◆ HOME >食品の微生物変敗と防止技術 |
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食品の腐敗、変敗は生物的、化学的あるいは物理的要因によるが、最も多いものは生物的劣化であり、その中でも微生物の生育によるものが大部分を占めている。微生物にはウイルス、細菌、酵母、カビ、放線菌等が含まれ、その種類は極めて多い。その一部は発酵食品や加工食品の製造に利用されているが、多くは食品の品質劣化に関与している。例えば、微生物が食品に生育することにより香りの変化、色調の変化、組織の変化等が生じ食品の価値を失わせる。食品の微生物による腐敗、変敗とは可食性を失う現象を意味し、食品中のタンパク質、炭水化物、脂質の分解される過程を意味している。食品の汚染菌には原料に由来する微生物と、加工工程や保存過程で汚染した微生物があるが、微生物の増殖とその環境にはある程度の規則性があり、食品には固有の微生物が付着、汚染していることが多く、これは食品のミクロフロ−ラと呼ばれている。食品の腐敗、変敗は種々の中間生成物を経て、最終生成物に至るまでの連続した代謝過程であるが、これは1種類の微生物が作用するのではなく、その初期段階では食品の化学的、物理的性質(成分組成、pH、水分、塩分、糖分、水分活性、酸化還元電位等)や保存条件の影響を受け、その環境に最も適合した微生物が優先して生育する。そして、微生物の増殖に伴って成分、酸化還元電位等の変化が起こるが、その環境の変化に応じて、別の種類の微生物が増殖し、それが優勢となる。このような現象が繰り返されて腐敗、変敗が進行するが、その間、食品のミクロフロ-ラは、分解生成物の影響等で単純化していく。このように微生物による食品の腐敗、変敗はアンモニア、アミン、トリメチルアミン、有機酸、含硫化合物に由来する臭いの変化、色調や風味の変化、軟化、ガス発生、フラットサワ−等の現象がみられるようになる。また微生物が産生する多糖類等が原因となるロ−プ、ネト等の発生が見られる。腐敗、変敗過程ではこれらの現象は単独に起こるのではなく、2つ以上の現象が同時に進行している場合が多い。
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食品の腐敗、変敗に関与する微生物は細菌、酵母、カビが中心である。その由来は土壌が最も多く、続いて工場の空中浮遊菌、機械付着菌、床付着菌、食品原材料、植物、動物下水、廃水、淡水、海水等が多い。自然界には多くの微生物が存在し、最も多い土壌には細菌が多く、特にグラム陽性菌が多く、中温性および好熱性芽胞形成菌が多い。細菌数としては1.2×〜1.5×/g程度存在する。細菌のほかには酵母、カビが存在し、それぞれ2.5×10〜1.6×/g, 1.8×10〜1.8×/g程度存在する。また海水には大腸菌群のようなグラム陰性細菌が多く、海洋性酵母も多く存在する。細菌数は外洋では1.0×/mlで沿岸では1.0×〜1.0×/mlであり、中温性及び低温性細菌が多い。また食塩濃度約3.0%の濃度で生育する細菌や酵母が多い。淡水ではグラム陰性細菌が多く、1.0×〜1.0×/mlの微生物が存在する。また中温性から低温性細菌が圧倒的に多いのが特徴である。植物には多くの微生物が存在するが、土壌、空中に由来する微生物が多いが、特に酵母が多いことが知られている。魚介類は体表に1.5×〜1.2×/cm2、エラにはさらに多く1.3×〜2.1×/cm2、消化管内には2.2×〜1.1×/cm2の中温性から低温性の細菌が多い。食品中の一般的な微生物菌数を表1に示した。 |
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表1 食品中の一般的な微生物菌数 |
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ノロウイルスは二枚貝の体内で増殖することはない。カキにノロウイス汚染が起きるのは、ノロウイルスはカキを含む二枚貝が持っているものではない。カキを初めとする二枚貝がノロウイルスに汚染されるのはノロウイルスに感染した人が大量にウイルスを含んだふん便、嘔吐物を便器に流すと、ウイルスは下水、浄化処理施設に行き、一部がそこを潜り抜け、河川、海水に行き、二枚貝はプランクトンを食餌としているため、大量の海水を吸い込み、ノロウイルスが二枚貝の内臓である中腸腺に蓄積されます。汚染された二枚貝を生あるいは加熱不足で食することにより食中毒となります。人が水環境をノロウイルスで汚染することが原因となっています。 |
