|
水耕栽培や溶液栽培における液体肥料中の
イオン性栄養塩類の同時定量法の開発と施肥コントロールへの応用 高知大学 理工学部 化学生命理工学科 准教授 小崎 大輔 1. はじめに19~20世紀における農業の発展には、1840年のLiebigによる植物の成長に重要な三大栄養素(窒素、リン、カリウム)の発見とハーバー・ボッシュ法に基づく窒素肥料の開発が大きく影響している1-4)。次に、20~21世紀における農業の発展には、様々な技術導入に伴う施設園芸農業化が影響している。施設園芸農業とは、ビニールトンネルや雨よけシート、ビニール温室のような施設に加え、温室内の環境制御(日照時間、温度、湿度、二酸化炭素濃度、気流)に関する諸装置(LED照明、各種センサー類(ガスセンサー、pHや電気伝導度センサーなど)、液体肥料の殺菌装置、水量メーター、水門の自動開閉装置などを備え、主に高付加価値な野菜や果樹、花などが栽培されている農業形態である。 施設園芸農業は、土耕栽培と比べ雑草や病害虫の被害を受けにくく、農薬等の使用の低減が可能、液体肥料や培地の入れ替えによって作物の連続栽培が可能、気候や地域を問わず、作物の栽培が可能などの利点が挙げられる5-8)。 一方で、初期の導入において費用がかかり、資材及び機材の設置のための準備期間が必要であることなどが短所として挙げられる5-7)。 また、養液栽培や水耕栽培では、液体肥料の電気伝導度やpHを連続モニタリングすることにより、肥料濃度を簡易的に管理している。ただし、電気伝導度やpHのみの測定では、液体肥料中の栄養塩の組成に関する詳細な把握は困難であり、液体肥料を連続利用した場合、初期の栄養塩の組成を保つことは非常に困難である。加えて、病原菌による作物への影響を加味し、常に一定量の液体肥料を排水しつつ、新しい液体肥料を追加する方式が主流となっている9)10)。ただし、近年の肥料価格の高騰に加え、水圏環境への影響も鑑みると、液体肥料の更新要因となる栄養塩の濃度変化を測定し、常に最適な栄養塩濃度に保つことにより更新回数を低減し、低環境負荷化と抵コスト化を達成することが、今後の重要な課題となっていることも事実である。 本稿では、我々の研究グループが開発を行ってきた、イオンクロマトグラフィー(IC)を基盤とするイオン性栄養塩類(H2PO4-/HPO42-、K+、NH4+、NO3-、NO2-)の同時分離定量法とそれを用いた液体肥料の管理への試験的応用について紹介する11)。
2. 中性移動相を用いたイオン性栄養塩類の同時分離イオン性栄養塩類の分離の達成を目的に使用した装置の構成(図1)及び分離機構は以下の通りである11)。 溶離液(移動相)には、ギ酸ナトリウム水溶液を、分離カラム(固定相)には、陰イオン交換基及び陽イオン交換基が修飾された樹脂を充填した、Acclaim Trinity P2カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック製:カラム長さ:50 mm、内径:3.0 mm、粒子系:3.0 µm 以降、Trinity P2カラムと記載する)を用いた。Trinity P2カラムは、図2に示すように、基材である多孔質球状シリカの細孔内に陽イオン交換基を有し、粒子表面に陰イオン交換基を有するナノポリマービーズがコーティングされた陽イオン交換及び陰イオン交換分離が可能な分離カラムである。
![]() 図1 イオン性栄養塩類の分離を目的に、使用した装置の構成11) 1:ギ酸ナトリウム溶離液、2:送液ポンプ(0.25 mL/min)、3:試料注入器(20 µL)、
![]() 図2 Trinity P2カラム表面の模式図及び詳細11) 本研究では、分析対象イオンの分離の観点から、ギ酸ナトリウム溶離液の最適濃度を20 mMとした。なお、本最適条件における移動相のpHは7.87であり、一般的に中性と言われるpH 6.0~8.0の範囲に収まっている。なお、液体肥料には、塩基性条件で沈殿を生じる金属イオンや、酸性条件下でNO3-に酸化されてしまうNO2-を含み、その両方に影響しない条件として、本研究では、中性の溶離液を検討した。 本実験で得られた最適条件におけるクロマトグラムを図3に示す。中性溶離液を用い、分析対象であるイオン性栄養塩類(H2PO4-/HPO42-、K+、NH4+、NO3-、NO2-)を含む6成分の同時分離が達成された。 また、図3に示すように、陰イオンはカラム表面のナノポリマービーズにおける陰イオン交換基により交換分離されることから、Cl-、H2PO4-/HPO42-、NO3-、NO2-が先に溶出する。陰イオンの分離がシリカビーズ表面のナノポリマーで生じる一方、陽イオンは、シリカビーズ細孔内に修飾された陽イオン交換基により交換分離される。そのため、陽イオンの溶出時間は陰イオンのそれと比較して長時間を要し、溶出順は、陰イオン、続いて陽イオンとなったものと推測される。
