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コラム「食品分析は面白い?」
   ~第六回 残留農薬分析の行く末は~
生活協同組合連合会東海コープ事業連合
商品検査センター技術顧問
(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー
斎藤 勲

昨年もニュージーランド産はちみつから基準値のないグリホサートが検出され、今年1月には命令検査に移行した。しかし、すぐに登録検査機関で対応できないという事態になった。グリホサートは極性物質であり、通常の一斉分析で測定対象になっていないので、それ様の方法を作る必要がある。昔の事件ならにわか仕立ての方法を考案し急遽対応して解決に至った事例もあったが、今では妥当性を評価された方法が求められるので、それなりの手順を踏む必要がある。特に命令検査の受託の場合は国際問題となるのでその精度管理は重要である。そして8月に2か所の登録検査機関が分析可能となったとの事務連絡が出た。対応が遅れた背景には、輸入はちみつの検査数は、2019年はちみつを769トン輸入して0件、2020年には1,197トン輸入して57件、一律基準違反2件と報告されている。要するに今まで輸入食品全体から見れば、はちみつは主要な食品でもなく、検査していなかったということだろう。

残念ながら、残留農薬分析の需要は問題が起きないと減少していくというのが基本である。2000年から2015年くらいまではそれなりの事件があり一斉分析を含めそれなりの需要と残留分析を行うことで品質管理が適切に行われているという証左でもあった。しかし、全体的に問題が起きないと品質管理もできているということで検査が縮小もしくは書類管理となる場合もあるだろう。

その時こそ、分析担当者は一斉分析法、個別分析法を含め検査法の改良、レベルアップしておく必要がある。過去に発生した様々な事例を掘り起こし、その物質の性質ごとにどういった検査方法が今の時代にマッチしているかを検証して、類型化し、データベース化しておくことが必要だろう。イメージとしては、消防署の職員が日々防災訓練に励んでいるようなものかもしれない。それぞれの地域の特性や年々変化する構造物を念頭に置きながら消火、救命救急のレベルアップを目指し切磋琢磨している。

最後に個人的な願望となるが、農業現場において農薬の貢献度は客観的数字を見れば明らかだが、風評的には悪いイメージが残念ながら先行している。農薬分析担当者は日々多くの検体を対象に多数の農薬分析を行い結果評価している。検査項目に対して検出される農薬の数の少なさ、その検出レベルの低さは身をもって知っているだろう。実際の使われ方と残留の実態をいろいろな機会をとらえて、実情を知らず不安を持っている方たちに実際に分析にかかわるものが経験を踏まえ説明してほしい。そして少しでも農業現場、社会の中で頑張っている農薬を正しく理解してもらえる環境づくりに貢献してほしい。そんな思いを持ちながらこのコラムを終わりたいと思います。

略歴

斎藤 勲

生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター技術顧問

(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー

 

薬学部修士課程卒業後、医薬品会社研究所3年、愛知県衛生研究所30年勤務、その後生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター長として7年間勤務後、現在技術顧問としてサポート。衛生研究所では主に食品中残留農薬等食品中微量物質の分析に従事。平成23年からフーコムネットでコラム「新・斎藤くんの残留農薬分析」を執筆。

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