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コラム「食品分析は面白い?」
   ~第三回 コンピューターなど何もなかった頃の分析~
生活協同組合連合会東海コープ事業連合
商品検査センター技術顧問
(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー
斎藤 勲

高々50年前、その頃でも食品中残留農薬分析は関心の高い分析であったというより、むしろ今より食品汚染の状況は悪かったからかもしれない当時の分析環境は、吉幾三の歌ではないけれど、何も無エ、何も無エの時代であった。電子計算機、コンピューターが無くデータ処理を含め手作業が多かった。

分析対象の農薬や塩素系農薬、リン系農薬が主で、それにカーバメート系農薬が含まれるという感じで、毒性から言っても殺虫剤が主たる分析対象であった。BHC、DDT、ドリン剤等の塩素系農薬はECD(電子捕獲型)-GC、フェニトロチオン、マラチオン等有機リン系農薬はFPD(炎光光度型)-GC、カーバメート系農薬はFTD(又はNPD)-GCと検出器の異なる装置を用いて農薬を分析していた。最初の頃のECD検出器は今話題となっているトリチウム線源を用いていた。検出器温度が上がりすぎると放射性トリチウムが揮散する恐れがあり要注意であった。GC排出口にはチューブを連結して室外に誘導し、その出口も管理区域で、GC本体が管理区域になっていた。分析をする際、手などが管理区域に入るので、個人線量を測るためフィルムバッジ(当時)を胸(女性は腹部)につけて作業していたが、数値が出ることはほとんどなかった。

分析方法も、分析対象により抽出、精製操作は別々という場合も多かった。最初の頃の分析カラムはガラス管に充填剤を吸引しながら詰めて作ったカラム(図1)で汚れのひどいサンプルを注入し続けると先端部分の石英ウールや先端充填剤部分が着色するので、その部分をかき出してまた詰めて使うこともあった。こうして分離分析されたピークは電気信号としてアウトプットされるが、コンピューターが無いのでデータ処理できないから直接チャート紙にペンレコーダーでクロマトグラムが書かれて出てくる。そして標準品のクロマトデータと相対保持時間とピーク高さ(ピーク形状が良ければ直線性はある)を比較しながら、あるか無しか、あるならどれ位の濃度かの判断を行っていた。

もし問題となる農薬の検出、又は検出濃度の時は、各種検出装置を用いて充填剤の違ういろいろなカラムでの分析保持時間と相対感度で比較検討し同定していった。今のように質量分析計でのマスフラグメントの確認などは一般的ではなかったが、それなりに精度の高い方法であった。

そんな頃でも、環境汚染物質のPCBsなどは多数のピークの混合物であり、主だったピークを選び、その合算値を用いて測定していた。当時輸入鶏肉から不明な混合ピークの物質が検出され、調べた結果日本では使用していなかったトキサフェンであった。丘の上にピークがたくさんあるようなクロマトグラム(図2)でどうしたもんだと思案。そこで3濃度の標準品(たまたま高純度ではないが持っていた)と検体を測定し、チャート紙をコビーしてそのクロマトグラムをハサミで切り取り、精密天秤で重量を秤量し数値化したことがあった。今のように何も解析装置はないが、この切り絵式重量法で結構きれいな検量線が書けて定量した記憶がある。測定対象物質ではなかったが、輸入鶏肉の餌に混入したトキサフェンの残留事例であった。

次回は、「思わぬ事態が思わぬ情報を与えてくれる」について紹介する。

 

  • 図1 パックドカラム

  • 図2 切り絵重量法

 

略歴

斎藤 勲

生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター技術顧問

(株)アイスティーサイエンス 技術アドバイザー

 

薬学部修士課程卒業後、医薬品会社研究所3年、愛知県衛生研究所30年勤務、その後生活協同組合連合会東海コープ事業連合商品検査センター長として7年間勤務後、現在技術顧問としてサポート。衛生研究所では主に食品中残留農薬等食品中微量物質の分析に従事。平成23年からフーコムネットでコラム「新・斎藤くんの残留農薬分析」を執筆。

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