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リステリア・モノサイトゲネスによる食品汚染とリステリア症

国立医薬品食品衛生研究所

食品衛生管理部 第三室長

岡田 由美子

1.はじめに

リステリア・モノサイトゲネス(以下リステリア)はグラム陽性で通性嫌気性の芽胞非形成の短桿菌である。消毒法を開発したイギリス人医師ジョゼフ・リスターを称えて命名されたリステリア属菌には、現在29菌種が存在している。その多くは過去10年間に土壌や河川水など様々な環境から見出されたものであり、人や動物に病原性を示すバイオセーフティレベル(BSL)2に分類されているのは、本菌とListeria ivanovii及びListeria seelligeriの3菌種である。L.ivanoviiとL.seeligeri、更にBSL1病原体であるListeria innocuaはごく稀に日和見感染を引き起こした例があるものの、通常病原菌として扱われるのはリステリアのみとなる。

 

2.ヒトリステリア症

ヒトのリステリア症の主な感染経路はリステリアによる汚染食品の摂取とされており、侵襲型と非侵襲型に大別される。侵襲型は潜伏期間が数日から1か月程度とされており、最長では3か月の例がある。髄膜炎や菌血症、妊婦の感染では流産・死産を引き起こし、致命率は10~25%とされている。65歳以上の高齢者、がんや糖尿病など免疫が低下する基礎疾患のある患者、臓器移植のため免疫抑制剤の投与を受けている人、逆流性食道炎等でプロトンポンプ阻害剤を服用している人、妊婦及び乳幼児が高感受性を示すハイリスクグループに分類される。一方、非侵襲型は潜伏期間が48時間以内であることが多く、下痢や発熱、風邪様症状などが主な症状となっている。健康成人がリステリア症に罹患すると非侵襲型にとどまることが多いが、汚染菌量が高い食品の摂取によって侵襲型を発症する例もある。また、侵襲型の発症に下痢が先行することもある。健康成人の発症リスクは食品中のリステリア菌量が10,000 cfu/g以下であれば極めて低いとされているが1)、ハイリスクグループはより低菌量で罹患し、2014年から2015年に米国で発生したアイスクリームを原因食品とする事例では、8 cfu/g(95%信頼区間は5-26 cfu/g)の製品80 gを用いて作られたミルクシェークを複数回摂取することで免疫不全の基礎疾患を持つ患者4名が発症している2)。

 

3.リステリアの食品中での増殖

リステリアの増殖可能温度帯は低温側に広く、-0.4℃でも増殖が可能である3)。最大増殖可能温度は45℃であり、食品の中心温度を75℃で1分間加熱する標準的な加熱条件で不活化される。最も増殖速度が速くなる発育至適温度は37℃で、培養温度が低いほど増殖速度は遅くなる。7℃を境に増殖速度は大きく変わることから、食品中でリステリアを増殖させないためには、7℃より低い温度での保存が重要となる。温度以外に食品中での本菌の増殖に関わる主な要因は水分活性(Aw)とpHである。リステリアが増殖可能なAwは0.92以上とされ、サルモネラ及び腸炎ビブリオの0.94以上、病原大腸菌の0.95以上等と比較するとより水分が少ない食品中で発育できる4)。増殖可能なpHは4.4から9.4であり、サルモネラの3.7から9.5と比較すると酸性度の強い食品での増殖は抑制される。これらの要因の組み合わせや、食品の種類によっても各要因の増殖可能な最小値や最大値は変動する。

 

4.リステリアの食品汚染

現在、日本でリステリアの成分規格がある食品は、生ハムなどの非加熱食肉製品と、ナチュラルチーズ(ソフト及びセミハードチーズ)の2種類となっている。一方、諸外国では喫食直前に加熱を行わない非加熱喫食食品(Ready-to-eat:RTE食品)全般に対してリステリアの成分規格が設定されている(表1)。

 

表1.リステリアの成分規格

国・地域 対象食品 基準値 1ロットあたり
の検体数
その内基準値を超過
してよい検体数
日本 生ハム等非加熱食肉製品 100 cfu/g以下 5 0
ナチュラルチーズ(ソフト及びセミハード) 100 cfu/g以下 5 0
Codex RTEでリステリアが増殖する食品 25 g 中陰性 5 0
RTEでリステリアが増殖しない食品 100 cfu/g以下 5 0
EU RTEでリステリアが増殖する食品 25 g 中陰性 5 0
RTEでリステリアが増殖しない食品 100 cfu/g以下 5 0
米国 RTE食品 ゼロトレランス - -

