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特別用途食品の見直しの概要
女子栄養大学栄養学部 生化学研究室 山田和彦
1.はじめに
 人々の栄養状態が改善された一方で、介護を必要とする人や在宅療養を行う人の増加が見られ、従来の制度では想定されていない新たなニーズも顕在化されつつある。また、高齢化の進行や生活習慣病患者の増加に伴い、栄養管理の適切な実施によって病状の悪化を防ぎ、生活の質を高めることの重要性が指摘されている。特別用途食品は、通常の食品では対応が困難な特別の用途を表示するものであり、対象となる者に十分認知されれば、適切な食品選択を支援する有力な手段である。高齢化の進展や生活習慣病の患者の増大といった要因や、医学・栄養学の著しい進歩、栄養成分表示・栄養機能表示の制度の定着などとともに、特別用途食品の制度を取り巻く状況も大きく変化しているため、改めてこの制度に期待される役割、許可の区分や審査方法、情報提供の在り方などの検討が、平成19年11月から行われた。(図1) 平成20年7月には、「新しいニーズに対応した特別用途食品の役割」「現状に対応した対象食品の見直し」「対象者への適切な情報提供」「審査体制のあり方」等を課題とした特別用途食品制度のあり方に関する検討会の報告書が提出された。
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0704-8.html)
これを受け、新たな特別用途食品の表示許可基準並びに特別用途食品の取り扱い及び指導要領が平成21年2月12日に定められ、今年平成21年4月1日より施行されている。(参考文献1
2.特別用途食品制度について
 特別用途食品制度は、乳幼児、妊産婦、病者等の発育や健康の保持、増進に資するよう、通常の食品に含まれる栄養成分等を調製した食品に対して、そのような特別の用途に適する旨の表示を行う許可を厚生労働大臣が与える制度である。
 現在の特別用途食品制度は、昭和27年の栄養改善法の成立に伴い特殊栄養食品制度として創設をされた。これは特に栄養的に優秀な食品について表示事項と間違いのないということを保証して、消費者が安心して入手できるよう考慮したものであった。その中には、健常人向けの補給できる旨の表示と、特別の用途に適する旨の表示という病者等向けのものと両者があった。その後、「特別の用途に適する旨の表示」には昭和38年に妊産婦用の食品、昭和48年に病者用の食品、昭和57年に乳児用調製粉乳、平成6年に高齢者用食品の表示許可が定められた。
 一方、平成3年に特殊栄養食品制度は、「補給できる旨の表示」をする食品として栄養強化食品ならびに「特別の用途に適する旨の表示」をする食品として「特別用途食品」と区分けし、新しく特定保健用食品が創設され特別用途食品の中に位置付けられた。同時に、特別用途食品の中に、病者等向けの特別用途食品と、健常人向けの特定保健用食品という区分がなされた。さらに、平成8年には、栄養強化食品を廃止し、自己認証制度として栄養表示基準制度が創設された。特殊栄養食品制度から特別用途食品制度へと、許可の部分だけが残った形になった。 なお、平成10年には、病者用の食品として個別評価型の表示許可の取扱基準が定めれた。(図2)
3.特別用途食品制度のあり方に関する検討会報告書
 特別用途食品の使われ方の実態について厚生労働科学研究において、平成18年に全国約2,000の医療機関の管理栄養士を対象として、全国病院栄養士協議会の協力の下に、使用状況の調査を実施された。この調査の中では、実際に特別用途食品という許可を得たもの以外に、病者用食品として使われているもの自体についても併せて調査をしている。その結果、「病者用食品の使用頻度」について「頻繁に使用する」が52.5%、「時々使用する」が42%であり、ほとんどの医療施設で病者用の食品というものは使われていた。「病者用の食品を使用する理由」は、「便利である」が79.1%、「治療効果が期待できる」が72.2%であり、便利であって治療の効果が期待できることから使用されていた。「病者用食品を選択する際、特別用途食品であるかどうかを考慮するか」では、「考慮しない」が60%となっており選択する際に特別用途食品であるかどうかは余り考慮されているとは言えない結果が出ていた。特別用途食品であることを考慮する理由では、86.7%が「品質が保証されているから」、「安全性が高いから」が62.5%であり、高い品質と安全性が保証されているということが評価されていた。一方、考慮しない理由は61.6%が「企業の表示を信頼しているから」であった。「特別用途食品制度に今後希望すること」という設問では、「購入しやすくなる」が66.5%、「安全性と有効性が検証、保障できる制度にする」が60.4%で、より購入しやすいものになること、安全性と有効性がより検証、保障できる制度となることが期待されていた。
 このような知見を受けて、平成20年7月にまとめられた特別用途食品制度のあり方に関する検討会報告書の概要は以下のようである。
1)新しいニーズに対応した特別用途食品の役割として
