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JAS法の品質表示基準の適用範囲の拡大について
1.背景
  JAS法においては、消費者の選択に資するよう、平成12年3月に加工食品、生鮮食品等の品質表示基準を制定し、全ての食品に品質に関する表示を義務付けています。このうち、加工食品の品質表示基準については、加工食品の製造業者等が、原材料の調達から商品の出荷に至るまでの一連の製造工程を管理していることから、原料供給者間の取引(業者間取引)については表示義務の対象としてはいませんでした。これは、最終製品の製造業者等に表示義務を課せば正確な表示ができるという考え方によります。しかしながら、昨年、加工食品の原料供給者の不適正な行為により、品質表示基準に違反した多種の製品が全国に出回る事案が発生しました。これにより、最終製品のみの規制では表示の正確性を確保できないことが明らかになり、消費者の食品表示に対する不信感が高まる結果となりました。
 こうした状況を踏まえ、昨年、農林水産省は、消費者の食品表示に対する信頼を向上させるため、食品の業者間取引について、品質表示基準の適用の可能性を含め、表示のあり方を広く検討する「食品の業者間取引の表示のあり方検討会(以下、「検討会」という。)」を設置しました。この検討会において、食品の業者間の取引における最終製品の表示に必要となる情報伝達のあり方等について、6回にわたり検討が行われました。その結果、消費者の食品表示に対する信頼を回復するためには、業者間取引される加工食品にも表示義務を課し、抑止力を高めることが適当であるとの報告がなされました。これを踏まえ、加工食品品質表示基準等が本年1月31日付けで改正され、同年4月1日から業者間取引される食品にもJAS法の品質表示が義務付けられることとなりました。
2.業者間取引における表示情報の伝達方法
 現在でも、原材料についての情報がなければ表示責任者が正しく表示することはできないことから、表示情報の伝達は原料供給者により自主的に又は表示責任者の求めに応じて行われています。また、検討会において、品質表示の適用を業者間取引に拡大するに当たっては、現行の他法令の規制と整合性を取るとともに、商慣行を十分踏まえることにより実行可能性が高く事業者の追加的な負担も少ない制度とすべきとされました。このため、業者間における表示情報の伝達方法については、以下のとおりとなっています。
(1)表示義務の対象範囲
 新たに表示が義務付けられる「業者間取引される食品」とは、加工食品のうち、一般消費者に販売される形態となっていないものと、生鮮食品のうち、加工食品の原材料となるものです。ただし、外食やインストア加工の食品については、現在、JAS法に基づく表示義務の対象とはなっていないことから、業者間取引される食品においても、外食等向けのみに供給されることが確実なもの(外食事業者に直接卸されるもの等)については、表示義務の対象とはなりません。しかしながら、販売先の使用用途が外食等向けのみかどうか不明な場合は、表示義務の対象となります。(図1 参考資料)
図1 加工食品の主要な流通ルート(義務付け対象イメージ)
(2)表示が義務付けられる事項
 業務用加工食品については、表示が義務付けられる事項は、名称、原材料名及び食品添加物、内容量、賞味期限(消費期限)、保存方法、製造業者等の氏名又は名称及び住所、原料原産地の表示が義務付けられている加工食品にあっては原料の原産地、輸入品(輸入後に実質的な変更がされずに販売されるもの)にあっては原産国名となります。ただし、名称、食品添加物、内容量、賞味期限(消費期限)、保存方法、製造業者等の名称・住所については、業者間取引であっても、既に食品衛生法や計量法により表示が義務付けられていますので、今回、新たに表示義務が生ずるのは、原材料名(食品添加物を除く)と一部の食品における原料原産地名、原産国名となります。なお、食品衛生法や計量法上により表示義務がないものについては、今回の改正により表示を義務付けるものではありません。
 加工食品に仕向けられる業務用生鮮食品については、表示が義務付けられる事項は名称、原産地となります。ただし、原料原産地の表示が義務付けられている加工食品の原材料以外の原材料として使用される場合は、原産地の表示を省略することができます。また、計量法で内容量の記載が義務付けられているものにあっては、上記の事項に加え、内容量と販売者名及び住所を表示する義務があります。
(3)表示場所
 今回の改正において、業者間取引における原材料名等については、容器・包装に限らず、送り状や納品書、規格書(商業上用いられている書類であって、規格書、品質保証書等の名称で呼ばれ、内容(原材料名等)、製造工程など詳細な事項が記載されているもの。以下「規格書等」という)への表示も可能です。これは、業者間取引の表示では、
→ (1) 原材料の中味が多岐にわたり、かえって誤記を招きかねないこと
