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ネット社会におけるコミュニケーションの在り方について
一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC
理事長 西中 隆道

令和4年の年頭にあたり、謹んで新春のご挨拶を申し上げます。

輝かしい新年を迎え、メールマガジンの読者の皆様には益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

昨年を振り返りますと、食品業界のみならず社会全体が新型コロナウイルス感染症の脅威により、翻弄させられた一年となりました。コロナウイルスが齎した人類への影響は計り知れないものがありますが、学ぶべきところも多く見つかったと思っています。これまでの社会の在り方を大きく変えていく切っ掛けとなったのではないでしょうか。

1.オンラインによるコミュニケーションの落とし穴

新型コロナウイルスの流行により、人々の生活は一変し、意識が大きく変わりました。これまでの社会では非常識とされてきたことが、一夜にして常識へと変わってしまう出来事が起こっています。そして、弊財団でもかつては「非常識」だとしてきたことがいくつかありました。たとえば、お客さまとのお取引や商談、また節目のご挨拶などでは直接お伺いすることを基本としてきましたが、コロナ流行後はお伺いせずにwebを介してオンラインでおこなっています。ただwebの利用に際しては、お客さまの反応を確かめながら慎重に進めることにしています。現状の社会ではともすれば非常識だとされるこれらの行動が、コロナウイルス感染防止という大義名分により、いまや常識となりつつあり、「案ずるより産むが易し」で、これまでのところお客さまの反応は概ね好意的なものばかりです。わたしたちもいつの間にかその便利さを知り、また経済的、時間的な合理性を感じるようになってきました。おそらく、このような取り組みは今後も多くの企業や自治体で拡がっていくでしょうから、この先も後戻りすることはないと思っています。

その理由の一つに、これからの時代を担う若い世代の人達には比較的受け入れていただきやすいからです。もともと若い世代の人達は、インターネットの扱いには違和感が少ない傾向にあるようです。そのことが顕著に表れる出来事が、弊財団内で起こりました。それは、コロナ禍であるという理由から、次年度の職員採用試験をオンラインでの開催に切り替えた時のことです。新たな試みですから非常に心配でしたが、わたしたちの予想に反し、多くの学生の皆さまから歓迎されたようで、これまで応募のなかった地域や大学からもエントリーがあり、途中で募集を締め切らなければならないほどの人気ぶりでした。これは凄いぞ! とても便利だし、時間の無駄がない、何より学生に負担をかけることが少ないところが最大の利点だと感じました。しかし、オンラインでの採用試験にも落とし穴があることを知りました。それは採用のための選考試験が順調に進み、いよいよ最終面接である直接対面の日が訪れた時のことでした。前回のオンラインでの面接で、心に留まった学生が見えたので、その学生との対面を心待ちにしていたのですが、明らかに様子がおかしいのです。オンラインでの面接時とは全く別人のようで、表情からは明るさが消え、話す言葉にもぎこちなさが感じられたのです。そこで、そのあたりのことを伺うと、一見無機質だとも思えるパソコンに向かい話をすることには抵抗がなくても、対面で人と話をすると緊張してしまうというのです。わたしはパソコンという無機質な箱に向かって話をすることに寧ろ違和感を覚え、緊張してしまいますが、若い世代の人達のなかには全く反対の人がいることを知ることになりました。近い将来、社会がどんな風に変わっていくのだろうか。いずれにしても、人と人との関わりや繋がりが希薄になれば、コミュニケーションが取れなくなり、自分自身のこと以外は考えられなくなるのではないでしょうか。

2.メールやSNSによるコミュニケーション

そういえば、以前の職場であったことですが、若い世代の人達がよく朝の挨拶や仕事の打ち合わせなどで、パソコンや携帯を用いてコミュニケーションを取っている光景を見かけました。驚いたのは、その相手が職場内の同部署で、しかも机を並べる環境にあるにもかかわらず、日頃からメールやSNSを利用してやり取りしていることでした。またある日のこと、わたしにも会議の案内メールが届いたのですが、自分の仕事の都合で会議の日程を決めようとしたので、それではさすがに合理性が感じられないから、もう少し調整を諮り丁寧に進めるよう注意したことを思い出しました。わたしは、人と人との繋がりを大切にしたいという気持から、これまで可能な限り直接対話で望みたいと願ってきましたが、このようなわたしの中の常識が、今や非常識となっているのかもしれません。もし、若い世代の人たちが、すでにメールやSNSを介して、しっかりとコミュニケーションが取り合えているのだとすれば、わたしが考える合理性は、時の流れとともに、すでに不合理なものとなっていることになります。