特別用途食品は、通常の食品では対応が困難な特別の用途を表示するものであり、対象となる者に十分認知されれば、適切な食品選択を支援する有力な手段である。今後高齢化が進展する中で、在宅療養における適切な栄養管理を持続できる体制づくりが求められており、特別用途食品もこうしたニーズへの的確な対応が必要だある。併せて、許可の対象となる食品の範囲について、当該食品の利用でなければ困難な食品群に重点化を図る必要がある。
2)対象食品の見直しとして
特別用途食品制度の対象とする食品の範囲について、以下のとおり見直しが必要である。
在宅療養も含め病者の栄養管理に適するものに、総合栄養食品(いわゆる濃厚流動食)を病者用食品の一類型として位置付ける。病者用単一食品と栄養強調表示との関係を整理して、高たんぱく質、低カロリー、低ナトリウムについては、栄養強調表示により代替的役割とする。病者用組合わせ食品を宅配食品栄養指針による管理に統合する。在宅療養の支援には、宅配病者用食品の適正利用の推進が適切であり、病者用食品についても宅配食品栄養指針に基づき栄養管理を図るべきである。高齢者用食品については、単なるそしゃく困難者用食品を許可の対象から外すとともに、高齢者用食品という名称をえん下困難者用食品に変更する。妊産婦、授乳婦用粉乳については、粉乳以外にも様々な栄養源が利用可能であることから、許可の対象とする必要性が相対的に低下している。
3)対象者への適切な情報提供として
対象者に的確に選択され、利用され、適正な栄養管理がなされるよう、医師、管理栄養士等による適切な助言指導の機会が保障される必要がある。特別用途食品制度に関する認知度を高め、必要な流通の確保を図るため、一定の広告も認めるなど情報提供の手段を拡充する必要がある。また、表示内容の真正さを担保するため、収去試験の適正な実施などに努める必要がある。
4)審査体制のあり方について
特別用途食品については、乳児や病者など特別の用途のためのものであるので慎重な審査手続が要請されているため、特に個別評価型病者用食品については、最新の医学、栄養学的知見に沿ったものとなるよう審査体制の強化を図る必要がある。
4.具体的な見直し内容
 検討会報告書の沿って、具体的に見直された下記のような内容が、平成21年2月に通知されている。
 (参考文献1) (参考図表)
(1)対象食品の範囲の見直し
(1)総合栄養食品(濃厚流動食)を病者用食品に位置付けた。
(2)病者用単一食品と栄養強調表示の関係を整理した。
(3)病者用組合わせ食品を宅配栄養指針による管理へ移行する。(参考文献2)
(4)高齢者用食品の見直し
(2)対象者への適切な情報提供
医師、管理栄養士等による適切な助言指導の機会を保障するため、一定の広告も認めること等を通じ、制度の認知度を高める
(3)審査体制の強化
最新の医学的、栄養学的知見に沿った審査体制を確保する。
5.おわりに
 栄養表示あるいは健康強調表示が定着し、この2−3年の間にはさらに大きく、特別用途食品の使用に関しても状況の変化が起こるものと推察される。高齢化の進展や生活習慣病者の増大に伴う食生活の適正化のために、医学や栄養学の進歩とともに特別用途食品の情報を収集しながら、そのより良い使用方法がなされることが期待されている。また、対象者への適切な情報提供のために、対象者に的確に選択され、利用され、適正な栄養管理がなされるよう、医師、管理栄養士等による適切な助言指導の機会が保障される必要があり、独立行政法人国立健康・栄養研究所のウェブサイトを通じた活動も強化される予定である。特別用途食品制度に関する認知度を高め、必要な流通の確保を図るため、一定の広告も認めるなど情報提供の手段を拡充されるであろう。また、特別用途食品については、乳児や病者など特別の用途のためのものであるので慎重な審査手続が要請され、特に個別評価型病者用食品については、最新の医学、栄養学的知見に沿ったものとなるよう審査体制の強化がなされている。今後、消費者庁の創設に沿って新たな進展もなされるであろう。
参考文献
1)

厚生労働省通知:食安発第0212001号 平成21年2月12日
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/dl/28.pdf
2) 厚生労働省通知:食安発第0401001号 平成21年4月 1日
http://www.jhnfa.org/tokuhou44.pdf
著者略歴
1975年3月 東京大学医学部保健学科卒業
1980年3月 東京大学大学院医学系研究科博士課程保健学専攻修了(保健学博士)
1980年4月 米国アリゾナ大学医学部小児科栄養部門 特別研究員
1982年4月 東京大学医学部保健学科保健栄養学教室助手
1989年4月 明治製菓株式会社生物科学研究所主任研究員
1993年4月 国立健康・栄養研究所食品科学部室長
2000年10月 国立健康・栄養研究所応用食品部部長
2001年5月 (独)国立健康・栄養研究所食品表示分析・規格研究部長
2006年4月 (独)国立健康・栄養研究所食品保健機能プログラムリーダー
2009年4月 女子栄養大学栄養学部実践栄養学科生化学研究室教授 至 現在
現在
厚生労働省新開発食品評価第2調査会委員、日本栄養・食糧学会理事、栄養改善学会理事
日本食物繊維学会常務理事
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