての環境整備
 一定程度の猶予期間を設けた上で栄養表示の義務化を円滑に進めるためには、消費者庁として、現行の表示基準の改正を速やかに行うべきであり、その上で、事業者に対してより栄養表示する食品を拡大するよう協力を求めるとともに、消費者がよりきめ細かい健康管理を行うことができるよう、表示する栄養成分の拡大を推奨するなどの取組を進めるべきである。また併せて消費者等への普及啓発の推進と認識醸成、更には公的なデータベースの整備などの環境整備を図っていくことが適当である。

(5) 義務化導入の時期は環境整備を踏まえ概ね5年以内
  義務化導入の時期については、新法の施行後概ね5年以内を目指しつつ、前記による環境整備の状況を踏まえ決定することが適当である。また、義務化の導入に先立って、新たな表示方法による栄養表示を推奨するとともに、その取組の過程で明らかになる問題点等について対応策を検討し、新たな表示方法が多くの事業者にとって表示しやすいものとなるよう改善を図っていくことが適当である。

 

9.加工食品の原料原産地表示

加工食品の原料原産地表示の義務化については、これまではJAS法に基づく「品質」を指標としたものに限定されていた。今回の一元化に当たって、品質以外のより広い根拠に基づく視点での検討がなされた。たとえば品質以外でも「誤認」を招く場合には義務対象になり得るか等の議論もあったところである。しかし、当該課題については、今回の検討会において、これまでの「品質の差異」の観点にとどまらず、新たな観点から原料原産地表示の義務付けの根拠について、合意には至らなかった。当該事項については、食品表示の一元化の機会に検討すべき項目とは別の事項として位置付けることが適当である。
 なお、議論の経緯については別途「?加工食品の原料原産地表示に関する検討会における議論の経緯」http://www.caa.go.jp/foods/pdf/120809_3.pdfを参考にされたい。

 

10.今後の対応について

以上、今回の「食品表示一元化検討会」の報告書の概要を記したが、今後これを踏まえ新たな法律案の作成作業がなされ、その過程において法制局や関係省庁との協議を経て、閣議決定の方針に基づき今年度中に国会に提出されることとなる。これと並行して、前記報告書に記された各種の課題に関する個別検討がなされるものと思われる。
 また、国会の審議の結果、新法が制定されても施行までに一定の期間を置くとともに、政令・省令・告示等で規定する事項の検討もなされ、これらに関する施行もその内容に応じた期間が設定されるものと思われる(図3)。
 いずれにしても、今回の「表示」の検討を機会に、食品の供給と消費サイド間の相互理解を更に深めるとともに、一個人としても自身を取り巻く「食」及び「食生活」をあらためて見直すきっかけにしていただければということを願う次第である。

図3(PDF:467KB)

 

文献

1)池戸重信「食品表示の課題と方向」 SUNATEC e-Magazine 2010年9月号
http://www.mac.or.jp/mail/100901/01.shtml

2) 消費者庁食品表示課「食品表示に関する消費者の意向等調査」
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/120221sankou2.pdf 2012.2.21

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