→ (2) 包装等への記載にコストがかかること
→ (3) しばしば原材料が変更されること
→ (4) 一部製品については包装等に記載したのでは企業のノウハウが公になってしまう懸念があること
などの理由によるものです。また、規格書等へ記載する場合には、容器・包装、送り状又は納品書等において、発送、納品された製品が、どの規格書等に基づいているのかを照合できるようにすることが必要です。なお、業者間取引においても、食品衛生法及び計量法で容器・包装に表示が義務付けられている項目については、これらに従い表示しなければなりませんので、注意が必要です。(図2 参考資料)
タンクローリーやコンテナ等の通い容器(食品衛生法では容器・包装とされず、表示の対象外とされているもの)についてですが、JAS法においては、最終製品における表示の正確性を確保するため、表示義務の対象とします。通い容器に関する全ての義務表示事項についても、容器・包装に限らず、送り状、納品書等又は規格書等に表示することが可能です。なお、通い容器は、食品衛生法及び計量法の対象外であるため、賞味期限(消費期限)、保存方法及び内容量の表示義務はありません。
図2 表示項目と表示媒体
(4)表示方法
  表示方法については、消費者に分かりやすいようにするという観点からの規制(一括表示、文字の大きさ、色、原材料の記載順序等)を業者間取引においては適用しませんので、例えば「名称」や「原材料名」等の事項名を記載する必要はありません。
 また、表示に際しては、取引の相手方に名称や原材料名等の情報が適切に伝わるように記載しなければなりません。さらに、業者間取引における原材料名の表示については、必ずしも「多い順」に記載する必要はなく、割合を付す等「多い順がわかる」ように情報を伝達すれば十分です。
(5)表示の根拠となる書類の整理及び保存
 業者間取引に限らず、飲食料品の製造業者等は、表示の根拠となる書類を整理・保存するよう努力義務が課されています。表示の根拠となる書類としては、例えば、 仕入れた食品の名称、原材料名、原産地等が記載された送り状、納品書、規格書、通関証明書(輸入品の場合)等や、販売した食品の名称、原材料名、原産地等が記載された送り状、納品書、規格書等があります。表示の根拠となる書類の保存期間は、取り扱う食品の流通や消費の実態等に応じ、自らの表示に対する立証責任を果たせるよう、合理的な保存期間を設定することになりますが、概ね3年を目安として保存することが望ましいです。
(6)実施時期
 これまで、品質表示基準の改正後に一定の移行期間が設けられていましたが、検討会において、
→ (1) 現在でも、品質表示基準で最終製品に義務付けられている事項については、何らかの方法で原料供給者から表示責任者まで情報が伝達されていること
→ (2) 商慣行を踏まえ柔軟な制度の導入を想定していること
→ (3) 消費者の信頼回復を図るため、できるだけ早急に実施すること
とされたことから、加工食品品質表示基準等を1月31日付けで改正、4月1日から業者間取引される食品にJAS法の品質表示を義務付けることとしています。
3.おわりに
  食の安心は、多くの国民の日常的な関心事であり、生活の基本です。食品表示が正しく行われることは、このための第一歩であり、業者間取引においても、事業者の方の誠実な取組みが必要です。
 今回、ご紹介した業者間取引の表示については、農林水産省のウェブサイトにおいて事業者向けQ&A等の詳しい資料が掲載されておりますので、詳細についてはこちらでご確認ください。
URL:http://www.maff.go.jp/j/jas/kaigi/gyosha_kan.html
著者略歴
岡 尚男(おか ひさお)
【勤務先・職】 金城学院大学薬学部 教授
【最終学歴】 名城大学薬学部(1970年)
【学位】 薬学博士(1986年)
【職歴】 愛知県豊橋保健所(1970年)
愛知県衛生研究所(1972-2005年)
【留学】 米国国立衛生研究所(NIH、1988-89年、一年間)
【受賞歴】 昭和62年度日本薬学会東海支部学術奨励賞(テトラサイクリン系抗生物質の化学的
分析法に関する研究)
平成9年度年度日本食品衛生学会奨励賞(逆相クロマトグラフィー及び質量分析法
の食品分析への応用)
【主な研究領域】 汎用抗生物質の化学的分析法の検討
向流クロマトグラフィーに関する研究
衛生化学分野におけるLC/MSの応用研究
【主な著書】 Current Issues in Regulatory Chemistry 共著 2000 AOAC INTERNATIONAL
Encyclopedia of Separation Science Vol.5(?) 共著 2000.5 Academic Press
日本薬学会編 衛生試験法・注解 2005 共著 2005.3金原出版 
第十五改正日本薬局方解説書 共著 2006 廣川書店
以上
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