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環境・食品中のPFASへの対応が我が国でも本格化
国立医薬品食品衛生研究所名誉所員
(元食品部長、元食品添加物部長)
米谷 民雄

Ⅰ.はじめに

謹賀新年。今年(令和6年)は明治157年である。そのため近年は150周年の行事が多く、今年は明治7年に東海道本線の大阪-神戸間が開業して150周年である。また私事で恐縮だが、一昨年(令和4年)は大阪市内の母校小学校の、昨年(令和5年)は欧学校として設立された高校の、今年は元職場の東京司薬場として設立された国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)の創立150周年である。高校では記念事業として100周年の大阪城梅林に続き、大阪駅北側にできる「うめきたの森」(2027年春頃全体開園予定)に桜植樹するが、国衛研も秋に記念事業を計画している。

さて新年はどのような年になるであろうか。「物流の2024年問題」の年であり生活への影響が懸念されるが、一方で食品中化学物質の安全性を研究してきた立場からは、近年我が国で有機フッ素化合物PFASの報道が多くなってきたと痛感している。その代表的化合物による環境汚染が専門家や一部の地域で認識されてからすでに20~30年経過し規制もされてきたが、海外では大変厳しい規制の提案が続出している。分析対象PFAS数も増加し、食品でも多い場合には30種に達している。また食品からの摂取では魚介類が注目されており、日本人にとっては気掛かりなところである。このような状況に対応すべく、国内各省庁も本格的に動き出した。そこで本稿ではPFAS問題について、基礎的事項と最近の国内外の規制の動きを、食品からの摂取を含めてまとめてみた。

Ⅱ. PFASとは

PFASはper- and polyfluoroalkyl substances(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)の総称である。perの日本語表記は「パー」と「ペル」があるが、本稿では公定分析法で採用している「ペル」に統一する。perは完全に(全部が)、polyは多くが(2つ以上が)の意味であるので、化合物数としてはポリが圧倒的に多い。

PFASの統一定義はないが、OECDの2021年改訂の定義では、「少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチル基またはメチレン基を含むフッ素化物質」と広く定義しており、芳香族がある場合やポリマーも入ってくるため、1万以上の化合物がPFASに含まれる。

現在問題にされている化合物の多くは、末端にスルホン酸基を有するペルフルオロアルキルスルホン酸(PFSA)と、カルボキシ基を有するペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)に分類される。PFSAの代表がPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)で、PFCAの代表がPFOA(ペルフルオロオクタン酸)である。PFOSではフルオリド(-SO3F)体のPFOSFも規制されている。

PFOS:CF3-(CF2)7-SO3H   PFOA : CF3-(CF2)6-COOH

他のPFSAとしては、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)やPFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)、PFCAとしてはPFNA(ペルフルオロノナン酸)、PFBA(ペルフルオロブタン酸)、PFPeA(ペルフルオロペンタン酸)などがある。

また二量体構造のHFPO-DA(GenXTM:ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸)もしばしば規制対象にされる。さらに一部に水素原子が結合した(ポリフルオロ体の)PFASである6:2FTS(C6F13CH2CH2SO3H)等のフルオロテロマースルホン酸や、8:2FTOH(C8F17CH2CH2OH)等のフルオロテロマーアルコールなども議論されている。

PFASは撥水性、撥油性、耐熱性、耐汚染性にすぐれ、焦げ付き防止コーティングされたフライパンなどの調理器具、撥水加工の繊維製品、ファーストフードの包装紙、油火災の消火泡や、金属・プラスチックの表面処理など、非常に多方面で使用されてきた。環境中で分解されないためForever Chemicals(永遠の化学物質)と呼ばれている。

Ⅲ.フロンとPFASの使用開始時期

フッ素化合物としては以前にフロン類が問題となった。冷媒として1928年に開発されたCCl2F2等のクロロフルオロカーボン(CFC)(デュポンの商標はフレオンTM)が1970年代にオゾン層を破壊するとして問題化し、オゾン層を破壊しにくいハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)やオゾン層を破壊しないが温室効果があるハイドロフルオロカーボン(HFC)などと、1987年のモントリオール議定書や1997年の京都議定書で規制された。

