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フードディフェンス(食品防御)について
1、はじめに
 2007年12月から2008年1月にかけて千葉県や兵庫県において高濃度の有機リン系殺虫剤メタミドホスに汚染された中国製冷凍餃子の中毒事件が発生し、人為的な混入が疑われたことは記憶に新しいと思われます。(詳しくは当メルマガ2008年4月号で東海コープ事業連合商品安全検査センター 斎藤勲 様のコラム「中国製冷凍餃子事件と食料自給率」を御覧ください)。これを機に食品事業者の間では、これまでの「食の安全・安心」の概念とは異なる「食品防御(以下フードディフェンス)」という考え方に大きな関心が寄せられるようになりました。その結果、フードディフェンスに関する講演、著述が増え、より身近に考えなければならない問題として取り上げられるようになりました。本号では、食品産業で新たな課題となってきましたフードディフェンスについてご紹介いたします。
2.食品安全の3要素とは
(1)フードセキュリティー(食の安全保障)
安全で栄養のある食品を全ての人がいつでも入手できるよう保証し、食品の安全を確保すること。
国際的な問題: 環境問題、人口問題、資源の枯渇など
国内的な問題: 少子高齢化、地域的な人口偏重、一次産業における後継者不足
(2)フードセーフティー(食の安全)
  食品供給行程における危害因子のリスクを評価・管理を行い、危害因子による汚染の防止及び低減を図り、食品の安全を確保すること。
食中毒、食品中の残留農薬、動物性医薬品、化学物質、食品添加物などの検査、調査、評価、管理、監視、指導などを行う。
(3)フードディフェンス(食の防御)
危害因子の意図的な混入から食品を保護し、食品の安全を確保すること。
 (1)と(2)にある従来の衛生基準は、工場内外の人間が悪意をもって異物を混入すること などありえないという考え方、いわゆる「性善説」を前提に行われている。例えば(2)はこれまでの食品製造工程における衛生管理手法として、食中毒の原因菌、残留農薬などをランダムなサンプリングにより危害因子のリスク検証を行っている。代表的なのがHACCPシステムで、「通常起こりえるであろうハザード」の混入を考慮して構築されており、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れのある異物、微生物による汚染等の危害を予め分析(Hazard Analysis)し、その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどのように対策を講じれば安全な製品を得ることができるかということを重要管理点(CCP: Critical Control Point)を設定し、監視することにより製品の安全性を確保している。
 これに対し、(3)は「性悪説」を前提に考えられたものである。例えば高レベル、高濃度、急性致死量に相当する毒物混入のように悪意をもって攻撃(食品への混入)を仕掛けるということである、 HACCPシステムなど従来の食品安全やランダムなサンプリングでは悪意を持って意図的に毒物や異物を混入させる事態を事前に察知し防御することは困難であるとされている。
表1 食品防御(フードディフェンス)と食品安全(フードセーフティー)の関係
3.フードディフェンスの各国での取組
(1) 米国では、2001年の9.11テロや同年の炭疽菌事件以降、テロへの危機感が高まった。またアルカイダの所持していた書類から食品がテロのターゲットであることが判明した。過去に米国では1984年に宗教団体が選挙の妨害を狙い、サルモネラ菌を故意に混入させたテロ(オレゴンサラダバー事件)があったが、上記9.11テロ事件を機に食品テロ対策への認識が高まった。また2002年6月12日にバイオテロリズム法が制定された。USDA(農務省)やFDA(食品医薬品局)でも組織的に取り組みが行われている。
(2) 世界保健機関(WHO)では、2002年に「食品テロに対するガイドライン」を作成された。
(3) アジア太平洋経済協力会議(APEC)では、フードディフェンス・ワークショップが開催されている。
(4) EU圏内では、広範囲にわたる法律があり、特別なシステムを作る必要はないが、バイオテロの脅威を視野に入れたシステム改善が求められている。
(5) 日本では、奈良県立医科大学の今村知明教授を中心に厚生労働科学として、「食品によるバイオテロの危険性に関する研究」(平成17年度〜平成20年度)により人為的な食品汚染に対して、どのような自己防衛必要か調査研究をされている。なお、今村先生には本年5月15日当財団が主催した「食の安心・安全セミナー」で「食品防御とは何か 〜食品安全のための新しい課題〜」という演題でフードディフェンスに関する基調講演をいただいた。
