(一財)食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 消費者が求めようとする食の安全・安心とは
消費者が求めようとする食の安全・安心とは
  -新年を迎え、改めて食の安全・安心について考えてみる-
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
                理事長 西中 隆道

あけまして、おめでとうございます。

平素よりSUNATEC e-Magazineをご愛読いただき、心からお礼を申し上げます。

これまでサナテックは、「豊かで健康な社会の実現に向けて貢献していくこと」を基本理念として、創設以来45年間、常に歩み続けて参りました。そして、これからも弊財団の基本方針にある食品分析機関として食に関わる「安全」 「安心」 「健康」 「おいしさ」 を支援する各種サービスを通じ、社会に貢献することを財団の使命として、職員の幸せとお客さまの幸せをALL SUNATECで実現していく所存ですので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

1. 食の安全・安心の関係について

新しき年を迎え、弊財団 サナテックの基本方針にもある、「安全」 と 「安心」の関係について、改めて考えてみたいと思います。

2001年9月(平成13年)、国内で牛海綿状脳症(BSE)問題が発生して以降、「食の安全・安心」という言葉がいろんな場面で登場してきますが、この言葉を正しく理解できている一般消費者が果たしてどの程度、お見えになるでしょうか。大変失礼な話になるかもしれませんが、ひょっとすると食の安全に関わる皆さまであっても、正確に説明することができないかもしれないと思うのです。

というのは、国内でBSE問題が大きな社会問題にまで拡がった2003年(平成15年)当時、政府や自治体、マスメディアが「食の安全・安心」という言葉を日常的に多用していました。しかし、その当時ほんとうに「食の安全・安心」という言葉の意味を正しく理解し、使っていた人がどれぐらい居たかと考えてみると、そんなに多くはなかったような気がしてならないのです。実は、そう言うわたしも当時、食品安全衛生の仕事に関わっていたのですが、わたしを含めた周りでも深く考えずに使っていたからです。「食の安全・安心」という言葉は、非常に抽象的で、物事をはっきり言うことを嫌う日本人の感性にピッタリ嵌まったものだと思っていましたので、当時は流行語のようにして使っていた気がします。一種の社会現象的な風潮にあったのではないでしょうか。

2. 安全性が問われる時代の幕開け

2003年5月30日(平成15年)、食品衛生法の重大な改正がありました。この改正のきっかけとなったのが、BSEの国内発生や食肉偽装事件、そして中国産冷凍ホウレンソウの農薬汚染事件などです。このように社会を揺るがす大事件が立て続けに起こったことが大きな要因ではないでしょうか。改正前の食品衛生法 第1条には、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とする、としていましたが、改正後は食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることを目的とするとし、安全性の確保が明記されました。これ以降、食の安全性が厳しく問われる時代となったのです。

3.青天の霹靂とも言うべき食品表示の一元化

2013年6月28日(平成25年)、わたしにとって忘れもしない出来事が起きました。それが「食品表示法」の制定でした。この改正によって、食品を摂取する際の安全性と、一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保するための食品表示の規定を一元化させたのです。それぞれ目的の異なる三つの法律(食品衛生法、JAS法、健康増進法)の一部分を融合させたようなものですから、まさに青天の霹靂でした。

と言うのも、一元化された食品表示法の中には、食への「安全」の部分と「安心」の部分が混在するからです。たとえば、アレルギー物質や添加物、遺伝子組換え食品などの表示は安全の判断基準となる表示ですが、名称や内容量、原産地や原産国などの表示は直接的には安全を保証する表示ではなく、安心の部分だと思います。わたしにとって、食品衛生法とJAS法、健康増進法は、次元の違う話だと認識していましたから、驚きを隠すことができずにいました。これ以降、一般消費者の心の中に「安全」と「安心」が一つのものとしてインプットされてしまったのではないでしょうか。

4.コロナウイルスと共にやってきた青天の霹靂

令和4年9日2日、新型コロナウイルス感染症政府対策本部が食品衛生行政の基準行政(規格設定・基準策定、国際食品基準設定など)を厚生労働省から消費者庁に移行させると発表しました。まさにコロナ感染症の流行のさなかでの決定事項であり、わたしにとっての二度目の「青天の霹靂」でした。なぜなら、消費者庁が基準行政を所管するようになれば、これまで以上に消費者の要望や要求事項が反映されることが考えられます。もしそうなれば、安全と安心の関係性がさらに近づいてしまいますから、事業者の負担が増大する可能性も考えて置かなければなりません。食品衛生に関わる者のひとりとして、「安全」と「安心」について、一般消費者のみなさまに正確に説明できるようにしておくことは決して無駄なことではないと思うようになりました。そこで、このような図を作成してみました。もし、お時間があれば、少し考えてみていただけないでしょうか。これらA.B.C.Dの中で安全と安心の関係で最も正しいと思われる関係はどれだと思われますか?

 

答:A・B・C・Dとも不正解だと思います

それでは、下記のEとFで、正解があるでしょうか?

 

答:Fが正解だと思います

5.食の安全研究センターによる「安全と安心」についての解説

東京大学大学院農学生命科学研究科が設立する食の安全研究センターのホームページ上には、次のように掲載がありました。『食の安全はあくまでも科学的な評価によってもたらされるものであり、食の安心は情報の公開・提供・危機管理の方策などによってもたらされるものです』と解説されているのです。つまりは、安全は基準が明確でなければならない、そして数値で表現できるものであることに対して、安心は情報の公開・提供・危機管理の方策によってもたらされるべきものと述べています。安全と安心の関係をまとめると、下記に示すように分類すべきだと言うことではないでしょうか。

 

消費者庁の調査では、一般消費者が商品を選択する場合、約80%の方が商品に記載されている食品表示を基に選択するという調査結果があります。食品事業者が発信するコマーシャルやメディア情報などの影響も大きいものがあると思います。今やこれらの表示情報は商品の選択に資する意味では重要な情報源となっています。しかし、「安心」が情報の公開・提供・危機管理の方策によってもたらされるべきものだとしても、情報の発信元が信頼されていなければ、ほんとうに消費者が安心できるものでしょうか。たとえば、現在のロシアや北朝鮮政府が発表する情報を、日本国民がどこまで信じることができるかというところです。つまりは情報の発信元がどこまで信頼されているか、そこのところも「安心」するための大切な基準となるのではないでしょうか。

6.食の安全と安心とは

このように考えると、「安全」と「安心」はそもそも次元が異なるものであり、「安心」のレベルは個人によっても大きく変わってくるということになります。例えば、牛や野菜のトレーサビリティーはそれぞれの生産・流通履歴にすぎず、安全を担保するものではありませんが、生産者の顔写真や生産記録を見ることで「安全・安心」だと思う人もお見えになるかもしれません。消費者の心理を巧みに利用している気がします。しかし、そもそもゼロリスクは有り得ないはずなのですが、消費者の多くはそれを求めようとします。リスクとは健康への悪影響が及ぶ確率と程度、つまりは確率的判断のことですが、食品を摂取することにより人の健康に及ぼす影響について、中立公正、かつ科学的にリスク評価をおこなっているのが食品安全委員会です。現在の安全の根拠はここにあるべきではないでしょうか。

安心感という言葉はよく耳にしますが、安全感という言葉は聞いたことがありません。「食の安全」はデータに基づいて科学的に判定できますが、「食の安心」は客観的な論議ができません。言い換えれば安心は、大前提として安全という土台の上に消費者がいかに感ずるかという安心感にすぎないことになります。このことを食品衛生に携わるものとして、その違いを正しく理解しておくことが大切ではないでしょうか。

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.