三井・ケマーズフロロプロダクツ社のブランドストーリー1)によると、1928年にフレオンを開発したデュポンが新たな冷媒開発の過程で、1938年に中間体として用いたテトラフルオロエチレン(TFE)から発見したのがポリテトラフルオロエチレン(PTFE、広義のPFAS)である。1945年にテフロンTMとして商標登録され、1950年代後半にテフロンコーティングのフライパンが商品化された。このテフロンの加工時に使用されたのがPFOAとされ、米国3M社が開発したものである(我が国のフッ素樹脂製造でのPFOA使用は2015年までに終了)。この3M社は1956年からPFOSの防汚性・撥水性を利用した防水用製品を発売している(現在は成分を変更)。その後1980~1990年代になると、これら有機フッ素化合物が人や動物に有毒な残留性が高い化学物質であると認識されるようになった。

Ⅳ.PFASをヒト血中から検出

最初にPFASをヒト血中から検出したのはTavesと思われる。米国では虫歯予防のため水道水に無機フッ素化合物を添加している州が多い。我が国でも市販歯磨き剤の多くに無機フッ素化合物が配合されているが、一方で1970 年頃には、沢水中のフッ素濃度が高い六甲山系東部の宝塚市や西宮市で斑状歯(歯牙フッ素病)が多発し社会問題化した。

さてロチェスター大学医・歯学部のTavesは体内のフッ素化合物を研究していたが、1968年に血液サンプル中に歯科目的で水道水に加えられる無機フッ素ではないフッ素体を複数検出2)し、後にその1つを暫定的にPFOAと推定し、その起源も推測している。最初に検出したのが歯科の研究者であったのは大変興味深い。その後PFASは、血中で広範囲に確認されていった。

Ⅴ.PFASの規制

特定のPFASが国際的には「環境中での残留性、生物蓄積性、人・生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念される化学物質」を対象としたPOPs条約により、国内的には「人の健康及び生態系に影響を及ぼすおそれがある化学物質」による環境汚染防止を目的とした化審法により規制されている。

POPs条約ではPFOSとその塩及びPFOSFが2009年に附属書B(製造・使用、輸出入の制限)に、PFOAとその塩及びPFOA関連物質が2019年に附属書A(製造・使用、輸出入の原則禁止)に、PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質が2022年に附属書Aに掲載された。また炭素数が長い(C9-C21)PFCAsが、規制対象物質の検討を行う「残留性有機汚染物質検討委員会」(POPRC)の2022年9月の会合で検討されている。

化審法ではPFOS又はその塩とPFOSFが2010年に、PFOA又はその塩が2021年に、第一種特定化学物質(製造・輸入の原則禁止、使用の制限)に指定された。また、PFHxS又はその塩、及び関連物質である炭素数6で分枝したペルフルオロ(アルカンスルホン酸)又はその塩を第一種特定化学物質に指定することになり、2024年春以降施行予定である。

さらに国内では水道水や地下水などに、具体的な目標値などが設定されている。

1)水道水の暫定目標値

2020年にPFOSとPFOAが水道水の水質管理目標設定項目に追加され、暫定目標値が合算値で0.00005 mg/L以下と設定された。また、PFHxSが2021年に要検討項目に追加された(目標値は未定)。

2)公共用水域及び地下水の暫定指針値

2020年にPFOSとPFOAが「人の健康の保護に係る要監視項目」に追加され、暫定指針値が合算値として0.00005 mg/L以下と設定された。また、PFHxSが2021年に要調査項目に追加された(選定区分:人の健康)。

上記の0.00005 mg/Lの値は、我が国に摂取量と健康影響に関するデータがないため、米国EPAが2016年に設定した健康勧告値70 ng/L(PFOSとPFOAの合算値)から、体格差などを考慮して算出している。しかし後述するように、米国は2023年3月に飲料水中PFAS濃度の厳しい国家基準値案を公表しており、我が国でも対応が必要となっている。