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食品の変敗に関与する乳酸菌は大きく分けると、Lactobacillus, Enterococcus, Lactococcus, Leuconostoc, Pediococcusの5つの属である。Lactobacillus属は桿菌であり、ホモ発酵型とヘテロ発酵型の両者があり、発酵によってできる乳酸の光学異性体は、ホモ発酵型LactobacillusではL(+)、D(−)、DLと菌種により異なり、ヘテロ型のLactobacillusではDL乳酸が大多数である。運動性は通常みられない。Lactobacillusは発酵形式、生育温度、糖の発酵等により59種類が登録されている。これの菌は食品、動物腸内、動物糞、土壌、食品工場等に生育し、二次汚染菌の原因となる。なお人間に対しては病原性がない。Enterococcus属は、球菌であり食塩6.5%で生育し、生育温度は10〜45℃であり、また生育pHは4.4以上である。他の多くの乳酸球菌と同様にホモ発酵型を行いL-乳酸を生成する。もともとStreptococcus属に含まれていたのでその中から腸管由来のものがEnterococcus属として分類されたために手作業の多い食品製造工程においては汚染は多い。Leuconostoc属は、球菌であり、ヘテロ発酵型の球菌であり、その生産する乳酸はすべてD−乳酸である。本菌は糖類を資化して高分子多糖類を生産するので、極めて殺菌が困難である。 |
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酵母による変敗現象は、酵母菌体付着による斑点生成、アルコ−ル発酵、ガス発生、エステル生成、酸生成等が多い。酵母は有機酸類を資化する場合が多く、食品のpH調整に用いられている酢酸、乳酸、クエン酸が資化されてpHが高くなり、細菌の増殖が促進される場合もある。さらに酵母は保存料に対しても抵抗力のあるものが多く、Rhodotorulaに属する数種の酵母は0.25%の安息香酸を炭素源としてpH4.5でよく生育し、Saccharomyces roseiは0.25%のプロピオン酸(pH4.5)、Brettanomyces intermediusは0.1%のソルビン酸存在下で良好に生育する。このように保存料で酵母の増殖を阻止することは極めて困難である。しかしこれらの酵母により食品が腐敗変敗しても食品が有毒化して食中毒となることはほとんどない。酵母の代謝産物には毒性がないし、一部の酵母において酵母菌自体に病原性(Candida albicans)があるといっても細菌類や他の真菌類で起こるように酵母自身が食物を通じて感染症や中毒症の原因となることはない。 |
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微生物による食品の腐敗、変敗作用形態については次の5つの型がある。 |
(1) |
食品中で微生物が増殖し、それが生産する色々の酵素によって食品の主要な成分が代謝分解され、それにともなって食品のもつ本来の味や香り、色調、形態、栄養成分が損なわれ、好ましくない臭いや味が生じる。細菌、酵母が中心である。 |
(2) |
食品中で代謝性の強い微生物が増殖してガスを生産して食品に孔があき、さらに包装容器が膨張する。乳酸菌、酵母が中心である。 |
(3) |
食品に微生物が繁殖し、これらの菌体によって直接または間接的に食品の外観を損なう。比較的長期間保存した場合に生成する。しかし食品の成分はあまり分解されない。これに関与するのはカビと酵母である。 |
(4) |
食品に微生物が増殖し、食品中に色素を生産して緑、紫、赤、青、黄色等に変色させる。これらには細菌がほとんどである。 |
(5) |
高濃度の糖類や食塩を含む食品に増殖してエタノ−ル、エステル等を生産して食品の香りを変化させる。乳酸菌、酵母である。 |
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(1)水分活性(Aw) |
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食品中で水は、食品成分の分子と結合した結合水と、食品成分を溶かしている自由水がある。微生物が増殖に利用できる水は自由水のみであり、この自由水の量を表すために用いられているのが水分活性である。微生物の生育最低水分活性と食品の水分活性を表2に示した。
