(一財)食品分析開発センター SUNATEC
HOME > 太古よりある加工食品:ドライフルーツを見直したい
太古よりある加工食品:ドライフルーツを見直したい
中部大学 応用生物学部 食品栄養科学科
教授 藤原 孝之

1.はじめに ~ドライフルーツの歴史~

果樹、およびイチゴ、メロンなど果実的野菜(両者を合わせて、いわゆる“くだもの”、以下、果実類という)は、日持ちがしないものや、収穫期が限られるものが多いため、古来、加工による保存性の向上が工夫されてきた。果実類の加工品には、ジャム、ジュース、果実酒など多数あるが、最も古いものは乾燥果実=ドライフルーツであろう。干しブドウは代表的なドライフルーツであり、ブドウの原産地カスピ海沿岸では5000年前からあったとされ、古代ローマ時代などにおいては、金にも匹敵する貴重品であったという1)。日本においては、奈良時代に干し柿が売買されていたことや、平安時代に干し柿、干し栗、干しナツメなどが供え物や公家の献立などに組み込まれていたことが記録されており2) 、やはり特別な食品であったようだ。江戸時代になると、各種乾燥果実が盛んに作られ、自家製のほか、各地の産物としての売買がされていたという資料があり2)、消費が進んできたことがうかがわれる。古代のドライフルーツは天日乾燥により作られていたが、19世紀にアメリカで機械による人工乾燥が始まり、20世紀初めには早くも硫黄燻蒸により褐変防止や保存性の向上が図られ3)、現在でも使われている技術である。

2.健康志向で上昇気配のドライフルーツ

ドライフルーツは、近年、静かにその需要が増えているようである。私が後述のようなドライフルーツの取り組みを始めたのは2012年であり、以後インターネットでしばしば商品を検索するようになったが、その商品数は明らかに増えており、単にネット販売の伸展によるものだけではないと感じる。また、百貨店などの商業施設でドライフルーツの専用売り場をよく見るようになった。この場合、ドライフルーツをナッツと合わせて売る店も多い。さらに、コンビニエンスストアや百円均一ショップにおいても、ドライフルーツはよく売られるようになった。このように、ドライフルーツが様々な場所や方法で容易に入手できるようになってきたのは、消費者の健康志向や食の簡便化志向によるものと考えられる。

3.国産ドライフルーツの需要

我が国で流通しているドライフルーツ商品の多くを輸入品が占めている。海外産ドライフルーツには、糖を多量に使用したものや、色彩向上のため亜硫酸塩を用いたものが多くみられる。しかし、ドライフルーツの愛好者には、健康に関心が高い人が多く、無添加で製造された商品の需要が大きいと思われる。実際、食品の展示会において、バイヤーから「国産で無添加ドライフルーツを探している」という声を聞いたことが何度かある。

4.産地において期待されるドライフルーツ加工

一方、農業産地においては、生産者が栽培だけでなく食品加工および流通も手掛ける、いわゆる6次産業化による所得増大や産地振興が望まれている。また、生食用果実類の栽培現場では、傷、病害虫被害、形状など外観品質の劣る規格外果実が必ず発生するため、その有効利用が望まれている。以上の課題より、生産者自らが加工を行いたいという相談を多く受けてきたが、食品加工を営むには、衛生的な施設が必須であるほか、各種の加工装置をそろえ、保健所に許認可を受けるなど、多くの資金や労力を要する。その中にあって、ドライフルーツは比較的加工法や製造施設が簡単であり、しかも前章で述べたように、消費者の需要にも合致しているため、関心を持たれることが多い。

5.6次産業化によるドライフルーツ生産の問題点

しかし、農業生産者が自らドライフルーツを生産するには、さまざまな障害がある。まず、収穫期は多忙であるため、加工を行う時間がない。次に、コスト面の課題に直面することが多い。ドライフルーツは比較的設備投資が少ないといっても、やはりそれなりの支出は必要である。また、光熱費や包装資材代のほか、人手が足りない時の雇用など、生産に伴う費用がかかる。そのような投資に見合う価格設定が必要であるが、販売上の障害となるのが、輸入品との価格差である。ドライフルーツの輸入品は一般に非常に安く、その価格帯が消費者に印象づけられていることが問題である。以上のようなコスト面の課題は、農業者による6次産業化だけでなく、食品加工事業者がドライフルーツを生産・販売する場合も同様であり、後者の場合はさらに原料果実の購入費が生産費に加算されるため、ますます高額な価格設定が必要となる。

6.国産ドライフルーツに求められること

輸入品と比較すると生産量は非常に少ないものの、国産ドライフルーツの商品数は増えているように感じる。日本各地の果実産地でドライフルーツが製造されているとともに、国産ドライフルーツ専門の製造企業もある。これらには無添加の商品も多くあり、道の駅や都道府県のアンテナショップ等でよく見られる。

