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遺伝子解析手法を用いた様々な検査について
はじめに
 一昔前(私が学生だった頃)は、遺伝子、DNA(Deoxyribonucleic acid)、RNA(Ribonucleic acid)、PCR(Polymerase Chain Reaction)、DNAシーケンサなど分子生物学に関連した用語は、ほとんどなじみがなく、DNAの基本構造である「二重らせん構造」をもじって、頭の中が二重らせん(=何か良くわからない、難しそうなことを研究している学問)というイメージでした。
 私が初めてDNAを目の当たりにしたのは、ラットの肝臓から抽出したミトコンドリアDNAで、ガラス棒に巻きついた半透明の何かしら神秘的な物体には遺伝に関する情報が刻まれているんだ!とある意味感動を覚えた記憶があります。今日では、ガラス棒に巻きついたDNAを目にすることは少なく、市販のDNA抽出キットを用いて誰でも簡単にDNAを抽出することができ、抽出したDNAを用いて様々な遺伝子検査が実施できる状況にあり、その検査技術、手法は日々進化を続けています。
 以下、様々な検査手法、技術を用いて、弊財団が現在対応している遺伝子解析手法を用いた主な検査をご紹介させていただきます。
検査内容のご紹介
1)微生物同定/系統解析
(1) 使用機器
自動DNAシーケンサ(写真-1参照)
写真-1 自動DNAシーケンサ
(2) 検査目的
 クレーム対策、予防策の構築:細菌、カビ、酵母などの微生物が主な要因となって、様々なクレームに繋がることがあります。例えば、加熱殺菌工程が不十分であったため、耐熱性を有する細菌(芽胞形成菌)が増殖し、食品の腐敗、変敗に繋がる事例、酵母の混入、増殖に伴う包材の膨張(アルコール発酵などによる)、製造環境中に存在していた空中浮遊菌が食品の表面に付着し、その保存中に肉眼で確認できる程度まで生育してしまったカビの集落、意図せざる酵母の混入により、酢酸エチル、酢酸イソアミル、エタノールなどの異臭を放つようになってしまったジュースなど、その事例は多種多様です。このような場合、その要因となった微生物の種類を同定することで、原因究明及び再発防止策構築に向けての資料とすることができます。
 また、あらかじめ原材料や製造工程、製造環境などに常在している微生物の種類をあらかじめ把握することで、微生物の性状(例:熱に強い、乾燥に弱い、次亜塩素酸ナトリウム溶液で殺菌できる、アルコール殺菌では効果がないなど)に合わせた予防策構築のための資料とすることができます。
(3) 検査手順
 同一シャーレ上に複数種のコロニーが確認された場合や食品そのものに認められる微生物について同定を行なう場合は、検査対象外の微生物のコンタミネーション(汚染)の可能性があるため、検査対象に適した培養条件で純粋培養(単離培養)する必要があります。純粋培養後の微生物からDNAを抽出し、これを鋳型としてPCR、ラベリング反応、自動DNAシーケンサを用いた塩基配列の決定、データベースとの配列相同性解析により微生物を同定します。
 なお、菌株分譲機関から購入したBacillus cereusについての解析結果を表-1に示しました。
表-1 ライブラリー検索、配列相同性解析結果
Library Name % Match Consensus Length Library Entry Length Total Mismatches
Bacillus cereus 100.0 494 498 0
Bacillus thuringiensis 99.9 494 501 1
Bacillus thuringiensis 99.8 494 498 2
2)肉種鑑別、遺伝子組換え農作物の検出
(1) 使用機器
サーマルサイクラー(写真-2参照)
写真-2 サーマルサイクラー
(2) 検査目的
 肉種鑑別や遺伝子組換え農作物に関する検査は、製品に記載される使用原材料に関する表示に関わりの深い検査です。遺伝子解析手法ではないですが、特定原材料(アレルゲン物質)の使用に関する検査も同様です。
 表示内容が正しいことを科学的根拠に基づいて証明することは、昨今注目が集っている消費者の食の安全、安心に対する信頼の証に繋がります。
 また、肉種鑑別は、異物検査への応用も可能で、状態にもよりますが、発見された異物(肉片、骨、軟骨など)についてそれらの動物種を推定することができます。
(3) 検査手順
 検体からDNAを抽出し(写真-3参照)、得られたDNAを鋳型としてPCRを行い(写真-4参照)、検出対象に特異的なDNA配列(増幅産物)の有無をアガロースゲル電気泳動法により確認します。
 なお、惣菜から発見された異物(顕微鏡観察の結果、肉片であると判断されたもの)について、肉種鑑別を行った結果、異物からは牛の陽性対照と同じ長さの増幅産物が得られた(写真-5、Lane 1及びLane 2)ことから、当該異物は牛の肉片であると判定されました(写真-5参照)。
表-1 ライブラリー検索、配列相同性解析結果
 