Aw=P/Po
P=一定温度で密封容器に入れた食品の平衡蒸気圧
Po=一定温度で密封容器に入れた純水の平衡蒸気圧 |
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表2 微生物の生育最低水分活性と食品の水分活性 |
(2)水素イオン(pH) |
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食品のpH(水素イオン濃度の逆数の指数)は、溶液中の電解質の解離により一定の値を示すが、そこに存在する微生物の増殖をはじめ、種々の代謝能に大きく影響を及ぼしている。細菌、酵母、カビの増殖可能なpH領域はそれぞれ4〜9、2〜8、1〜10であるが、良好な生育はいずれも食品のpHである微酸性から中性域で見られる。また胞子や芽胞の形成、発芽、毒素生成もpHにより影響を受ける。例えばClostridium perfringensのウエルシュ菌やClostridium boturinumのボツリヌス菌の芽胞の形成はpH6.5以下では起こらず、低pHでは毒素の形成も起こらない。 |
(3)酸化還元電位(ORP) |
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食品のORPは食品に生育する微生物の種類、及びそれらの食品中での作用能に影響する。食品のORPはもとの食品の特有のORP、大気中の酸素圧、環境から食品への酸素の混入度等によりきまる。食品原材料となる植物はアスコルビン酸や還元糖、動物組織はSHのような還元性物質をもっており、しかも細胞が呼吸し活性を保持している間は外部からの酸素の拡散に抵抗してORPを低位に保とうとする力があるので新鮮な植物、動物食品の内部のORPは低く、またよく平衡を保っている。通常の新鮮な肉汁と果実では表面に近い部分のみが好気的条件下にある。そこで生肉の粘質物生成菌や紫色素生成菌、酸敗菌のような好気性細菌は表面のみで生育し、内部では同時に嫌気的な腐敗が起こる。しかしこのような状態は食品の加工工程で変化する。例えば加熱によって還元性物質や酸化物質の破壊や変質がおこり、ORPを平衡に保つ力は減少し、かつ物理的な組織の変化で食品内部により速やかに酸素が拡散するようになる。また処理工程で例えば清澄果汁のように抽出、ろ過を行うと還元性物質が取り除かれてORPが上昇して、もとのパルプを含む果汁よりも酵母が生育しやすくなる。さらに食品が空気にさらされると遊離酸素によって表面のORPが上昇し、内部へ酸素が浸透するが、還元性物質の減少などORPの平衡をとる力の弱まりに応じて食品はその影響を受ける。しかし加工肉の塩漬工程におけるように加えた硝酸カリウムそのものはORPを上げるが、亜硝酸に還元されるとORPを低下させる方向に働き、肉をより還元的状態にもたらす場合もある。食品のORPを測定し管理することはブドウ酒、ビ−ル、清酒等の醸造工業において発酵管理、製品管理にも応用される。例えばビ−ルでは発酵管理に用いられ、酸化還元電位が7〜10に下がっているときはよいが、ORPが上昇すると野生酵母の増殖やたんぱく質のにごりが生じる。微生物の生育に及ぼす酸化還元電位を表3に示した。 |
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表3 微生物の生育に及ぼす酸化還元電位 |
(4)浸透圧 |
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食品中の微生物は細胞膜により食品と接し、栄養分をとりこんで増殖する。しかし高濃度の食塩、糖類等が存在すると、膜の平衡が維持できなくなり、細胞内の水分が外部に放出され、微生物は生育できなくなる。微生物の中には一定の浸透圧がないと生育できない好浸透圧菌が存在するが、浸透圧を与える物質が食塩か糖類によりその耐性機構が異なる。 |
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(1)加熱殺菌 |