ここで、国産・無添加ドライフルーツの問題は、前述のように多くの消費者が高価と感じることである。ドライフルーツ加工をすると、水分減少により重量が大幅に減り、糖を用いない場合はなおさら軽くなる(多くの場合、重量比で原料の10分の1程度)。さらに、収縮によりサイズも小さくなるため、原料に用いた果実の量のわりに商品が少なく見える。

そうなると、「国産・無添加」以外の明らかな品質の優位性が望まれる。品質には、味はもちろんのことであり、外観、食感、栄養性、機能性等も考えられる。次章は、そのような目的のため、筆者が三重県工業研究所の在籍時に、同僚や多くの関係者とともに製法の開発と普及に取り組んだ結果である。

7.新感覚ドライフルーツの開発と普及4,5)

(1)開発した製法

この仕事は、三重県の梨産地からドライフルーツの商品化の可能性を質問されたことをきっかけに始めた。梨は、一般に食品加工には向かないという概念があり、私もそう思い込んでいた。しかし、地元の試作品を食べたところ、意外な美味しさを気付かされた。ただし、ポリフェノールの酸化酵素による褐変と思われる変色が気になり、この反応を抑制して真っ白で外観の良いドライフルーツを作りたいと思い、検討を行った。参考としたのは、葉菜類の冷凍食品や乾燥野菜において、酸化酵素の不活性化に用いられる「ブランチング」と呼ばれる前処理技術で、短時間の加熱と、次いで行う急冷により、以後の褐変を抑制する。研究の結果、梨の褐変は、ブランチングでは乾燥工程での褐変を抑制できないばかりか、むしろ促進する傾向にあった。これは、通常の短時間加熱では酸化酵素が失活せず、細胞破壊により基質と酵素の反応を促進してしまったものと思われた。しかし、かなり長時間の加熱を行えば、乾燥時の褐変を抑えられ、ブランチングで行う急冷処理は不要であることを明らかにした。加熱方法としては、電子レンジによるマイクロ波照射が、ドライフルーツの色彩や形状の面で最適であった。その工程は図1のとおりで、乾燥は一般的な熱風乾燥機で行い、乾燥前にマイクロ波処理を行うだけの単純なものである。なお、食品の乾燥技術にマイクロ波乾燥があり、食品素材等の製造に用いられているが6)、本ドライフルーツの製造法においては、マイクロ波照射工程は熱風乾燥の前処理であり、乾燥には期待していない。

 

図1 ドライフルーツ新製法の製造工程

 

(2)新製法の長所

この方法による梨のドライフルーツの色彩は、当初想定した白色ではなく、橙色がかかったものであったが、褐変はおこらず、透明感があり良い印象を与える(図2(a))。ブドウについても効果があり、現在の人気品種‘シャインマスカット’では、従来の熱風乾燥法では著しく褐変して、いかにもレーズン様の色彩になってしまうのに対し、この方法ではやや緑色が残り、品種の特徴を出すことができる(図2(b))。

 

 (a)梨‘福水’ (b)ブドウ‘シャインマスカット’

 図2 セミドライフルーツの外観
上:新製法
  下:従来製法 

また、熱風乾燥の欠点として、「表面硬化」が挙げられる7)。これは、乾燥試料の表面が早く乾くとともに、可溶性成分が水分とともに表面に移動し濃縮して硬い膜状になることをいう。表面硬化により、試料中心部の水分移動が抑制されて長い乾燥時間を要することや、食感や外観が悪くなる問題が生じる。開発した製法によると、表面硬化が起こりにくくなり、これは、マイクロ波処理により組織が破壊され、水分移動が容易になったことが原因と考えられた。その結果、乾燥時間が短縮されるとともに、食感や外観が良くなった。また、近年では水分を比較的多く残したセミドライフルーツが人気であるが、本製法は表面、内部ともに均質で柔らかい食感が得られるため、セミドライフルーツに向く手法である。

さらに、新製法によりドライフルーツの色彩がよく残るということは、機能性成分でもあるポリフェノールが残存するということで、生体調節機能の高さも期待できる。共同研究者とともに、ブドウ8)および赤肉リンゴ9)において、新製法によるドライフルーツのポリフェノール濃度および抗酸化性の高さを確認している。

(3)新製法の普及

本製法は、特許を取得するとともに、その普及に努めた。その結果、10者を超える農業生産者や農産加工事業者が商品化を行った。単純な製法でありながら、無添加で高品質なドライフルーツが得られることが評価されてきた。さらに、特別な機器や熟練を要さないため、6次産業化のハードルを下げる役目を果たせる技術であると考えられる。その一方で、大量生産には向いていないため、今のところ、いずれの事業者も小規模な生産量である。大手企業の参入はなく、流通量も少ないため、まだこの製法によるドライフルーツが一般に広く認知されるには至っていない。

