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アンチエイジング食品の探索と機能性検証
九州大学大学院農学研究院
教授 片倉 喜範

はじめに

最近の研究により、老化や寿命の制御機構が明らかになるにつれ、老化や寿命の制御因子である、進化的によく保存された長寿遺伝子(サーチュイン)が同定された。サーチュインは、老化を遅らせ寿命を延ばす唯一の確実な方法であるカロリー制限に対する生体反応に必須であることが示され、そのNAD+依存性脱アセチル化酵素活性をもとに、エネルギー代謝と老化を結びつける重要なメディエーターとして認識されてきた。最近になり、サーチュインに関する研究はめざましい進展を見せており、ここでは、老化と寿命の調節因子としてのサーチュインの機能性と、サーチュインを標的としたアンチエイジング食品の探索、およびその探索から得られた食品の機能性について紹介する。

アンチエイジング実現のためのターゲットとしての長寿遺伝子 サーチュイン

サーチュインは、古細菌、酵母、線虫、ショウジョウバエ、ヒトなど、様々な生物でその存在が報告されている。哺乳類のサーチュインは、SIRT1からSIRT7まで7種類が知られている(表1)。

 

表1サーチュインファミリー

サーチュイン 局在 機能
SIRT1 核・細胞質 代謝・炎症・寿命延長
SIRT2 細胞質 細胞周期・運動性・ミエリン形成
SIRT3 ミトコンドリア 脂肪酸酸化・抗酸化
SIRT4 ミトコンドリア インスリン分泌・脂肪酸酸化
SIRT5 ミトコンドリア 尿素回路
SIRT6 ゲノム安定性・寿命延長
SIRT7 核小体 rDNA転写

 

このうちSIRT1は、脱アセチル化酵素活性を持ちながらNAD+依存的に標的因子を制御し、細胞内の代謝回転やエネルギー状態に応答して、細胞のホメオスタシスを制御するというユニークなものである。最近では、寿命延長にも寄与することが明らかとなっている。SIRT2は、細胞質に存在するタンパク質で、様々な因子を脱アセチル化し、細胞周期制御、運動性、ミエリン形成への関与が明らかにされてきた。SIRT3-5はミトコンドリアに存在するタンパク質であり、SIRT3はミトコンドリア内の活性酸素消去酵素を活性化し、細胞内活性酸素レベルを低下させ、SIRT4はADP転移酵素であり、グルコース負荷時の生理的インスリンレベルの維持に関与する。SIRT6はADPリボシル転移酵素活性および脱アセチル化活性を併せもち、ゲノム安定性に寄与することが知られている。

サーチュインのアンチエイジング活性

1. 代謝系

カロリー制限処理したマウスの白色脂肪細胞、肝臓、骨格筋、脳、腎臓でSIRT1の発現が増強されていることがわかり、SIRT1が全身で機能してアンチエイジングや寿命延長を実現していることが示唆されている。また、SIRT1高発現マウスは、グルコース、コレステロール、脂肪代謝の改善、身体能力の向上、生殖期間の延長を示し、さらに高脂肪食下で炎症の減少、耐糖能の改善、脂肪肝の抑制を示すことから、SIRT1が代謝調節あるいは正常化に重要な役割を果たすことが明らかとなっている。また、SIRT1によって活性化されるPGC-1αは、ミトコンドリア生合成に必須であり、SIRT1によるミトコンドリア生合成の促進、ひいては活性酸素の生成抑制、脂肪酸酸化遺伝子の活性化を誘導することが知られている。

 

2. 脳神経系

SIRT1ノックアウトマウスやNmnat-1トランスジェニックマウスを用いた解析により、神経保護効果に対するSIRT1の寄与については疑問が呈されてはいるが、アルツハイマー病モデルマウスを用いた研究において、SIRT1の機能を推察する結果が相次いで得られている。すなわち、SIRT1はアルツハイマー病の原因とされるアミロイドによって活性化されるミクログリアの炎症シグナルを抑制し、脳内のSIRT1高発現はアミロイド病変を抑制するとともに、神経細胞の生存を促進することが示されている。さらにSIRT1の標的因子の一つであるPGC-1αの活性化が、脳内でのミトコンドリア生合成を促し、神経変性疾患の抑制につながりうる可能性も示唆されている。

 

3. 細胞老化

最近では、個々の老化現象の一部を説明すると考えられている細胞老化におけるSIRT1の機能についての報告も相次いでいる。すなわち、細胞老化に伴いSIRT1の発現が低下すること、またSIRT1の強制発現により細胞増殖が促進され細胞老化が抑制されることなどの報告から、SIRT1の抗細胞老化活性が推察されている。特に筆者らは、SIRT1の活性化により、その下流因子としてテロメラーゼが活性化され、その結果として、細胞分裂に伴うテロメアの短縮が起こりにくくなり、細胞老化が抑制される現象を見いだしている。

 

4. ゲノム安定性

老化細胞では、二本鎖切断(DSB)などのDNA損傷が蓄積することが広く知られているが、SIRT6を過剰発現させると細胞内のDNA損傷修復機構である相同組換えや非相同DNA末端結合が活性化することが明らかにされている。つまりSIRT6の活性化は、加齢に伴うゲノム不安定性の抑制に有効であると考えられている。

 

5. サーカディアンリズム

近年、転写活性化因子CLOCKがヒストンアセチルトランスフェラーゼとして機能し、サーカディアン依存的な遺伝子発現制御に関与していることが明らかになるとともに、ヒストン脱アセチル化酵素活性を有するSIRT1がサーカディアン依存的な遺伝子発現制御に関与することが明らかにされている。このことは、サーチュインに由来するシグナルがサーカディアンリズムの調節に寄与していることを示している。

