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ビタミンE類の細胞への取り込み量は大きく異なり、その機構を紐解く
東北大学 大学院農学研究科(現所属:滋賀医科大学 博士研究員) 中冨 毅
東北大学 大学院農学研究科 教授 仲川 清隆

1. はじめに

必須栄養素であるビタミンEは、構造の違いにより幾つかの種類があることをご存知かと思います。具体的には、ビタミンEの構造はクロマノール環と呼ばれる環状構造と側鎖で構成されていますが、側鎖構造の違いによってトコフェロール(Toc)とトコトリエノール(T3)の2つに大別され、さらにクロマノール環の構造の違いでα-、β-、γ-、δ-の類縁体に分けられ、合計8種類のビタミンE類縁体が存在します(図1)。ビタミンEの生理作用は抗酸化、抗ガン活性など多岐にわたり、その詳細を調べるために様々な細胞試験が行われてきました。このような細胞試験において、多くの場合、TocよりもT3の方が強い生理作用を示すことが知られており1)、その理由としてT3の細胞内への取り込み量がTocよりも多いためと考えられています2)。しかしながら、こうしたTocとT3の細胞内取り込み量の違いを引き起こす機構については、ほとんど明らかにされていませんでした。我々はビタミンEの研究を進める中で、TocとT3の細胞内取り込み量の違いに、細胞培養培地中の血清(とくに、その主要タンパク成分であるアルブミン)が関与し、アルブミンとの親和性がTocとT3で異なることにより細胞への取り込み量に違いが生じることを見出しました3)。ここでは、本知見が得られた詳細について、順を追って説明いたします。

 

2. TocとT3の細胞内取り込み試験

最初に我々は、一般的に細胞培養培地に添加される血清がTocとT3の細胞内取り込み量に与える影響を、ヒト単球性白血病細胞株を用いて調べました。具体的には、10% ウシ胎児血清(FBS)添加培地、あるいは血清除去培地を用いて、TocおよびT3の各類縁体の細胞内取り込み量を調べました。すると、10% FBS添加培地を用いた場合、確かにT3の取り込み量はTocよりも多くなり(図2)、さらには、TocおよびT3の各類縁体の取り込み量が10% FBS添加培地と血清除去培地で異なることがわかりました。したがって、TocとT3の細胞内取り込み量の違いには、血清中の何らかの成分の関与が示唆されました。

そこで我々は、血清の主要なタンパク成分であるアルブミンに着目しました。アルブミンは様々な医薬品・食品成分の細胞内取り込みに関わることが知られており4)、近年、我々もクルクミノイド類の細胞内取り込み量の違いにアルブミンが関わることを見出しています5)。このようなことから、血清除去培地に種々の濃度のウシ血清アルブミン(BSA)を添加してTocおよびT3の細胞内取り込み量を調べた結果、血清除去培地へのBSAの添加でT3の細胞内取り込み量は顕著に増加し、これに対してTocは減少することがわかりました(図3)。特に、10% FBS添加培地のアルブミン濃度に相当する32.4 μMのBSAを添加した場合に、T3の顕著な取り込み量の増加が見られました。これらの結果より、TocとT3の細胞内取り込み量の違いには、培地成分の中でも血清の主要タンパク成分であるアルブミンが関与することが強く示唆されました。

 

3. TocとT3のアルブミンとの親和性の評価

一般的に、アルブミンが関わる医薬品・食品成分の細胞内取り込みにおいては、医薬品・食品成分とアルブミンの親和性が細胞への取り込み量に関係すると言われています5,6)。そこで続いて我々は、TocやT3のアルブミンとの親和性、とくに親和性に違いがあるのかどうかを、蛍光クエンチング法とドッキングシミュレーション解析により評価しました。まず、蛍光クエンチング法では、リン酸緩衝液中のBSAにTocおよびT3を添加することでBSAの固有蛍光が減少し、得られた蛍光スペクトルから結合パラメーターを求めて比較すると、T3のアルブミンに対する親和性はTocよりも高いことを示唆する結果を得ました3)。更に、ドッキングシミュレーション解析を行うと、TocとT3はBSAの幾つかのアミノ酸残基と相互作用し、T3はTocよりも高い安定性でBSAと結合するという結果を得ることができました(図4)。これらのことから、TocとT3はアルブミンと異なる親和性で結合し、その親和性はT3の方が高いと言えるかと思います。

 

 以上より、細胞培養液中でT3がアルブミンとTocよりも高い親和性で結合することが、TocとT3の細胞内取り込みの違いを引き起こす要因の一つであると考えられます。今回のように、血清中の主要なタンパク成分のアルブミンがビタミンEの取り込み量の違いに重要な役割を有することを示した研究は、我々の知る限り初めてのもので、現在、さらなる詳細なメカニズム解析を進めております。そして今回ご紹介した知見と、過去の細胞試験で報告されているビタミンEの様々な生理作用には、何らかの関係性があると予期され、このことは我々の新たな研究テーマとなっております。こうした研究の推進により、ビタミンEの生理的メカニズムがより一層解明されると期待されます。

引用文献
  • 1) Miyazawa, T. et al. Antiangiogenic and anticancer potential of unsaturated vitamin E (tocotrienol) J. Nutr. Biochem. 20, 79-86 (2009)
  • 2) Eitsuka, T. et al. Synergistic anticancer effect of tocotrienol combined with chemotherapeutic agents or dietary components: A review Int. J. Mol. Sci. 17, 1605 (2016).
  • 3) Nakatomi, T. et al. The difference in the cellular uptake of tocopherol and tocotrienol is influenced by their affinities to albumin Sci. Rep. 13, 7392 (2023)
  • 4) Revue, L. et al. Nat. Rev. Drug Discov. 9, 929–939 (2010)
  • 5) Itaya, M. et al. Phytomedicine 59, 152902 (2019)
  • 6) Zhang, D. et al. Drug concentration asymmetry in tissues and plasma for small molecule–related therapeutic modalities. Drug Metab. Dispos. 47, 1122–1135 (2019).
略歴

 

中冨 毅

滋賀医科大学 医学部医学科 研究員

 

2009年京都大学農学部食品生物科学科卒業、2011年京都大学大学院生命科学研究科統合生命科学専攻修士課程修了。民間企業勤務を経て、2023年に東北大学大学院農学研究科博士課程後期修了。現在、滋賀医科大学 医学部医学科 薬物治療学講座 研究員。ビタミンEの細胞内取り込みのメカニズム解明をテーマに取り組んでいる。

 

 

 

 

仲川 清隆

東北大学 大学院農学研究科 教授

 

1994年東北大学農学部食糧化学科卒業、1999年東北大学大学院農学研究科食糧化学専攻博士後期課程修了。同年日本学術振興会特別研究員、2000年科学技術振興事業団科学技術特別研究員、2003年東北大学大学院農学研究科助手、2004年同大学助教授、2007年同大学准教授、2013年米国タフツ大学Jean-Mayerヒトの老化栄養研究所客員研究員を経て、2016年東北大学大学院農学研究科教授。分析化学を基盤とした食品機能性の評価を研究テーマとしている。

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