4.フードディフェンスの評価方法
(1) CARVER+Shock
米国では、フードサプライチェーンの各工程においてテロに対する脆弱性を定量的に評価する方法として、「CARVER+Shock(カーバー・プラス・ショック)」という分析法がよく知られている。この方法は、もともとは軍隊が敵を攻撃する際に脆弱な地域を抽出するために開発されたものをFDAとUSDAが食品に応用したものであり、仕組みの構築の際には「攻撃者の立場に立って考える」ということがポイントである。そしてこの方法を用いて、食品供給行程における脆弱性を評価し、早期警告のための指標を確立することに利用されている。CARVER+Shockで脆弱性を評価する項目は以下の7つである。
C(Critically):危険性
攻撃者が脅威物質の混入を達成した場合の健康被害(死者数)・経済的影響(損失額)の大きさを評価する。
A(Accessibility):アクセスの容易性
攻撃の実行のために対象に容易に到達し、捕捉されずに逃げられることが容易かを評価する。
R(Recuperability):回復力
評価対象が攻撃された場合にサプライチェーン全体が生産性を回復するまでに要する時間がどの程度かを評価する。
V(Vulnerability):脆弱性
実行犯が評価対象に到達し、被害を発生させるのに十分な量の脅威物質を混入することがどの程度容易かを評価する。
E(Effect):影響
攻撃(テロ)がシステムの生産性に与えるダメージの尺度を評価する。
R(Recognizability):認識のしやすさ
テロ実行犯が混乱なく攻撃対象を認識できるかを評価する。
S(Shock):衝撃度
攻撃(テロ)による健康面(死者数)・心理面(感受性が高い子供や老人などへの影響)・経済活動への影響を統合し評価する。
(2) ALERT
FDAでは、フードディフェンスに対する取り組みとしてALERTという5つの単語の頭文字を掛けて作成したプログラムがあり、企業マネージャーへの認知度向上に活用 されている。
A(Assure):保証
原材料や供給品が安全であることをどのように保証するのか?
L(Look):注意・監視
施設内の製品や原材料の安全性についてどのように注意を払うのか?
E(Employee):従業員
雇用者や施設に出入りする人について身元(バックグランド)を確認しているか?
R(Report):報告書
管理している製品の安全性について報告することができるか?
T(Threat) :脅威
挙動不審など施設内に食品の脅威や問題があるときの対処(警察への通報など)の手順が明確化されているか?
(3) ALERT
FDAでは、フードディフェンスに対する取り組みとしてFIRSTという5つのキーワードの頭文字を掛けて作成したプログラムがあり、従業員教育の推進に活用されている。
F(Follow):会社のフードディフェンスプランとその手法に従うこと
I(Inspect):施設やその周辺を調査すること
R(Recognize):いつもと何か変わった点を見逃さずに認識すること
S(Secure):すべての原料、製品の安全を確保すること
T(Tell):何か異変や不審者に気が付いたら上職者に情報を伝えること
5.最後に
 日本の特性からするとなじみの薄いものであるかもしれませんし、また大げさに取り扱うべきものではないと思います。しかしながら予期せぬ外部からの攻撃から自社製品を守るため、どのような脆弱性があり、その脆弱性が自社にとってどのような脅威となるのか、また事件にならないよう脅威からの予防策の立案や、不幸にも事件が発生した際には被害を最小限に止め、早く正常な状態に回復するにはどうすべきか診断・評価した上でプログラムを構築していくフードディフェンスの考え方は、日本でも企業規模の大小に関係なく全ての食品事業者にとって、取り組んでいく段階にきているのではないかと思われます。但し、食品7SのようなHACCPやISO22000の前提条件となるもの、或いはHACCPシステム等のランダムなサンプリングによる安全性の確認といった従来からある食品安全を確保するための手法についても、決して疎かにすることなくPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すことによる品質の向上を継続していく必要があります。
1) 今村知明編著:食品テロにどう備えるか?食品防御の今とチェックリスト.2008.
2) サナテックメールマガジン2009年5月号(第34回米国食品衛生調査団に参加して)
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