 

6. 炎症

SIRT1は、炎症反応惹起において中心的な役割を担う転写因子NF-κBのp65サブユニットの脱アセチル化を通じてNF-κB活性を減弱させ、その結果として炎症を抑制させうることが明らかとなっている。SIRT1の示すこの抗炎症効果が代謝系疾患の治療、さらには抗老化に重要な寄与を果たしうるものと考えられている。最近では、SIRT6ノックアウトマウスが早老傾向を示すこと、これらのマウスではNF-κB依存性の遺伝子発現が亢進していること、SIRT6がヒストンの脱アセチル化を引き起こすことによってNF-κBシグナルを減弱させることも示されており、SIRT6がNF-κBシグナルの過剰活性化を抑制することによってアンチエイジングを実現できる可能性が推察されている。

 

7. 皮膚老化

最近になり、皮膚におけるSIRT1による皮膚改善効果も明らかになりつつある。SIRT1の活性化が、PGC-1αを活性化し、皮膚におけるミトコンドリアの生合成を誘導することで、シワ改善につながりうる可能性が示唆されている。さらに、SIRT1の活性化を通じて、皮膚内タンパク質(インボルクリン、ロリクリン)の増強を通じた外的バリアや、セラミド合成促進を通じた内的バリアの増強の可能性も明らかになりつつある。

サーチュインをターゲットとしたアンチエジング食品探索系

筆者らは、長寿遺伝子であるサーチュインをターゲットに、アンチエイジング食品をスクリーニングすることのできるシステムを構築している。SIRT1の活性は、補因子として働く細胞内のNAD+レベルあるいはSIRT1プロモーターによる転写レベルで制御されていることが知られている。当研究室では、SIRT1プロモーターによる転写レベルでの制御機構に着目し、SIRT1プロモーターの制御下でEGFPを発現するレポーターベクターを作製した。当該レポーターベクターをヒト表皮角化細胞株(HaCaT)に導入し、安定発現株を樹立した。その後、各種食品成分を添加し培養後のSIRT1プロモーター活性の変化を、細胞内のEGFP蛍光強度の変化として検出・定量することのできるシステムを構築した(図1)。

 

図1 アンチエイジング食品探索系

 

細胞内のEGFP蛍光強度の定量的測定は、イメージングサイトメーター(IN Cell Analyzer 2200, Cytiva)を用いて行った。これまでに、各種食品成分、ポリフェノール類、植物抽出物、エッセンシャルオイル等を用いて探索を行い、サーチュイン活性化効果を有する食品成分の同定に成功している。

アンチエイジング食品の機能性

これまで上記システムを用いて探索・同定したアンチエイジング食品成分の機能性について紹介する。

1. 紫外線傷害修復効果

SIRT1活性化食品として同定されたポリフェノール類は、皮膚細胞に対して、紫外線照射後のDNA傷害を修復しうる活性を有することが明らかとなった。これはこれまで知られているサンプロテクト効果とは異なり、ここで同定したポリフェノールが、紫外線を浴びて生じたDNA傷害を修復しうることを示している。

 

2. ミトコンドリア活性化効果

上記システムを用いて同定したSIRT1活性化効果を有するエッセンシャルオイルが、皮膚細胞において、SIRT1の下流因子PGC-1αの活性化を通じて、ミトコンドリアの生合成を誘導し、ミトコンドリアのアンチエイジングを実現しうることを明らかにしている。この効果はしわ抑制につながりうるものと考えている。

 

3. バリア増強効果

同様に、上記システムを用いて同定したSIRT1活性化効果を有するエッセンシャルオイルが、SIRT1の活性化を通じて、その下流因子である表皮分化マーカー(インボルクリン、ロリクリン)を発現させ、外部バリアを増強する可能性、さらに、セラミドを構成する脂肪酸合成促進とセラミド合成酵素遺伝子の発現増強を通じて、セラミド合成が増え、内部バリアを増強する可能性を明らかにした。

 

4. 酸化ストレス低減効果

上記システムにおいて、用いるプロモーターをSIRT3プロモーターに変換し、同様のシステムを構築し、SIRT3活性化食品探索系を構築した。この系を用いて同定したポリフェノールは、SIRT3の活性化を通じて、その下流因子であるSOD2を活性化し、細胞内活性酸素を低減させうることがあきらかになるとともに、この食品成分がメラニン抑制効果、つまりシミ抑制効果を示すことを明らかにした。

 

5. DNA損傷修復効果

上記システムにおいて、用いるプロモーターをSIRT6プロモーターに変換し、同様のシステムを構築し、SIRT6活性化食品探索系を構築した。この系を用いて同定したポリフェノールは、SIRT6の活性化を通じて、DNA損傷修復機構(相同組換え・非相同DNA末端結合)を活性化することで、DNA上の二本鎖切断を修復することが明らかとなるとともに、その修復を通じて、細胞老化を抑制することも明らかになった。ここで同定したポリフェノールは、細胞老化抑制に機能しうると考えることができた。

おわりに

本総説で紹介したように、サーチュインの様々な機能性が明らかになるとともに、その活性化を引き起こすアンチエイジング食品の可能性は広がり続けている。今後は、様々な個別の組織のアンチエイジングばかりでなく、体全体のアンチエイジングを実現できるような食品を開発していけたらと考えている。

略歴

片倉 喜範

九州大学大学院農学研究院

教授

 

1994年:
東京大学博士後期課程修了(博士(農学))
1994年:
九州大学助手
1997年:
九州大学助教授
2007年:
九州大学准教授
2020年:
九州大学教授
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