Ⅵ.国内でのPFAS汚染の報道-20年前から報告-

国内でのPFAS汚染については、米軍基地周辺での汚染が報道で強調されてきた。

1)東京都多摩地域

東京都多摩地域の市民団体が京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授(環境衛生学分野)と協力して実施した住民の血液調査結果が、2023年6月に公表された3)。PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの4種に注目し、得られた数値を米国科学・工学・医学アカデミーによる臨床的フォローアップが勧められる指針値20 ng/ml(PFOS、PFOA等7種の合計値)と比較したところ、参加した住民650人中335人で指針値を超えた。特に国分寺市や立川市の住民で平均濃度が高かった。なお他の指針値としては、ドイツで健康影響の可能性がある濃度HBM-Ⅱ4)としている血漿中濃度PFOAで10、PFOSで20 ng/mlなどがある。

上記2市は横田基地の東側にあり、以前から地下水中PFAS濃度が高いことが知られていた。この地域では地下水は北西から南東に流れるため基地からの汚染の可能性があるが、基地西側のPFAS濃度が極めて低い地域でも血中濃度が高い地域があるため、汚染源についてはさらに調査が必要としている。都23区の水道水は荒川・多摩川の水を使用しているが、多摩地域では地下水にも大きく依存している。都では給水栓における測定値が暫定目標値を超過した浄水所では、井戸水源の一部または全てを停止する対策を実施している。この問題に関連して、松野官房長官は2023年7月の記者会見で、米軍横田基地でPFASを含む泡消火剤の漏出が2010~12年に3件確認されたと明らかにした。しかし、米側は基地外へ流出したとは認識していないと説明しているという。

東京都環境局の令和3、4年度地下水質調査結果5)においても多摩地域のPFAS濃度は高いが、23区内でも地下水のPFAS濃度が指針値を超える地区が認められる。

ただしこの地域の特にPFOS汚染については、すでに2003年に原田氏が当時の小泉昭夫教授らと論文報告6)しており、多摩川水系はもとより世田谷区の砧浄水場からの上水でも43.7、50.9 ng/LのPFOS値が示されている。その後の都の対応や2010年のPFOSの化審法指定により、PFOSについては現状5)の方が以前より改善されているのかもしれない。実際、PFOS(及びPFOA)の東京湾への2004~2010年の流入を調べた国立環境研究所の論文では、PFOSは2006年以降徐々に減少している7)

2)沖縄県

沖縄県は平成29年度から米軍基地周辺で毎年夏・冬、環境中PFAS残留実態調査を実施しており、2023年7月に令和4年度冬季の結果が公表された8)。44 地点の湧水・河川等を調査したところ、30地点で環境省の暫定指針値を超過した。特に嘉手納飛行場周辺では13地点中12地点で超過し、最高値は嘉手納町屋良ウブガーの1,800 ng/Lであった。また、普天間飛行場周辺では20地点中11地点で指針値を超過し、最高値は980 ng/Lであった。なお、泡消火剤からの生成事例があるとして6:2FTSも分析している。これの検出は泡消火剤の寄与を示唆するかもしれないが、汚染状況は全体的に概ね横ばい傾向だとしている。

以上のように米軍基地周辺の汚染報道が多いが、PFOSを含む消火剤は基地以外でも国内で広く使用された。またPFOAを生産・使用していた国内メーカーからの排出も、大阪や静岡で問題になっている。今後の国内での汚染実態調査の結果が大変注目される。

Ⅶ.海外でのPFAS規制の最近の動き

1) WHOがPFASの水質ガイドライン案を提示 

これまでWHOは飲料水中PFAS について基準値を示していなかったが、2022年9月にPFASの飲料水水質ガイドライン(GDWQ)案を提示した9)。暫定ガイドライン値としてPFOS及びPFASは各々0.1 µg/L、総PFASの暫定目標値として0.5 µg/Lを提案し、2022年11月までコメントを募集していたが、ガイドラインには未収載である。健康影響に基づきガイドライン値を求めるにはエンドポイントの不確実性が高いとして、分析方法や処理可能性から導出した値を暫定のガイドライン値として提案している。また、総PFAS(測定可能なおよそ30種)の目標値を提案したのも特徴である。

2) 米国が飲料水中PFASの国家基準を提案

米国は2023年3月に6種類のPFASに対する初の飲料水国家基準(National Primary Drinking Water Regulation、NPDWR)を提案すると発表した10)。PFOAとPFOSを各々4 pptで規制し、他の4種のPFNA、PFHxS、PFBS、HFPO-DA(GenX)を混合物として規制するもので、法的強制力がある基準である。4種では各々の毒性から定める定数(濃度)で測定値を除し、その合計が1を超えるかで判定する。定数はGenX 10 ppt、PFBS 2000 ppt、PFNA 10 ppt、PFHxS 9 pptである11)。基準値は2023年中に最終決定される予定である。

