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DNAを用いた分析の現状と展望
食品分析開発センターSUNATEC 微生物検査室 吉田朋高
はじめに

 食品の表示は、消費者にとって商品を選択する際に必要な情報として記載されています。そのため、生産者は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」に従い正しい表示情報を伝えなければなりません。しかしながら、表示を偽装する事象が後を絶ちません。
 こうした偽装を見つける手段として、DNAを用いた分析技術が数多く実用化されてきています。当センターでも、DNA鑑定による肉種鑑別(SUNATEC e−Magazine vol.037『遺伝子解析手法を用いた様々な検査について』参照)、米の品種判別、魚種判別検査を行っています。 今号では、米の品種判別、魚種判別について紹介します。

米の品種判別
 米の表示方法は「玄米及び精米品質表示基準」(平成12年3月31日農林水産省告示第515号)にて規定されており、原料玄米の産地、品種、産年を表示することが基本となっています。
単一原料米の場合
原料玄米 産地 品種 産年
単一原料米
三重県
コシヒカリ 21年産
複数原料米(ブレンド米)の場合
原料玄米 産地 品種 産年 使用割合
複数原料米      
国内産     10割
三重県 コシヒカリ 21年産 7割
三重県 キヌヒカリ 21年産 3割
 しかしながら、異なる品種やくず米を不正に混入して米の産地、品種を偽装した取引が多く、2009年10月にも、産地や品種の証明を受けていない未検査米を「あきたこまち」と混ぜ、「岩手県産あきたこまち」と偽装表示して販売していたという事件が起きています。
 当センターでは、イネの品種間SNPsを利用した手法によりコシヒカリ、あきたこまちを始め、112品種を判別します。 SNPs(Single Nucleotide Polymorphisms)はスニップスと読み、一塩基多型を意味します。イネの塩基配列中には、品種間において一つの塩基のみが異なっている部分(品種AではATGCであるが、品種BではAGGCといった違い)が多数存在します。このSNPsの違いを調べることで、米の品種を正確に知ることができます。
 例えば、「単一原料米 コシヒカリ」と表示されているが、本当にコシヒカリだけなのか?といった場合、定性試験を実施することで下図のような結果が得られます。

図1.コシヒカリ100%の場合

1,2‥検体
N‥ネガティブコントロール
P‥ポジティブコントロール
M‥分子量マーカー

図2. コシヒカリ以外の品種の米がブレンドされている場合(複数原料米)

 図2では、図1で見られなかった部分にバンド(黄色の囲い)が現れているのがわかります。この結果より、コシヒカリ以外の品種の米が混入していることが判明しました。
 なお、米1粒ごとに検査を行う定量試験を行うことにより、混合比率を求める事も可能です。
魚種判別
 水産物の生鮮食品は生鮮食品品質表示基準(平成12年3月31日農林水産省告示第514号)及び水産物品質表示基準(平成12年3月31日農林水産省告示第516号)に基づき、品質表示が義務付けられています。
 魚は切り身や表皮を取り除くなどの加工された状態で販売される場合、その魚種を目視で判別することは難しく、「名称」「産地」に関する表示が正しいか否かを判別することは一般消費者には困難です。
 独立行政法人農林水産消費技術センターと独立行政法人水産総合研究センターから魚種判別に関する技術情報が開示されており、当センターではこの技術に基づいた魚種判別試験を行っています。
 今回は国内で多く消費されるマグロの魚種判別を例に述べていきます。マグロは、品種や部位、産地の違いにより価格差が大きく、また今後、国際的に漁獲量が規制される動きもあるため表示偽装が懸念されています。
 国内で流通するマグロは、主にクロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガの5種であり、この5種の判別をPCR-RFLP法によって行います。 PCR-RFLP法は、(1)試料からDNAを抽出 (2)鋳型DNAを用いPCR操作 (3)得られたPCR産物を制限酵素処理 (4)電気泳動により判定の手順で実施します。 RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphisms)とは、制限酵素断片長多型を意味し、制限酵素(DNAの特定の塩基配列を認識し、その部位のDNAを切断する酵素)で切れるかどうかで個体間の差異を検出します。(図3、4参照)

図3. 制限酵素処理

制限酵素処理後、電気泳動によりDNA切断の有無を可視化します。

図4.制限酵素Tsp509 I 処理後の電気泳動図

1‥クロマグロ(大西洋産)
2‥ミナミマグロ
3‥メバチ(βタイプ)
4‥キハダ
5‥ビンナガ
N‥ネガティブコントロール
M‥分子量マーカー

 図4のTsp509 Iでは、3のバンドパターンよりメバチと推測できます。マグロ属の判別ではTsp509 I以外にもAlu I、Mse I のそれぞれにて制限酵素処理を行い、RFLPのバンドパターンにより魚種の判別を行います。
当センターでは、マグロ属魚類の他にタイ(マダイ、チダイ、キダイ)、スズキ(スズキ、タイリクスズキ、ナイルパーチ)、サバ(マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバ)、アジ(マアジ、ニシマアジ)についても判別可能です。
今後の展望
 遺伝子に関する研究が進み、犯罪捜査や臨床医療の分野において広く利用される時代となりました。
食品業界では、遺伝子組み換え食品や産地、品種の判別などへの利用が進んでいます。また、微生物検査においても従来の培養法以外に、遺伝子を用いた迅速法の開発が進んでいます。
 SUNATECでは今後も最新技術を取り入れ、食に関わる「安心」「安全」「健康」「おいしさ」に寄与していきます。
参考文献
マグロ属魚類の魚種判別マニュアル(平成18年12月14日一部修正)独立行政法人 農林水産消費技術センター、独立行政法人 水産総合研究センター
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