 

なかでも米国は、全てのRTE食品中のリステリアに対しゼロトレランス(定性法で分離された食品を流通禁止とし、流通後に汚染が確認された場合はリコールとなる)を採用している。また、米国ではエノキダケによるリステリア集団食中毒事例が複数回発生していることから、エノキダケをRTE食品として扱っており、リステリアが分離された場合にはリコール対象としている。リステリアは様々な市販食品から分離され、なかでも鶏肉(~60%程度)、マグロすきみ(約20%)、野菜浅漬け(約10%)等の汚染率が高いことが報告されている。海外での集団食中毒事例の原因食品も多岐にわたっており、食肉製品、チーズやアイスクリーム等の乳製品、スモークサーモンなどの水産加工品、パックサラダやエノキダケ等の野菜類、丸ごとの桃やメロンなどの果物類、パスタ、サンドイッチなどの複合食品など、様々である(表2)。食品へのリステリア汚染は原材料に由来することもあるが、本菌がバイオフィルムを形成したりエアロゾル中で生残することから、食品製造環境に長期間定着し、製品を繰り返し汚染する場合も少なくない。

 

表2.近年の海外での主な集団事例

カテゴリー 原因食品 発生年 地域 患者数 死者数
野菜・果物 メロン 2011 米国 147 33
キャラメルアップル 2014-2015 米国、カナダ 36 7
パックサラダ 2014-2022 米国 18 3
もも、ネクタリン、プラム 2018-2023 米国 11 1
冷凍コーン 2015-2018 オーストリア、デンマーク、
フィンランド等
47 9
エノキダケ 2016-2019 米国、オーストラリア 42 5
食肉製品 デリミート 2013-2014 デンマーク 41 17
加熱食肉製品 2017-2018 南アフリカ共和国 1060 216
加熱食肉製品 2019 スペイン 確定207,高度疑い3059 3
デリミート 2024 米国 61 10
加熱済み豚肉惣菜 2025-2026 フランス 12 2
水産食品 スモークサーモン 2015-2018 デンマーク、ドイツ、フランス 7 1
冷薫魚製品 2014-2019 デンマーク、エストニア、
フィンランド等
22 5
魚製品 2012-2024 ドイツ、オランダ、
ベルギー、英国等
73 14
乳製品 チーズ 2013 オーストラリア 18 2
アイスクリーム 2010-2015 米国 10 3
アイスクリーム 2021-2022 米国 28 1
複合食品 サンドイッチ・サラダ 2019 英国 9 6
サンドイッチ・サラダ 2023-2024 米国 10 1
サンドイッチ 2024 英国 3 2
加熱調理済みパスタ 2024-2025 米国 28 7
その他 ゆで卵 2017-2019 米国 8 1
アーモンドミルク等 2023-2024 カナダ 20 3
栄養補助シェーク(冷凍) 2018-2025 米国 42 12

 

5.リステリア食中毒

EUに加盟する27か国(ドイツ、フランス、スペインなど)における2024年のリステリア症罹患率は人口10万人当たり0.69人(27か国の合計として年間約3000人)となっており、2021年の0.54人,2022年の0.63人、2023年の0.67人と上昇傾向が続いている5)。米国での人口10万人当たりの罹患率は0.24人(年間約800人)であり、2030年までに0.22人に減少させることを公衆衛生上の目標としている6)。そのため、米国では非加熱喫食食品での汚染低減のため、製造施設に対しリステリア属菌を衛生指標菌とする環境モニタリングを推奨しており、食品接触面から検出された場合の是正措置も紹介した食品製造事業者向けガイダンス案が作成されている7)。

日本国内ではこれまでに食中毒統計に記載された事例はなかったものの、論文報告された集団事例が2例ある。2001年に北海道で国産ナチュラルチーズから83名が感染した事例8)と、2021年に福岡県で惣菜を原因として3名の患者が発生した事例9)である。散発事例の患者数は明らかではないが、1996年から2002年の発生状況について病院にアンケート調査を行ったアクティブサーベイランスの結果では、人口10万人当たり0.65人10)、2008年から2011年の厚生労働省院内感染対策データベースのデータでは、人口10万人当たり1.06~1.57人と推定された11)。同じデータベースを用いて、2010年から2016年まで連続してデータを提出した病院のデータを用い、リステリアによる菌血症患者数を合計した論文では、2011年から2016年にかけて患者数が91名から220名に増加していた12)。