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加熱殺菌とは、食品に存在している微生物の生存可能な温度よりも高温で保持し、迅速に殺菌する方法であり、加熱温度と加熱時間の設定が必要である。そのためには対象とする食品に存在し、最も高い耐熱性を示す指標微生物を定め、その耐熱性を表す方法としてD値(処理温度で供試菌の90%を死滅させるのに要する加熱時間)、F値(一定濃度の供試菌が一定温度で死滅するのに要する加熱時間)、Z値(F値の10倍の変化に相当する加熱温度の差)が用いられる。一般に微生物の耐熱性は酵母、細菌、酵母胞子、カビ、カビ胞子、細菌芽胞の順で高くなる。この死滅条件は水分が十分存在する湿熱殺菌での結果である。乾熱条件下での殺菌ではより高温が必要である。しかしD値は乾熱条件下で最高値を示すのではなく、Awが0.2〜0.4で最高値を示す。また微生物の温度履歴、pH、食品成分、添加物等も熱死滅条件に影響を与える。 |
(2)薬剤殺菌 |
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食品に利用できる殺菌料は亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素のみであるがいずれも最終製品の完成前に分解又は除去しなければならないし、食品衛生法で表示が義務化されている。機械、設備等の環境殺菌剤として用いられる殺菌料には、ハロゲン系殺菌剤(ヨ−ドホ−ル等)、酸素系殺菌剤、アルデヒド系殺菌剤、エポオキザイド等がある。これらの殺菌剤は微生物の種類に関係なく死滅させるが、一般的にカビ、酵母、乳酸菌はその他の無芽胞細菌よりも薬剤抵抗力が大きい。最近ではエタノ−ルやオゾンによる殺菌が注目を浴びてきた。 |
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1996年の夏期においては大腸菌O157による食中毒が多発し、その多くの汚染源が食品工場内にあるとされた。多くの食品工場において従来は次亜塩素酸ナトリウム、エチルアルコ−ル、ヨ−ドホ−ル、有機酸等が殺菌剤として用いられ効果を上げてきた。しかし、次亜塩素酸ナトリムは強力な殺菌剤ではあるが、長年の100〜300ppmの使用により大腸菌(E.coli)、大腸菌群(Klebsiella,Erwina,Citrobacter)、その他のグラム陰性菌(Pseudomonas,Janthinobacterium,Salmonella)に対して耐性菌が生じている。次亜塩素酸ナトリウムを散布直後においても上記菌株が検出されることがある。またエチルアルコ−ルを工場殺菌剤として使用する製パン工場、和洋生菓子工場においてはエチルアルコ−ルを資化してシンナ−臭(酢酸エチル)を生産するPichia anomalaや赤褐色、橙色斑点を生成するMonieliella suaverollensの真菌が出現し、酢酸等の有機酸類を殺菌剤とする店舗では酢酸を資化してシンナ−臭(酢酸エチル臭)を生産するPichia anomalaや白色斑点を生成するMoniliella acetoabutens等の増殖が問題となっている。さらに現在、名古屋の食品業界で食品の腐敗、変敗菌として大きな問題になっている細菌に乳酸菌がある。乳酸菌は防腐剤にも抵抗性があり、さらに低温でも増殖するため食品加工業界では大きな問題となっている。乳酸菌は食品の低温下での主要な原因菌である。特に洋菓子や和菓子の主要な変敗原因菌である。また乳酸菌は食品工場の床や側溝に多く存在するため食品製造工程における主要な汚染菌となっている。乳酸菌は炭水化物を多く含む食品によく生育し、発酵生産物として主として乳酸を50%以上生産する細菌類をいう。これらの乳酸菌に対して糖類等の炭水化物を多く使用する工場では塩素系、ヨ−ド系、エタノ−ル系の殺菌剤を使用して殺菌を行っているが、乳酸菌は他の微生物に比較してこれらの殺菌剤に対して抵抗力が強い。これはこれらの殺菌剤が工場の床や側溝に長く残存するため耐性菌ができたためである。
このため食品業界では残存しない殺菌剤の要望が強く、最近の環境汚染防止との関係もあり、残留しない殺菌法としてオゾン殺菌法が注目を浴びてきている。次亜塩素酸ナトリウムと殺菌メカニズムが全く異なるオゾン水やオゾンガスを用いることにより次亜塩素酸ナトリウム耐性大腸菌群や乳酸菌の殺菌を容易にすることが可能である。しかしオゾン水は有機物等の接触により容易に分解されるので殺菌持続性は全くなく、殺菌を的確に行うには工場や機械・装置の汚れの程度と使用オゾン濃度を的確に把握する必要がある。各殺菌剤ともに得意とする微生物があり、うまく併用して使用するのが望ましい。現在、食品工場の床、側溝、機械、装置等の洗浄、除菌、脱臭にはオゾン水濃度0.5〜5.0ppmで使用されている。 |
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