3)欧州で全PFAS禁止案が提出

2023年1月にEU5カ国が欧州化学品庁(ECHA)に、欧州における全PFASの規制(使用・生産の禁止)を求めるREACH規制案を提出した。ECHAは2023年2月7日に全PFAS対象の規制案を公表し、2023年3月22日から6ヶ月間パブリックコメントを実施した。EU域外からも含め5,600以上の意見や情報が提出された12)。加盟国が賛成すれば、禁止は2025年に発効する予定である。

Ⅷ.食品からのPFAS摂取に関する最近の報告-魚介類が多い-

1)米国FDAのトータルダイエットスタディ(TDS)

FDAは2022年7月に魚介類中のPFASの検査結果を公表し、中国からの缶詰二枚貝(アサリ)でPFOAへの推定暴露量が健康上懸念となる可能性があると判断した13)。最高濃度のPFOAが検出された缶詰二枚貝2検体の場合、月に約10 oz(283 g)以上を食する小児以外の消費者で健康上懸念があり、小児では月に2 oz(57 g)以内とする必要があるとしている。FDAは特に魚介類が PFAS に汚染される可能性が高いとして、従来のTDSに追加して、魚介類のターゲット調査を継続している。

2023年5月に発表したTDSの結果では魚介類検体の44%、種を絞り込んだ2022年魚介類調査では検体の74%からPFASが検出された14)。魚介類は他食品にくらべPFAS汚染の可能性が高いが、中国からの缶詰アサリを除いて、検査で測定されたレベルでは健康上懸念となる可能性が高いものはないと判断している。なおFDAは2023年に、食品・飼料中のPFAS30種を検査するための改良検査方法を公表している15)

昨年10月に開催された日本食品衛生学会学術講演会では食品中PFAS分析法の発表が5題あり、対象PFAS数は国衛研では20種であったが、機器メーカーなどではFDA法を見据えてか30種や40種であった。

2)欧州で食品中PFASの最大基準値を改正

EFSA(欧州食品安全機関)は2020年に小児におけるワクチン接種後の抗体価低下をエンドポイントにして、PFOS、PFOA、PFNA、PFHxSのグループ耐容週間摂取量(TWI)を4.4 ng/kg体重/週と設定した。PFOSとPFOAの摂取源としては魚介類、次いで卵・卵製品、肉・肉製品、果物・果物製品が多いとしている16)。そこでEUは2022年12月に、特定食品中のPFAS最大基準値を改正し、2023年1月から適用を開始した17)。対象食品は卵、特定の水産物、牛・豚・鶏・羊・狩猟動物の肉・内臓で、PFASとしてはPFOS、PFOA、PFNA、PFHxS及び4種の合計値(グループTWIが設定)につき、μg/kg湿重量で示している。具体的基準は上記PFAS順と4種合計で、卵:1.0, 0.30. 0.70. 0.30, 1.7、牛・豚・鶏肉:0.30, 0.80, 0.20, 0.20, 1.3などであるが、水産物(乳幼児食用以外)ではニシンやカツオ:7.0, 1.0, 2.5, 0.20, 8.0、カタクチイワシやウナギ:35, 8.0, 8.0, 1.5, 45などと大きな数値が並んでおり、水産物中のPFAS濃度が高いことがうかがえる。

3)農林水産省のサーベイランス調査

平成24,25年度「食品の安全性に関する有害化学物質のサーベイランス調査」で、東京17食品群、大阪、福岡13食品群、及び容器入り飲料水を調査した結果、PFOS及びPFOAは魚介類と藻類以外の食品群では濃度が低く、PFOSでは魚介類の寄与が100%、PFOAでは魚介類90%、藻類10%の寄与であった(LOQ未満は0として算出)18)。また令和元年度の予備的なTDSでも、摂取実態は同様の傾向であった。