リステリア症患者が何を喫食して感染したかを調べるのは困難である。その理由の一つは、侵襲型のリステリア症で潜伏期間が長期となる事例が少なくないためである。通常、感染性食中毒集団事例では各患者に喫食歴調査を行い、挙げられた食品ごとに発症者と無症状者のオッズ比を算出するが、原因食品を喫食してから発症するまでの期間が長いと患者からの喫食歴の調査が難しくなる。また、リステリア汚染が起こりうる食品が多岐にわたるため、ボツリヌス食中毒のように調査対象を絞り込むことが難しい。諸外国でもリステリア症の多くは最初に散発事例として捉えられ、各事例の分離株のゲノム解析の結果が集積されて、同一株あるいは極めて近縁な株が分離された患者が集団事例とされ、共通の食品が明らかになる場合も少なくない。リステリア菌株間の近縁度は、以前は染色体DNAを特定の制限酵素で切断して電気泳動パターンを比較するパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)解析が行われてきたが、現在では次世代シーケンサーを用いた全ゲノム塩基配列解析(WGS)に移行している。表2で示した発生期間が複数年に亘る事例が多いのは、数年間に発生した複数の患者株がWGSの結果、ほぼ同一であることが判明したためである。米国ではCenter for Disease Control and Prevention(CDC)の主催するPulseNet及び食品安全局(FDA)が行っているGenomeTrakrにより、患者及び食品由来株のゲノムデータが集積されており、疫学的解析に活用されている。また、欧州でも同様の取り組みが行われている。一方、現在日本国内にはリステリア症患者株や食品株のWGSを行う公的システムがなく、直接的なつながりが不明なリステリア症患者間の関連性(同一食品により感染しているかどうか)や原因食品を特定することは難しい。今後、そのような仕組みが国内でも構築されれば、国内におけるリステリア症の発生減少に役立てることができると思われる。

 

6.リステリア菌株の型別

従来、リステリア菌株の型別は主に免疫血清を用いて行われてきた。血清型別は菌体表面のリポ多糖(O抗原)に対するO血清と、鞭毛(H抗原)に対するH血清の2種類の血清の因子の組み合わせで行うもので、リステリアには14種類の血清型が存在する。しかしながら、リステリア症患者から分離される菌株の多くが血清型1/2a、1/2b、4bのいずれかに属しており、型別法としての性能が高いとは言えない。そのため、近年では細菌の生存に必須な(どの菌株も必ず持っている)7個の遺伝子(abcZ, bglA, cat, dapE, dat, ldh, lhkA)のそれぞれ一部の塩基配列を読み取り、その内容ごとに配列番号をつけて、7つの配列番号の組み合わせでSequence Type (ST)を決めるMulti Locus Sequence Typing (MLST)解析が行われている。更に、近縁なST同士をClonal Complex(CC)として分類し、系統的な解析に活用している。多くの集団事例の原因菌となり動物実験でも強い病原性を示すCCや、食品製造環境から多く分離されバイオフィルムを作る能力が高いCCなど、それぞれの特性が明らかにされてきている13,14)。また、WGSを用いた型別方法としては、MLSTを1748個の遺伝子で行うcore genome MLST(cgMLST)や全遺伝子で行うwhole genome MLST (wgMLST)、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphisms: SNPs)解析がある。一方で、リステリアは食品からも患者からも複数の血清型や遺伝子型の菌株が分離されることがある9)。患者と食品の因果関係を見逃さないためには、遺伝子解析の実施時に各検体から複数の集落を釣菌して行うことが重要となる。

 

7.リステリア症の予防

様々な食品から分離され、冷蔵庫での保管中に増殖するリステリアから一般消費者が身を守るには、どうすればよいだろうか?まず最も大切なことは、冷蔵庫を過信せずに消費期限を守ることと、特にハイリスクグループに属する人は食品を喫食直前に加熱することである。生肉など加熱して食べる食材がリステリアに汚染されている場合もあるため、まな板、包丁等の調理器具を介した交差汚染にも注意する。

