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コラム「食品分析は面白い?」
   ~第五回 残留農薬分析のスクリーニング法について~
生活協同組合連合会東海コープ事業連合
商品検査センター技術顧問
(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー
斎藤 勲

近年残留農薬分野でもスクリーニング法という言葉をよく耳にする。スクリーニング法というと、インフルエンザ、食品アレルゲン、妊娠判定など抗原抗体反応を利用したものを想像されるでしょう。残留農薬でもイムノアッセイ法の個々の農薬検出キットは販売されています。知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅠ期でも、イムノクロマト法残留農薬検査キット知の拠点_P2.indd (pref.aichi.jp)の開発が行われました。

今回話題とする残留農薬分析のスクリーニング法は簡易キットを用いたものではなく、サンプルから農薬成分を抽出する、農薬成分を分離精製する、機器分析で残留農薬を測定するという流れは変わらない。従来試験法の組み立て方は、それぞれのステップにおいて可能な限り効率的な方法を採用しているため、時間がかかる操作が煩雑ということは否定できない。時間を犠牲にしても真値に近づくというスタンスである。これに対してスクリーニング法は、コンパクト、スピーディーに分析、かつ俯瞰的に残留状況を把握できる方法である。現在国のスクリーニング試験法ワーキング会議でそのガイドラインが検討中であり、海外では定性又は半定量のいずれかの性質をもち、その目的は閾値以上の農薬等が含まれない(「陰性」)試料を、閾値以上の農薬等を含む(「陽性」)試料と判別することと定義されている。スクリーニング法といえども、検査対象全体を代表するよう調製されたサンプルを公示法と同条件又は同等以上の方法で抽出することが求められる等、サンプリングの正確さを求めている。

この方法を用いて一次スクリーニングを行い、ある目安値以下であるならばその食品は「適」であると判断し、その目安値を超える数値のものは再度妥当性評価された従来法で測定判断するという流れが考えられており、日常的にはスクリーニング法でカバーできる検体が多くなるのだろう。

ではどんな方法が具体的には考えられているのだろう。抽出精製については、2003年に発表されその後改良を加えながら世界各国で使用されているQuEChERS法は避けて通れないだろう。しかし、検査に用いる試料量が10g、アセトニトリル10mlで振とう抽出、塩類を入れてアセトニトリル層分離、粉末樹脂を加え振って夾雑物を除く操作等については異論がある方も多い。10gサンプリングについては、できるだけ全体を代表するよう調製された試料からサンプリングするため、ドライアイスや液体窒素を用いて凍結粉砕した粉末試料からサンプリングする、微粉末にすることにより振とう抽出能力を高める、粉末樹脂に変えてカラムによる精製などなど工夫することにより改善された方法がいろいろ提案されており、操作の自動化も大きな因子として入ってくるだろう。

 GCまたはLCによる測定の部分であるが、多数の標準品を購入し希釈して検量線を作成して定量操作を行っている。標準溶液調製は大変な苦労で、GC-MS/MS測定でも300近い農薬成分を対象としている。しかし、残留農薬は等しく検出されるわけではない。使用される農薬は限られており、検出頻度の高い農薬とほとんど検出されない農薬の差は歴然である。そのことを理解してどのようにスクリーニング法を組み立てていくか。Target Screeningという言葉がある。対象農薬を特定して分析を行うのだが、検出頻度の高い農薬には標準品による検量線を用いる従来のTarget Screening で行い、あまり見かけない農薬は標準品を用いないSuspect screening 「マルチ定量データベースやMRM Screening」が提案されている。本来は後者のそれぞれの農薬の検量線も内蔵した定量データベースシステムを実サンプルで検証しながら精度を上げ改善していけばいいのだが、標準品を用いない分析法への懸念は大きい。そういった意味で当面はTarget Screening とSuspect Screening を組み合わせていくのが妥当なのかもしれない。ちなみに生協グループでの分析結果を集計して検出頻度のリストを作り、それを基にGC用100標準混合溶液を調製したが、それを用いることで大部分の検出農薬は網羅でき、それ以外は定量マルチデータベースシステムで行えば、試薬管理も相当楽になると感じている。スクリーニング法が具体化する中ぜひとも皆さんにもご検討していただきたいテーマです。

次回、最後ですが、「残留農薬分析の行く末は」について紹介する。

略歴

斎藤 勲

生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター技術顧問

(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー

 

薬学部修士課程卒業後、医薬品会社研究所3年、愛知県衛生研究所30年勤務、その後生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター長として7年間勤務後、現在技術顧問としてサポート。衛生研究所では主に食品中残留農薬等食品中微量物質の分析に従事。平成23年からフーコムネットでコラム「新・斎藤くんの残留農薬分析」を執筆。

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