3.人は幾つになっても変化に順応できる

確か敬老の日のことでした。介護施設に入所しているおじいちゃんやおばあちゃんが、webを介してお孫さんと楽しく話をしていました。その様子がテレビニュースで放映されていたのですが、お年寄りたちはモニター越しに映るお孫さんの元気な顔と声に接し、満面の笑みを浮かべ、とても楽しそうでした。その様子を観ていたわたしは、しばらくテレビの画面に釘付けになってしまったのです。なぜなら、その光景には違和感というものが、まったくなかったからです。人は幾つになっても変化に順応できるのかもしれない。そんな風に思うと改めてwebを介したコミュニケーションも「ありなのかもしれない」という気持ちになったのです。ただ、70代や80代のお年寄りには、ほんとうに違和感がないのでしょうか。表情だけで推測するのではなく、できればご本人とお会いしてお尋ねしてみたいとも思いました。ひょっとすると、高齢者に成り切れないわたしのような50代~60代のいわゆる高齢者予備軍こそが、変化を一番嫌う厄介な生き物かもしれません。しかし、オンラインによるコミュニケーションには少し消極的になってしまいます。それは、度重なる緊急事態宣言が発出されて以降、子供たちの学びの場である学校においても、試行的とはいえ、インターネットを介したオンライン授業が導入されつつあります。コロナ禍にあって、感染対策の一つの切り札としては、とても重要な取り組みだと思いますが、特に低学年の子供には可能な限り教室という場で直接勉強させてあげたいと思います。学校は学びの場であるとともに、語らいの場でもあり、ふれあいの場でもあります。子供たちが学び、遊び、みんなで歌う、時には取っ組み合いの喧嘩をするかもしれませんが、このような集団生活の中でこそ仲間意識が芽生え、お互いに成長していくのではないかと思うからです。専門家でもないわたしが熱く語ることではありませんが、インターネットを介した授業で、「先生と子供たち」あるいは、「子供同士」のコミュニケーションがどこまで補完できるのでしょうか。

4.オンラインでの対面がコミュニケーションを補完

有名な大学の研究所の調査グループがコロナ禍での「社会的孤立」のリスクの格差の蓄積について、調査(対象者 約3,800人)をしています。その中でオンラインでの対面が、コミュニケーションを補完できるものかの調査もおこなったというので、その内容を興味深く読ませていただきました。いうまでもなく、社会的孤立とは他者との間に一切繋がりがない、或いはほとんど社会的な繋がりがない状態のことですが、コロナ禍にあっては高齢者問題として深刻化しています。他人との交流がなければ、外出が減ってしまうし、日常的な運動不足にも陥ってしまいます。また人と話せないというストレスから、心や体の不調を訴える人が急激に増加しているというのです。今回の調査グループの調査結果で驚いたのは、これらの問題が高齢者に限った話ではなく、若年にも広がっているということです。つまりは、孤立による潜在的な生活上のリスクは、どの年代層にあっても当て嵌まるということでした。だとすれば、オンラインでのコミュニケーションが、社会的な孤立を防ぐ救世主となるかもしれません。調査グループは、社会ネットワークサイズによりコロナ禍前後での推移を分析し、孤立リスクの変化について、どのような格差が生じるかの検証をしています。ネットワークのサイズについては、「直接会話」、「電話や携帯による会話」、「携帯やパソコンを介したメール」に分類して調査をおこなっています。その結果、「直接会話」のネットワークサイズの分布が、コロナ禍の前後で明らかな違いがあり、コロナ禍では減少したことが判明したそうです。しかも、相手が「4~5人」以下の特定の家族や友人としか話をしていないということでした。これは、コロナウイルス感染拡大とともに政府機関などから「3密」を避けるよう呼びかけられ、在宅勤務などにより職場の同僚と会う機会や、地域や個人的な交友関係の関わりが薄れ、対面で接触する人数が少なくなったことが要因だと考えられます。ところが通話機能やコロナ禍で急速に普及したビデオ通話アプリなど、オンラインで維持されるネットワークについても、同じように限られた相手との会話に留まっていることが確認されたのです。通話のネットワークサイズは、調査時点を通じて「2~3人」以下であり、「0人」という回答も多くあったそうです。オンラインで維持されるネットワークが「直接会話」でのコミュニケーションを補完することを期待していただけに衝撃的なものとなりました。しかも、コロナ禍での通話のネットワークサイズがゼロである人の割合が、寧ろコロナ流行直前の2020年1~3月の21%よりも13ポイントも上昇し、34%に上ったという調査結果まで報告されています。多くの人が対面でのコミュニケーションが取れなくなり、音声やビデオでの通話によるやり取りに切り替えたものと思っていましたが、メールやメッセージなどによるネットワークが、社会のネットワーク全体を補完するものにはなっていないことになります。寧ろ人の通話によるネットワークは縮小しているという結果となってしまったのです。今回の調査グループがおこなった結果だけでは、なんともいえませんが、現状の日本社会においては、社会ネットワークの基盤は従来からの職場や家庭生活などでの役割関係に基づいたものであり、対面を前提としないオンラインによる自己完結型のコミュニティにはなっていない可能性があるかもしれないということです。今後、世界中から大規模かつ、詳しい調査結果が集められるでしょうから、楽しみにしたいと思います。そして、それらの情報をもとに、これから増々拡がりを見せるネット社会においてのコミュニケーションの在り方について、考えていきたいと思います。

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