RTE食品の製造事業者がリステリア症発生を予防するためには、製品がリステリアの増殖を起こしうるか調べることが必要である。水分活性、pHの他にも、有機酸や食品添加物などの添加により本菌の増殖が抑制される場合がある。増殖が起こる製品の場合は、菌数を管理し安全に喫食するための製品の保存温度及び消費期限を正しく設定することが重要なポイントとなる。リステリアが増殖しうる水産食品において、菌数レベルを管理するための累積暴露時間は6℃から10℃が1日、11℃から21℃が7時間、22℃から30℃の場合は3時間であることが、FDAの水産食品製造事業者向けガイダンスに示されている15)。また、リステリアを殺菌できるレベルの加熱処理を行う製品であっても、加熱工程後に水冷やスライサーを用いたスライスなどにより、製造環境に由来する再汚染が起こる場合があることから、定期的な環境モニタリングで施設及び設備にリステリアあるいは指標菌としてのリステリア属菌がいないこと、検出された場合には洗浄・消毒により除去が行われたことを確認する。リステリアの除去に有効な消毒薬としては、次亜塩素酸ナトリウム、4級アンモニウム、過酢酸等が知られており、特にバイオフィルムには有機物やpHの影響を受けにくい過酢酸が有効とされている16)。一方で、リステリアは食品製造施設のベルトコンベアの重なり部分、機器のパイプの中空部分など、消毒薬が行き届かない箇所に長期間生き残ることが知られている。また、有機物の残存により消毒薬の効果が大きく低減することもある。そのため、消毒薬の使用時にはブラシなどを用いて汚れを除去すること、濃度やpHなど消毒薬の効果が発揮される条件を守ること、食品接触面や近接箇所に消毒薬が確実にいきわたるようにすることが重要となる。

 

8.おわりに

日本国内におけるリステリア症の発生状況は不明な点が多いものの、高齢者人口の増加等に伴って増加傾向にあると思われる。また、食品の輸出増大により、諸外国で要求されるレベルのリステリア管理が、食品を輸出する国内の製造事業者にも求められつつある。感染性食中毒の中で致命率が最も高い部類であるリステリア症は、今後より注目されるべき疾患の一つであると考えている。

 

参考文献
  • 1.食品安全委員会.食品中のリステリア・モノサイトゲネス.2013
  • 2.Pouillot R. et al. Infectious Dose of Listeria monocytogenes in Outbreak Linked to Ice Cream, United States, 2015. Emerging Infectious Disease, 22; 2113-2119, 2016.
  • 3.International Commission of Microbiological Specifications for Foods. Microorganisms in Foods 5: Characteristics of Microbial Pathogens, Blackie Academic & Professional. 1996.
  • 4. Food and Drug Administration. Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food: Draft Guidance for Industry. Appendix 3, 2024.
  • 5.European Centre for Disease Prevention and Control. The European Union One Health 2024 zoonoses report. 2025.
  • 6.Centers for Disease Control and Prevention. Clinical overview of listeriosis,
  • 7.Food and Drug Administration. Control of Listeria monocytogenes in Ready-To-Eat Foods: Guidance for Industry, Draft Guidance. 2017
  • 8.Makino et al. An outbreak of food-borne listeriosis due to cheese in Japan, during 2001. International Journal of Food Microbiology, 104: 189-196. 2005
  • 9.古賀ら.複数の型が検出されたListeria monocytogenes集団感染事例―福岡市.IASR vol. 43, p195-196. 2022
  • 10.Okutani T, et al. Nationwide survey of human Listeria monocytogenes infection in Japan. Epidemiology and Infection 132: 769-772, 2004
  • 11・山根一和ら.厚生労働省院内感染対策サーベイランス検査部門データを用いた本邦におけるリステリア症罹患率の推定. IASR Vol. 33 p. 247-248. 2012
  • 12.Kusama Y. et al. National database study of trends in bacteraemia aetiology among children and adults in Japan: a longitudinal observational study. BMJ Open 11: e043774, 2021
  • 13.Maury M. et al. Uncovering Listeria monocytogenes hypervirulence by harnessing its biodiversity. Nature Genetics, 48: 308-313. 2016
  • 14.Fritsch L. et al. Next generation quantitative microbiological risk assessment: Refinement of the cold smoked salmon-related listeriosis risk model by integrating genomic data. Microbial Risk Analysis, 10: 20-27, 2018
  • 15.Food and Drug Administration. Fish and fishery products hazards and controls guidance, 2022.
  • 16.Hua Z. et al. Comparative Evaluation of Different Sanitizers Against Listeria monocytogenes Biofilms on Major Food-Contact Surfaces. Frontiers in Microbiology, 10: 2462, 2019.
略歴

国立医薬品食品衛生研究所

食品衛生管理部 第三室長

岡田 由美子

 

東京農工大学農学部獣医学科卒業

獣医師、獣医学博士

国立公衆衛生院衛生獣医学部に研究員として奉職後、
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部へ異動、平成26年1月より第三室長、現在に至る

消費者庁食品衛生基準審議会新開発食品調査部会委員、日本食品微生物学会理事

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