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残留農薬・動物用医薬品分析(2008年度モニタリングとリスク管理)
財団法人 食品分析開発センターSUNATEC 第二理化学検査室 菊川浩史
はじめに
 ポジティブリスト制度が施行され、食品生産者の方々の多大な努力、また、水際での検査を担当されている検疫所、厚生労働省により、この法律も3年目を迎え、ようやく落ち着きを見せてきた。国民の食生活の安心・安全に対して多大な貢献をしてきたこのポジティブリスト制度にもかかわらず、本年年始早々の餃子のメタミドホスや清涼飲料水へのグリホサート混入などの事件により、あたかも日本の食生活の安全面は逆に悪化しているかのような錯覚を抱いてしまっている。本来ならこれら、『残留農薬』と『混入農薬』とは区別してそれぞれ冷静に対処すべきであるが消費者にとってはどちらも同じ食に対する不信感となっている。このような現状を踏まえ、『残留』と『混入』について、あえて2分して、それぞれの検査対策を紹介させていただく。
『残留』に対する農薬・動物用医薬品のリスク管理について
 2006年度以降、400〜500農薬等のモニタリング検査が検疫所で行われ、2008年度も512農薬等、144項目の動物用医薬品、抗生物質等についてモニタリングが通知された。
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/monitoring/dl/01e.pdf
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/monitoring/dl/01f.pdf
 また、国立医薬品食品衛生研究所HPにおいて、エクセル形式もあり、検索が行いやすい形で輸入食品の過去の違反事例がまとめられている。
http://www.nihs.go.jp/hse/food-kkportal/index.html
 また、以下に当財団の頻度の高い検出事例を作物ごとにまとめてあるため参照いただきたい。
http://www.mac.or.jp/mail/070601/04.shtml

 『残留』においては、例年通り、これらの情報や使用履歴から、効果的な検査項目に絞り、定期的検査の頻度を上げることが残留農薬等のリスクに対する効果的な予防措置となりうると考えられる。
『混入』に対する農薬・動物用医薬品のリスク管理について
 「混入」としているが、ここではドリフト的な残留も含めた非意図的残留や混入についても取り上げる。まず非意図的な残留・混入についてである。環境経由や製造・流通・保存時における汚染についての事例をいくつか挙げることとする。非意図的残留・混入に関してはこれらの事例を参考に自社での管理の参考にしていただきたい。
環境
<アジア湖産魚から難分解性農薬(BHC・エンドスルファンなど)の検出>
環境汚染物質が湖に流れ込み蓄積したものを生物濃縮的に蓄積
<中国木耳からメタミドホスの検出>
他の作物で使用された水溶性農薬が多量河川に流れ込みこの水によって栽培した木耳を汚染した可能性が有る
<宍道湖のシジミからチオベンカルブ、クミルロンの検出>
稲に使われた農薬が湖に流れ込み汚染
<中国産ショウガからBHCの検出>
保存土壌中にBHCが残留していたため汚染
<国産きゅうり、かぼちゃからディルドリン、ヘプタクロルの検出>
既に国内では使用されなくなり数十年が経過するが、瓜類はドリン剤と類似構造物を特異的に蓄積するため検出
流通・保存
<防カビ剤(ポストハーベスト農薬)>
ポストハーベストとして使用されたかんきつ類のイマザリル・チアベンダゾール・オルトフェニルフェノール・ジフェニルは皮ごとの窄汁などの場合を中心に果汁にも残留。精油分とともに残留する。
<家庭用殺虫剤>
家庭用殺虫剤(農作物に使わないため農薬とは呼ばない)での保存庫の殺虫など
包材
ゴム製品の加硫剤からチラムと同様物質の汚染、瓶詰め製品の蓋コーティング樹脂からのセミカルバジド、ポリエチレン製品安定剤のジフェニルアミン(冷凍ヤケ防止として使用の可能性も有り)
製造
抗菌性製造ラインからの汚染(チアベンダゾール)
 次に事件的「意図的混入」に対してである。このような意図的混入に関しては、検査での防御では「全品検査」しか方法は無く、現実的には不可能で有る。よって、事後にはなってしまうのだが、初期のクレームに対しての迅速な対応が必要であると考えられる。そのような場合の有効な検査を提案する。
 まずは、残留農薬検査をベースとした一斉分析でスクリーニング検査が有効であると考えられる。一律基準の0.01ppmレベルを測定するには1週間程度が必要であるが、中毒を起こすと考えられるレベルの数百ppm以上であればもちろんのこと、実際には、数ppm程度の検査であれば1日程度での対応は可能である。
 また、もうひとつの有効な検査は「異臭・異物検査」である。今回のメタミドホス事件の場合も「異臭・異味」を感じたと報道された。農薬が原因の場合は少なくとも数百ppm以上の混入が無ければ中毒にはならない。このような高濃度な場合であれば特別に農薬にターゲットを当てているわけではない「異臭」検査でも十分に農薬の特定が出来ると考えられる。以下に当財団で異臭・異物のクレーム検査において、農薬や農薬様化学物質が原因だった例を示す。
<異臭マッシュルーム>
クロロフェノール類が臭気の原因物質(次亜塩素酸消毒などによる生成の可能性)
<トマトの塩素臭>
2,4-ジクロロフェノールが臭気の原因物質で、プロチオホス(有機リン系農薬)の分解による生成。同時にプロチオホスも検出
<野菜にペレット状異物>
メタアルデヒド(ナメクジ誘引駆除剤)のペレット
終わりに
 このように最近の農薬に係る食の安心・安全に対する対応は『残留』と『混入』に関しては区別した検査への対応が必要不可欠だと考えられる。「残留」に関してはポジティブリスト施行後、2年が終了し、各種の得られた情報を駆使すれば効果的な検査が行える土壌が出来てきたと考えられる。当財団のような受託分析機関はこの2年間で検査事例(検出事例)の蓄積もあり、これらを有効に使った検査提案や検査結果の評価も出来るため相談など情報源のひとつとして有効に利用していただきたいと考える。また、「混入」に関しては事件(事故)で有るため、異臭や異物クレームへの迅速な対応を行うことが重要と考えられる。異臭や異物の原因物質や混入物質そのものの物質特定のみならず、どのような変質がどの段階で起こったのかを推測することも可能な場合も多い。われわれ受託分析を行う立場においても食品の安全担保において過去の蓄積したノウハウを最大限に生かし、有機・無機・微生物といったカテゴリーに寄らないトータルソリューション的な検査提案を行っていく所存である。
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