8.今後のドライフルーツの展望

ドライフルーツには様々な製法があり、いろいろな食べ方も提案されてきている。前章で述べた新製法によるセミドライフルーツは、おやつだけでなく、アルコール飲料、特に洋酒のつまみにもよく合い、ヨーグルトやシリアルに入れてもおいしい。ドライフルーツそのものだけでなく、チョコレートがけの菓子や、ブロック状のドライフルーツをジャムに入れた製品の商品化例もある。また、パウンドケーキやパンに入れて焼いても良好な製品ができることがわかっている。しかし、毎日多量に消費するには高価な商品であり、また他の食品の原料にすると最終製品の価格がかなり上がってしまう。

ドライフルーツ全体の消費を伸ばすためには、製法が異なるドライフルーツを用途に分けて利用することがよいと思われる。甘い菓子類に入れるのであれば、比較的コストの安い、糖類を用いたドライフルーツでもよいであろう。一方で、製造コストが高いと思われるフリーズドライによるドライフルーツをチョコレートでくるんだ菓子は、食感が特徴的で人気がある。また、古く伝統食の中ではドライフルーツの味を活かした様々な料理法が工夫され、薬効も期待されていたことを考えると、利用については歴史に学ぶ点も多いという考えもある2)。日常多く摂取するもの、贈答品や特別な気分で摂取する比較的高価なもの、酒類のつまみのように少量で満足感の得られるものなど、用途に合った選択肢でドライフルーツを生活に取り入れることで消費を伸ばし、日本の産地振興や果実類の摂取不足解消の一助となれば幸いと考える。

9.終わりに

歴史が長く、製法も出尽くしたと思っていたドライフルーツですが、工夫次第では、新たな果実による製品や、新たな品質付加が得られるかもしれません。今後とも、ドライフルーツの可能性を学生とともに探求していきたいと思います。ご意見・ご要望などあれば、是非ご一報ください。

引用文献
  • 1) 石谷孝佑(2008).伝統乾燥果実,日本と世界の伝統乾燥食品,「食品の乾燥」,石谷孝佑,土田 茂,林 弘通編,光琳,pp. 129–132.
  • 2) 今田節子(1999).生産・消費動向と着眼点,製品開発の着眼点,乾燥野菜・果実,「地域資源活用食品加工総覧 第5巻 加工品編」, 農山漁村文化協会,pp.421–429.
  • 3) 土田 茂(1997).乾燥果実,乾燥食品の製造の実際,「乾燥食品の基礎と応用」,亀和田光男,林 弘通,土田 茂編,幸書房,pp. 118–124.
  • 4) 藤原孝之・久保智子・佐合 徹・山岡千鶴・山﨑栄次・近藤宏哉(2020).マイクロ波前処理および熱風乾燥による新規セミドライフルーツの実用化.日本食品科学工学会誌,67(6),p179–185.
  • 5) 藤原孝之(2020).マイクロ波照射・熱風乾燥による新感覚セミドライフルーツ製法の開発および普及.三重県工業研究所研究報告,44,p1–14.
  • 6) 太陽化学ホームページ.マイクロ波による乾燥技術のご紹介,おいしさを支える研究と技術. https://www.taiyokagaku.com/lab/taste/15/
  • 7) 土田 茂(1997).乾燥果実の品質,「乾燥食品の基礎と応用」,亀和田光男,林 弘通,土田 茂編,幸書房,pp. 57–79.
  • 8) 山田徳広・森下雄太・稲熊隆博・乾 良充・藤原孝之(2019).マイクロ波照射および熱風乾燥により製造したブドウセミドライフルーツの総ポリフェノール含量と抗酸化活性.2019年度日本食品科学工学会中部支部市民フォーラム及び支部大会講演要旨集.p.16.
  • 9) 藤原孝之・森下雄太・乾 良充・山田徳広・稲熊隆博(2020).マイクロ波照射および熱風乾燥により製造した赤肉リンゴのセミドライフルーツの色彩,総ポリフェノール含量および抗酸化活性.日本食品工学会第21回(2020年度)年次大会講演要旨集.p.30.
略歴

 

藤原 孝之

 

日本植物防疫協会を経て、三重県に入庁し、主に三重県農業研究所および三重県工業研究において、農産物の品質評価、食品加工等の試験研究や企業支援を行い、定年まで勤める。2022年4月より現職。

一度は引退気分になりましたが、思いがけずこのような職に就く幸運を得て、学生と一緒に勉強しなおそうと、自らを奮い立たせています。

他の記事を見る
ホームページを見る

サナテックメールマガジンへのご意見・ご感想を〈e-magazine@mac.or.jp〉までお寄せください。

Copyright (C) Food Analysis Technology Center SUNATEC. All Rights Reserved.