写真-3 DNA抽出操作   写真-4 PCRの様子
写真-5 肉種鑑別の結果

Lane 1、3、5:異物
Lane 2:陽性対照(牛)、Lane 4:陽性対照(豚)
Lane 6:陽性対照(鶏)、Lane 7:No Template Control
M:分子量マーカー

3)ノロウイルスの検出
(1) 使用機器
サーマルサイクラー(写真-2参照)
 
(2) 検査目的
 ノロウイルスは、ウイルス性食中毒をもたらし、その食中毒件数は例年12月〜3月頃がピークになります。ノロウイルス食中毒の予防方法として、加熱処理(85℃、1分間以上)や次亜塩素酸ナトリウム溶液での消毒(塩素濃度200 ppm)などが挙げられます。
 さて、本検査の目的ですが、カキなどの二枚貝をはじめ様々な食品中にノロウイルスが含まれているか否かをRT-PCR法(reverse transcription-PCR法)により調べます。
(3) 検査手順
 ノロウイルスは、RNAウイルスの一種ですので、DNAを持っていません。そこで、先程の肉種鑑別や遺伝子組換え農作物の検出方法と若干異なり、まず、検体からRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型として逆転写酵素を用いてDNAの合成反応(逆転写反応:reverse transcription)を行ないます。合成されたDNAを鋳型として、定法通りPCR、アガロースゲル電気泳動を行い、ノロウイルスに特異的な増幅産物の有無を確認します。
4)腸管出血性大腸菌O157及びO26の検出
(1) 使用機器
リアルタイム濁度測定装置(写真-6参照)
写真-6 リアルタイム濁度測定装置
(2) 検査目的
 腸管出血性大腸菌O157及びO26のベロ毒素産生株は、いずれも数十個の菌数で食中毒を発症し、重篤な症状をもたらすことが知られています。
 本試験方法は、このように重篤な症状をもたらすベロ毒素遺伝子(VT:Vero toxin遺伝子)をもつ腸管出血性大腸菌O157及びO26をいち早く検出することができる迅速検査法です。
 なお、食肉(内臓を含む)、食肉製品及びチーズについては、本試験方法の適用外で、従来通りの培養法により検査を行ないます。
(3) 検査手順
 検体をノボビオシン加mEC培地で42±1 ℃、22±2時間増菌培養した培養液からDNAを抽出後、リアルタイム濁度測定装置を用いて、増幅産物の有無を確認します。本試験方法は、経時的にベロ毒素遺伝子に特異的な領域の増幅の有無があるか否かについてリアルタイムに判定することが可能です。
まとめ
 現在、弊財団で対応している遺伝子解析手法を用いた主な検査内容をご紹介させていただきました。遺伝子検査は、TVドラマや鑑定技術の進歩により「絶対的な検査」ととらえられがちですが、実際には完全とまではいかない部分もあることから、今後はそれらの課題、問題点などを解消した優れた検査技術として進歩していくことが期待されます。我々も、技術の進歩に遅れを取ることなく、確実に前進し、依頼者の皆様によりよい検査サービスをご提供できるよう頑張ってまいります。
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