![]() 図3 最適分離条件による(a)標準試料及び(b)液体肥料試料のクロマトグラム11)
3.本法を用いた混合もしくは単独液体肥料による施肥制御とモニタリング本法を用いて、2種類(栽培①、栽培②)の水耕栽培における液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度をモニタリングしつつ、施肥制御を試みた。なお、栽培①では追肥に混合液体肥料を、栽培②では単独液体肥料(KH2PO4)を用いた。 栽培①では、図4に示すように、0日目の液体肥料中のNO3-、K+、H2PO4-/HPO42-の総消費量は、それぞれ73.6、46.0、6.00 mmolであった。そこから、植物の生育に必要なNO3-、K+、H2PO4-/HPO42-は0日目から15日目までは緩やかに減少し、15日目から25日目までは植物の生育が加速するため、顕著に減少した。栽培①では、21日目において、H2PO4-/HPO42-の不足を避けるため、2.00 Lの混合液体肥料を追肥した。この添加により、NO3-、K+、H2PO4-/HPO42-の量は、それぞれ73.8 mmol、46.4 mmol、3.41 mmolに増加した。栽培最終日には、H2PO4-/HPO42-の量は0.85 mmolまで減少したものの、混合液体肥料を施肥したため、NO3-(43.4 mmol)とK+(19.8 mmol)の量は比較的、多い状態での栽培終了及び液体肥料の排水となった。 一方、栽培②では、図5に示すように、21日目に混合液体肥料の施肥ではなく、モニタリング結果から、不足が予想されたH2PO4-/HPO42-のみを、KH2PO4として5.00 mmol施肥した。その結果、図5に示すように、NO3-、K+、H2PO4-/HPO42-の残量の残量は5.09 mmol、2.61 mmol、3.06 mmolと、栽培①と比較すると、イオン性栄養塩類を概ね使い切っての栽培終了及び液体肥料の排水となった。
![]() 図4 水耕栽培において追肥に混合液体肥料を用いた際の(a)レタスの生育状況と(b) 液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度、植物体重量及び液体肥料重量の変化11)
![]() 図5 水耕栽培において追肥に単独液体肥料を用いた際の(a)レタスの生育状況と(b) 液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度、植物体重量及び液体肥料重量の変化11)
4. おわりに以上のように、本研究では、電気伝導度やpHのみによる液体肥料の管理ではなく、液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度を個別に把握可能なIC法を開発し、不足する成分のみの追肥を試みた。その結果、液体肥料中のイオン性栄養塩類の濃度は、従来の混合液体肥料による施肥をした場合と比較して低濃度の状態で栽培を終了することが可能であった。以上のように、本法を用いることで、排水される液体肥料による環境負荷の低減と肥料消費量の削減が可能であり、低環境負荷化と抵コスト化の達成に寄与することが可能であることが示された。 現在は、本稿で解説した手法を用い、大型水耕栽培施設における液体肥料の自動モニタリングシステムの試験的運用と施肥制御への応用について検証を実施しており、将来的な施設園芸農業の発展に資することを期待している。
参考文献
略歴
小崎 大輔(こざき だいすけ)
2012年3月 広島大学大学院にて博士(工学)を取得後、(独)日本学術振興会/特別研究員(DC2)、Universiti Malaysia Pahang/Senior Lectorを経て現在は高知大学 理工学部 化学生命理工学科/准教授 サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。 |
| Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved. |