そこで令和3年度には国内消費量が多く国内沿岸で漁獲されるマアジを対象に、令和4年度には魚介類のうち国内消費量が多い品目として国産のマイワシ、マダイ、カツオ、サバ、スケトウダラ、ウナギを選定し、各30点につき、PFOSとPFOAの含有量実態調査を実施するとしている19)

4)食品用容器包装からのPFASの溶出

食品用容器包装からのPFASの溶出に関しては、国衛研担当者による平成19年度厚労科研の報告書がある20)。PFAS含有量が高かった製品について溶出試験を実施したところ、ヘプタン25℃60分の条件では含有量の1%程度、水60℃30分では10%程度、水95℃30分では60-100%のPFASが溶出した。このことから、PFASが水を含む食品に移行しやすいと考えられ、通常の食事からの摂取量では健康上問題はないが、PFASが広い分野で使用されていることを考えると、食品用途製品への使用は望ましくないとしている。

Ⅸ.国内省庁の動き

1)環境省

環境省は昭和49年度から化学物質の環境調査を継続し、結果を毎年「化学物質と環境」(通称:黒本)として公表している21)。PFASに関しては平成16年度(17年度黒本)の食事中PFOS・PFOA濃度の報告、平成22年度(23年度黒本)からは水質、底質、生物、大気のモニタリング調査結果の報告がある。

環境省では令和5年1月に「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」をスタートさせ、PFOS、PFOAに関するQ&A集を作成し、「PFASに関する今後の対応の方向性」をまとめた22)が、新しい基準値等を決めたわけではない。昨年8月の報道によると、環境省の2024年度概算要求にPFAS関連予算が計上されている。令和3年度に都道府県等が実施した公共用水域・地下水のPFOS・PFOA常時監視の結果を環境省がまとめた報告23)では、1133地点中81地点で暫定指針値を超過していた。今後予算が認められれば、全国的な調査と指針値の検討を行うのであろう。

2)厚生労働省

厚労省では令和5年6月に令和5年度第1回「水質基準逐次改正検討会」を開催し、一部は環境省「PFOS・PFOAに係る水質の目標値等の専門家会議」との合同会議であった。WHOでは約30のPFASに合計値として、EUではC4-C13のPFSA・PFCA(20物質)に合計値として、米国ではPFAS 6物質を対象として、飲料水に目標値等を提案している。我が国の飲料水のPFOS・PFOA以外のPFAS規制はどのようになるであろうか。

3)食品安全委員会

食安委ではPFASについて、自ら評価を行うために「有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ」を設置し、令和5年2月から会議を開始し、第3回と第4回で健康影響評価の文献につき審議している。最終的に何をエンドポイントとして健康影響評価するのか、大変注目されるところである。

このように、各省庁がPFASへの対応に動き出したが、WHOのGDWQ、米国のNPDWR、EUの全PFAS規制の経過を注視しているようで、今年度の動きが注目されるところである。

Ⅹ.おわりに

欧州は全PFAS禁止の方針を示しており、実施されれば我が国も大きな影響を受ける。また米国の飲料水国家基準が提案通り実施されれば、国内の暫定目標値・指針値も再検討が必要になる。現行値でさえ超過することが多いが、今後環境省や厚労省はどのように規制するのであろうか。海外の動向を見ると、どの範囲のPFASを、どのレベルで規制するのか、国として大変悩ましいところである。

食品からのPFAS摂取に関しては魚介類からの摂取が主となるが、摂取量と比較する耐容摂取量がどのように設定されるか注目したい。また、飲料水からの摂取の地域依存性も大変気になるところである。

以上、昨年11月末までの情報で整理した。

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略歴

米谷 民雄

国立医薬品食品衛生研究所名誉所員

(元食品部長、元食品添加物部長)

 

大阪市で西天満小学校から北野高校まで学び、京都大学で博士課程まで修了。環境庁国立公害研究所及び米国カンザス大学メディカルセンターでの生体中微量元素の研究の後、国立医薬品食品衛生研究所に勤務。食品添加物部室長・部長及び食品部部長として、既存添加物制度と農薬等ポジティブリスト制度の確立に研究サイドの中心として対応。2005年日本食品衛生学会賞受賞。2009-2010年度(公社)日本食品衛生学会会長。2010-2013年静岡県立大学食品栄養科学部特任教授として茶中残留農薬の研究を実施し、現在も同大学にて講義を継続中。

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